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デジタル技術の革新やコロナ禍を経て、コミュニケーションそのものも多様化しているいま、医師同士・他職種とのコミュニケーションについて、2名の現役医師にレクチャーいただく連載企画をお届けしています。
「Dr.ヤンデル」としても知られる市原真先生には、2つのテーマで6回にわたり執筆いただいております。今日は「医療現場でSNSやチャットツールは使えるか」(全3回)の1回目です。
執筆者:市原 真
みなさんこんにちは。市原です。今回からは「医療現場でSNSやチャットツールは使えるか」という挑戦的なテーマをお送りします。
世の中を見渡すと、人びとのコミュニケーションの在りようは、SNS登場以前と以後でかなり変わりました。
では、医療業界においてはどうでしょうか? 他職種に比べるとSNSの業務への導入は遅いですよね。今後、若い人を中心にどんどん広がっていくかというと、おそらくそうもいかないでしょう。「SNSと医業って相性が悪いな」と感じることも多々あります。
では、SNSやチャットツールは医師のキャリア支援には使えないのでしょうか。
本稿では、医療業界でも一、二を争うほどSNSを使いこなしている(と見られがちな)私が、代表的なSNS・チャットツールの使い勝手を検討します。湧き上がってくる「違和感」についても忖度せずにお話しします。
例1:Facebook
うっとうしい(※個人の感想です)投稿が多い「Facebook」。すぐ幼児が歩いたりワインのラベルが大写しになったり、空港を背景にサングラスの家族が勢揃いしていたりします。当直中にスマホをぶん投げたくなりますね。そうでもないですか。
しかし、医療業界ではけっこう古くから活用されています。たとえば研究会の案内を、メールではなく「Facebook Messenger」で行うケースをちらほら見ます。「医局を出たらメールアドレスが使えなくなった」という医師あるある問題を解決するためには、Facebookでの連絡網作成が有効です。
Facebookでは、名前と顔が本人のものであれば、転職しようが留学しようが退職して開業しようが連絡先はずっと変わりません。ある意味"マイナンバーSNS"みたいなものです。
一方、問題は「通知」の不確かさです。スマホによってはFacebook Messengerの通知が届いたり届かなかったりしますよね。「私のiPhoneは大丈夫だよ!」でも、誰かのAndroidに届かないのでしたら安定した連絡ツールとしては不安が残ります。
それでもFacebookはやっておいたほうがいいです。投稿数なんてゼロでかまいません。あなたとコラボを望んだ誰かがメッセージを送りたくなったときに備えて、本名+顔写真(+できれば職場名)を登録しておきましょう。ホームフィードは「友人以外非公開」で構いません。
「えっ、ID情報を世間に公開するの?」と躊躇される方もいらっしゃいますよね。でも、医師はそもそも、職場や大学、PubMedなどを検索すれば、たいていどこかで名前が見つかる業種ですので、むしろ自分で把握できる場所に公開可能な範囲の情報を置いてコントロールしたほうがいいと思います。あなたを学会で見かけて興味を持った未来のコラボ相手が、あなたをすぐに見つけられるようにしておくメリットは大きいです。
カッコつけて英語名だけで登録するのではなく、漢字のフルネームで登録しておいたほうがいいです。英語名は同姓同名がわりと多いので、なかなか本人にたどり着けなくて苦労します。職場名を入れるのも、同姓同名の他人と間違えられないためのコツです。
あなたの名前を検索しても職場のホームページしか出てこないという状態は、コミュニケーションの機会を失い、キャリアの可能性を気付かないうちに狭めてしまっています。Facebookはぜひ登録しましょう。
例2:Instagram
「Instagram」は、医業には向いていません。ダイレクトメッセージ(DM)の検索機能がイマイチなので過去のやりとりを探すのに苦労しますし、グループ連絡にも使いづらく、PCとの連動も面倒です(逆に言えば、こういったところをすべてクリアできるのがFacebookです)。Instagramには学会で訪れた場所の景色や打ち上げの写真などを載せて、内輪でワチャワチャ楽しく使う、みたいなやり方が一番マッチします。
ちなみにInstagram、Facebookを運営しているメタ社が新しく始めた「Threads」というサービスも、やはり医業には使いづらいと思います......が、私は個人的にとても楽しく使っています。おすすめされる投稿の精度がわりと良く、初期のTwitterを思わせる牧歌的な風景が広がっています。息抜きにどうぞ。
