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「健康日本21」という単語を聞いたことがあるでしょうか?「21」という名前の通り、21世紀における国民の健康に関する方針で、厚生労働省が2000年に立ち上げた「21世紀における国民健康づくり運動」を指します。
2024年度からは、この「第三次」目標の運用が始まります。この記事では、健康日本21の概要や目的、第二次目標の内容や達成度、そして第三次目標の内容などを解説します。
執筆者:竹内 想
健康日本21とは
健康日本21の正式名称は「21世紀における国民健康づくり運動」です。国民が主体的に取り組めることを前提に、すべての国民が健康で明るく元気に生活できる社会を実現するため、壮年期死亡の減少や健康寿命の延伸、生活の質の向上を目的に策定されている指針です。関連する法律に「健康増進法」があります。
2000年3月に「第一次」の運用が始まり、2008年の改訂を経て、2013年から「第二次」が開始されました。上述の目標を達成するために、第一次では9分野・全80項目中の59項目、第二次では9分野・53項目について、取り組むべき内容が示されています。
具体的な指標も示されており、たとえば「COPD(慢性閉塞性肺疾患)の認知度の向上」については「策定時の数値25%を、80%まで上昇させる」のように、取り組みの結果を数値で評価できるようになっています。
第二次目標は、2022年に最終評価が行われました。2024年4月からは第三次目標が開始される見込みです。
まずは、第二次でどのような目標が定められていたのか、その達成度はどうだったのか、見ていきましょう。
健康日本21(第二次)の設定目標とその達成度
健康日本21(第二次)は2013年に始まり、2018年9月に中間評価が、2022年10月に最終評価が行われました。
目標は、5つの「基本的方向」と、53の項目に分けられています。5つの基本的方向とは下記の通りです。
①健康寿命の延伸と健康格差の縮小
②生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底(NCDの予防)
③社会生活を営むために必要な機能の維持・向上
④健康を支え、守るための社会環境の整備
⑤栄養・食生活、身体活動・運動、休養、飲酒、喫煙および歯・口腔の健康に関する生活習慣および社会環境の改善
厚生労働省「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針」より引用
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/kenkounippon21_01.pdf
②では、NCD(非感染性疾患)としてがん、循環器疾患、糖尿病、COPDの4疾患を挙げています。③には、こころの健康、次世代の健康、高齢者の健康といったテーマが含まれています。
健康日本21(第二次)の中間評価
中間評価では、53項目中、策定時から「改善している」ものは32、「変わらない」は19、「悪化している」は1、「評価困難」は1項目という結果でした。
テーマごとに見てみると、下記のようになっています(数字は該当する項目数。「-」は0を表します)。
テーマ(カッコ内は全項目数) | 改善している | 変わらない | 悪化している | 評価困難 |
---|---|---|---|---|
健康寿命・健康格差(2) | 2 | - | - | - |
がん(2) | 2 | - | - | - |
循環器疾患(5) | 3 | 2 | - | - |
糖尿病(6) | 2 | 4 | - | - |
COPD(1) | - | 1 | - | - |
こころの健康(4) | 3 | 1 | - | - |
次世代の健康(2) | 1 | 1 | - | - |
高齢者の健康(6) | 3 | 2 | - | 1 |
社会環境の整備(5) | 4 | 1 | - | - |
栄養・食生活(5) | 2 | 3 | - | - |
身体活動・運動(3) | 1 | 2 | - | - |
休養(2) | 1 | 1 | - | - |
飲酒(3) | 2 | 1 | - | - |
喫煙(4) | 4 | - | - | - |
歯・口腔の健康(5) | 3 | 1 | 1 | - |
厚生労働省『「健康日本21(第二次)」中間評価報告書』をもとに作成(再掲を含む計55項目の評価状況)
https://www.mhlw.go.jp/content/000378318.pdf
項目ごとに策定時と評価時の指標を比較すると、以下については十分な改善がみられています。
- 健康寿命の延伸(日常生活に制限のない期間の平均の延伸):策定時男性70.42年/女性73.62年→評価時男性72.14年/女性74.79年
- 健康格差の縮小(日常生活に制限のない期間の平均の都道府県格差の縮小):同2.79年/2.95年→2.00年/2.70年
