社会医学系専門医とは?資格の必要性や業務内容、制度や働き方を紹介

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公開日:2024.05.08

社会医学系専門医とは?資格の必要性や業務内容、制度や働き方を紹介

社会医学系専門医とは?資格の必要性や業務内容、制度や働き方を紹介

臨床に携わる中で「疾患をもっと予防できないか」「効率の良い医療を提供できないか」と考えたことがある医師は少なくないでしょう。そうした領域で活躍するのが社会医学系の医師です。社会医学系専門医は、社会や集団にもアプローチすることで疾病予防健康増進を目指し、社会に貢献します。

この記事では社会医学系専門医の必要性や業務内容、専門医制度の概要や働き方などを紹介します。

三田大介医師プロフィール写真

執筆者:三田 大介

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社会医学系専門医とは

社会医学は臨床医学と対で語られることが多い概念であり、個人だけでなく集団や社会に対するアプローチで人々の健康保持・増進や傷病予防を目指すものです。公衆衛生保健医療産業保健などを含み、こちらの言葉のほうがイメージをつかみやすいかもしれません。

社会医学系専門医協会は、社会医学について以下のように述べています。

社会医学は、医学を共通基盤とし、臨床医学が病める個人へのアプローチを中心とするのに対し、実践的な個人へのアプローチを有しながらも、広範な健康レベルを有する集団や社会システムへのアプローチを中心とする特徴を有している。また医学に留まらず、科学全体やさらに経営管理等の人文系にわたる広範な学問体系を応用して理論と実践の両面から保健・医療・福祉・環境とそれらとの社会のあり方を追求する学問である。

社会医学系専門医協会webサイトより引用(2024年5月8日閲覧)
http://shakai-senmon-i.umin.jp/about/

つまり社会医学系専門医は、社会医学の発展・実践においてリーダーシップを発揮することで人々の健康を支える専門医と言えます。社会・集団にアプローチすることで、多世代にわたって個人の健康に寄与することを目指します。

社会医学系専門医協会

社会医学系専門医協会は、「人々の健康に寄与するために、公衆衛生及び医療の重要な基盤となる社会医学系専門医制度を運営し発展させること」*1を目的に発足しました。2024年4月現在、以下の学会・団体で構成されており、社会医学系専門医制度の確立や運営にあたっています。

構成学会
(8学会・順不同)
日本衛生学会、日本医療情報学会、日本産業衛生学会、日本疫学会、日本公衆衛生学会、日本災害医学会、日本医療・病院管理学会、日本職業・災害医学会
構成団体
(6団体・順不同)
全国衛生部長会、全国保健所長会、地方衛生研究所全国協議会、全国衛生学公衆衛生学教育協議会、日本医師会、日本医学会連合
出典:社会医学系専門医協会webサイト(2024年5月8日閲覧)
http://shakai-senmon-i.umin.jp/about/

社会医学系専門医の必要性と業務内容

社会医学系の医師の必要性は、日本国憲法や医師法の中に見ることができます。

日本国憲法

第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

日本国憲法(昭和二十一年憲法)より引用(2024年5月8日閲覧)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=321CONSTITUTION

医師法

第一条 医師は、医療及び保健指導を掌ることによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。

医師法(昭和二十三年法律第二百一号)より引用(2024年5月8日閲覧)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000201

どちらも「社会福祉」や「公衆衛生」など、単なる個人の健康よりも広い概念を表記しています。

人はみな社会との関わりの中で生きており、健康状態の背景には社会的な要因(Social Determinants of Health:SDH)もあり得ます。集団として健康を目指すためには、専門性を持った医師によるリーダーシップが必要です。

社会医学系専門医の業務は、勤務場所や内容によりさまざまです。産業衛生の現場では労働環境の監視・改善、就労者の面談などの労務のほか、健康経営の面でも役割を発揮します。医療現場では安全性確保感染症にまつわる業務、災害時には災害関連死の予防などにあたります。行政医師(公衆衛生医師・保健所等医師と呼ばれることもあります)として国や地域の施策検討・活動に携わることもあります。

2020年からのコロナ禍で、社会医学系の医師の働きを身近に感じた人も多いことでしょう。臨床現場の医師は目の前の患者さんに対して懸命な診療を行ったのに対し、社会医学系の医師は各自治体の保健所や対策本部で病院との中継・調整をはかったり、政策への助言や検討にかかわったりしました。

昨今は医療業界におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進も注目されており、医療現場を理解したIT人材、あるいはITや情報セキュリティの知識を持つ医療従事者の存在価値が高まっています。社会医学系専門医は、医療・社会の専門家として情報分野の業務も扱います。

社会医学系専門医になるには

都市の前に立つ白衣の女性医師

社会医学系専門医は専門医機構の認定する専門医ではありませんが、専門医資格を取得するためには機構専門医の基本領域と同等の過程をふむ必要があります。つまり、プログラムを修め、実務経験を積み、専門医試験に合格することで社会医学系専門医になることができます。

専門研修プログラム

社会医学系専門医制度の歴史はまだ浅く、始まりは2017年4月です。2022年5月時点で指導医2,566名、専門医404名、専攻医384名*2の登録があります。

専門医を目指すための研修プログラムは76個*3あり、以下の7項目が専門知識として求められます。項目ごとに到達目標が定められています。

  1. 公衆衛生総論
  2. 保健医療政策
  3. 疫学・医学統計学
  4. 行動科学
  5. 組織経営・管理
  6. 健康危機管理
  7. 環境・産業保健
出典:社会医学系専門医協会「基本プログラム」
http://shakai-senmon-i.umin.jp/wordpress/wp-content/uploads/kihon_160606.pdf

