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「チーム医療」――今や私たち医師にとっても聞き馴染みのある言葉ですが、その意義や医師の役割、課題などを認識している医師は多くはないかもしれません。
「チーム医療」は厚生労働省による推奨もあり、現場で広く浸透しました。医療安全の向上や、多職種間での連携をもたらしています。
一方で、少子高齢化に伴う医療構造の変化や、医療技術の高度化などによって、チーム医療に求められる意義や役割も変化しています。医師をはじめとする医療業界は日々、変化・変革に適応していかなくてはなりません。そのためにも、いま改めてチーム医療の意義を理解し、医師としての役割を把握、実践することが必要です。
この記事では、チーム医療で大切なことや課題などを解説します。
執筆者:中山 博介
チーム医療とは
チーム医療とは「医療に従事する多種多様な医療スタッフが、各々の高い専門性を前提に、目的と情報を共有し、業務を分担しつつも互いに連携・補完し合い、患者の状況に的確に対応した医療を提供すること」です。
チーム医療が推奨されるきっかけとなったのは、1999年に某大学病院で心臓外科手術と呼吸器外科手術の患者さんを取り違えたことでした。両手術終了後、ICUで取り違えが発覚したという医療事故です。この事故をきっかけに、従来の医師中心の医療体制が見直され、2009年には厚生労働省が「チーム医療の推進に関する検討会」を立ち上げるに至りました。
チーム医療の推進に関する検討会|厚生労働省
チーム医療において大切なこと
質の高いチーム医療の実現において大切なことは、各職種が自分の役割を理解して機能することです。
医療の高度化や深刻な少子高齢化が進む中でも安全な医療を提供するためには、各職種がそれぞれの分野で専門性を高め、連携する必要があります。
具体的には、以下の3つが大切と考えます。
- 各職種の専門性の向上
- 多職種間での情報共有
- 組織化に伴う医療安全の向上
これにより、患者さんが抱える身体的・精神的・社会的問題を多方面からケアし、より効率的できめ細かい医療を目指します。
チーム医療を構成する職種と役割
チーム医療を構成する職種の例を挙げると、下記の通りです。
- 医師
- 看護師
- 薬剤師
- 臨床心理士
- 歯科衛生士
- 臨床工学技士
- 臨床検査技師
- PA(Physician Assistant)
- NP(Nurse Practitioner、診療看護師) など
上記以外にも多くの職種があり、時代によってそれぞれの役割も変化しています。
たとえば、看護師がこれまで医師が担っていた仕事の一部を担う「タスク・シフト」が、近年本格的に進んでいます。これは、地方での深刻な医師不足や医師の過重労働を受けて、医師の働き方改革の一環として推奨されているものです。
臨床工学技士も、同様の理由で2021年から業務が拡大しており、人工透析の際の穿刺や内視鏡手術時のカメラ操作などを担当できるようになっています。
チーム医療において重要なのは、多職種がそれぞれの専門性を高め、与えられた役割を全うして密に連携し合うことです。
タスク・シフト/シェアの推進について|厚生労働省
医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会 議論の整理|厚生労働省
臨床検査技師等に関する法律施行令の一部を改正する政令等の公布について(令和3年7月9日医政発0709第7号)|厚生労働省
▼タスク・シフトに関する詳しい記事はこちら
タスク・シフト/シェアとは?医師の働き方改革に向けた医療現場の変化【現役医師解説】
チーム医療における医師の役割
チーム医療における医師の役割は、各職種と連携をはかり機能される、チーム全体の"舵取り役"です。
医師自身が診断をもとに治療プランを立案し、実際に投薬・手術などを行いますが、そのためには看護師をはじめとする多くの職種の協力が必要です。
たとえば、手術器具の準備は臨床工学技士、薬の準備は薬剤師が行います。術後のリハビリには理学療法士や作業療法士、退院支援にはソーシャルワーカーの力が必要不可欠です。
多職種と密に連携を取ることでチーム医療が円滑に機能するよう、医師は潤滑油のような役割を担います。
多職種連携で気を付けるべきこと
多職種連携において気を付けるべきことは、情報伝達ミスや薬剤誤投与などのヒューマンエラーです。
これまで生じた医療ミスの多くは、多職種間での連携ミスが原因であることも多いです。ここでは、実際の判例を紹介します。
判例① 京都地裁 平成17年7月12日判決