- 糖尿病コントロール不良者(血糖コントロール指標におけるコントロール不良者)の割合の減少:1.20%→0.96%
- 自殺者の減少(人口10万人当たり):23.4人→16.8人
- 健康格差対策に取り組む自治体の増加:11都道府県→40都道府県
出典:厚生労働省『「健康日本21(第二次)」中間評価報告書』
https://www.mhlw.go.jp/content/000378318.pdf
一方で、以下は改善が不十分もしくは状況が悪化していると言える項目です。
- メタボリックシンドロームの該当者・予備群の減少:約1,400万人→約1,412万人
- 肥満傾向にある子供の割合の減少:男子4.60%/女子3.39%→4.55%/3.75%
- 介護保険サービス利用者の増加の抑制:452万人→521万人
- 健康づくりを目的とした活動に主体的に関わっている国民の割合の増加:27.7%→27.8%
- 成人の喫煙率の減少:19.5%→18.3%
出典:厚生労働省『「健康日本21(第二次)」中間評価報告書』
https://www.mhlw.go.jp/content/000378318.pdf
健康日本21(第二次)の最終評価
最終評価では、53項目中、「目標値に達した」が8、「改善傾向にある」が20、「変わらない」は14、「悪化している」は4、「評価困難」は7項目となりました。新型コロナウイルス感染症の影響で調査が行えず、中間評価と比較して「評価困難」の項目が増えています。
テーマごとの結果は下記の通りです。目標値に達した項目、悪化している項目の例も順に見てみましょう。
テーマ(カッコ内は全項目数) | 目標値に達した | 改善傾向にある | 変わらない | 悪化している | 評価困難 |
---|---|---|---|---|---|
健康寿命・健康格差(2) | 1 | - | 1 | - | - |
がん(2) | 1 | 1 | - | - | - |
循環器疾患(5) | 1 | 2 | 1 | 1 | - |
糖尿病(6) | 1 | 1 | 2 | 1 | 1 |
COPD(1) | - | - | 1 | - | - |
こころの健康(4) | 1 | 2 | 1 | - | - |
次世代の健康(2) | - | - | 1 | 1 | - |
高齢者の健康(6) | 2 | 2 | 1 | - | 1 |
社会環境の整備(5) | - | 2 | 1 | - | 2 |
栄養・食生活(5) | 1 | 2 | 2 | - | - |
身体活動・運動(3) | - | 1 | 2 | - | - |
休養(2) | - | 1 | - | 1 | - |
飲酒(3) | - | 2 | - | 1 | - |
喫煙(4) | - | 4 | - | - | - |
歯・口腔の健康(5) | - | 1 | 1 | - | 3 |
厚生労働省「健康日本 21(第⼆次)最終評価報告書」をもとに作成(再掲を含む計55項目の評価状況)
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000998790.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001077213.pdf
-
【目標値に達した項目】(数字は策定時→評価時)
- 健康寿命の延伸(日常生活に制限のない期間の平均の延伸):男性70.42年/女性73.62年→72.68年/75.38年
- 75歳未満のがんの年齢調整死亡率の減少(10万人当たり):84.3→70.0
- 脳血管疾患・虚血性心疾患の年齢調整死亡率の減少(10万人当たり):脳血管疾患 男性49.5/女性26.9→33.2/18.0、虚血性心疾患 同37.0/15.3→27.8/9.8
- 血糖コントロール指標におけるコントロール不良者の割合の減少(HbA1cがJDS値8.0%(NGSP値8.4%)以上の者の割合の減少):1.2%→0.94%
- 小児人口10万人当たりの小児科医・児童精神科医師の割合の増加:小児科医 94.4→112.4、児童精神科医 10.6→17.3
- 認知症サポーター数の増加:330万人→1,264万人
- 低栄養傾向(BMI 20以下)の高齢者の割合の増加の抑制:17.4%→16.8%
- 共食の増加(食事を1人で食べる子どもの割合の減少):小学生の朝食 15.3%→12.1%など
-
【悪化している項目】
- メタボリックシンドロームの該当者・予備群の減少:約1,400万人→約1,516万人
- 適正体重の子どもの増加(小学5年生の肥満傾向児の割合):8.59%→9.57%
- 睡眠による休養を十分とれていない者の割合の減少:18.4%→21.7%
- 生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している者(1日当たり純アルコール摂取量が男性40g以上/女性20g以上の者)の割合の減少:男性15.3%/女性7.5%→14.9%/9.1%
