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いまを生きる医師に必要な、医師同士・他職種とのコミュニケーションについてお送りする連載企画。今日は、前田陽平先生によるご執筆の最終回です。
執筆者:前田 陽平
後進指導に必要なコミュニケーションについて原稿を書くことになりました。私もそれほどたくさんのことを習得しているわけではないですが、少し考えてみたいと思います。
私と同様、後進との接し方に悩む先生は多いかもしれません。そもそも、これに悩むのは真面目な方で、こんな記事を読んでみようと考えるのも「良い先輩でありたい」という思いの表れではないでしょうか (本来こういう記事が届いてほしい方には、なかなか届かないものです...)。
ちなみに、ここでは主に後進=専攻医(後期研修医)を念頭に置いてお話しします。初期研修医時代は医師としてそこまで責任を負わない立場ですが、専攻医は業務とともに医師の責任を大いに学んでいく時期です。
後進指導の難しさとは
後進指導の難しさの理由は、いくつかあります。学年や年齢が徐々に離れてしまうこと、以前と比べて若手医師の働き方が変わってきていること、働き方だけでなく価値観も変わってきていることなどです。
ほかにも、後進の中で成長の早い人とそうでない人がいることや、やる気のある人・ない人がいることなど、さまざまな医師に対してどういう指導が正しいのか、誰にとっても難しいテーマだと思います。
どの程度まで面倒を見なければいけないのか、あるいはどの程度本人に任せるのが良いのか...。明確な正解はなかなかないですが、以下で一緒に考えていきましょう。
価値観を尊重した上で、仕事は適切にやってもらう
後進指導を難しいと感じる要因の一つは、年代がどんどん開いてくることです。1つや2つ下の学年なら、彼らの価値観がなんとなくわかりますが、学年が離れてくると価値観自体が変わっています。
たとえば、私たちが若いころ、後期研修医は「仕事が第一」という考え方が普通でしたが、近年はいわゆる優等生タイプの後期研修医(専攻医)であっても、仕事は仕事、プライベートはプライベートと割り切り、どちらが大事というより「どちらも充実させたい」と考える人が多くなっています。仕事に傾倒し週末も病院にいるという人もいますが、そうでなくてはいけないとは考えないようにしています。
当直明けに帰ることができるなんて、私が若いころには考えられませんでしたが、今はむしろ帰ることが当たり前の時代になってきていますし、そうあるべきだとも思います。いわゆる「医師の働き方改革」で、この流れはさらに加速するでしょう。
このような、新しい価値観に出会ったときに、「相手に変わってもらいたい」と考えてしまうことがありますが、それは正しいとは言えません。仮に仕事に対する価値観が違っても、「相手の価値観を尊重しつつ、仕事は適切にやってもらう」と考えることが大切だと思います。仕事に対する相手の価値観を変えるのではなく、「仕事としてこれはやってもらう必要がある」ということをわかってもらうのです。
学年問わず、業務内容や量を"見える化"する
もう一つ大事なこととして、「先輩が働く」という状況を見せないと、後進はなかなか頑張って働いてはくれません。昔は先輩が楽そうに見えて、後輩の自分が頑張っていたのに...と思うかもしれませんが、こればかりは時代の変化もあり仕方ありません。
指導する側も、肩書きが立派になるに従い、会議や委員会といった臨床以外の仕事も増えてきます。臨床のエフォートを減らさない限り、自分の仕事が多くなってしまいます。私は一つの工夫として「Googleカレンダー」を活用しています。学会や休みの予定などを入力し共有するのですが、そこに委員会などの臨床以外の仕事も書くことで、自分自身が忘れないようにするだけでなく、そういう仕事も誰かがやっているということを"見える化"するのです。こっそり仕事をするより、誰がどれぐらい仕事をしているのかわかる方が、チームで仕事を回していく上で良いと考えています。
これには、別の課題である「時間外労働」への対応もあります。時間外労働についても、チーム内で明確に"見える化"しておく方が良いでしょう。病棟患者さんのファーストコールは主治医なのか当番なのか、時間外受診の患者さんのファーストコールは誰が受けるのか。「自分が若いころは365日ファーストコールだったから、一番下の医師が当然受けるべき」とは決して考えないことが大切です。「自分だったら」とか「自分の時代は」という発想自体、今すぐごみ箱に捨てましょう。
指導医側が自分の行動にフォーカスする
やる気や成長速度が異なる後進たちには、どう対処するのが良いでしょうか。
繰り返しになりますが、後進指導の前提として「自分ならこうするのに...」という考えを持たないことが重要になります。考えるべきは「その後進に自分はどのように接するべきか、上司・先輩として今何を話すのが適切か」です。そうすることでコントロールが難しい「後進の行動」ではなく、コントロールできる「自分の行動」にフォーカスできるので、感じるストレスもすごく減ります。指導上は後進の行動をより良くすることが重要ですが、相手にフォーカスすると疲弊してしまうので、考え方を変えるのが良いでしょう。
後進の「やる気」への対応
私は専攻医の「やる気のばらつき」は性善説(当然やる気はあるだろうが表に出す人と出さない人がいる)で考えています。
