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社会人に、職場でのコミュニケーションスキルは欠かせません。医師の場合は患者さまとそのご家族への接遇はもちろん、医師同士(上級医・同僚・後進)、看護師・薬剤師・コメディカル・事務スタッフといった他職種との連携など、さまざまな人間関係を抱えることが多く、周囲とのコミュニケーションがうまくいかず悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
デジタル技術の革新やコロナ禍を経て、コミュニケーションそのものも多様化している昨今。いまを生きる医師に必要な「医師同士・他職種とのコミュニケーション」について、2名の現役医師にレクチャーいただきます。
まずは、耳鼻咽喉科の臨床医であり、SNSでは「ひまみみ」先生として知られる前田陽平先生に、5本にわたってご執筆いただきます。今日は医療現場でコミュニケーションが必要な理由のお話です。
執筆者:前田 陽平
皆さんこんにちは。今日から数回の記事で、医療現場のコミュニケーションについて考えてみたいと思います。今回のテーマは、患者さんとのコミュニケーションではなく、医療従事者同士のコミュニケーションです。
初めに申し上げておくと、私はあくまで耳鼻咽喉科医で、医療コミュニケーションの学問的なプロではありません。臨床医としてさまざまな経験を持つ私が普段どのように考えているか、今まで講義などで教わってきたことも参考に、私見に基づき執筆した記事であることをご了承ください。
良好なコミュニケーションは医療安全に役立つ
さて、どんな職場でもコミュニケーションはとても重要である、なんていうことは私に言われなくても皆さんご存知のことだと思います。
医療現場では、コミュニケーションエラーによって患者さんの安全性が脅かされる恐れがあることが大きな問題になります。厚生労働省の『安全な医療を提供するための10の要点』にも、「職員間のコミュニケーション」が記載されています。
上記の10項目には、職員個人の取り組みである「危険の予測と合理的な確認」や、組織的な取り組みである「問題解決型アプローチ」「規則と手順」(の策定・遵守など)についても記載されています。いずれも重要なものです。つまり、「職員間のコミュニケーション」はこれらと並ぶほど、医療安全を確保するために必要なものと言えます。
また、スムーズにコミュニケーションを行うことで働きやすくなり、心理的な余裕が生まれることで、スタッフの離職を防ぐことにもつながるかもしれません。
心理的安全性とは
では、医療事故を防ぐためのコミュニケーションとはどういうものでしょうか。厚労省の『10の要点』では、部門や職種を超えて相互に意見を交わすこと、特に「チーム内ではお互いが指摘し、協力し合える関係が重要である」ことなどが書かれていますが、このためには「心理的安全性」が重要です。
皆さんは心理的安全性という言葉をご存知でしょうか。最近は医療安全においても重視されてきているのでご存知かもしれませんが、簡単に言えば「組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態」です。
そりゃそうでしょう、と思うかもしれませんが、実践することはなかなか難しいところもあります。重要なのはこの「心理的安全性」を確保するように皆で努めることではないでしょうか。誰でも意見を言いやすいような空気感を作っていく、ということです。
特に問題になりやすいのは、心理的安全性がない環境で若手時代を過ごしてしまった人だと、個人的には思います。心理的安全性がない環境で育った人はその重要性を認識しにくく、どうしても心理的安全性を確保する方向に努めない場合があります。
意見が言いにくい環境は「規律の保たれた職場」に見えてしまうという側面もあります。自分の職場が「規律が保たれている」という風に感じるのなら、心理的安全性がきちんと確保されているか、一度考えてみると良いかもしれません。あなたの職場で実際に若手が何か意見を言うことはあるでしょうか。それを「空気の読めない人」と捉えていることはないでしょうか。
個々のコミュ力に頼らない
もう一つ、「コミュニケーション力」(コミュ力)もよく聞く言葉かと思います。「コミュ力がある人」は、一般に「コミュニケーションが得意な人」を指しますよね。