蕁麻疹の女児に対して、医師Aが看護師Bに「塩化カルシウム」を静注するよう指示し、看護師Bは同指示を診療録に記載しました。
その後、看護師Bは准看護師Cに、診療録とともに医師Aからの指示を申し送りましたが、准看護師Cが誤って女児に塩化カリウムを単独で投薬した結果、女児は心肺停止となり、重度の障害が残りました。民事裁判の結果、医師A・看護師Cは「過失あり」とされました。
判例② 東京地裁 平成13年8月30日判決
関節リウマチの患者さんに対し滑膜切除手術が行われ、手術は無事成功しました。術後、留置針の血液凝固防止を目的にヘパロック用ヘパリン生食(ヘパ生)を10 ml用意した看護師は、同時に別の患者さんに使用する予定の消毒液ヒビテングルコネート液(ヒビグル)10 mlも用意しました。
この際、看護師がヒビグルの注射器に誤って「ヘパ生」と書いたメモを貼ってしまい、別の看護師によってこのヒビグルが誤投与され、患者さんは死亡しました。裁判の結果、看護師2名ともに「過失あり」とされました。
これら2つの事例は、いずれも多職種間の情報伝達の際に起こったヒューマンエラーが原因と言えます。情報伝達や指示を受けた際には口頭で再確認すること、取り違えが起こりうる作業の際には面倒でも人の目を増やしてダブルチェックをすることなどを徹底すれば、防ぐことができたと言えるでしょう。
チーム医療のメリット
チーム医療にはさまざまなメリットがある一方で、課題も多く指摘されています。ここからは、メリットと課題を順に解説します。
まず、チーム医療のメリットは、主に下記の3つが挙げられます。
- 医療の質の向上
- 医療従事者の負担軽減
- 医療安全の向上
各分野の専門家が集まって医療を提供することは、医師が1人で患者さんを診てすべての業務をカバーするよりも、安全できめ細かい医療の提供につながります。
また、それによって医療従事者1人当たりの業務負担を軽減することにもなり、これがまた医療の質や医療安全の向上につながると言えるでしょう。
チーム医療の課題
チーム医療が抱える課題としては、主に下記の3つが挙げられます。
- 少子高齢化に伴う医療構造の変化
- 医療従事者の人材不足
- 新たな人材育成
2025年にはいわゆる団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)となるため、今後の日本では深刻な少子高齢化が予測され、医療構造にも大きな影響を与えることが予測されます。
医療・介護を受ける側の高齢者は増加し、提供する若者はどんどん減っていくため、1人の高齢者を支えるために多くの若き医療従事者が必要ですが、現状では明らかに医療従事者は人材不足です。
とくに最近は看護師の人材不足が顕著で、手術中の器械出しを臨床工学技士が担っている医療機関も増えています。
アメリカではすでに一般的ですが、医師をサポートする職種であるPA(Physician Assistant)や、看護師と医師の中間のような役割を担うNP(Nurse Practitioner、診療看護師)などの新たな職種が、日本でも拡充されるかが課題です。
チーム医療の推進例
ここでは、麻酔科医として手術室に従事する私の経験をもとに、実際に手術室で行われているチーム医療について紹介します。
<術前> |
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<術後> |
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麻酔・手術領域だけでも、1人の患者さんに対して多くの職種が関与し、チームで臨んでいることがわかります。
近年では麻酔科専門医の指導のもと、NPが麻酔の補助業務を担うケースや、外科医とともに手術の補助を行う姿が散見されるようになり、チーム医療の進化を肌で感じています。
まとめ
今回はチーム医療のメリットや課題、医師の役割などについて詳しく解説しました。
日本では少子高齢化・地方過疎化などが危ぶまれる一方で、求められる医療は高度化しています。患者さん一人ひとりに質の高い医療を安全に提供するためには、各職種の専門家がより一層チーム医療への意識を高めることが重要です。とくに、チーム医療を牽引すべき立場にある医師の意識向上は重要です。この記事がその一助となれば幸いです。
執筆者:中山 博介
神奈川県の急性期病院にて、臨床医として日々研鑽を積みながら医療に従事。専門は麻酔科であり、心臓血管外科や脳神経外科・産婦人科など幅広い手術の麻酔業務を主に担当している。
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