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日本では、医学部卒業後にいずれかの大学医局に所属し、研究や診療に従事するスタイルが一般的です。医局についての明確な定義はなく、医師の間では大学および附属病院で実施される臨床、研究をはじめ、教育、人事を担う場所などを示しているのが一般的です。
医局の規模と性質はその後のキャリア形成に大きな影響を与えることから、どの医局に入り、どのタイミングで退局するかは、とても悩ましい問題でしょう。
近年では、大学医局に所属せずに活躍する研修医や若手医師も増えてきました。そこで今回は、医局に入るメリットとデメリット、医局に所属するか悩んだときに考えるべきポイントをご紹介します。
医局に入らない医師は増えている?減っている?
厚生労働省の『平成25年臨床研修修了者アンケート調査結果概要』によると、同年に臨床研修を受けた研修医5,597人のうち、医局に入る予定と回答したのは4,047人(72.3%)でした。このうち、大学病院で臨床研修を修了した2,496人のなかで医局に入る予定と回答したのは2,201人(88.2%)。さらに、大学病院以外で臨床研修を修了した3,101人のうちの1,845人(59.5%)についても、医局に入る予定としています。
次に、直近の『平成31年臨床研修修了者アンケート調査結果概要』についても見てみましょう。同年に臨床研修を受けた研修医6,806人のうち、入局予定と回答したのは5,397人(79.3%)。このなかの大学病院で臨床研修を修了した3,771人のうち、のちに医局に入る予定としたのは3,662人(97.1%)でした。対して、大学病院以外の臨床研修修了者2,671人のうち入局予定としたのは、1,458人(54.6%)です。
この二つの調査結果から、大学病院に在籍する医師の多くが医局に入り、大学病院以外に所属する場合でも医局に入る意向を示す医師が一定数いることがわかります。
一方で、大学病院以外の病院で研修を修了した医師のうち「入局する予定はない」という回答割合を比較すると、2013年度(平成25年)の調査では22.7%でしたが、2019年度(平成31年)には26.8%に増加しました。
すなわち、医局に所属する医師の割合は依然として高い一方で、医局に所属しないことを選択する人も一定数いる状況です。
医局に入るメリット
次では、医局に所属するメリットについて見ていきましょう。
派遣や研究、留学など豊富な経験ができる
医局には派遣機能があります。そのため、医師は派遣先の医療機関で診療スキルを磨いたり、留学したりもできます。とくに臨床研究に興味があるなら、大学病院が所有する最新設備を利用できることも魅力の一つだと言えるでしょう。
研究に取り組む環境がある
大学病院は、研究教育機関としての機能も備えています。そのため、基礎研究に加えて珍しい症例や希少疾患の患者さまの治療を実践できる可能性もあります。そういった経験を積みたい医師にとって、医局に所属するメリットは大きいでしょう。
学位や専門医が取得できる
学位(博士号)や専門医の資格は、給与や待遇に関する交渉を有利に進めるための一つの要素になります。とくに専門医は、医局に所属していないと条件を満たすことが難しい場合もあります。
医局でのキャリアアップや転職の選択肢を広げようと考えているなら、学位や資格の取得に注力しやすい大学病院の医局はふさわしい環境だと言えるでしょう。
人脈の構築や情報交換の場ができる
医局員同士のつながりが作りやすいのも、医局に所属するメリットです。医局派遣は数年単位で行われることから、年代の近い医師同士だけでなく、上級医との縦のつながりも作りやすくなっています。
業務やキャリア選択に関する相談はもちろん、海外留学に関する情報収集、開業時には病診連携を打診することもでき、医局に所属しない医師と比較して広い視野や選択肢をもてるのです。
安定した働き方ができる
自身や家庭の事情などから、一時的に診療現場を離れる医師も多くいます。その場合、医局のサポート体制などを利用して復職できることもあります。妊娠出産や介護などによる離職だと、復帰後も時短勤務や業務負担軽減などを交渉しやすいでしょう。現場も代理の医師を医局から派遣してもらえるため、双方にとってメリットがあるのです。