行政、職域、医療機関、教育研究機関の4つの実践現場3年間(※)の専門研修を行うと、専門医試験の受験資格が得られます。

経験目標として定められている内容を見ると、組織マネジメントやプロジェクトマネジメント、疫学・統計学的アプローチなど、臨床医学とは違ったスキルが求められることがわかります。一方で、コア・コンピテンシーとして挙げられている基礎的な臨床能力、分析評価能力、コミュニケーション能力、教育・指導能力などは臨床医学とも共通するでしょう。詳細は「整備基準」を参照してください。

※おおむね週3日以上従事する場合*4

サブスペシャルティ

サブスペシャルティ領域とは、基本的な専門領域のさらに上の段階として設けられる固有の専門領域です。扱う範囲が幅広い社会医学系専門医にもサブスペシャルティ領域が想定されており、「地域保健」や「感染症対策」「産業衛生」などがこれにあたります。選択後は臨床医同様、それぞれの分野の専門性を深めていくことになります。

しかし、これらに対応する専門医制度を持っているのは日本産業衛生学会のみとなっています(日本疫学会や日本公衆衛生学会には専門「家」認定制度あり。いずれも2024年1月末現在)。機構専門医と同様に基本領域からサブスペシャルティまで連動した研修制度になるよう議論されていますが、現時点ではまだ確立されていません

社会医学系専門医の働き方・キャリアパス

社会医学系専門医は領域が広いだけでなく、行政、企業、大学など活動の場が多くあります。そのため専門医取得後の働き方やキャリアパスは個人差が大きいでしょう。

全国保健所長会では、毎年公衆衛生医師のキャリアを考える若手医師向けセミナーを開催しており、2020年の相談会では勤務先やキャリアパス、1日のスケジュールの例などが紹介されています*5。専門医としての歩みを考えたい方は参考にしてください。

社会医学系専門医の給料

社会医学系専門医は先述のとおり働く場所が多様なため、給料・報酬もさまざまです。

東京都の公衆衛生医師の募集要項には、年収として「医歴5年:約890万円、医歴10年:約1,000万円」(いずれも税込)と記載されています。額面で見ると少なく見えるかもしれませんが、公衆衛生医師は地方公務員としての採用です。扶養手当や通勤手当などの各種手当が整備されていますし、退職金などの規定もあるでしょう。当直がないという点も臨床医とは大きく異なり、単純に給与だけで比較できるものではありません。

社会医学系専門医の展望

臨床医学は個々の医療を重視し、高い専門性へと発展してきました。しかし、どれだけ臨床医学が発展し充実しても、医療が社会システムから独立することがない以上、社会医学の存在価値はますます高まると言えます。地域医療構想や医療費適正化計画など、そのときの情勢や社会課題に応じた政策のもとで医療を展開するには、担い手としての社会医学系専門医が必要でしょう。

産業衛生分野では、企業の健康経営従業員の休職・復職など医学と密接に関わる課題があり、働き方改革も含め、今後ますますの活躍が期待されます。AIやビッグデータは昨今、医療現場やヘルスケア領域での応用が注目されており、統計・疫学の知見に長けた医師の視点が必要です。情報セキュリティを含む医療安全の観点でも、社会医学の知識は重視されています。

このように社会医学系専門医は、今後多くの場で活躍していくことでしょう。

社会医学は専門医・医師でなくても学べる:MPH

実は社会医学を学ぶにあたり、必ずしも専門医の取得が必要なわけではありません

学問として学びを深めたい場合は、専門の大学院に通うことも良いでしょう。医師が取得する学位というと医学研究科の博士課程をイメージすることが多いと思いますが、社会医学系の大学院としては専門職大学院やプログラム校の修士課程(Master of Public Health:MPH)もあります。

専門職大学院とは、高度な専門性を持つ職業人を養成するための大学院です。科学技術の発展や社会のグローバル化に対応できる「高度専門職業人」のニーズが高まっていることから、2003年に初めて開設されました。一般的な大学院と異なり研究指導や論文審査は必須ではなく、より実践的な教育内容となっています。

社会医学に関する専門職大学院は日本に5校(2023年5月現在)あります。得られる学位は以下の通りです。

東京大学大学院 公衆衛生学修士(専門職)
京都大学大学院 社会健康医学修士(専門職)
九州大学大学院 医療経営・管理学修士(専門職)
帝京大学大学院 公衆衛生学修士(専門職)
聖路加国際大学大学院 公衆衛生学修士(専門職)
出典:文部科学省「令和5年度 専門職大学院一覧」
https://www.mext.go.jp/content/20240314-mxt_senmon02-000034152_1-1.pdf

これ以外に、MPHプログラムを有する大学院(プログラム校)も複数あります(慶應義塾大学、北海道大学など)。

大学院自体はあくまで学位の話なので、専門医取得を目指す医師だけが選択するわけではありません。コメディカルなどの医療従事者のほか、ヘルスケアや製薬などの会社勤めの人など、誰でも進学することができます。

まとめ

社会医学系専門医を目にする機会はまだ少ないかもしれませんが、現代社会の中で重要な役割を担っています。臨床医学と社会医学は区別されることが多いですが、相互に関連し補い合う関係にあるので、より連携できる体制になれば良いですね。

社会医学系専門医が医師のキャリア選択の一つとしてより広く知られ、国民の健康により貢献できる制度になることを期待したいです。

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三田 大介

執筆者:三田 大介

理学療法士から再受験し、現在はリハビリテーション科医師として病院勤務。より多くの人に正しい医療知識を届けたいとライター活動を開始。医師、理学療法士の両方の視点を活かしながら、企業などのオウンドメディアを中心に医療・健康に関する記事を執筆。


▶X(旧Twitter)|@sanda_igaku

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