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医師の皆さん、「生活習慣病管理料」という算定項目をご存知でしょうか。その名のとおり、生活習慣病と称される脂質異常症・高血圧症・糖尿病の3疾患に対して算定できる管理料です。
これまで、さまざまな理由で普及が進んでいませんでしたが、2024(令和6)年度診療報酬改定を契機に普及が想定されています。
この記事では、生活習慣病管理料の基本的な内容や、2024年度診療報酬改定で注目されている理由などを解説します。とくに内科系の医師には影響が大きいため、ぜひご一読ください。
執筆者:Dr.SoS
生活習慣病管理料とは
「生活習慣病管理料」は、2006(平成18)年の診療報酬改定から使われている名称です。もとは1996年に新設された「運動療法指導管理料」という項目で、これが名称を変えて存続しています。
生活習慣病管理料導入の背景として、生活習慣病(NCDs)と称される脂質異常症・高血圧症・糖尿病の適切な管理が健康増進において重要であることが関係しています。国が健康増進対策として策定している「健康日本21」でも、生活習慣病の発症予防は重要な課題とされています。
たとえば、高血圧症は脳出血の代表的なリスク因子であることは、医師であれば周知の事実でしょう。正常血圧例と比べ、高血圧の区分が上がるほど脳出血による死亡リスクが高まることも知られています*1,2。高血圧症を予防することはもちろん、発症後の血圧を適切に管理することも大切です。医師が適切な指導管理を行うことで、脳出血の発症を抑えることができるのです。
高血圧症に限らず、生活習慣病は適切な管理で相応のアウトカムが期待できるようになってきており、各学会で診療ガイドラインの整備も進んでいます。
生活習慣病管理料は、こうした医師の指導管理の価値を、診療報酬という形で示すものと言えるでしょう。
NIPPON DATA80・90により得られた循環器疾患に関する知見について|環境省 第4回中央環境審議会大気環境部会微小粒子状物質環境基準専門委員会(2009年4月)(*1)
NIPPON DATA Research Group:Impact of elevated blood pressure on mortality from all causes, cardiovascular diseases, heart disease and stroke among Japanese: 14 year follow-up of randomly selected population from Japanese ― Nippon data 80.J Hum Hypertens 17:851-857,2003(*2)
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生活習慣病管理料の種類と算定要件
2024年度の診療報酬改定では「生活習慣病を中心とした管理料、処方箋料等の再編等の効率化・適正化」として0.25%の引き下げ方針が掲げられており、これをふまえて生活習慣病管理料の内容が見直されました。もともと1種類しかありませんでしたが、今回「生活習慣病管理料(Ⅱ)」が新設され、従来の項目は生活習慣病管理料(Ⅰ)に移行されました。
(Ⅰ)は包括範囲に含まれる検査・注射・病理診断を、(Ⅱ)は出来高(検査等を包括しない)を算定します。それぞれ、点数は疾患によって異なります。
主病名 | 生活習慣病管理料(Ⅰ) | 生活習慣病管理料(Ⅱ) |
---|---|---|
脂質異常症 | 610点 | 333点 |
高血圧症 | 660点 | |
糖尿病 | 760点 |
厚生労働省「個別改定項目について」(令和6年2月14日、改3月7日)をもとに作成
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001210969.pdf
(Ⅰ)(Ⅱ)いずれも、以下の要件を満たす場合に、月1回算定可能です。
- 患者が脂質異常症、高血圧症、糖尿病のいずれかを主病としている
- 医師が患者に対して、服薬、運動、休養、栄養、喫煙、家庭での体重や血圧の測定、飲酒などの生活習慣に関する指導を行う
- 患者に対して、療養計画書を作成し、説明を行い、同意を得る
- 許可病床数が200床未満の病院または診療所である
出典:厚生労働省「個別改定項目について」(令和6年2月14日、改3月7日)
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001210969.pdf
包括対象
生活習慣病管理料(Ⅰ)は、検査等を包括した算定項目であることが特徴です。つまり、検査や注射を行っても、それを別途算定することはできません。
包括対象として挙げられているのは、下記の診療項目です。
- 検査
- 注射
- 病理診断
- 医学管理
これらを包括的に評価するため、生活習慣病管理料(Ⅰ)は点数が高めに設定されています。医療機関から見れば収益性が高いことになりますが、患者さんの負担は大きくなります。
これまで生活習慣病管理料はあまり普及していませんでした。その原因に点数の高さを上げる声もあったことから、今回この点数を下げる代わりに「管理料(Ⅱ)」を別途新設したとも言えるでしょう。
療養計画書
生活習慣病管理料の算定に必要な療養計画書は、厚生労働省からひな型が公開されており、体重や血圧・HbA1cの目標値、食事/運動療法の内容や血液検査結果を記載するようになっています(主病が糖尿病であれば血糖値とHbA1cの値、高血圧症であれば血圧値を記入。例外あり)。
達成/行動目標の内容は患者さんと相談し、同意と署名を得る必要がある一方、計画書自体は従来より簡素化されており、現場の負担軽減に配慮したこともうかがえます。
診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)(令和6年3月5日保医発0305第4号)医師点数表|厚生労働省
└p.22:生活習慣病 療養計画書 初回用
└p.23:生活習慣病 療養計画書 継続用
特定疾患療養管理料との関係
脂質異常症・高血圧症・糖尿病の診療は、もともと「特定疾患療養管理料」での算定が一般的でした。
今回の改定で対象から外れることから、今後は生活習慣病管理料(Ⅱ)で算定するパターンが多くなると考えられます。
特定疾患療養管理料は225点と、これだけであれば生活習慣病管理料(Ⅱ)333点の方が高くなります。しかし、特定疾患療養管理料では外来管理加算(52点)や特定疾患処方管理加算2(66点)を別途算定することができたため、合計点は「343点」でした。
月1回の診察であれば、従来の343点から333点となります。微減にとどまりますが減少はしますし、療養計画書の作成や患者さんからの同意取得などの人手も考えるとマイナスでしょう。
また、特定疾患療養管理料は月2回まで算定可能でした。生活習慣病管理料は月1回しか算定できないため、大きな減収になり得ます。
まとめ
今回は生活習慣病管理料について見てきました。包括評価を背景に点数が高く設定されている(患者さんの自己負担額も上昇する)点や、療養計画書作成の手間が大きい点から、これまであまり普及していませんでしたが、2024年度診療報酬改定を機に算定機会が増えると考えられます。
とくに、これまで月2回診察を行っていた場合は大きな減収が見込まれるほか、療養計画書作成の負担なども考えると内科系クリニックの経営への影響は避けられないでしょう。
2024年度診療報酬改定の施行は6月からですが、一部の団体からは、今回の3疾患除外に反対する要望書も提出されています。今後の動向に引き続き注意が必要です。
執筆者:Dr.SoS
皮膚科医・産業医として臨床に携わりながら、皮膚科専門医試験の解答作成などに従事。医師国家試験予備校講師としても活動している。
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