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結婚、妊娠、出産とライフステージが変わるごとにキャリアプランについても変化が生じることが多い女性医師。自分らしい働き方とライフプランの両立に悩む方々に向けて、小児スリープコンサルタントでありChild Health laboratory代表の森田麻里子医師に、「私らしい働き方」をどのように選ばれたのか、そのユニークな視点やキャリアに関する考え方を教えていただきました。
小児科コースだった研修医の私が、麻酔科を選んだ理由
大学在学中は、医師としてどのようなキャリアプランを考えていらっしゃいましたか?
最初の頃は、「普通の医師になりたい」と思っていました。医師の仕事に対して臨床というイメージをずっと持っていたので、「研究をやりたい」という同期が多い中、私は臨床以外の事は考えていませんでした。
大学3年生の時に、医療メディアに関する研究室に入って、病院主催の勉強会の受付や教授のかばん持ちなど勉強以外のことを経験する機会があったのですが、とても面白かったのです。「社会ってこういうものなんだ...」と。臨床するだけが医療じゃないということにも気づきました。
もともと自分に対して医師として王道で勝負するというイメージはなくて、ニッチな分野の方が合っていると思っていたのです。なので、自分の強みを活かすには「臨床医として王道を極める」のではなく、医療を通じて経済や社会に関わるような仕事につきたいなと、漠然とですが興味を持ちました。
研修医になられた後、医療の現場を体験してみて、気持ちの変化はありましたか?
そうですね。初期研修の頃は、とにかく自分のスキルと知識がどんどんついてくることがすごく楽しくて、正直、臨床以外のことをやろうという考えはどこかに飛んでしまっていました(笑)。
森田先生は大学卒業と同時に結婚されたと伺いましたが、「研修医の時に出産して子育てをしよう」といったライフプランなどは考えられていたのでしょうか?
初期研修の時は考えていませんでしたが、後期研修になって「研修先をどうしようか」という時に、将来の生活を考えるようになりました。その結果子どもを育てながら働き続けられる自分の姿をイメージしつつ選んだのが、麻酔科です。後期研修が終わって医師としての成長スピードがある程度フラットになったのを感じて「今度は自分の家庭をもっと充実させたいな」と、具体的にライフプランを考えるようになりました。
麻酔科を選ばれたのは、「子育てと仕事を両立させよう」というライフプランをベースに考えられたからでしょうか?
はい。麻酔科を選んだのはライフプランありきです。麻酔科医は主治医ではないので、当番でなければ急患で夜に呼ばれることはほぼありませんし、麻酔の途中で担当を交代することもできます。
あと、医師としての成長が早いと思いました。例えば、外科医だと10年やってようやく一人前になるかならないか...という感じだと思うのですが、麻酔科医の場合はもう少し早い段階で循環管理や呼吸管理などある程度のことができるようになります。そういった事もあり、子育てしながらでも戦力として働きやすいのではないかと思いました。
麻酔科を選ぶ時、「麻酔科もいいけれど、研修でこの科が楽しかったのでもっと勉強したい」といった迷いはありましたか? それともストレートに「麻酔科しかない!」という思いだったのでしょうか?
