【医師の業務スキルに直結するコミュニケーション】vol.2 電話・カンファレンス ~相手との間に何かを立ち上がらせろ~

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スキルアップ

公開日:2023.07.24

多職種連携時代の医師コミュニケーション術

【医師の業務スキルに直結するコミュニケーション】vol.2 電話・カンファレンス ~相手との間に何かを立ち上がらせろ~

【医師の業務スキルに直結するコミュニケーション】vol.2 電話・カンファレンス ~相手との間に何かを立ち上がらせろ~

いまを生きる医師に必要な、医師同士・他職種とのコミュニケーションについてお送りする連載企画。今日は、市原真先生による「医師の業務スキルに直結するコミュニケーション」(全3回)の2回目です。

他者とのコミュニケーションのアウトカムは?

みなさんこんにちは。市原でございます。「業務スキルに直結するコミュニケーション」の2回目は、「医療スタッフ同士の電話・院内カンファレンス」を取り上げます。

多くの医師は、口頭でコミュニケーションを取る訓練が足りていません。加えて、成功評価基準が微妙に歪んでいることがコミュニケーションの障壁になっています

たとえば、研修医が救急外来から指導医に電話して、ファーストタッチの患者に関する情報を伝えたとします。そこで指導医が「なんかよくわからんけどヤバそうだから今から行くわ」と答えたと想像してください。研修医の立場としては、無事自宅にいる指導医を呼び出せたので、それで十分、でしょうか? 「俺が電話するとどんな指導医でもすぐ来てくれるんだぜ!」と胸を張れますでしょうか?

それではあまりに目標が低いのではないかと思います。

研修医の間は「指導医を呼べた、良かった」程度のコミュニケーションでも許されるかもしれません。しかし、自分が上級医になり、さらに指導医になっていく過程で、いつまでも「自分の守備範囲で知り得たことはここまでですので、あとはよろしくお願いします」と一方的に知識を渡すだけのコミュニケーションを取っていたら、それはさすがに医業が稚拙であると言わざるを得ません。

自分と相手の「間」に、なんらかの共通認識が立ち上がってくるのがコミュニケーション本来の成果であり、達成すべきアウトカムです。自分が何かを乗り越えたかどうかという狭い基準でコミュニケーションの成否を語ってはダメです。

脳内の言語化で満足するな、脳外を言語化せよ

前回、医療用文書を用いた「自分とのコミュニケーション」で、自分の脳の中にあるものと、自分が言語化した文章とをコミュニケーションさせることの重要性をお話ししました。

しかし、他者とのコミュニケーションにおいては、自分の脳内にある風景だけを伝えればOKというわけではありません。臨床では、自分の脳の内部ではなく外部にあるもの、つまり複数の医療者たちが視線を集めた先にあるものを、共同で言語化する必要があります。「私からはこう見える、あなたからはどう見える?」を擦り合わせることこそがコミュニケーションの本質です。

先ほどの例でいうと、研修医の電話を受けた指導医が、「なるほどヤバそうだから今から見に行く」と言い、「たしかに研修医の言うとおりヤバい患者だ、しかしほかにもヤバさがありそうだ」と感じて診療を進め、最終的にそれを研修医にフィードバックするまでがコミュニケーションだ、ということです。電話で呼び出したら指導医が来てくれて良かったな~、で満足しないでください。

口頭コミュニケーションに必要な「筋肉」をどう鍛えるか?

「口頭コミュニケーション用の筋肉」は、交流経験によって鍛えられます。とりわけ「聞く回数」が重要です。

自分と違う立場の医師、たとえばあなたが研修医ならば指導医、内科医ならば外科医、放射線科医ならば病理医が、あるひとりの患者を診て何を言っているのかをきちんと聞きましょう。コミュニケーションができない医者は、全員、とにかく人の話を聞いていません。自分、自分、自分のことだけです。

違う視座から臨床を眺めている専門家の言葉を吸収する訓練をしましょう。「同じ現象を違う角度から眺めることで生じる差異」を理解できるようになれば、コミュニケーションがぐっとレベルアップします