実際のところ、まったくやる気がない、あるいは最低限の自己研鑽もしないような専攻医は非常にまれだと思います。皆それぞれ希望してその診療科を選んでいるので、その科の研修に興味を持って臨んでいると思いますし、日々の外来や病棟診療でわからないことを減らしていきたいと考えている医師が大半です。
そのように後進を見ることで、指導医側のモチベーションも高く保てるかと思います。
後進の「成長速度」への対応
一を聞いて十を知るような優秀な専攻医も、ゆっくりと成長していく専攻医もいますが、結論としてはそれぞれのペースで、でも真面目に学んでもらうことを期待するしかありません。
ただ、仕事の割り振りであまりに差をつけてしまうと、優秀な専攻医に仕事が集中することで不満につながったり、逆に仕事が少ない専攻医が臨床経験を積めないという不満につながったりするので、おおよそ公平になるように仕事を割り振ることが重要ではないかと思います。
私自身は、処置でも手術でも、できるだけ手取り足取り指導しようと考えるタイプです。カンファなどでは積極的に専攻医に質問して答えてもらうようにしていますし、処置も手術もできるだけ細かいコツまで教えようと心がけています。「見て学べ」は、(脱落者を作って症例を集中させることができるので)大勢の中から1人か2人のスーパースターを作るには良いシステムだと思いますが、私の好みではありません。自分が身に付けている処置や手術を教えられないのは、指導者側の言語化能力に問題があると考えています。自分にとっては簡単な操作が後輩にはすごく難しそうだけれどその理由がわからない、というのは外科系の医師なら誰でも経験することかと思いますが、そこには自分ではわかっていないコツのようなものがあるということですから、指導医であるならばその点に気付くことが大切だと思います。
耳鼻咽喉科の場合は内科的な側面もあり、その指導でも難しいと感じることが日々あります。たとえば、一つの症候にどのような鑑別疾患があって、どのように鑑別していくか、などです。これも、カンファで積極的に質問し答えてもらったり、資料をまとめてもらったりなど、自分で勉強してもらうことへの期待が大きくなります。自己研鑽を促す方法(多くは研修医の段階で多少習得していますが)を教えることも、指導医の大事な仕事ではないかと思いますし、学会発表を経験させることで内科的側面の成長は感じやすいと思います。学会発表は積極的に指導するのが良いのではないでしょうか。
最後に
私自身も日々悩みながら後進を指導しており、日ごろ意識していることについて、この記事を通して自分でも整理することができた気がします。後輩からの不満をゼロにすることはどうしても難しいでしょうし、後輩にまったく不満を持たれないような先輩は逆に良くないのではないかとも思います。それは仕事上で何のプレッシャーもかけずに良い先輩-後輩関係が築かれることはまれだからです。ただ、矛盾するようですが、あまり嫌われると相談をしてもらえなくなりますし、大きな問題につながる可能性もありますから、普段からコミュニケーションをしっかりと取り、後進が相談しやすいオーラを出しておくことが当然大切だと思います。何事もバランスが大事ということでしょうか。
なお、この記事は指導医側に向けて書いた記事ですが、研修医や専攻医などの指導される側の先生も「やる気を見せる」ことと「最低限の自己研鑽はする」ことが必要だと考えています。指導医は(多くの場合)指導に対して報酬を得ているわけではありません。後進を育てようという高い志や、自分たちより雑務の多い若い先生方への善意で教えてくれています。指導される側の先生からも、指導医とのコミュニケーションを大切にしてほしいと思います。
◆◆◆
ここまで5回続けてコミュニケーションについて記事を書かせていただきました。これらの記事で皆さまに私がつかんできたコツや普段考えていることを共有できたらうれしく思います。私もコミュニケーションには悩んでばかりですが、少しでも良いコミュニケーションが取れるように努力していきたいと思います。
- 第1回
- 第2回
- vol.1:
すれ違いはなぜ起きる?
- vol.2:
- 第3回
- 第4回
- 第5回
- vol.1:
医療用文書 ~カルテを用いてコミュニケーションする相手は誰だ?~
- vol.2:
- vol.3:
- 第6回
- vol.1:
- vol.2:
- vol.3:
執筆者:前田 陽平
日本耳鼻咽喉科学会認定専門医・指導医。日本アレルギー学会認定専門医・指導医。日本鼻科学会認定鼻科手術暫定指導医。医学博士。大阪大学医学部卒業後、市中病院で研鑽を積み専門医を取得。大学院を経て、大阪大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科で助教として勤務、2022年4月からJCHO大阪病院耳鼻咽喉科部長に就任。専門は副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、鼻腔腫瘍、鼻副鼻腔・眼窩・頭蓋底疾患に対する経鼻内視鏡手術など。X(旧Twitter)では耳鼻咽喉科領域の医療情報などを発信し、Yahoo!オーサーとして記事を記載するなど、メディアや雑誌などでも多数活躍している。
▶X(旧Twitter)|@ent_univ_
▶Yahoo!|耳鼻咽喉科医 前田陽平の耳寄りな話
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