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医師は転勤が比較的多く、異動先や家庭の事情によって単身赴任になる場合もあります。この記事では医師の転勤・単身赴任事情、単身赴任のメリット・デメリット、単身赴任を避ける方法などを考察します。
執筆者:Dr.SoS
医師の転勤・単身赴任事情
医師は、転勤・単身赴任の頻度が高い職業です。その実情について見ていきましょう。
転勤
厚生労働省の古い調査(平成20年度)ですが、医師としての平均経験年数が14.4年の集団において、平均勤続年数は5.5年という報告があります。同じ年の賃金構造基本統計調査において、一般労働者の平均勤続年数は11.6年とされていますから(最新の令和4年調査では12.3年)、医師の平均勤続年数は短いことがわかります。
より経験年数の短い若手医師(7~10年目程度)はさらに転勤頻度が高く、筆者の周りでも数年に1回、人によっては半年程度で転勤する例も珍しくありません。
診療報酬改定結果検証に係る特別調査(平成20年度調査) 病院勤務医の負担軽減の実態調査 報告書(案)(p.85 医師としての経験年数/調査対象病院での勤続年数)|厚生労働省
平成20年賃金構造基本統計調査(全国)結果の概況|厚生労働省
令和4年賃金構造基本統計調査の概況|厚生労働省
単身赴任
転勤のうち、単身赴任の例はどれくらいあるのでしょうか。
"単身赴任"ですから、結婚していることが前提となります。医師の推定平均初婚年齢は、2013年に報告された論文*1で男性が30.9歳、女性が34.9歳となっています。この年齢は医師の世界では若手~中堅に該当し、先述のとおり転勤頻度が高い年代です。
医師は医師同士で結婚する例も多く、とくに女性医師の結婚相手は男性医師が7割近くにのぼるという報告があります(男性医師の場合、結婚相手が女性医師のケースは14.7%)*2。職場が同じであれば同時に異動することもできますが、職場が異なる場合、今の職場や仕事、キャリアを捨てて異動することはなかなか難しいでしょう。
こうしたことから、とくに医師同士の夫婦においては、単身赴任が必要となるケースも多いと推測できます。
西基:医師・看護師の婚姻状況.北海道医療大学看護福祉学部紀要 20:37-40,2013(*1)
Atsushi Miyawaki:Full-time Work Rates of Physicians With Physician Spouses vs Nonphysician Spouses in Japan.JAMA Netw Open 5(11):e2242143,2022(*2)
医師に転勤が多い理由
ここまで見てきたように、医師、とくに30代くらいまでの若手医師には頻繁な転勤があります。その理由には、大きく4つの背景があると言えます。
- 医局人事
- 専門医制度
- 地域医療拡充制度(医学部地域枠)
- 資格業としての特殊性
1.医局人事
医師は2年間の臨床研修を終えた後、大学の医局に所属し医局人事の影響を受けるケースが一般的です。医局人事は大学医局の人事制度のことで、関連病院などへの異動を伴います。
大学医局は一般に大学病院と複数の関連病院から構成されており、医局はこれらの病院に医局員を配置する必要があります。部長職など、管理職の立場で赴任した医師の頻繁な異動は少ないですが、若手の場合は数年ごとに赴任先が変更になることが一般的です。
産休・育休や病気療養、開業などで医局に欠員が出た際など、人員補充目的で急な異動が命じられることもあります。
2.専門医制度
医師の異動と関わりが深い制度に、専門医制度があります。2年間の臨床研修を終えた後は専攻医となり、専門医取得を目指すことが一般的です。
厚生労働省が2013年にまとめた「専門医の在り方に関する検討会 報告書」では、専門医制度と地域医療との関係が提示されています。
【新たな専門医に関する仕組みについて―地域医療との関係】(専門医の在り方に関する検討会 報告書 概要) |
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※研修施設は、必要に応じて都道府県(地域医療支援センター等)と連携。 |
厚生労働省「専門医の在り方に関する検討会 報告書」(平成25年4月)p.2より引用
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r985200000300ju-att/2r985200000300lb.pdf
たとえば、選択者が多い「内科専門医制度」では、専攻医期間の地域医療研修(地域の中核となる総合病院での研修、地域に根ざす第一線病院での研修)が必修となっています。へき地医療への参画も積極的に評価されることから、専攻医期間中に各地へ異動するケースは多いでしょう。
筆者は主に皮膚科で勤務しているため、皮膚科についてご紹介します。皮膚科専門医を取得するためには、主研修施設での1年間を含む計5年間の研修が必要です。「主研修施設」とは、主に大学病院などの大規模病院であり、県によっては1施設しかないこともあります。その施設に勤務するために異動や単身赴任が必要になる場合がありますし、専門医資格取得のための医局に所属すれば、先述した医局人事による異動が生じます。
皮膚科専門医取得までの5年間では、1年目に基幹施設で勤務し、以後1~3年ごとに連携施設を異動するコースが基本です。この間に転勤や単身赴任が必要になることもあるでしょう。
このように、専門医を取得するまでの期間は(当該専門医制度の規定次第ですが)転勤頻度が高くなると言えます。
専門医の在り方に関する検討会 報告書|厚生労働省
新しい内科専門医制度における地域医療への取り組み|日本内科学会(内科専門医部会・地域医療教育WG)
専門研修プログラム整備基準【内科領域】|日本内科学会
