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抗菌薬には非常に多くの種類があり、覚えたり使い分けたりするのに苦心するものです。今回はそんな抗菌薬のうち「よく使う」「知っておいた方がよい」43種類を公立大学法人 横浜市立大学附属病院 血液・リウマチ・感染症内科の副島 裕太郎 先生が厳選。特徴や注意点を系統ごとに分けて解説していただきました。
ペニシリン系抗菌薬の種類
ベンジルペニシリン(ペニシリンG:PCG)
青カビから分離された天然抗生物質です。
スペクトラムは狭域ですが、レンサ球菌・髄膜炎菌への強力な活性を持つ「切れ味のよい」抗菌薬です。
半減期が短いため、数時間ごとの点滴もしくは持続点滴で投与します。また、欧米では梅毒治療の第一選択であった筋注用製剤が2021年に日本でも薬事承認され、使用できるようになりました。
アンピシリン(ABPC)
ペニシリンGから安定性向上を目指して作られた合成ペニシリンです。
腸球菌のEnterococcus faecalisやリステリアへの抗菌活性も持っています。感受性があれば、大腸菌などの腸内細菌科やインフルエンザ桿菌にも有効です。
アモキシシリン(AMPC)
アンピシリンの内服版といえる抗菌薬です。
アンピシリンの経口薬と比べて経口吸収率が高く、内服の際は通常はAMPCを選択します。溶連菌による咽頭炎・歯科処置の術前投薬・梅毒の治療などに適応します。
アンピシリン・スルバクタム(ABPC/SBT)
ABPCにβラクタマーゼ阻害薬(SBT)を配合した薬剤です。
本来ペニシリン系に耐性のある細菌にもスペクトラムが拡大しています。メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)、多くの腸内細菌、横隔膜下の嫌気性菌にも活性があります。
アモキシシリン・クラブラン酸(AMPC/CVA)
ABPC・SBTの内服版に相当する薬剤です。
βラクタマーゼ阻害薬(CVA)を配合することで、AMPCが有効な細菌に加えて嫌気性菌や腸内細菌への活性があります。市中感染に幅広く有効な薬剤です。
ピペラシリン(PIPC)
グラム陽性菌に対する活性はPCGやABPCに比べると若干劣りますが、グラム陰性菌に対する抗菌活性が強くなっています。
Klebsiella、Proteus属の一部、「SPACE」といわれる院内感染で問題になるグラム陰性桿菌(このうちAのアシネトバクターは除く)に活性があります。
ピペラシリン・タゾバクタム(PIPC/TAZ)
PIPCにβラクタマーゼ阻害薬(TAZ)を配合した薬剤です。
ABPC/SBTとの違いは、耐性傾向の強いグラム陰性桿菌への抗菌活性です。院内発症の感染症や免疫不全者の感染症で、緑膿菌などのグラム陰性桿菌や嫌気性菌を確実にカバーしたい場合に使用すべき抗菌薬ですが、濫用は慎むべきでしょう。
セフェム系抗菌薬の種類
第1世代:セファゾリン(CEZ)、セファレキシン(CEX)
レンサ球菌・市中のグラム陰性桿菌への活性が高い抗菌薬です。
本邦ではMSSAの第一選択薬になります。内服薬のCEXは、外来での皮膚軟部組織感染症や尿路感染症の治療に便利な薬剤です。
第2世代:セフメタゾール(CMZ)、セフォチアム(CTM)、フロモキセフ(FMOX)
横隔膜下の嫌気性菌にも有効であるのが特徴の薬剤です。
腹部手術の術前投与、腹部/骨盤内感染症に用います。また基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(extended-spectrum β-lactamase: ESBL)産生菌に対する効果も報告されています。
第3世代:緑膿菌活性なし:セフトリアキソン(CTRX)、セフォタキシム(CTX)