主観と客観を意識して切り分けよう

さらに細かいコミュニケーション・ハック法をひとつお話しします。話の中に入り混じる「客観」と「主観」を切り分けましょう

たとえばカンファレンスでは、ほかの医師のプレゼンを聞きながら「事実の説明」と「解釈」とをきちんと分けて整理します。そして、主に「解釈」の部分から、さまざまなことを感じ取れるように意識を集中します。

いつもならUFT内服させるのにこの外科医がそうしなかったのは、病理学的なステージだけが処方の判断基準なのではなく、ベッドサイドで何か患者の状態に引っかかりを感じたからかな?でも、その主観的な引っかかりについてはまだ語られていないな。あとで聞いておこう。

普通であればいったん患者を退院させて、次の外来で追加検査を行う流れで、あえて今回入院を長引かせている理由として、主治医はCRPが持続的に高いからと言っている。でもデータだけでは説明がつかないな。あるいは患者と実際に顔を合わせた人でなければわからない、主観的な重症感があるのかな?

このように、「今の発言の論拠はこの医師の経験に基づく解釈なのだな」という判別ができるようになると、「ほかの医師が語る臨床」を聞く力が高まります。

患者の病像は、客観だけで構成されるわけではありません。適度な量の主観が加わることで、臨床に豊かなテクスチャが与えられます。しかし、世の中には客観と主観をうまく区別して話せない人がいます。これは基礎学力とか経験とかとはあまり関係がなく、気にしたことがあるかどうか、訓練したことがあるかどうかによりますので、医師にも苦手な人がたくさんいます。そういう人がコミュニケーションに参加すると、「間」に立ち上がってくるはずの共通認識が歪みます。「申し送りを受けた患者の様子が自分の思ってたのと少し違う」という状況がしばしば起こり得るのです。

そこで、人の話を聞くときに、客観と主観を整理するクセを付けましょう。さらに、自分が話すにあたっては、以下のような順序を意識します。

挨拶

客観的事実の伝達

自分の解釈(主観)の伝達

これはかなり厳しめに運用する原則と考えていただいてよいかと思います。たとえば、私(病理医)が臨床医に電話をするときは、だいたいこういう話し方をします。

お疲れ様です、病理の市原です。〇〇さんの件についてお話ししてよいですか?ありがとうございます(ここまで挨拶)。Aという細胞所見がみられます(事実)。Bという病態ではないかと考えます(解釈)。ただし、依頼書に鑑別診断としてBが記載されていなかったので(事実)、ご意見をいただきたくお電話しました(解釈を訊ねる)。

このように、脳内で(事実)(解釈)という札を分けて掲げます

一方で、あまり臨床医と会話する気がない病理医は、たとえばこのような話し方をします。

Bという病態かなーと思ってる患者がいるんですけど(解釈)、あ、Aという細胞所見があってですね(事実)、これがあると基本的にBであると書いてある論文があって(事実)、でもまあその論文だけで決められる話ではないんですけれどね(解釈)、なので先生のほうでBでも良いかという話を聞きたかったんですけれど(解釈を訊ねる)、画像でどうでしたか?(事実を訊ねている?)

これをやられると、電話の相手はしばし沈黙せざるを得ません。事実と解釈をランダムに混ぜてしまった結果、「結局どの情報が確定していてどの情報が未確定なのかがわかりづらい」という混乱が生じているからです。

世間一般の「話し上手」に対する評価は、語彙のおもしろさやイントネーションの気持ちよさ、リアクションの当意即妙さなどで与えられます。しかし、医業におけるカンファレンスや電話は、自己アピールのための場ではありません。①相手と自分の間に何かを立ち上げる、②客観(事実)と主観(解釈)を話すときも聞くときも意識して分ける、ということを目標に、業務を上手に進めましょう。

◆◆◆

次回は、研究精神とコミュニケーションについてお話しします。

市原 真

執筆者:市原 真

1978年生まれ。2003年北海道大学医学部卒。国立がんセンター中央病院研修後、札幌厚生病院病理診断科(現・主任部長)。博士(医学)。病理専門医、細胞診専門医、臨床検査管理医。日本病理学会社会への情報発信委員会委員、日本デジタルパソロジー研究会広報委員長、日本超音波医学会広報委員・教育委員。病理学・消化器内科学・超音波医学・看護学などの著書多数。一般書も多く手がける。


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