コミュニケーションが得意な人は、たしかに一定数存在します。そういう人は良いのですが、コミュニケーションが不得意な人は、どのようにコミュニケーションにのぞめば良いのでしょうか。
大事なことは、コミュニケーションが不得意な人が、一定の割合でコミュニティに存在することを周囲が受け入れることだと思います。先ほど述べた心理的安全性に通じますが、皆が意見を言いやすくすることで、かなりの人がコミュニケーションを取りやすくなるでしょう。
そもそも、医療はチームで行うものです。個人や複数の人が起こしたエラーをほかのメンバーが修復できず、表に出たものを「チームエラー」と呼びます*。チームエラーを防ぐためには、エラーを発見・指摘し、それを修正するステップが必要です。そのためには、心理的安全性を確保した、指摘しやすい・ミスを共有しやすい職場であることが大切です。安全は個人の努力というより、それを積み重ねたシステムで守るという考えが重要です。
もちろん、不得意と自覚している人自身も、まず挨拶はちゃんとするなど、自分から努力する姿勢を見せることも重要だと思います。
職種や立場の違いに配慮する
他職種とコミュニケーションを取る場合は、職種によって異なる点に配慮する必要があります。たとえば、業務上の慣例や考え方の違いです。
入院患者さんに指示を入れる、ということを例に考えてみましょう。医師が深い理由があるわけではなく、いつもと違う入院時指示の入れ方をしてしまったとします。医師の場合はいまでも主治医制が主流のため、いつもと違う指示の入れ方でも「正しい指示」であれば特に問題はないと考える医師は多いでしょう。一方で、看護師は交代制で働いていますから、いつもと違う入院時指示の入れ方をしていると、交代で担当が変わるたびに「なぜこんな指示の入れ方をしているのだろう」と考えることになり、医師に問い合わせが入ります。
医師の立場からすると「別に間違った指示を入れていないのに...」と思うわけですが、看護師の立場でみれば「いつもと違うということは、何か意味があるのではないか」と考え、問い合わせをすることになるのです。
実際は主治医が24時間患者さんに対応できるわけではないので、できるだけ混乱を招かないようにする必要があります。医療安全には「規則と手順」が重要という話を紹介しましたが、医師より看護師の方がその点をよく理解していると個人的には感じています。
さまざまな業務をできるだけパターン化することは、医療安全の確保に役立ちます。もちろん臨機応変な対応が必要なシーンも多いですが、パターン化できることはパターン化しておく方が良いでしょう。
◆◆◆
ここまで、コミュニケーションが医療安全にも役立つというお話をいたしました。次回は「コミュニケーションエラー」について、より掘り下げていきたいと思います。
- 第1回
- 第2回
- vol.1:
すれ違いはなぜ起きる?
- vol.2:
- 第3回
- 第4回
- 第5回
- vol.1:
医療用文書 ~カルテを用いてコミュニケーションする相手は誰だ?~
- vol.2:
- vol.3:
- 第6回
- vol.1:
- vol.2:
- vol.3:
執筆者:前田 陽平
日本耳鼻咽喉科学会認定専門医・指導医。日本アレルギー学会認定専門医・指導医。日本鼻科学会認定鼻科手術暫定指導医。医学博士。大阪大学医学部卒業後、市中病院で研鑽を積み専門医を取得。大学院を経て、大阪大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科で助教として勤務、2022年4月からJCHO大阪病院耳鼻咽喉科部長に就任。専門は副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、鼻腔腫瘍、鼻副鼻腔・眼窩・頭蓋底疾患に対する経鼻内視鏡手術など。X(旧Twitter)では耳鼻咽喉科領域の医療情報などを発信し、Yahoo!オーサーとして記事を記載するなど、メディアや雑誌などでも多数活躍している。
▶X(旧Twitter)|@ent_univ_
▶Yahoo!|耳鼻咽喉科医 前田陽平の耳寄りな話
▶note|ひまみみ 耳鼻科 前田陽平
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