私はもともと小児科コースで初期研修を行っていました。なので、気持ち的には小児科に進みたいと思っていたのですが、病気のお子さんを診るという責任の重さを非常に強く感じ「子育てしながら本当に仕事を両立できるのだろうか」という迷いが出てきました。一方で麻酔科に来られる患者さんは手術ができるほど体力のある方がほとんどのため、必要以上に精神的負荷を感じることなく、医師として自信を持って臨床に取り組めると思えたのです。
なるほど。麻酔科をお選びになったのは、それだけ先生の中でライフプランをしっかりと描かれていたからこそなのでしょうね。
それもありますね。ただ、振り返ってみると麻酔科・小児科のどちらを選んでも良かったのだと思います。例えば、麻酔科は成長が早いのが良い所ですが、その分「もっと成長したい、別のことも学んでみたい」という気持ちになってしまうという事がありました。
なるほど。麻酔科を選んだとしても、新たに挑戦することはあるということですね。
はい。自分の興味を主軸に小児科を選択したとしたら、学ぶことや大きな責任とやりがいを感じながら働けたでしょうし、きっとそれを続けているうちに「大変だけど、出産や子育てと並行して医師を続けていこう」という気持ちになったと思います。一人ひとりその人なりの選択があり、「選んだ道を正解にする方法は必ずある」と考えることが大事ですね。必ずしもワークライフバランスばかりを考えて選ばなくていいと思います。
先生は、出産後育休を経て復職されましたが、かなりスムーズに復職できたそうですね。
はい。上司が「フル出勤しなくて大丈夫だよ」と言ってくださって、そのお言葉にすっかり甘えてしまいました(笑)。
理解のある上司で良かったですね。
はい。実はその上司の先生を見つけたのは私なのです。
ご自身で上司の先生を?
ええ。本当は、もともといらした麻酔科の先生が私の上司になるはずでした。でも、その先生は私が入る前に急に辞めてしまわれたのです。指導医がおらず研修医だけだとその病院の麻酔科には入れなくなってしまうので、上司の先生探しを始めて。知り合いの先生づてに話が進んで、その病院に来ていただけることになったのが、今の上司でした。
勤務が始まる前に一度お会いして、その時私は妊娠していなかったのですが、「子育てがしたい」ということを最初に伝えました。その先生は育児と仕事を両立されてきた経験があって、「細く長くでもいいから、無理をしないでがんばって」とアドバイスをしてくれるような方だったので、安心して勤務することができました。上司になっていただいたおかげで、産休に入る時も復職する時もスムーズで、環境には恵まれていたと思います。
出産・育休を経て変わった、「私らしい働き方」という視点
麻酔科を選ばれた後、出産を経て育休に入るタイミングでいろいろと考えられたと思いますが、これから母・妻・医師としてどのようにキャリアと家庭生活を両立させていくか、プランの変化はありましたか。
1人目の産休中に何もしない時間が増えた時、暇を持て余してしまい「私は何かしていないとダメな性格だから、仕事は持っていたほうがいい」ということを痛感しました。
でも、復帰を考えた場合、フルタイムで復帰してしまうと仕事以外の時間は家事と育児に追われて、自分の時間がゼロになってしまいます。仕事をしながら子育てもして自分の時間を持てるようにバランスよくやっていきたいと考えた結果、働き方を変える必要があると思うようになりました。
それは、麻酔科医としての働き方を変えるということでしょうか?
それもありますが、ちょっと違います。麻酔科医として復帰した場合、子どもが小さい頃は当直やオンコールを免除してもらえたとします。でも、「私は果たして子どもが成長した時に、当直やオンコールをやりたいのだろうか」と考えた時に、違和感があったのです。
麻酔科医として日中にアルバイトやパートで働くこともできるのですが、それならば子育てしていることをプラスにできる仕事や、夜に勤務しないことがマイナスにならないような仕事を見つけることのほうが、より自分の人生を豊かにできるのではないかという気持ちが強くなりました。ここで、働き方を変えよう、臨床を離れようと考え始めたのです。
子どもが成長していった先のことも視野に入れることは、自分らしい働き方を考える上で大切な視点ですね。臨床を離れると決意したタイミングでいろいろな選択肢があったと思いますが、なぜ起業を考えたのでしょうか。
起業自体は学生時代から漠然と考えていましたが、結婚・出産のタイミングでそれを思い出したのがきっかけです。そして、自分自身が子どもの寝かしつけに困った時や妊娠中に何を食べれば良いかわからなくていろいろと調べている時に、「寝かしつけや子育てに関することが、起業のネタになるかもしれない」ということに気づきました。
妊娠~子育てで見つけた、医師×起業家という選択肢
森田先生は、女性医師が家庭と仕事を両立させるための選択として起業を選ばれましたが、産休・育休後に夜泣きや寝かしつけといった起業のネタを思いつかれて、そこからすぐ起業に向けて動かれたのでしょうか。
育休中に子どもの夜泣きに困っていろいろと勉強していたので、副業でもやっていける目途は立っていました。起業に向けて動いていたといえばそうですが、それから麻酔科医としても復帰していたので、どちらもできる状態でした。
先生は産後5か月ほどで麻酔科に復職されていますね。
はい。もともと上司の先生が「無理はしなくてもいいけどブランクがあると感覚を忘れてしまうだろから、できるだけ病院に来たほうがいい」と言ってくださったのもありますし、私自身も家で子どもと2人という状態が精神的に余裕を持てず限界に来ていたため、早く現場復帰したいと思っていました。
麻酔科にはパートタイムで復帰されたのでしょうか?