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医制度の手引き|日本皮膚科学会
日本皮膚科学会認定主研修施設|日本皮膚科学会
2023 年度 東京大学医学部皮膚科研修プログラム|日本皮膚科学会
3.地域医療拡充制度(医学部地域枠)
近年、「地域枠」で医学部に入学する人が増えています。卒業後に特定の地域や診療科で診療を行うことを条件とする選抜枠で、医師の地域偏在を解消する対策の一つとして設けられている制度です(卒後の診療従事条件を満たせば、奨学金の返還が免除されます)。
また、埼玉県にある自治医科大学は、地域の医療・福祉への貢献を目的に、全国の都道府県が共同で設立した大学です。昭和47(1972)年の開学以来、地域医療に関連する教育と研修を実施しています。
こうした制度や組織の下では、地域医療への従事のための異動が生じます。
4.資格業としての特殊性
医師は、医師免許の取得が必要な職種です。医師免許は業務独占資格に該当し、医師免許がないと行えない仕事が複数あります。
特殊な職種であることから、医師以外の職業と比較すると転職が比較的容易であり、キャリアプラン次第で転職という選択肢を取りやすい職業と言えるでしょう。
ちなみに、医療業界には業務独占資格に該当する職種が多く、医師とともに働くことの多い看護師もその一つです。医師同様、同じ職場で働き続ける人が(他職種を含む平均値と比べて)少ない傾向があります(勤続年数1年未満が9.3%、3年未満が25.2%、5年未満が37.9%)。
転勤・単身赴任のメリット
転勤によるメリットは、複数の職場・医療現場を経験できる点です。多様な環境で経験を積めることは、医師のキャリアを積んでいく上でメリットになると期待できます。とくに転勤を伴う異動の場合、地域事情が大きく異なるケースもあるでしょうから、勤務先の病院の特徴も多様と言えるかもしれません。
病院の規模や地域における役割によって、同じ診療科でも得意な分野や特徴が異なるため、医師として経験できる症例やスキルに影響します。たとえば同じ「皮膚科」でも、アトピー性皮膚炎や乾癬の最新治療に力を入れている病院、全身麻酔を必要とする大きな手術を数多く行っている病院、レーザー機器を保有し美容分野にも注力している病院など、得意分野は異なるものです。
各異動先で特徴的・専門的な研修や指導を受けることができれば、科によってはサブスペシャルティ専門医や指導医の資格を取得することも可能になるなど、多様なキャリアアップにつながるでしょう。
転勤・単身赴任のデメリット
転勤・単身赴任にはメリットだけでなく、デメリットもあります。具体的には下記のような点で手間と時間が必要になります。
- 人間関係の構築
- 引っ越し
- 生活環境の変化
転勤で新たな病院へ赴任することで、新しく人間関係を築く必要がありますから、当然手間や時間が必要です。休日・夜間対応など、病院の風土によって異なる部分は多く、違いに慣れるまでに時間も必要です。
引っ越し代などの費用がかかることも、大きなデメリットでしょう。とくに単身赴任の場合は2つの住居をかまえることになりますから、費用負担は当然大きくなってしまいます。
家族との過ごし方も大きく変わるため、自分自身の生活環境の変化だけでなく、家族の生活環境への影響や、家族との時間をどう作るかといった点でも、負担が増えることになるでしょう。
転勤・単身赴任をする際の準備
実際に転勤や単身赴任をすることになった際は、さまざまな準備が必要になります。
転勤先の病院に宿舎がない場合は、まず部屋探しから始める必要がありますし、それに伴う行政手続きも必要です。これに加えて単身赴任の場合、家電などを新たに買わなければいけない場合が多く、それらをそろえる必要もあります。家族との間で、赴任中の家賃・生活費の分担や、子どもとの過ごし方などを決めることも重要です。
現在の担当患者さんを後任に引き継ぐなど、職場での準備も忙しくなるため、転勤が決まったらすぐに準備を始めることが望ましいでしょう。
転勤・単身赴任を避けるには
転勤・単身赴任にはメリットもありますが、さまざまな理由でこれらを避けたい方もいるのではないでしょうか。
そのためには、医師の転勤理由の一つになっている「医局人事」を避ける必要があります。医局を辞める、という選択肢が挙げられますが、ただし無計画に辞めてしまっては、 (医師は仕事を探しやすいとは言え)その後働ける場所が見つからない可能性もあります。医局を辞めるという選択をする場合は、あらかじめ下記のような準備をすることが重要です。思い付きだけで行動せず、計画的に進めることが大切です。
- 次の働き先が見つけやすいよう、人脈を構築しておく
- 客観的に評価されるよう、専門医資格を取得しておく
- 転職市場の実情・相場を知っておく
医局を辞めるのではなく、医局人事とうまく付き合っていくという道もあります。医局人事による異動命令を断ることは難しいですが、日ごろから上司と良好な関係を築いておく、キャリアビジョンやライフプランに沿った希望を早めに伝えておくなど、自身の意見を表明しておくことで配慮してもらえる場面もあるでしょう。
まとめ
医師は、とくに若手のうちは頻繁な転勤を求められることの多い職種です。転勤でさまざまな職場を経験することで自身の経験値を高めることができるメリットもありますが、単身赴任が必要となる場合はライフプランにも大きな影響をきたすでしょう。医局人事に伴う頻繁な転勤に悩んでいる方は、医局を辞めることも選択肢の一つになります。周囲に相談しづらい場合は医師専用の転職支援会社を利用するのも良いでしょう。
執筆者:Dr.SoS
皮膚科医・産業医として臨床に携わりながら、皮膚科専門医試験の解答作成などに従事。医師国家試験予備校講師としても活動している。
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