研修医と上級医のコミュニケーション不足による薬剤投与ミス

ヒヤリ・ハット事例

公開日:2023.12.21

研修医と上級医のコミュニケーション不足による薬剤投与ミス

「1件の重大な事故の背景には29件の軽微な事故があり、さらにその背景には300件のヒヤリ・ハットがある」というハインリッヒの法則をご存知でしょうか。

この「ヒヤリ・ハット事例」特集では、実際に起こった事例をご紹介します。原因や対策を知ることで学びの一助としていただくほか、記事の最後には事故を未然に防ぐための参考となるようなお役立ち情報も添えております。日々の診療のヒントとして、ぜひお役立てください。

(事例の出典:日本医療機能評価機構 医療事故情報収集等事業



研修医と上級医のコミュニケーション不足による薬剤投与ミス

<この事例から学べること>

上級医は研修医の理解度の確認とともに、指示出しおよび正確なチェックバックを徹底する。

事例概要

※以降、一部表記を除き原文ママ

患者概要

患者 70歳代女性
疾患名:中縦隔悪性腫瘍、子宮体癌
影響度
当事者 医師

事例の内容

2019年、子宮体がん術前CTにて間質性肺炎の疑いにて呼内依頼。

2020年7/2、肺門・縦郭リンパ腫生検目的で気管支鏡を開始。
10:45、キシロカイン4%を咽頭へ噴霧。 
10:52、ペチジン・ドルミカム投与。
10:54、ファイバースコープ挿入。 
11:10、ドルミカム追加投与。
11:27、検体採取・止血確認を行いファイバースコープ抜去。
11:30、上級医から研修医へ「ナロキソンIV、アネキセート半筒IV・半筒混注」と指示。研修医はトレーからシリンジを取り投与。「拮抗しました」と発言。
11:40、酸素OFFの指示後SpO2;88%まで低下2L継続投与。95〜98%をキープし病棟帰室。
11:50、看護師が拮抗薬のBOXの中を確認すると薬液が入っている、ナロキソンとアネキセートのシリンジと、ドルミカムのシリンジが空になっているのを発見。医師へ「アネキセートとナロキソンが投与されておらず、おそらくドルミカムが投与されているのでないか」と報告、医師は「今から拮抗しに病棟に行きます」と返答あり。
看護師は病棟へ連絡し事実を説明。病棟看護師からは「SpO2は98%でキープ、眠っているが帰室の時と変化はない」と返答があった。病棟にてアネキセート投与しモニター継続の指示。
14:00、アネキセート投与後の覚醒は良好でありドルミカムの過量投与について説明し、患者より「分かりました」との反応。
7/3、呼吸症状問題なく退院。

背景要因

  • 気管支鏡の際はペチジン・ドルミカム・ナロキソン・アネキセートの4本がシリンジに準備され、ナロキソン・アネキセートは「拮抗薬」と表示されたBOXに入れられ1つのトレーに準備されている
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  • 研修医は投与前に投与する薬剤名を宣言せず、投与後に「拮抗しました」と発言している
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  • 研修医は拮抗薬の意味は理解していたが、拮抗薬の薬品名は理解していなかった。気管支鏡についたことはあったが拮抗薬を投与するのは今回が初めてだった
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  • 研修医への指示の出し方や、確認方法について医療安全情報を用いて周知を開始した

改善策

  • 本事例は研修医と上級医のコミュニケーション不足により発生していることから、セーフティマネジメント委員会およびセーフティマネージャー会議で事例の共有を行うとともに、「医療安全管理情報」を作成し指導者の立場から指示の出し方、確認方法(チェックバック)を再度院内に周知するとともに、研修医にも事例を共有し再発防止に向け基本的安全確認行為を遵守することを徹底した


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