はい。朝1時間、夕方1時間の時短で、週3~4日勤務でした。
それは柔軟な復職の仕方で、かなり理想的な働き方ですね。
そうですね。時間的にゆとりができて、本当にありがたかったです。
復職されたのち、実際に起業家の道に方向転換されたきっかけは何だったのでしょうか?
復職してから次の年度をどうするか考えていた時、ちょうど夫が海外出張で3週間家を空けることになったのです。当時私は地方都市に住んでいて、ベビーシッターを気軽に呼べるほど環境が整っていたわけではありませんでした。周りに友達も親もいないですし、「こんな状態で3週間仕事と子育てをするのは無理だな」と思って。
なので、置かれた環境を考えた結果東京に移ろうと決めたのです。そして、この機会に東京で一度起業してみようと。
思い切った決断でしたね。
自分の価値を発揮できる仕事を考えた時に、起業がすごく近道に感じられたのです。
病院の臨床医や製薬会社の勤務医になった場合、自分が40歳ぐらいになった時のポジションや年収などの未来がすべて読めてしまったのです。そうした未来に対して、満足できない自分がいました。その点、起業は違う世界を見られますし、先がどうなるかが一番わからない点に魅力を感じましたね。
慎重すぎる方はなかなか起業を決断できないものですが、「一番先がわからないほうを選んだ」というのはとてもユニークな選択ですね。
出産してブランクはありますが、もし失敗してしまったら、また麻酔科で修行をしようと思っていました。
起業にチャレンジできたのは、医師免許を持っていて、選択肢があることも大きかったのでしょうか。
そうですね。医師免許を持っていることでチャレンジしやすかったと思います。医師はどこでも転職できるので、すごく働きやすいですよね。
子育てに理解がある上司の下で、子育てと両立できる可能性の高い麻酔科医の道を進まず起業を選ばれた、というのは森田先生らしいチャレンジでしたね。ですが、良い職場だったからこそ「辞めるとは言いにくいな」という気持ちはありませんでしたか?
職場を去ることには正直心苦しさを感じましたが、起業家になるという気持ちに迷いはありませんでした。なので、退職にあたって起業を選んだ理由をすべて上司の先生にお伝えしたのです。最後には理解してくださって、応援して送り出してくださいましたね。
森田先生の決意が本物であることが上司に伝わったのでしょうね。
その後、いよいよ起業家として一歩を踏み出されたわけですが、起業家としてモデルにされた方はおられましたか?
どちらかというと、私は自分の起業について、医師という肩書を持っていてもあくまで一個人が起業するというイメージを持っていました。ですから、医師ではない女性起業家をメインに情報の収集をしていましたね。当時は"キラキラ女性起業家ブーム"が終わりかけていましたが、ブログなどで情報発信していらっしゃる方がたくさんいて、その中で「このブログは面白い」と思った方をモデルにした部分はあります。
ブログをきっかけに起業家のコミュニティに入っていくと、自分の価値観とは全く違った「起業したい」という想いを持った女性にたくさん出会えて刺激的でした。その時期にたくさんビジネス書を読んで、起業人の思考回路も学びました。
ビジネス書で印象に残っている本はありますか?