第1世代セフェムのスペクトラムに肺炎球菌・インフルエンザ桿菌・腸内細菌への効果が加わっています。髄液への移行性もあり、市中感染症に広く使う薬剤です。
一般的にはCTRXを使いますが、胆道系の障害がある場合には腎代謝であるCTXが選択肢になります。
第3世代:緑膿菌活性あり:セフタジジム(CAZ)
緑膿菌を含むグラム陰性桿菌に対してのみ抗菌活性があり、グラム陽性菌には無効です。SPACEの菌を選択的に狙いたいときに使用することが多い薬剤です。
第3世代:腹腔内嫌気性菌活性あり:セフォペラゾン・スルバクタム(CPZ/SBT)
胆道移行性がよいとの理由で、本邦では胆道感染症に使用されることがある薬剤です。
Enterococcus faecalisに対する有効性も報告されていますが、これを治療するためにこの薬剤を選択することはないでしょう。
第3世代:内服薬:セフカペンピボキシル(CFPN-PI)、セフポドキシムプロキセチル(CPDX-PR)など
ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)や耐性傾向のインフルエンザ桿菌(BLNAR)にもスペクトラムがある薬剤です。
これらの菌を標的としたCOPDの急性増悪、中耳炎・副鼻腔炎などが適応になります。ただし、腸管吸収率はきわめて低く(10-25%)、頻用されることによる第3世代セフェム系注射薬の耐性化が問題となるため、症例を選んで使用するべき薬剤です。
第4世代:セフェピム(CFPM)
「CTRX+CAZ」のスペクトラムを持つ、幅広い菌種に活性がある広域抗菌薬です。
発熱性好中球減少症(FN)などの経験的治療として開始することが多い便利な薬剤ですが、培養結果に応じて狭域抗菌薬に変更することも検討しましょう。
第5世代:セフトロザン・タゾバクタム(CTLZ/TAZ)
CTLZ(CAZに類似した薬剤)にβラクタマーゼ阻害薬(TAZ)を配合した薬剤です。
緑膿菌やESBL産生菌のカバーをしたいが、カルバペネム系を避けたい場合に使用を検討する薬剤です。腹腔内感染症に使用する場合は、MNZを併用します。
モノバクタム系抗菌薬の種類
アズトレオナム(AZT)
緑膿菌を含むグラム陰性桿菌を広くカバーする薬剤です。
βラクタム系薬剤ですが、ペニシリン系/セフェム系アレルギーがあっても使える薬剤です(例外:CAZとは側鎖が同じなので避けるべきです)。
カルバペネム系抗菌薬の種類
メロペネム(MEPM)、ドリペネム(DRPM)
非常に広い抗菌スペクトラムを持つ薬剤です。
むしろこの薬剤が効かない菌を覚えておくべきです(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、Enterococcus faecium、コリネバクテリウム、マルトフィリアなど)。セフェビム(CFPM)と同様、培養結果が判明しだい狭域抗菌薬に変更するべき薬剤です。
レレバクタム・イミペネム・シラスタチン(REL/IPM/CS)
カルバペネム系のイミペネム・シラスタチン(IPM/CS)に、新規βラクタマーゼ阻害薬(REL)を配合した薬剤です。
ほかのカルバペネム系が耐性の緑膿菌に対する治療薬として期待されています。
アミノグリコシド系抗菌薬の種類
ゲンタマイシン(GM)
緑膿菌などの好気性グラム陰性桿菌によるFNや重症感染症、黄色ブドウ球菌・腸球菌による感染性心内膜炎を対象として、おもに併用療法で使用する薬剤です。
副作用では、腎毒性(トラフ濃度を測定して投与量を調整します)や聴神経毒性(不可逆性)が問題になります。
アミカシン(AMK)
GMに耐性がある場合に選択することが多い薬剤です。腸球菌に対するシナジー効果はありません。
非結核性抗酸菌症の治療に用いることもあり、最近肺MAC症に対しては吸入薬が本邦でも承認されました。
ストレプトマイシン(SM)
結核治療で使用することがある薬剤です。ペスト、野兎病の第一選択薬でもあります。
