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2019年末から瞬く間に全世界へ広がっていった新型コロナウイルス感染症。日本も例外ではなく、未だ終息の気配は見えていません。医療の現場、国民の生活、経済などに深刻な影響を及ぼしています。
そんななか、内閣府からは「ウィズコロナ」や「ポストコロナ」といった新しい時代における「2020年度経済財政運営と改革の基本方針【通称・骨太方針2020(原案)】」が発表されました。医療分野も今後はさまざまな変化が生じると予想される今、国として医療分野にはどのような方針が提示されているのか詳しく解説します。
「骨太方針2020(原案)」とは?
骨太方針とは、政府経済財政諮問会議が財政運営の方向性を示すために作成する基本方針のことです。基本指針には、経済や財政面の方針だけでなく、医療・教育・地域社会・社会保障などよりよい社会の実現や成長に向けた各分野の戦略が示されています。
今回発表された「骨太方針2020(原案)」では、新型コロナウイルス感染症が蔓延するなかで、ポストコロナにおける新たな経済の維持・再生、医療体制の構築が大きなテーマとして掲げられています。今後は、感染対策をとりながら経済活動を進める「新たな日常」を実現することが求められますが、医療・介護システムについてはまだ多くの課題が残されています。
ポイントは新型コロナ禍での「医療提供体制等の強化」と「新たな日常」
骨太方針2020で戦略として掲げられる大きな2つの柱は、「医療提供体制の強化」と新型コロナウイルス感染症対策を徹底しつつも、経済をうまく回していくことができる「新たな日常」の整備です。
いずれの戦略も実現のためには医療が担うべき役割は多く、医療現場にもさまざまな改革が求められることでしょう。とくに、2つの柱を実現していくには、昨今問題となっている新型コロナウイルス感染症に対する検査能力の向上、適正な病床の整備と活用方法の確立、個人の医療データを一元的に管理できる「PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)」の活用などが重要な課題としてあげられています。
「医療提供体制等の強化」の内容とは?
では、骨太方針2020のポイントの1つである「医療提供体制等の強化」について具体的にどのような戦略が掲げられているのか詳しく見てみましょう。
検査体制の強化
現在、新型コロナウイルスに感染しているか調べるには咽頭拭い液や唾液を用いたPCR検査、抗原検査などが行われています。日本で感染者が増えはじめた2020年春頃から比べれば、各都道府県とも検査能力が格段に向上し、検査件数もどんどん増えています。とはいうものの、未だに症状があるにも関わらずキャパオーバーとして迅速な検査を受けることができない方も少なくありません。また、新型コロナウイルス感染症は無症状で経過するケースも多く、保健所が認定する濃厚接触者でなければ感染が心配される状況であっても通常は検査を受けることができません。
このような検査体制の脆弱性は感染拡大対策のうえでも大きな問題となります。国民が安心して新型コロナウイルスと共存する社会をつくるには、有症状者には迅速な検査を行う体制を確立し、無症状者に対する検査も範囲を広げることが望まれます。そのためには、行政だけでなく民間の検査機関も大いに活用し、検査場所・日時・方法などを柔軟に対応していく仕組みづくりが求められるところです。
情報収集・管理体制の集約・一元化
新型コロナウイルス感染症をはじめとする感染症のアウトブレイクを避けるには、公衆衛生的な対策を迅速かつ正確に行う必要があります。そのためには、地域の公衆衛生の維持を担う保健所の体制を強化。また、保健所で対応不可能な大規模感染症に対しては、国立感染症研究所など国レベルの組織が対応できる体制づくりの強化が求められます。
また、2020年6月には厚生労働省が主体となって開発した接触確認アプリ(COCOA)のサービスが開始され、ダウンロード数は1,200万件に達しています。今後もこのような時代に即した利便性の高い情報提供手段の開発が必要となるでしょう。
都道府県を越えた病床の確保、人材や医療機器の提供体制の整備
終息の気配は見えず、感染者が日に日に増えていく現状のなか、危惧されるのは病床の不足です。実際、首都圏などの流行地では、新型コロナウイルス感染症の専用病床の不足が深刻化しています。さらに、それに伴う一般病床の不足、手術などの治療が困難になるといった問題も目立ってきています。
このような状況を改善するには、一般病床も確保しつつ新型コロナウイルス感染症専門の病院や病棟を整備していくことが必要です。また、都道府県を越えて空床を利用できるようG-MISなどによる情報管理、人材募集状況などを一元的かつ即時的に把握できるシステムづくり、必要な医療資機材を確保できる体制の整備なども求められています。
ワクチン等の研究体制の構築
現在、世界中の研究機関では新型コロナウイルス感染症に対するワクチンや治療薬の開発が急ピッチで進められています。すでに治験もはじまっており、国内でも2021年春頃には本格的にワクチンの接種を開始できる見通しとなっています。国としては、ワクチンや治療薬の開発研究や国内生産体制をサポートするような対策が求められており、無事に開発されたあとには適正な分配をするための体制構築が必要です。
「新たな日常」の内容とは?