ナポレオン・ヒルの『思考は現実化する』という本です。本書に書かれているような「主体的に生きるとは」「人とうまくコミュニケーションをとり、協力していくには」といったテーマについて、今まではほぼ考えたことがなかったため、とても勉強になりました。
妊娠・出産で悩む女性を医師として支えたい。自分らしい選択に必要なこと
現在は、起業家として日々どういった活動をされているのでしょうか。
企業と業務提携してコンサルタントを養成する仕事をメインに、時々ですが夜泣き対策などに関するアドバイザーもしています。それから、乳幼児の睡眠改善アプリ「Lullaby」などのアプリの監修や、製品紹介のテキストの制作をすることもあります。セミナー講師や、単発で記事の監修・取材業務もこなしていますね。
1週間あたりどのくらいの稼働なのでしょうか。
週5日で1日4~5時間くらいです。日中は人と会う予定を入れて、夜や土日の隙間時間に実務をするようにしています。
今後、森田先生がやっていきたいことをお聞かせください。
ママの悩みを解決していきたいです。
夜泣きの相談に乗っている中で疑問に感じるのは、悩みの根本的原因は夜泣きにあるのだろうか?ということ。夜泣きを解決しても、ママ自身の悩みが解決されるわけではないケースも多いのです。子育てママの悩みを解消するためには、テクニカルな部分だけではなく、マインド面の支援も必要だと思っています。
これまでキャリアをしっかり積み、お仕事で自分の思い通りにやってこられた方は特に、ご自身の完璧主義を捨てきれなかったり、子どもがいない時の自分と比べがちです。中には、お子さんもご本人も困っていないのに、本に書いてある通りにならないことに悩んでいらっしゃる方もいます。
そういった様子を見ていて、子育て中の女性自身が情報の取り入れ方や考え方などを自ら選び取れるようにすることも必要だと感じています。仕事を頑張りたいと思う方がそれぞれ良いバランスを見つけて、楽しく子育てや仕事ができるようサポートをしていきたいと思います。
今は子どもの睡眠をテーマにしていますが、大人の睡眠問題の解消にも取り組みたいと考えています。子どもの教育に関して情報交換できるコミュニティもあればいいと思いますね。
女性医師の中には出産・育児に悩まれている方もいらっしゃると思います。そうした方々への応援メッセージや問題解決のヒントがあれば、お聞かせください。
私も「出産で自分のキャリアが途切れてしまう/遅れてしまう」ということに対して出産前は恐怖心を持っていました。でも今は「キャリアが遅れてもいい」と思えるようになったのです。だって、子育てとの両立で仕事が100%できないのはほんの数年じゃないですか。
「後でやろう」と思っていれば、できるタイミングがちゃんとやって来るので、今できないからといって諦める必要はないと思います。どんな形でも思い続けること、一生懸命やり続けることが大切で、続けていれば自分の目標はきっと達成できるはずです。
多少ブランクがあっても、始めてみればできることはたくさんあります。出産・育児に悩まれている方は、無理をし過ぎず、長く続けていけるやり方を模索してみてほしいなと思います。
森田麻里子(もりた・まりこ)先生
医師・小児スリープコンサルタント。東京大学医学部医学科を卒業後、麻酔科医としてのキャリアを重ね、2017年に第一子を出産。長男の夜泣きが3日で即寝体質になった経験を元に、2018年、赤ちゃんの健康をサポートする「Child Health Laboratory」を設立。
現在は三児の母として子育てに奮闘しつつ、夜泣きに悩むママに寄り添うカウンセリングや育児支援者・医療従事者向け講座の開催など、起業家として活躍中。
『医者が教える赤ちゃん快眠メソッド』(ダイヤモンド社)、『東大医学部卒ママ医師が伝える科学的に正しい子育て』(光文社新書)、『子育てで眠れないあなたに』(KADOKAWA)などの著作も手掛ける。
▶森田麻里子先生オフィシャルサイト「Child Health Laboratory」
ドクタービジョン編集部
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