出典:厚生労働省「健康日本21(第二次)最終評価報告書 概要」「健康日本21(第二次)最終評価報告書 別添・参考資料」
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000999445.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001077215.pdf
健康寿命の延伸や糖尿病コントロール不良者の減少、メタボリックシンドロームの該当者・予備群の減少など、中間評価と最終評価の結果が同じものも見受けられます。
改善項目の背景には、2008年の「メタボ健診」開始からある程度の時間が経ち、生活習慣病に対する意識が高まってきたこともあるでしょう。しかし悪化している項目もあることから、これまでと違ったアプローチも必要かもしれません。
健康日本21(第三次)の方向性と設定目標
健康日本21(第二次)では、一次予防に関する指標が悪化していることや、健康増進に関するデータの見える化・活用が不十分なこと、調査方法などの変更により評価困難となった項目があることなどが課題として浮かび上がりました。
この点をふまえ、2024年に始まる健康日本21(第三次)では、「全ての国民が健やかで心豊かに生活できる持続可能な社会の実現」がビジョンとして掲げられました。調査・評価には原則として公的な統計が利用されます。
基本的な方向としては、「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」「個人の行動と健康状態の改善」「社会環境の質の向上」「ライフコースアプローチ*を踏まえた健康づくり」の4つが定められています。
*ライフコースアプローチ:胎児期から高齢期に至るまでの人の生涯を経時的に捉えた健康づくりのこと(厚生労働省資料より)。
厚生労働省「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針の全部を改正する件」参考資料p.5より
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001102264.pdf
具体的な目標数値(指標)は第二次と同様、50項目ほど設定される予定です。主なものはすでに公開されており、「健康寿命の延伸」など第二次と同様の目標がある一方で、新しく以下のような目標が追加されています。
- 睡眠時間が十分に確保できている者の増加(睡眠時間が6~9時間(60歳以上は6~8時間)の者の割合:54.5%→60%
- COPDの死亡率の減少(人口10万人当たり):13.3人→10.0人
- 「健康的で持続可能な食環境づくりのための戦略的イニシアチブ」の推進:登録都道府県数を47に
- 健康経営の推進:保険者とともに健康経営に取り組む企業数を10万社に
- 骨粗鬆症検診受診率の向上:5.3%→15%
出典:厚生労働省「健康日本 21(第三次)推進のための説明資料」
https://www.mhlw.go.jp/content/001102731.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/001102732.pdf
第三次では、2029年を目処に中間評価が、2033年を目処に最終評価が行われる予定となっています。
健康日本21(第三次)で取り入れられる新たな視点
人生100年時代を迎え社会が多様化する中、「誰一人取り残さない健康づくり」や「より実効性をもつ取り組みの推進」を行うため、健康日本21(第三次)では下記のような新しい視点が取り入れられています。
- 女性の健康を明記
- 自然に健康になれる環境づくり
- 他計画や施策との連携も含む目標設定(健康経営、産業保健、食環境イニシアチブに関する目標を追加)
- アクションプランの提示
- 個人の健康情報の見える化・再活用について記載を具体化
厚生労働省「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針の全部を改正する件」参考資料p.6より引用
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001102264.pdf
まとめ
今回は健康日本21の概要や、第二次目標の結果や達成度、そして2024年度から始まる第三次目標の内容についてわかっていることを紹介しました。
健康日本21には多くの項目があり、その内容や目標は多岐にわたります。健康日本21をチェックすることで、日本における今後の公衆衛生面での課題がわかるとも言えるでしょう。
執筆者:竹内 想
大学卒業後、市中病院での初期研修や大学院を経て現在は主に皮膚科医として勤務中。
自身の経験を活かして医学生〜初期研修医に向けての記事作成や、皮膚科関連のWEB記事監修/執筆を行っている。
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