例3:Slack
「Slack」はチャットツールとしてかなり優れています。たとえば、医師複数人で論文を読む「抄読会」で、論文ごとに別のスレッドを立てる、といった使い方が強力です。
ただし、ユーザーインターフェース(UI)に慣れが必要で、チュートリアルもあまり親切でないこともあり、50代以上になると使いこなせる人の割合がガクッと落ちるのが難点です。せっかくネット上の勉強会にレジェンドをお招きしたのに「メールじゃだめですか?」と言われて幹事が心を折られる、みたいな残念なことが起こります。
ほかにも問題があります。有料版にしないとログの保存が利かない点はネックで、長時間使っていくうちに不便さが増します。メンバーを増やすのもちょっと面倒です。
ネットで検索すると「Slack最強」に思えるのですが、プログラマー業界ならいざ知らず、医療業界ではSlackを活用した勉強会などを主催しても企画倒れになりがちです。勉強会の回を重ねるごとに、「なんでSlackにしたんだっけ?」「Facebook Messengerをグループ使いすればいいのでは?」「メルマガで良かったじゃん」みたいに、参加者からの不満がじわじわ出てきます。
「俺たちは今、Slackを使って先進的な勉強会をしているんだ!」みたいに、シチュエーションの新しさに酔えない人には、あまりおすすめしません。
なお、SlackだけではなくFacebookにも「Chatwork」にも言えることですが、忙しい時に通知が来ると、つい通知の文面だけ読んでアプリを開かずに通知をスワイプして消去しがちです。ビジネスチャットツールは、基本デスクにいて通知が来たらすぐアプリを開ける環境にいる人に最適化されており、病棟や外来を忙しく動き回っているために通知後すぐにアプリを開けない医師には向いていないのかもしれません。
例4:Twitter(X)
「Twitter(X)を医業に活用している!」と豪語する人のほとんどは別に活用はできていなくて、商売などの理由で自分にそういうキャラ付けをしているだけです。決して使いやすくないです。とは言え、Twitter(X)のUIは抜群に良く、通知のブレもなく、DMの検索機能も優秀で、「Google Docs」などURLでシェア可能なファイルを用いれば、コミュニケーションツールとしてかなりイイセン行くとは思いますが、でも、それだけです。メールで全部やれることです。医師の登録者数でいうとTwitter(X)よりもFacebookの方がはるかに多いですし......。
それでもTwitter(X)に期待している人は多いです。たとえば、学会の演題をハッシュタグ付きで投稿して世界中でシェアする試みは、海外の学会では頻繁に行われています。
でも、日本では実績のあるベテランたちがほとんどTwitter(X)アカウントを持っていないので、海外のようには機能しません。若い人たちを中心に学会を盛り上げようという機運は年々高まっていますが、医師たちは基本的に「若い人たちの努力」を見たいのではなく、「すごい先輩たちのすごい発表」を見たいので、発信と受信のニーズが噛み合っていないと言えます。
◆◆◆
以上、最近のSNS・チャットツールは、一般的な医業の手助けにはなりにくいものがほとんどです。今回の記事を読んで「医業にSNSを活用しよう!」と思われる方はほとんどいないのではないでしょうか? 「LINE WORKS」などをスタッフ同士の連絡に使うのが関の山です。
それでも私は、SNSには私たち医師のキャリアを豊かにする何かがあるのではないか、と思っています。次回、「中級編」に続きます。
- 第1回
- 第2回
- vol.1:
すれ違いはなぜ起きる?
- vol.2:
- 第3回
- 第4回
- 第5回
- vol.1:
医療用文書 ~カルテを用いてコミュニケーションする相手は誰だ?~
- vol.2:
- vol.3:
- 第6回
- vol.1:
- vol.2:
- vol.3:
執筆者:市原 真
1978年生まれ。2003年北海道大学医学部卒。国立がんセンター中央病院研修後、札幌厚生病院病理診断科(現・主任部長)。博士(医学)。病理専門医、細胞診専門医、臨床検査管理医。日本病理学会社会への情報発信委員会委員、日本デジタルパソロジー研究会広報委員長、日本超音波医学会広報委員・教育委員。病理学・消化器内科学・超音波医学・看護学などの著書多数。一般書も多く手がける。
▶Threads|@dr_yandel
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▶SNS医療のカタチ 公式BLOG(#SNS医療のカタチTV)
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