医局に入るデメリット
自己成長の機会や人脈構築などのメリットがある一方、医局に所属するデメリットもあります。入局を検討する場合には、以下についてもしっかり把握しておきましょう。
医局人事による転勤がある
医局人事によって、基本的に数年単位で転勤の辞令が出ます。また、希望した病院や部署への異動が叶わないケースもあり、医局に対して不満を抱える医師は多いようです。とくに家庭をもつ医師は、医局人事を避けたいと考えることも多いでしょう。
派閥による人間関係に悩む可能性がある
医局には、医師同士の競争や派閥争いがある場合があります。人間関係の煩わしさや理不尽な出来事をきっかけに、医局から離れる医師もいるようです。
給与が上がりにくい
大学病院に所属していると、自院での診療業務や自身の研究、論文執筆だけでなく、非常勤(アルバイト)として派遣先での診療も任されるようになります。そうなるとメンタル・フィジカルともに大きな負担がかかる一方で、大学病院の給与水準は他に比べ低く、上がりにくいのが現状です。
医局に所属しない医師は意外と多い
前述の通り、医局にはメリットとデメリットがあります。医学部卒業後に医局に入ったものの、ある程度経験を積んだのちに退局を選択する医師も一定数いるようです。
では、医局を辞めた医師が気を付けたいポイントについても見ていきましょう。
医局に所属しない医師が心がけること
●人脈の構築 医局を離れることで、医局を介したつながりが作りにくくなります。情報収集や意見交換のためにも、学生時代の先輩や後輩・研究会で知り合った医師・同じ地域で働く医師などとの関係を深めて人脈の構築を意識すると良いでしょう。
●自己研鑽 新しい治療方法や医療器具・設備などの情報は、待っているだけでは集まりません。論文を読んだり、新しい技術を積極的に取り入れたりするなどして、感度高く情報収集をする必要があります。
●人事や求人の情報収集 人事関連や求人情報など、医療以外に関わる部分の情報収集も重要です。独立開業して立ち上げたクリニックで近隣の病院と病診連携を積極的に実施している場合、診療科のトップが異動したり、方針が変化したりすると、その影響をダイレクトに受ける可能性があります。
そのほか、副業を検討する場合などに、医局に所属していれば自然と入ってきていた求人情報も、自分で取りに行くことが必要になるでしょう。
入局するか迷ったときに考えたいこと
医局に残るかどうかの選択に悩んだ場合には、次の2点を基準に検討すると良いでしょう。
自らのキャリアで希望することの優先順位
医師のキャリアを歩み続ける上で重視したいことや実現したいことなど、以下のような譲れない条件を洗い出しましょう。
- やりがい
- 好条件の給与や待遇
- 人脈形成
- ワークライフバランス
様々な条件が挙がると思いますが、すべてを叶えるのは難しいため、優先順位をつけていきます。
条件が定まったら、今度はそれを叶えるためにはどのような環境に身を置くのが望ましいかを考え、見出した結果から医局に残るかどうかを判断しましょう。
医局に入る以外の選択肢があるか
譲れない条件が医局に所属しなくても選択可能なのかについても検討しましょう。
研究活動を希望する場合、民間企業でもできる可能性があります。独立開業を検討しているなら、クリニックで診療や経営の知見を深める、民間の医療機関に勤務して将来のリレーションシップ形成に努めるといった選択肢もあるでしょう。
入局・退局の選択はキャリア形成を熟考した上で
医局に所属するメリットが多いことは確かなようです。しかし、大切なのは、仕事に対してご自身が何を求めているかです。キャリアプランにおける将来やりたいことや譲れない条件次第では、医局に入らない選択をすることも十分可能です。
退局を悩んでいるなら、客観的な立場からアドバイスをしてくれる転職コンサルタントに相談するのも一つの手段です。ご自身の要望を最大限叶えられる選択肢を検討した上で、納得できる決断をしましょう。
ドクタービジョン編集部
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