2020年9月現在、新型コロナウイルス感染症は日本を含めて世界中で感染が拡大しています。ワクチン開発などは進められていますが、終息の気配は見えていません。しかしながら、感染拡大を回避するために種々の経済活動をストップさせるには限界もあり、今後はどのように新型コロナウイルス感染症と共存していくかといった「ウィズコロナ」や「ポストコロナ」の生活を整えていくことにも目が向けられています。
そこで政府は、本来なら10年はかかるとされる医療を中心とした変革を一気に進めるべく、次のような方針を示しています。
医療のオンライン化
政府は、医療機関内での感染拡大を予防すべく2020年4月に初診を含めたテレビ電話や電話などによるオンライン診療・服薬指導を時限的に認める方針を発表しました。新型コロナウイルス感染症が流行している地域を中心に、オンライン診療を導入する医療機関も増えています。今後も導入する医療機関は増えると考えられており、感染拡大予防だけでなく医療格差是正などオンライン診療には様々なメリットもあるとされています。さらにオンライン診療を拡大させていくには、診察から薬剤の受け取りまでオンラインで完結する画一した仕組みの構築が望まれているところです。
医療・介護分野におけるデータ利活用の推進
「新たな日常」では感染症対策のためにPHRの拡充も含めたデータヘルス改革の推進も重要視されています。そのためには、医療・介護分野におけるデータの利活用やオンライン化の加速が目指され、2020年度には被保険者番号の個人単位化とオンライン資格確認導入のため「保健医療データプラットフォーム」の本格的な運用が開始されようとしています。その後も、薬剤情報、手術との情報もオンラインでのデータ管理が目指されているのが現状です。今後は、これらのデータを活用しうるAI医療機器の開発、医薬品等の開発の促進に向けた薬事規制の体制づくりが課題となります。
「新たな日常」に対応した予防・健康づくり、重症化予防の推進
新たな日常では国民の健康への関心が今以上に高まることが考えられます。また、感染症の重症化を予防し、健康寿命を延伸させるためにも生活習慣病などの発症や重症化予防に力を入れる必要があり、より一層の医師・歯科医師・薬剤師・看護師・介護士などによる多職種連携を目指すこととなるでしょう。
そのためには、より多くの人が受診できるような負担の少ない健診体制の構築、オンライン健康相談の活用などが必要です。また、国民自身が自分自身の健康に留意するきっかけともなる「セルフメディケーション」制度の推進や一般用医薬品(OTC医薬品)の普及なども課題となるでしょう。
課題は「ウィズコロナ」「ポストコロナ」への対策
2019年末から世界中に広がった新型コロナウイルス感染症は、政府が示す骨太方針にも大きな影響を与えました。2020年度の骨太方針では、「ウィズコロナ」や「ポストコロナ」の日常に向けて、医療分野にも様々な変革を目指すことが示されています。
ワクチン開発や適正な医療資源の分配など「医療提供体制の強化」、オンライン診療やデータヘルスの推進など「新たな日常」という大きな柱が示されましたが、いずれも迅速な実行が望まれているところです。
医療従事者は「ウィズコロナ」「ポストコロナ」に向けて新たな役割が生じることが予想されます。そのため、今後の医療動向には注目する必要があるでしょう。
ドクタービジョン編集部
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