医局人事を徹底解説。異動時期や年代別の傾向、向き合うコツは?

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公開日:2023.07.31

医局人事を徹底解説。異動時期や年代別の傾向、向き合うコツは?

医局人事を徹底解説。異動時期や年代別の傾向、向き合うコツは?

医局人事、いわゆる医局員の人事異動は、キャリアプランやライフプランに大きな影響を与えます。居住地や給与だけでなく、結婚・出産などのライフイベントとも密接に関係し得るものです。この記事では、医局人事の決まり方や年代別の傾向、人事が決まったときの立ち回り方・向き合うコツなどを解説します。

医師の転勤に直結する「医局人事」とは?

医局人事とは、大学医局の人事制度のことです。具体的には、医局に所属する医師など(医局員)の人事異動のことを指して使われます。

異動は医局によって決められ、大学病院や関連病院間での転勤が命じられます。とくに若手医師の場合は2~数年ごと、多いと半年~1年ごとに転勤が必要なこともあります。人生のどのタイミングでどの病院に転勤になるかは、自分のキャリアやライフプランにも大きく影響すると言えるでしょう。

そもそも医局とは?

実は、医局という言葉自体に正式な定義はありません。通常は大学とその附属病院における診療科目別の団体を指します。教授を頂点とし、准教授、講師、助教、医員、大学院生、研修医などの医師で構成されています。

厚生労働省が指定する臨床研修施設には大学病院とその関連病院が多いため、医学部卒業後、医局に所属する医師は多いです。また、医学部生が一時的に所属することもあり、そのまま同じ医局で研修し、その医局の医師として働くケースもあります。

医局は医師の臨床、研究、教育を担う団体であり、医局人事はその団体における人事制度を指します。次の段落で、医局人事の目的を見ていきましょう。

医局人事の目的

大学医局内で医師を異動させる目的は、大きく分けて以下の3つです。

  • 医師の成長を促進するため
  • 地域の医療支援体制を確保するため
  • 医師の待遇差や、メンバー固定化に伴う不都合を解消するため

それぞれ詳しく見ていきましょう。

医師の成長を促進するため

医師が臨床スキルを身につけるには、さまざまな経験が必要です。1カ所の病院に長期間勤務すると、臨床経験が浅くなる、症例の偏りが生じる、専門医取得などの面で不利になる、といったデメリットも考えられます。

それらを解消するため、さまざまな施設への転勤や、海外の病院・研究施設などへの留学が用意されている場合があります。医局員に幅広い経験をさせることで医師としての成長を促すことが、医局人事の大きな目的の一つと言えます。

地域の医療支援体制を確保するため

医局には大学の本院だけでなく、「ジッツ」(ドイツ語のsitz=座席より)とも呼ばれる複数の関連病院があります。関連病院は、都市部や地方など、大学ごとにさまざまな地域に存在しています。

その中には、医師不足が問題となっている病院も少なくありません。医局員の派遣により地域医療を支えることは、大学病院の大切な使命でもあるのです。

医師の待遇差や、メンバー固定化に伴う不都合を解消するため

医局によっては、関連病院によって医師の業務量に差が生じたり、給与面や生活環境などの待遇に差が出てしまったりすることがあります。一部の医師への大きな負担、あるいは待遇の不平等などを解消する目的で、定期的な人事異動を行う場合があります。

また、業務の属人化や人間関係の問題など、メンバーの固定化によって生じる不都合を解消する目的もあります。

医局人事の時期

医局人事による異動時期や、人事が決まる時期は、いつごろなのでしょうか。

異動の時期 4月(春)、9~10月(秋)ごろ
言い渡しの時期 異動の半年~数カ月前

医局人事の時期は医局によって異なりますが、4月、次いで9~10月が多いです。これは医局人事が1年または半年単位で動いているためです。一般に異動の半年~数カ月前には、次の異動先が言い渡されます。引っ越しの必要がある場合も多いため、近年は比較的余裕を持って伝えられることが多いようです。

