【医師向け】降圧薬の種類と使い分けのポイント―腎臓内科医解説

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医療知識

公開日:2024.10.08

【医師向け】降圧薬の種類と使い分けのポイント―腎臓内科医解説

【医師向け】降圧薬の種類と使い分けのポイント―腎臓内科医解説

20歳以上の日本人の2人に1人*1が高血圧を患う昨今、診療科を問わず、外来や病棟で高血圧の患者さんを診る機会が増えているのではないでしょうか。

降圧薬は種類が多く、どのように使い分ければ良いか迷ってしまう先生方もいるかもしれません。この記事では降圧薬を使い分ける時のポイントや注意点について、腎臓内科医である筆者が、経験を交えてお話しします。

※この記事は、医師向けに降圧薬に関する概要をまとめた読み物コラムです。筆者個人の見解も含むため、診療にあたっては最新のガイドラインや治療指針、各種薬剤の添付文書などをご確認ください。

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執筆者:大塚 真紀

医学博士、腎臓専門医、透析専門医、総合内科専門医

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降圧目標を達成すべき理由

降圧目標値は、年齢や合併症の有無によって異なります。しかし降圧目標を達成すべき理由は共通で、脳・心血管合併症の予防です。合併症の発症を予防できれば、生命予後や生活の質を維持できます。

血圧が高くても、自覚症状はほとんどありません。そのため降圧薬の内服を拒否したり、自己判断で中止したりしてしまう患者さんもいます。外来や病棟で高血圧の患者さんを診るときには、まずは血圧を目標値まで下げることの重要性を丁寧に説明することが重要となります。

主な降圧薬の種類と副作用

降圧薬の作用・副作用の比較イメージ

単剤で血圧を良好にコントロールすることは難しい場合が多く、臨床では複数の降圧薬を組み合わせることがよくあります(後述)。最近は合剤を使う機会も増えています。

降圧薬とひとことで言っても、その種類は多くあります。

  • カルシウム拮抗薬
  • アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)
  • アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬、ACEI)
  • 利尿薬
  • β遮断薬
  • α遮断薬
  • 中枢性交感神経抑制薬
  • ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MR拮抗薬) など

まずは、随時最新の『高血圧治療ガイドライン』(日本高血圧学会発行)で「主要降圧薬」として取り上げられている薬剤をおさえましょう。それぞれの降圧薬で起こりうる副作用も把握しておくと、投与後、患者さんの体調変化があった場合に迅速に対処できます。

ここでは、『高血圧治療ガイドライン2019』*2で主要降圧薬とされている5種類について、簡単に紹介します。

1.カルシウム拮抗薬

カルシウム拮抗薬(Ca拮抗薬)は、高血圧症例に最初に使用されることの多い降圧薬です。心筋梗塞後や心不全、慢性腎臓病などの合併症がない場合には、Ca拮抗薬が第一選択薬として使われます

【主なCa拮抗薬】

  • アゼルニジピン
  • アムロジピン
  • シルニジピン
  • ニフェジピン など

血管を広げて血圧を下げるので、めまいほてり頭痛といった副作用が起こることがありますが、経過を見ていると改善する場合がほとんどです。歯肉肥厚が見られた場合は歯科治療を受ける必要があります。

2.アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)

ARBは、Ca拮抗薬の次に多く処方される薬です。降圧効果に加えて臓器保護作用を期待できるため、心疾患や腎疾患がある場合の第一選択薬となることが多いです。たとえばロサルタンの場合、腎保護作用による腎機能障害の抑制が期待できます。降圧までにかかる時間は約2週間と考えておきましょう。

【主なARB】

  • アジルサルタン
  • イルベサルタン
  • オルメサルタン
  • カンデサルタン
  • テルミサルタン
  • バルサルタン
  • ロサルタン

ARBは用量にかかわらず、副作用の少ない降圧薬です。ただし腎機能低下例に処方する場合は、高カリウム血症腎機能低下が起こる可能性があります。妊婦や授乳婦への投与は禁忌です。

3.アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)

ACEIは、ARBよりも前に開発された薬ですが、心血管イベントや全死亡リスクを減らす効果はARBと同様であることがわかっています。

【主なACEI】

  • エナラプリル
  • カプトプリル
  • リシノプリル など

副作用として、血管神経性浮腫空咳高カリウム血症などが知られています(ちなみにARBは、ACEIの空咳などの副作用を抑える目的で開発されました*3)。

4.β遮断薬

β遮断薬は、交感神経の働きを抑制し、血圧を下げる薬です。高血圧治療ガイドラインでは、Ca拮抗薬やARBなどのように第一選択薬としては含まれていませんが、虚血性心疾患や頻脈、心不全がある患者さんには積極的に処方されます(カルベジロールとビソプロロールには心不全の予後を改善する効果があると言われています)。

