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公開日:2023.08.25
多職種連携時代の医師コミュニケーション術
【医療現場でSNSやチャットツールは使えるか】vol.3 上級編 ~SNSで楽しみキャリアアップもしたいあなたへ~
いまを生きる医師に必要な、医師同士・他職種とのコミュニケーションについてお送りする連載企画。今日は、市原真先生による「医療現場でSNSやチャットツールは使えるか」(全3回)の最終回です。
執筆者:市原 真
みなさんこんにちは。市原です。「病理医ヤンデル」という名前で活動しています。
SNSに関する一般的な分析については、前回までの記事で十分お話しさせていただきました。最後は、いわゆる「自分語り」です。
私の歩んできた個人的な道のりを、皆さんのキャリアに応用しようと思っても、なかなか難しいだろうと思います。でも、私というひとりの「SNS当事者」の語りの中に、SNSを用いたコミュニケーションのヒントが含まれているかもしれません。ぜひ読み取ってみてください。
私は何を目指し、主戦場をどこに定めたのか
2011年に私がTwitterアカウントを開設したとき、コミュニケーションを取りたかった相手は「これから病理医になってくれるかもしれない医学生・研修医」でした。
当時30代前半だった私は、自分と近い世代にあまり病理医がいないことに危機感を覚えていました。このままだといつまで経っても後輩ができず、50になっても60になっても下働きをしなければいけない......! という切迫感から、「病理広報アカウント」を開設しました。
場として選んだのは「Twitter」(現X)です。
病理は、外科や救急科とは違って、業務のメインがデスクワークです。働き方はシステム開発者や雑誌編集者などに似ていて、マルチタスクへの耐性があり、ITリテラシーが高めで、いわゆるオタク基質な人が多いです。これはいかにもTwitter向きだと思いました。より正確に言えば、私がTwitterに向いているというよりも、「病理医と親和性の高い医学生は、Twitterにも向いていて、よく使うのではないか」と思ったのです。
ストックとフローの組み合わせ
ただし、当時の私は自分が短文でのコミュニケーションに向いているとは思えなかったので、Twitterとは別にコンテンツを格納できる場所を用意しました。「FC2ブログ」、「Facebook」、「mixi」という今は懐かしいプラットフォームを3つ併用し、「ツイキャス」という音声サービスも立ち上げました。
これらはすべて、対象となる相手も、好まれる文体も、支持される話題も、だいぶ違います。場によって異なるリアクションを受け取ると、場ごとに私の書き方やしゃべり方が変化します。
主体的に活動していると自認しがちなSNS活動は、意外と反射的で中動態的であり、周囲の受け止め方を見ながら自らを微調整していくことで分化・成熟していきます。
複数のプラットフォーム上にコンテンツをストックし、Twitterで告知するスタイルは功を奏しました。フロー型のメディアであるTwitterを「ハブ空港」として用いて、多様なストックコンテンツにアクセスしてもらうことで、ハブ空港のトラフィックが増え、フォロワーもたくさん増えます。
現在の私は「Blogger.com」(Googleのブログサービス)、「note」、「Twitter Spaces」、「YouTube Live」などを用いていますが、基本的な使い方である「ストックコンテンツ→Twitter」の流れは変わっていません。
「生活」と「思想」をどこまで見せるかのバランスは?
コンテンツのストックとフローを組み合わせることで、「データ」を用いたコミュニケーションが格段にやりやすくなりました。しかし、Twitterは必ずしも「データ」を拡散させるのに向いたツールではありません(前回記事も参照してください)。
たとえば、学会出張の際にご当地みやげをフォロワーから募集するとか、『総合診療医ドクターG』(NHK)のテレビ放送に合わせてツイキャスで副音声実況を行うといった活動は、病理医のキャリアパスや医療情報といった「データ」というよりも、半ば私の「生活」のシェアになっています。
医師教育や健康情報に関する思いの丈をツイートすることも多かったですが、エビデンスそのものではなく私の解釈を述べているわけですから、これもやはり「データ」というよりは「思想」をシェアしていると言えるでしょう。
医師なのに「データ」以外のものをなぜ発信するのか? おそらくそれは、まじめで堅苦しい情報だけではなく、楽しい/ゆるい/時には考えさせられるコンテンツを提供したほうが、「ハブ空港」としてのTwitterの特性を引き出しやすかったからです。
ただし、「生活」や「思想」を公的空間に漏らすことにはリスクもあります。出張先の空港や駅などに突然フォロワーが現れて握手を求められたり、勤め先の病院に食品などを送ってくる人が現れたりしました。ファンが増えるからいいじゃん、という話だけではないのです。
医療情報という「データ」だけを伝えていれば、生活に踏み込まれる危険は低くなりますが、広報力は弱くなります。一方で、「生活」や「思想」を混ぜることでSNSの拡散力は飛躍的に上がりますが、ターゲットである医学生や研修医以外の人にも届いてしまいます。ここはジレンマです。
私は「生活」をシェアしてもインフルエンサーほどの効果は得られません(前回記事参照)。一部の炎上商法を生業とする方々のように「思想」で議論を巻き起こしたりすることも、できれば避けたいと考えました。病理医のリクルートという目的を達成するにあたり、「データ」と「生活」や「思想」のバランスをどうすべきか、毎日考えていました。そんな中、転機が訪れます。
Twitterで怒られながらもっとまじめに医業に向き合ってみた
2013~2014年頃、私はTwitterで2、3万人程度のフォロワーを有していましたが、少しずつ、同業者である医師から「ネット上でチヤホヤされて調子に乗っている若い病理医がいる」などと批難されるようになりました。