医局人事の決められ方

医局人事は、医局の上層部である医局長などが決め、最終決定は教授が行います。事前に異動希望の有無などについて調査されることもありますが、希望が必ずしも通るわけではなく、あくまで参考程度とされることが多いようです。

ただし、出産や介護などの特別な事情がある場合には、希望を考慮してもらえることもあります。

医局人事の年代別の傾向

医療イメージ

20~30代半ば 多い(約2年ごと。半年~1年単位の場合もあり)
30代後半~40代前半 徐々に減少
40代半ば~ さらに減少(勤務先がほぼ固定)

新人や若手の医師は異動が多い傾向にあり、多いときには半年ごとに異動を言い渡される場合もあります。医局の若手医師育成カリキュラムが決まっている場合は、異動のタイミングを事前に予測できることもあります。

30代後半になると、徐々に異動の頻度は減少していき、数年置きになります。例外はあるものの、ある程度の年代になると、勤務先はほぼ固定されることが多くなります。

医局員にとって、医局人事の良い点とは

仕事や生活に直接影響する医局人事ですが、人事を受ける側の医局員にとっても良い点があります。

  • 知識・経験の幅を広げられる
  • 希望のキャリア形成につながるよう異動先を調整してもらえる場合がある
  • 転勤先にも同じ医局・大学の医師が多い傾向にある

知識・経験の幅を広げられる

複数の病院に勤務することにより、さまざまな症例や臨床経験を積むことができ、医師としての知識や経験・スキルの幅を広げることができます。また、一部の医師に限られるものの、希望すれば海外留学のチャンスもあります。基礎研究などの学術活動を行う機会も多くあります。

希望のキャリア形成につながるよう異動先を調整してもらえる場合がある

転勤先など、具体的な希望が反映されることは難しいですが、将来のキャリアプランをしっかりと伝えておくことで、医局側がある程度その道に進めるよう調整してくれることもあります。

たとえば、高難度手術の経験を積みたい場合はハイボリュームセンター(手術件数の多い病院)への異動、プライベートで出産や育児に時間を割きたい場合は時間的・人員的にゆとりのある職場への異動など、個人の事情や希望に応じた異動を叶えてもらえる場合があります。

転勤先にも同じ医局・大学の医師が多い傾向にある

関連病院には原則として医局から医師が派遣されるため、転勤先の同僚は同じ医局に所属する医師であることが多いです。また、医局という性質ゆえ、他科にも同じ大学出身の医師が多いこともあります。

初めて足を踏み入れる環境でも症例の相談やコンサルテーションがしやすく、働きやすいケースが多いようです。

医局人事で注意したい点

医局員にとって、医局人事には下記のような注意点があると言えます。

  • 生活環境やライフイベントに大きく影響する
  • 年収の変動がある
  • 異動先の職場環境が合わない可能性がある

生活環境やライフイベントに大きく影響する

医師は異動によって、生活スタイルも働き方も変わります。とくに家族がいる場合は本人だけでなく家族全員に影響するため、異動が大きな負担になることがあります。通勤の負担が増えたり、引っ越しが必要になったりするケースもあるため、異動の可能性については家族ともよく話し合っておくことが必要です。

年収の変動がある

医局人事による転勤では、勤務先によって給料が変わる、つまり年収が変動することがあります。転勤後に年収が下がる場合、勤務先によってはアルバイトなどで補填することができますが、アルバイトができるコマ数に制限があることも多く、注意が必要です。

また、医局人事による異動は「自主退職」扱いとなるため、勤続年数がリセットされます。そのため退職金の金額に影響する場合があります。

異動先の職場環境が合わない可能性がある

職場によって働き方や雰囲気は異なります。時には同僚と相性が合わない、職場自体が合わないと感じてしまうこともあるでしょう。これは医師に限らず、どの職種においても起こり得ることです。それぞれの職場に順応していけるよう、柔軟に対応していく心構えが必要です。

医局人事を断ることはできる?

