EHR(電子健康記録)の現状と今後の展望は?EMRとの違いやPHRとの連携も含めて解説

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業界動向

公開日:2023.08.18

EHR(電子健康記録)の現状と今後の展望は?EMRとの違いやPHRとの連携も含めて解説

EHR(電子健康記録)の現状と今後の展望は?EMRとの違いやPHRとの連携も含めて解説

あらゆる業界でデジタルトランスフォーメーション(DX)が進む現代。医療もその例外ではありません。医療は他の業界と比較して遅れが指摘されており、政府は「医療DX推進本部」を設置し、医療業界のDXに向けた取り組みを加速させています。

これまで、診療情報は病院ごとに管理されており、病院間で情報連携がなされない限り、お薬手帳を使っていない患者さんでは内服薬の内容すらもわかりませんでした。医療情報を個人ごとに統合し、病院間で記録・共有する仕組みとして導入され始めたのがEHR(電子健康記録)です。似たような言葉にEMR(電子医療記録)、PHR(個人健康記録)もあります。これらはいずれも医療DXに重要な役割を果たします。

この記事では、EHRの現状と今後の展望を中心に、EMR・PHRについても解説します。

EHR(電子健康記録)とは

EHRとはElectronic Health Recordの略で、日本語では電子健康記録生涯医療記録などと表記されます。主に医療機関で取得される診療情報や検査データ、既往歴やアレルギー情報などを共有する仕組みのことで、患者さんを中心とした共有システム全般を意味します。

医療DX推進下で進む整備

少子高齢化が進む日本では、医療や介護の重要性がますます増しています。また新型コロナウイルス感染症の流行下では、データの収集や共有に時間を要し、対応に時間を費やしたことが課題となりました。そこで政府は2022年9月に「医療DX令和ビジョン2030」(厚生労働省推進チーム)の第1回会合を開くなど、医療DX推進の流れを本格化させています。

EHRは医療DXの中でも重要な役割を占めています。個人の医療情報をデジタル化し、医療機関や地域を超えた情報共有を可能にするためです。情報へのアクセスが容易となり、医療の質向上や感染症対策など、さまざまな課題をクリアできる可能性を持っています。

EHRがもたらす変革

EHRで、医療情報を正確かつ効率良く共有できるようになると、次のようなことが期待されます。

(1)医療の質向上

とくに高齢の方は、複数の医療機関を受診することが少なくありません。医療機関同士の情報共有により、病状の早期把握やそれに合った処方薬の選択など、より精度の高い医療を提供できるようになります。

(2)緊急時の迅速な情報収集

意識障害がある患者さんなど、自ら意思表示できない方が救急搬送された際、病歴などの情報を得ることは簡単ではありません。EHRを参照することができれば、適切な対応を講じることができます。

(3)感染症など、災害時の迅速なデータ収集

全国の医療情報を統合することで、感染症の流行状況や、国民の健康状態を素早く、かつ統計的に把握することができます。正確なデータに基づく政策決定などに有用と考えられます。

(4)データの二次利用による研究、創薬の促進

医療は日進月歩であり、まだ十分な情報がない領域も少なくありません。個人の詳細な情報を集めたビッグデータは、研究や創薬の促進に役立つと考えられます。

EMR(電子医療記録)とは

EMRとはElectronic Medical Recordの略で、電子医療記録などと表記されます。EHRとよく似た用語ですが、意味は若干異なります。

EMRと電子カルテ

EMRは、簡単に言えば電子カルテのことです。診療記録や検査オーダー、処方や画像検査の結果などを電子化することで、従来の紙カルテと比較して効率の良い作業が可能となります。政府は日本再興戦略(改訂2015)の中で、「地域医療において中核的な役割を担うことが特に期待される400床以上の一般病院における電子カルテの全国普及率を90%に引き上げる」とし、EMRの普及を推進してきました。

EHRとの違い

EMRは、医療機関内で効率よく作業を行うために、診療情報等を電子的に記録したものです。医療機関ごとに独自のシステムを有しており、他の医療機関との連携は想定されていません

一方、EHRは医療機関や地域をまたいだ情報共有システムのことです。EMRをEHRとして使用するためには、システム間の互換性が必要であり、記録方式等が統一されている必要があります。

PHR(個人健康記録)とは

Close-up of a smart watch health tracker with the heart rate shown on the watch and smartphone screens. Modern stylish and innovation wearable device

PHRとはPersonal Health Recordの略で、個人健康記録と表記されます。EHRと同じように個人の健康に関わる情報をデジタル化して記録したもので、厚生労働省の資料では「健康等情報を、電子記録として、本人や家族が正確に把握するための仕組み」と定義されています。

EHRとの違い

EHRは医療機関で取得されたデータを医療機関同士で共有する仕組みであるのに対して、PHRは体重や血圧、生活習慣など医療機関の外で取得される健康情報を記録する仕組みです。EHRは診療行為に役立てるという目的が主となりますが、PHRは患者さん自身の健康管理に利用するという違いがあります。

EHRとの連携

EHRとPHRは異なる仕組みですが、「患者さん自身の健康に関する情報」という意味でいえば、同様のデータを扱います。EHRとPHRが連携することで、より精度の高い情報管理が可能になります。