「市原真」の学術業績の大きさよりも、「病理医ヤンデル」という虚構のほうが大きくなってしまったということです。私は叱責にわかりやすくへこみ、このままではいけないと感じました。
そんな折、青年漫画誌『月刊アフタヌーン』(講談社)で、病理医を主人公とした『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見』(原作・草水敏/漫画・恵三朗)の連載が始まりました。
私はこれを好機と思い、「フラジャイルがあれば病理医とか病理診断を世に知らしめる役割は十分だから、私は病理のまじめな『データ』を広報するのをやめ、自分の『生活』だけつぶやくことにします」と宣言し、プロフィール欄から「病理広報アカウント」の文字を削除しました。
そして、「Twitterで怒られない程度の業績を身に付けよう!」という本末転倒なモチベーションで、学術活動に打ち込むようになりました。
折しも、2012年ごろから続けていた画像・病理対比の成果が認められ始め、全国の研究会や学会から講演に呼ばれるようになっていました。研究会で出会った内視鏡医と組んで超拡大内視鏡の対比に関する論文を書き、国際交流セッションに出て食道胃接合部に関するレビューを書くなどして、少しは業績を上げられるようになったかなと自信をつけると、すぐに「Twitter病理医が今さら研究のまねごとをやってんな」と揶揄されて、またへこみ、まだまだ足りない、もっとがんばろうと奮起して、臨床検査技師と一緒に細胞診の論文を書き大学の外科医と基礎論文を作り、海外からも講演で呼ばれるようになってさすがに多少は認められるかなと思った矢先、共著で医学書を出したら思った以上に売れて目立ってしまい、「SNSで売ったんだろ」と言われたのがまた悔しく、でも、実際ブログやツイキャスを見てくださった編集者のお声がけで看護業界や一般書の世界からも執筆の機会をいただいたことは事実であり、出版をきっかけにまた知名度が上がり、AI研究に声をかけられ......。
そのかたわら、Twitterでは広報とかリクルートとかをあまり言わずに、いち病理医として、出張報告や書籍を読んだ感想などをツイートし、前よりも発信を減らして受信を増やし、良い情報があれば拡散するように心がけました。よりコミュニケーションを重視するようになったとも言えます。
「病理広報アカウント」のような物珍しさがなくなったことで、フォロワーは減るだろうなと思ったのですが、なぜかそこから爆発的に増えてしまいました。狙ってやったわけではないです。
「何を言ったか」よりも「誰が言ったか」......よりも
私が辿ってきた道のりを自分なりに解析すると、私は、「データ」の拡散に向かないTwitterで、医師として拡散しても許される程度の「生活」と「思想」を適度に扱うことで、Twitterというプラットフォームの強みをたまたまうまく引き出せたのだと思います。
また、TwitterでのフローよりもBloggerなどのストックを先行させたスタイルが、自分の持つコンテンツの総量を増やすことになり、執筆の機会もいただけて、医学書や一般書の発行にもつながりました。SNSで私を知ってくださった方々との共同研究もいくつか行っています。
こうして振り返ると、SNSって意外とキャリアの形成にも役立つんだな、と実感します(これが目的だったわけではないのですが)。
かつ、自分のキャリアが上がるほど、逆にSNSでの活動のインパクトも増します。これは「何を言ったかよりも、誰が言ったかのほうが大事だ」という話と通じるところがあります。SNS外での業績が、SNSでの爆発力にも影響することは確実です。
ただし、SNSでは「誰が言ったか」よりももっと大事なことがあると思います。
それは、「誰との関係性の中で言ったか」です。
自分が単に偉くなればいいというものではないのです。相手と自分の間、コミュニケーションの中から立ち上がってくるものにこそ、多くの人びとが「それ、私も見たい」と思ってくれるような魅力が宿ります。
SNSは発信や受信のツールと考えられていますが、それ以上にコミュニケーションのツールです。誰かが何かを発信したら受け取る人がいて、やりとりが生じればそこには場が生まれます。その場というか「間」の部分で、情報は色味を深めていきます。
つまり「病理医ヤンデル」というアカウントに魅力があったから情報が広まった、というわけではないのです。病理医ヤンデルとフォロイー・フォロワーとの間で、お互いに持ち寄った情報が新たなコンテンツへと変化していくさまを見た人びとが、「あの界隈をときどき見に行こう、そしたらきっと楽しいことが起こる」と感じてくれることのほうがずっと大事なのだと思います。
◆◆◆
私の場合はこうでした。あなたの場合はいがかでしょうか。きっと、私とは違った相手と、異なる関係性の中で、新たな何かを産み出せるはずです。
あ、それと、「SNSばっかりやっているだめな医者」という叱責は、一回浴びる価値があります。悔しくて、がんばらなきゃなーと思って、結果的に、たくさんの人とのつながりを得て、キャリアアップにつながるかもしれません。
ここまで全6回にわたり、医療現場のコミュニケーションをめぐって、現場やネット上でのあれこれをお話ししました。皆さんの忙しい毎日の中で、少しでも参考になることがあれば幸いです。
- 第1回
- 第2回
- vol.1:
すれ違いはなぜ起きる?
- vol.2:
- 第3回
- 第4回
- 第5回
- vol.1:
医療用文書 ~カルテを用いてコミュニケーションする相手は誰だ?~
- vol.2:
- vol.3:
- 第6回
- vol.1:
- vol.2:
- vol.3:
執筆者:市原 真
1978年生まれ。2003年北海道大学医学部卒。国立がんセンター中央病院研修後、札幌厚生病院病理診断科(現・主任部長)。博士(医学)。病理専門医、細胞診専門医、臨床検査管理医。日本病理学会社会への情報発信委員会委員、日本デジタルパソロジー研究会広報委員長、日本超音波医学会広報委員・教育委員。病理学・消化器内科学・超音波医学・看護学などの著書多数。一般書も多く手がける。
▶Threads|@dr_yandel
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