キノロン系抗菌薬の種類
シプロフロキサシン(CPFX)
第2世代キノロン系の薬剤です。
緑膿菌を含むグラム陰性桿菌への抗菌活性は強いですが、グラム陽性菌や嫌気性菌への抗菌活性は低いです。緑膿菌に対する活性はキノロン系でもっとも高いです。
レボフロキサシン(LVFX)
第3世代のキノロン系です。肺炎球菌への活性が高く、市中肺炎の典型的起因菌を一通りカバーする薬剤で、「レスピラトリー・キノロン」といわれています。
ただし、結核菌にも効いてしまうため、肺結核が除外できない肺炎では使用を避けるべき薬剤です。
モキシフロキサシン(MFLX)
第4世代のキノロン系です。嫌気性菌に対するカバーも広がっている薬剤です。 肝代謝の薬剤で尿路への移行は悪いため尿路感染には使用できません。欧州では肝障害による死亡例が問題となったこともあります。
マクロライド系抗菌薬の種類
エリスロマイシン(EM)
多くのグラム陽性菌・一部のグラム陰性菌、非定型肺炎の原因菌などの効果がありますが、本邦では耐性化が進んでいます。
ほかのマクロライド系に比べて腸管吸収率は悪く、下痢などの副作用が起こりやすいです。
クラリスロマイシン(CAM)
インフルエンザ桿菌への活性が高い点、ヘリコバクター・ピロリや非結核性抗酸菌への活性がある点がEMとの違いです。腸管吸収率も良好です。
慢性気道感染症に抗炎症効果を期待して少量長期投与することもあります。
アジスロマイシン(AZM)
腸管吸収率は悪いですが、一度組織内に移行すると有効濃度が長く維持される薬剤です。
性感染症、非定型肺炎、猫ひっかき病など、長期連用しないような状況で使用することが多い薬剤です。
テトラサイクリン系抗菌薬の種類
ミノサイクリン(MINO)
グラム陽性菌、グラム陰性菌、非定型肺炎の原因菌など幅広い菌に対して静菌的な抗菌活性を持つ薬剤です。一部のMRSA、梅毒を含む性感染症、リケッチア症、ブルセラ症の治療にも効果があり、外来治療に便利と言えるでしょう。
歯牙色素沈着・軟骨形成などの副作用があり、小児・妊婦・授乳婦には禁忌です。
ドキシサイクリン
NIMOと近いスペクトラムを持つ薬剤です。
MINOよりも半減期が長い、肺炎球菌活性が高い、平衡機能障害が少ないなどの利点があります。
抗MRSA薬の種類
バンコマイシン(VCM)
MRSA感染症の第一選択薬です。ほとんどのグラム陽性菌に活性を持ちますが、βラクタム系に感受性があればそちらのほうが効果は高いです。C. difficile感染症(CDI)に対しては内服薬を使用します。
血中濃度を測定して投与量を調節する必要がある薬剤です。
テイコプラニン(TEIC)
VCMと同系統の薬剤です。
組織移行性はよく、副作用は少ないです。血漿蛋白結合率が高く血中濃度が上がりにくいため、投与開始時は投与回数を多くしたり、血中濃度測定をして投与量を調整したりする必要があります。
ダプトマイシン(DAP)
殺菌的に作用する抗MRSA薬です。
血流感染症、皮膚軟部組織感染症、バイオフィルム透過性もよく術創部感染症にも使われます。肺サーファクタントで失活するため肺炎には使用できませんし、髄液移行性も悪いです。
リネゾリド(LZD)
バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRE)・腸球菌に対して有効性がある薬剤です。
骨・肺・髄液への移行もよいですが、静菌的な薬剤でありVCMが使用できる場合はそちらを用いたほうがよいです。腸管吸収率が高い内服薬もあります。
骨髄抑制(とくに血小板減少)、末梢神経障害などの副作用があります。
テジゾリド(TZD)
LZDと同系統の新規薬剤です。LZD耐性でも感受性が保たれていることもあります。
血小板減少はLZDより少ないとされています。
その他の抗菌薬の種類
クリンダマイシン(CLDM)