医療機関側にとっては、PHRの情報を取得することで、診療行為だけでなく日常生活の情報を把握できることになり、診断や治療に役立ちます。患者さんにとっては、EHRの情報を取得することで、自分自身の健康状態をより詳細に把握することができます。

海外では、米国や英国、フィンランドなどでEHRとPHRを連携させるシステム構築が進んでおり、医療機関が患者さんの健康情報を、患者さんが医療情報を把握できる体制が広まっています。日本でも「マイナポータル」や「オンライン資格確認」によりEHRとPHRを部分的に連携させる試みが進んでいます。

EHR/EMRとPHRの現状と今後

EHRとEMRの現状

日本では以前からEHRに取り組んでおり、2000年頃から地域で医療データを共有する「地域医療情報連携ネットワーク」が始まっています。全国に200以上のネットワークが設置されており、参加している医療機関は患者さんの同意があれば、医療情報を共有することができます。

しかし、これらのネットワークは現在順調に機能しているとは言えません。アクセス医療機関数が1つしかないネットワークや、自主財源がなく継続性に乏しいネットワークが数多くあるなど、さまざまな問題を抱えています。2022年6月に行われた調査によれば、目的の達成度について満足していない地域が21.4%だったと報告されています。

地域医療情報連携ネットワークが広まらない原因の一つに、EMR、つまり電子カルテ普及率の低さがあります。厚生労働省の調査によると、2020年の全国の電子カルテの普及状況は、400床以上の病院では91.2%と高値ですが、200床未満では48.8%、一般診療所では49.9%と5割を切っています。

EMRがなければ、EHRを構築することはできません

EHRとPHRの連携の現状

日本では近年、民間事業者によるPHRサービスが提供されるようになってきました。一方、公的PHRには「マイナポータル」があります。

マイナポータルでは、健康診断や予防接種の記録など、自身の保健医療情報を閲覧することができます。それに加えて、診療(受診歴、診療実績)、薬剤、医療費といった医療機関で採取されるデータも参照することができます。患者さんが自らの意思で医療の情報を閲覧することができるのです。

逆に、医療機関が患者さんのデータを閲覧できる仕組みとしてオンライン資格確認があります。オンライン資格確認は、医療機関でマイナンバーカードのICチップまたは健康保険証の記号番号などにより、オンラインで保険証の情報や氏名、生年月日、住所などを確認できる仕組みです。確認できる情報はそれだけでなく、患者さんの意思を確認した上で、薬剤情報や特定健診情報を閲覧することができるのです。

これらは電子データとして記録された患者さんの医療情報と健康情報を共有する事例であり、EHRとPHRの連携の結果と言えます。マイナポータルやオンライン資格確認は政策として推進されており、またPHRサービスはマイナポータルと民間事業者の連携を視野に入れていることから、EHRとPHRの連携が今後急速に進んでいく可能性があります。

EHRの今後

Doctors have confirmed the MRI image

政府が示した「医療DX令和ビジョン2030」には、3つの骨格が記載されています。1つは診療報酬改定に関わる作業を効率化するための取り組みで、あとの2つは「全国医療情報プラットフォーム」と「電子カルテ情報の標準化、標準型電子カルテの検討」、つまりEHRに関する内容です。

全国医療情報プラットフォームでは、オンライン資格確認システムのネットワークを拡充し、レセプトや特定健診情報だけでなく、予防接種や電子処方箋など医療情報についてクラウド間連携を実現することを目指しています。自治体や医療機関、介護事業者は必要なときに必要な情報を共有することができます。

公的なEHRとも言える全国医療情報プラットフォームですが、その元となるデータはデジタル化されていなくてはなりません。そのため必須となるのが電子カルテの普及と、電子カルテシステムの標準化です。電子カルテの標準規格を定めて広く普及させることで、情報の共有が可能になります。記載内容についても、3文書(診療情報提供書、退院サマリー、健診診断結果報告書)と6情報(傷病名、アレルギー情報、感染症情報、薬剤禁忌情報、検査情報、処方情報)を標準項目とする取り組みが始まっています。

EHR環境を構築するためには、情報機器の配備・整備と個人情報保護対策といった課題をクリアしなくてはなりません。すぐに実現とはいきませんが、2030年には今とは違った医療システムが展開されているかもしれません。

まとめ

EHR(電子健康記録)、EMR(電子医療記録)、PHR(個人健康記録)について紹介しました。日常診療では、問診から得られる情報が乏しかったり、不確かな情報であったりすることが少なくありません。EHRがあれば、正確な情報に基づいた診断や治療を行うことができます。EHRは医師の心強い味方になるシステムと言えるのではないでしょうか。

Dr.Ma

執筆者:Dr.Ma

2006年に医師免許、2016年に医学博士を取得。大学院時代も含めて一貫して臨床に従事した。現在も整形外科専門医として急性期病院で年間150件の手術を執刀する。知識が専門領域に偏ることを実感し、医学知識と医療情勢の学び直し、リスキリングを目的に医療記事執筆を開始した。これまでに執筆した医療記事は300を超える。

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