【主なβ遮断薬】

  • カルベジロール(α1受容体遮断作用も有する)
  • ビソプロロール
  • プロプラノロール など

ただし、糖尿病や脂質異常症の発症リスクを高める働きや、喘息発作を誘発する可能性がある点に注意が必要です。

5.利尿薬

利尿薬は、ほかの降圧薬と併用されることの多い薬です。血液中の水分量を減らす作用があるため、心拍出量を抑えることで血圧を下げます。

利尿薬にはいくつか種類がありますが、降圧目的では一般的にサイアザイド系利尿薬が使用されます。腎機能低下例(eGFR 30 mL/分/1.73m2未満)の場合は、まずループ利尿薬を処方します。

【主な利尿薬】

  • アゾセミド
  • インダパミド
  • トリクロルメチアジド
  • ヒドロクロロチアジド
  • フロセミド など

副作用として、低カリウム血症低ナトリウム血症めまいなどを起こすことがあります。

降圧薬を使い分ける際のポイント

ここからは、降圧薬処方のポイント・注意点について、筆者の経験や見解もふまえてお話しします。

①合併症の有無で使い分ける

『高血圧治療ガイドライン2019』では、主要降圧薬の「積極的適応」が定められています。

「積極的適応」となる疾患*2には、左室肥大左室駆出率の低下した心不全頻脈狭心症心筋梗塞後蛋白尿または微量アルブミン尿を有する慢性腎臓病が含まれます。

左室肥大にはCa拮抗薬かARB/ACEIを、左室駆出率の低下した心不全に対してはARB/ACEI、サイアザイド系利尿薬、またはβ遮断薬を選択します。

頻脈と狭心症にはCa拮抗薬やβ遮断薬、心筋梗塞後の場合はARB/ACEIやβ遮断薬を使用します。慢性腎臓病は、腎保護作用を期待できるARB/ACEIの良い適応です。

積極的適応がない疾患に対しては、Ca拮抗薬、ARB/ACEI、利尿薬の中から選択します。詳しい情報はガイドラインを参照してください。

②異なる種類の降圧薬を組み合わせる

降圧目標を達成する割合は、降圧薬服用者の半数程度にとどまることがわかっています。また、単剤で降圧目標を達成できるのは約4割未満とされています*2。つまり単剤で降圧目標を目指すよりも、複数の降圧薬を組み合わせることが多いです。

2剤を組み合わせる場合は、以下の3パターンから選択します。

  • ARB/ACEI + Ca拮抗薬
  • ARB/ACEI + 利尿薬
  • Ca拮抗薬 + 利尿薬
参考:日本高血圧学会『高血圧治療ガイドライン2019』p.79
https://www.jpnsh.jp/data/jsh2019/JSH2019_noprint.pdf(2024年10月8日閲覧)

3剤を組み合わせる場合には、ARB/ACEI・Ca拮抗薬・利尿薬を使用します。

③アドヒアランス向上を意識する

高血圧患者さんの服薬順守率は、4~6割*4という報告があります。せっかく処方しても患者さんが服用していなければ意味がないため、アドヒアランス向上を意識して診療することが大切です。

高齢患者さんの場合は飲み忘れも起こりやすいため、可能であれば1日1回の服用に調整したり、合剤に変更したりする工夫が必要です。最近ではCa拮抗薬とARBの合剤、ARBと利尿薬の合剤など、さまざまな種類のものがあるため選択肢も増えています。

④必要に応じて減量や中止を検討する

血圧は環境の変化や入院、季節による温度差などで変動しやすいため、漫然と降圧薬を処方していると血圧が下がりすぎてしまい、めまいや転倒などのリスクにつながることがあります。家庭血圧の測定も指導し、血圧手帳を持参してもらうと良いでしょう。

⑤専門医に紹介する

「利尿薬を含むクラスの異なる3剤の降圧薬を用いても血圧が目標まで下がらないもの」*2は、治療抵抗性高血圧と定義されています*5

治療抵抗性高血圧の原因には、不適切な血圧測定や白衣高血圧、服薬アドヒアランス不良、生活習慣や薬剤・食品の影響、二次性高血圧などがあります。睡眠時無呼吸症候群や原発性アルドステロン症、腎血管性高血圧などの二次性高血圧が疑われる場合は、専門医に速やかに紹介しましょう。

まとめ

高血圧は、どの科でも診る機会のあるコモンディジーズです。降圧薬の処方にあたっては、年齢や合併症の有無によって降圧目標値や第一選択薬が異なるため、煩雑に感じることがあるかもしれません。今回解説したようなポイントが、先生方の診療の一助になれば幸いです。

大塚 真紀

執筆者:大塚 真紀

東京大学大学院医学系研究科卒。医学博士、総合内科専門医、腎臓内科専門医、透析専門医。都内の大学病院勤務を経て、夫の仕事の都合で渡米し、アメリカでは研究員として勤務。現在は日本に帰国し、在宅で医療関連の記事の執筆や監修、医療系YouTube監修、企業戦略のための医療系情報収集、医療系コンテンツ制作、医療系生成AIのアドバイザー、オンライン診療、医学意見書作成、看護師や一般向けの書籍執筆など幅広く行う。

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