医療イメージ

医局に所属する以上、医局人事は一定の頻度で発生します。医局人事が決まったら、基本的に断ることはできません。医局には医局員を異動させる強制力はないものの、医局員が実際に断るのは難しいのが現実です。

やむを得ない理由がある場合は拒否できるケースもありますが、ごく一部に限られます。たとえば、下記のような理由は医局人事を避けられる可能性があります。

やむを得ない理由

  • 健康上の都合
  • 出産・育児、介護など

やむを得ない理由であっても、社会人として人事が決まる前の早い段階で相談することは必要です。人事が正式に決定される前の段階であれば、希望を考慮してもらえる可能性もあります。

自分のキャリアプランやライフプランを考慮すると、異動の多い働き方をきついと感じることもあるでしょう。その場合、退局を選択することも一つの選択肢ですが、退局自体がキャリアに大きな変化を与えるため、慎重に考えて行動する必要があります。

医局人事と向き合うコツ

医局人事には関連病院への医師の派遣という重要な使命があるため、基本的には医局の判断に従う必要があります。とくに地方の場合、医局はその地域の医療の中核であり、医局の権力が強い傾向があるため、医局人事に背くことは非常に難しいと言えます。

しかし、自分の仕事や生活に合った働き方をしたいという方も多いでしょう。個人の希望がすべて優先されることは難しいですが、少しでも希望を叶えるためには、人事権を持つ教授や医局長と日ごろから上手に付き合うことが鍵になります。

医局人事には、心情的な要因が絡むこともあります。そのため、日ごろから上層部とコミュニケーションを取り良好な関係を築いておく、日々の診療に真摯に向き合う姿勢を見せる、といった積み重ねが大切です。

医局人事に関するQ&A

Q:医局人事は費用がかかる?

A:1~2年程度の頻度で異動することが多いため、費用がかかりやすいと言えます。引っ越し費用や家賃補助が支給されるかどうかは転勤先によります。

若手の間は半年~2年単位で異動が生じ得ます。引っ越しが必要な場合が多く、引っ越し費用がかさみがちです。転勤先から引っ越し費用の補助や賃貸物件の家賃補助が出ることもありますが、転勤先の制度によって異なるため、確認が必要です。

Q:医局人事が決まったときの対応は?

A:転勤先への挨拶、引っ越し準備、受け持ちの患者さまの引継ぎなどが必要です。

転勤先が決まったら、転勤先の病院の上司に早めに連絡し、できれば一度は直接挨拶に行くと良いでしょう。引っ越しの繁忙期にあたることが多いため、引っ越す場合は業者の手配を早めに済ませるのがおすすめです。引っ越しを理由に有給を取得できることも多いため、上司に確認しましょう。

自分の後任の医師に受け持ちの患者さまの引継ぎを行うことも重要です。その際は、カルテにこれまでの経過のサマリーを記載します。逆に転勤先の前任の医師から引継ぎを受ける必要もあります。患者さまのことだけではなく、電子カルテの使い方や検査オーダーの仕方など、お互い転勤後にスムーズに働けるよう、できる限り引継ぎに含めると良いでしょう。

医局人事と上手に付き合おう

医局人事には、さまざまな経験や症例が積める、場合によっては自分の希望するキャリアプランを考慮してもらえるなどの良い面がある一方、経済的・身体的・精神的に大きな負担がかかることも事実です。希望の働き方やキャリア、ライフプランに少しでも近付けるためには、医局人事とうまく付き合うことが必要と言えます。

希望の働き方や生活スタイルを優先したい場合、退局・転職も選択肢の一つです。ただし退局や転職は自身のキャリアに大きな影響を及ぼすため、慎重に検討しましょう

ドクタービジョン編集部

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