グラム陽性球菌・横隔膜上の嫌気性菌への活性が強いことが特徴の薬剤です。また骨組織への移行性がよいことから整形外科領域の感染症でも頻用します。
横隔膜下の嫌気性菌には耐性化が進んでいます。
メトロニダゾール(MNZ)
嫌気性菌に殺菌的に採用する薬剤です。中枢神経を含む組織移行性が良好で、腹腔内感染症・脳膿瘍にβラクタム系と併用します。またCDIの第一選択薬でもあります。
消化器症状、末梢神経障害、脳症などの副作用があります。
スルファメトキサゾール・トリメトプリル(ST)
MRSAを含む黄色ブドウ球菌、肺炎球菌、腸内細菌などの活性があります。腸管吸収は良好で、中枢神経・前立腺などへの組織移行性もよいです。
市中の尿路感染症の第一選択です。ニューモシスチス肺炎やトキソプラズマ症などの特殊な感染症にも使用します。
薬剤熱・薬疹、肝障害、骨髄抑制などの副作用があります。
チゲサイクリン(TGC)
テトラサイクリン系のスペクトラムに加えてVRE、グラム陰性桿菌、嫌気性菌にも有効な薬剤です。
ESBL産生菌、多剤耐性アシネトバクターへの効果が期待されていますが、緑膿菌には効果がありません。胆汁腸管への移行はよいですが、関節・骨・髄液への移行は悪いです。悪心などの消化器症状が多いです。
リファミキシン
大腸菌など多くの腸内細菌(キャンピロバクターは除く)に活性があり、CDIにも有効です。
消化管から吸収されず、腸管内感染症の治療に用いる薬剤です。これらの理由から、菌血症を疑う状況では使用できません。
日本では「肝性脳症における高アンモニア血症」にのみ承認されています。
コリスチン(CL)
グラム陰性桿菌に殺菌的に作用する薬剤です。
腎毒性・神経毒性といった副作用で販売中止となっていましたが、多剤耐性グラム陰性桿菌(緑膿菌・アシネトバクターなど)への有効性のために再度販売されるようになりました。
カルバペネム系などとのシナジー効果があり、併用して投与します。
フィダキソマイシン(FDX)
CDIに対する新規薬剤です。
VCMと同等の効果で、再発が少ないとされています。ただ値段が高いため、NNZやVCMで治療失敗・再発するような症例でのみ使用を検討するべきです。
ホスホマイシン(FOM)
非常に低分子で組織移行性がよく、スペクトラムも広く、アレルギーも少ない薬剤です。
米国では下部尿路感染症にしか適応がなく、教科書的な記載はあまりなされていない薬剤です。また日本で販売されている内服薬は腸管吸収率が悪いことも、米国との違いです。
病原性大腸菌O157H7感染症における溶血性尿毒症症候群の予防効果も示唆されています。
PDFでいつでも確認できる!「頻用抗菌薬の使い方早見表」
本記事を手掛けていただいた副島先生に監修いただき「頻用抗菌薬の使い方早見表」をご用意しました。
臨床現場で見やすいよう、今回解説いただいた内容から、通常使用量・通常投与量や適応菌種、さらに使い分けのポイントなどを一つの早見表にコンパクトにまとめたものとなります。出力して持ち運ぶのはもちろんタブレットでの閲覧もしやすくなっています。
・抗菌薬(抗生物質)の正しい使い分けを理解したい
・比較して確認することで抗菌薬の理解を深めたい
・すぐに選べるように確認しやすい資料が欲しい
・いつでも確認できるように携帯しておきたい
以下より無料でダウンロードができますので、ぜひこの機会にお役立ていただければと思います。
監修者:副島 裕太郎
2011年 佐賀大学医学部医学科卒業。2021年 横浜市立大学大学院医学研究科修了。
日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医、日本リウマチ学会 リウマチ専門医・指導医、日本化学療法学会 抗菌化学療法認定医。感染症およびリウマチ・膠原病疾患の診療・研究に従事している。
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