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世を震撼させている新型コロナウイルスの終息が未だ見えない現在、世界中で新型コロナウイルスに対する様々な研究が進められています。テレビやインターネットなどで新型コロナウイルス関連の情報を目にする機会も多いでしょう。しかし、それらの情報の中には明らかに医学的な信ぴょう性に欠けたものが含まれているのも事実です。
そのような「デマ」に振り回され、適切でない買い占めや受診行動に走る方は思いのほか多いもの。そこで今回は、「デマ」に振り回される患者さまを診療する際に、医師としてどのように対応するのが望ましいのかを詳しく解説します。
執筆者:成田 亜希子
コロナ禍で注目を集めた「うがい薬発言」
新型コロナウイルスに関する誤った情報は決して少なくありません。そのなかでもとくに記憶に新しいのは、今年8月に大阪府知事の会見で注目された「うがい薬発言」ではないでしょうか。
府知事は、新型コロナウイルス感染症の軽症患者がポビドンヨードを含むうがい薬を用いてうがいをすると唾液からウイルスが検出されにくくなることが分かったため、「うがい薬でコロナに打ち勝てるのではないか」と発言。瞬く間にポビドンヨードは新型コロナウイルス感染症の予防や治療効果があると誤った情報が日本中を駆け巡りました。
その結果、全国の薬局やドラッグストアでは店頭からポビドンヨードを含むうがい液が消え、フリマアプリなどでは本来なら転売が禁止されている一般用医薬品であるにも関わらず、異常な高値で転売されるケースも多々見受けられるように...。また、医療機関でうがい薬の処方を希望する患者さまも増えたとのこと。しかし、この「うがい薬発言」に医学的な信ぴょう性はあったのでしょうか?詳しく見てみましょう。
「うがい薬発言」に医学的な立証はない!
府知事の「うがい薬発言」は、大阪はびきの医療センターで行われた研究に基づくものとされています。同医療機関では、大阪府内のホテルで宿泊療養している新型コロナウイルス感染症軽症者41名を対象に、「ポビドンヨード配合のうがい液を用いて1日4回うがいをする群」と「うがいをしない群」に分け、唾液PCRの陽性率の変化を調査しました。その結果、ポビドンヨードうがい液でうがいを行った群のPCR陽性率は調査開始4日目の時点で9.5%であり、うがいをしなかった群の陽性率は同時点で40%だったそうです。
この結果のみを見れば、確かにポビドンヨード配合のうがい薬は唾液PCR検査の陽性率を下げる可能性が考えられます。しかし、研究対象が41名だけでは医学的な統計を出すことは困難で、効果を立証することは到底できません。また、「水道水でうがいをする群」「他の成分を含むうがい液でうがいをする群」などとの比較もないため、果たしてうがい自体に効果があるのか、ポビドンヨード自体に効果があるのかも不明なところです。
今後、新型コロナウイルス感染症に対するポビドンヨードの効果に関してはさらなる研究が進められる予定ですが、効果の立証が難しい時期に「うがい薬でコロナに打ち勝てる」と発言するのは時期尚早であると言わざるを得ません。
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▼参考記事はコチラ
大阪府「大阪はびきの医療センターにおける新形コロナウイルスへの取組み」
さまざまな批判も噴出?...でもデマを信じる人もいる!
「うがい薬発言」を受け、大阪府知事がエビデンスの不足した情報を全国に発信したことに対し、医師や感染症専門家からは様々な批判の声が上がりました。
とくに、口腔内のケアを行うためにポビドンヨード配合のうがい薬を必要とする患者さまを多く抱える医療機関の医師や歯科医師は「入荷の見通しが立たない」ほどの混乱を招いた発言に嫌悪感を示すことも...。また、うがい薬を使用することで唾液中の新型コロナウイルスが減少する可能性を周知したことで、偽陰性が多発し感染拡大につながるのではとの懸念もあります。
「デマ」を信じ込む患者さま...医師としてどう向き合う?
医療情報に関するデマは、今回の「うがい薬発言」だけではなく、新型コロナウイルスに関連しないものにも生じるものです。デマを過信し、診療に支障をきたすような患者さまを診療する機会もあるでしょう。では、様々なデマを自身では見分けることの難しい患者さまに、医師はどのように向き合っていけばよいのでしょうか?
患者さまの信じるデマを単に否定しない!
「うがい薬発言」のように、「〇〇をするとがんが治る」「〇〇を飲めば長生きできる」といった医学情報の多くは医学的な見地から見れば極めて怪しいものばかりです。しかし、現実にはそのようなデマを信じ込んでしまう方は思いのほか多いのが実状。医学知識が少ない患者さまにとって、テレビやインターネットで流れる情報は絶対的に信頼できるものと考えられがちなのです。また、病気に対する恐怖心から藁をもすがる思いでデマを信じる患者さまもいるでしょう。医師であればまず信じないようなデマも、患者さまにとっては唯一の拠り所となっている場合もあります。
このような患者さまに対し、デマをただ単に否定して全く聞き入れない姿勢は医師としてNGです。どんなにおかしいと思うデマでも、どのような点が医学的におかしいのか、どのような行動をとればよいのか、きちんと患者さまに向き合って説明するようにしましょう。
デマを過信する患者さまのなかには、医師に否定されることでドクターショッピングを繰り返すようになる方もいます。今回の「うがい薬発言」では、ポビドンヨード配合のうがい薬の処方を希望し、医師から不要である旨を説明されるとまた別の医療機関を受診して処方を求める患者さまもいたと言われます。デマは医療の場を混乱させる要因のひとつですが、それを食い止めるのも医師の大切な役割です。
デマを信じる背景を探ろう
上述した通り、藁をもすがる思いでデマを信じ込んでしまう患者さまは珍しくありません。「うがい薬発言」によって巻き起こったうがい薬の買い占め行動も、新型コロナウイルスへの恐怖心に起因するものです。
デマを信じて不適切な行動をする患者さまの背景には、何らかの精神的・肉体的トラブルがある可能性が高いといえます。デマに振り回される患者さまにお会いしたら、その背景にある悩みや痛みを見抜くスキルも医師には必要です。とくに、普段の行動に問題がない受診患者がデマに振り回されているときは要注意!デマを信じるに至った経緯をよく聞き、背景に隠された問題の解決法を探りましょう。
医師も患者さまも「デマ」に振り回されることなく冷静な行動を!
情報化社会の中、医療に関する情報のデマが世に流れるのは日常茶飯事です。医師であれば、即座に怪しいと考えるような情報でも、本当だと信じ込んでしまう患者さまは少なくありません。デマによって不適切な行動をとるようになる患者さまもいます。
そのような患者さまに出会ったら、単にデマを否定するのではなく、医学的にどのような点で信ぴょう性がないのか患者さまに分かる言葉で説明するようにしましょう。また、デマを信じ込む背景には精神的・肉体的なトラブルを抱えている可能性もあります。医師として患者さまに寄り添いつつデマを信じてしまう背景を見抜き、適切な対応をすることが大切です。
執筆者:成田 亜希子
一般内科医として幅広い分野の診療を行っている。保健所勤務経験もあり、感染症や母子保健などにも精通している。日本内科学会、日本感染症学会、日本公衆衛生学会、日本健康教育学会所属。
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