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医師のワークライフバランスが話題になるとき、とくに多忙な勤務先の一つとして大学病院が取り上げられることは少なくありません。この記事では大学病院で働く医師の仕事内容や多忙の要因、ワークライフバランス改善のためにできることなどを見ていきます。
執筆者:Dr.SoS
大学病院で働く医師は多忙か
全国82医育機関(大学病院)に所属する医師に対して、2023年に行われたアンケート調査では平均的な1週間の総労働時間は下記のとおりでした(わからない・把握していないを除く)。
1週間の総労働時間 | 比率 |
---|---|
~40時間 | 15.4% |
40〜60時間 | 39.5% |
60〜80時間 | 29.0% |
80〜100時間 | 9.1% |
100時間〜 | 4.8% |
通常の勤務時間が週40時間(月160時間)であることから、月あたりの残業時間で考えると80時間/月以上が42.9%、160時間/月以上が13.9%、240時間/月以上が4.8%ということになります。
一方所属機関を問わない病院常勤勤務医の労働時間調査では、160時間/月以上および240時間/月以上の時間外・休日労働時間を行っている医師の割合は2022年時点でそれぞれ3.6%/0.5%でした。そもそも医師という職業自体が多忙な傾向にありますが、両者を比較してみると大学病院に勤務する医師はとくに多忙であると言えるでしょう。 ちなみに160時間/月以上の時間外・休日労働時間は1,920時間/年に該当し、2024年4月からスタートした「医師の働き方改革」で定められたB/C水準の上限である1,860時間/年を上回ることになります。大学病院勤務医の労働条件は早急に改善が求められていると言えます。
大学病院勤務医の仕事内容と多忙の要因
ここでは大学病院勤務医の多忙の要因を探っていきます。大学病院としての業務
大学の付属病院である大学病院本院のほとんどは特定機能病院に該当するため、大学病院に勤める以上は臨床業務だけでなく、教育や研究も重要な役割となります。 たとえば教育では、医学生の講義や実習対応、試験監督などの一般病院では発生しない業務が生じます。また総じて研修医の数も多いですから、若手医師の教育に関わる必要も出てくるでしょう。
研究面では大学院と関連した業務もあります。「教授から指示されたデータをまとめて論文/学会発表しなくてはならない」「後輩の大学院生のスライドをチェック/修正しなくてはならない」などの業務は大学病院でとくに多いと言えます。
会議/搬送業務/雑務
大学病院における多忙の要因として、よく指摘されるのがいわゆる雑務の多さです。 どこまでを雑務と呼ぶかは人によって異なりますが、「定型的な書類作成」「患者さんの搬送業務や採血検査」など必ずしも医師免許を必要としない仕事であっても、医師が行う風土やローカルルールが形成されている大学病院は少なくないでしょう。 この原因として、大学病院では医師の配置数が多く、通常の病院と比較してタスク・シフトが進みづらいという背景が考えられます。
外勤の必要性
大学病院は概して平均給与が低い傾向にあり、過去には無給医の存在が報じられたこともありました。このため給与を補うために、研究日を関連病院などでのアルバイトにあてている医師も多いです。 また医師は中高一貫校や私立大学医学部への進学など、子どもの教育費に多くの金額をかける傾向があります。大学から正式に割り当てられている外勤だけではこれを賄うことができず、自主的にアルバイトを増やす医師も少なくありません。
こうした、常勤以外の勤務にあたるための移動時間、さらにはアルバイト分の労働時間なども医師の生活を圧迫する多忙の原因と考えられるでしょう。
多忙が与える影響とは
国際労働機関(ILO)が2021年に発表した論文では、「長時間労働は脳や心臓の疾患などを引き起こし死亡者を増加させる可能性がある」と伝えています。また長時間労働はメンタルヘルスにも影響を与え、精神疾患の発症だけにとどまらず、最悪の場合、命の危険につながりかねません。とくにメンタルヘルスに対する悪影響は、単なる労働時間数のみでなく、仕事に対する不満も関与するとされます。 大学病院での勤務は先述したとおり雑務が多かったり、病院の特性上望むと望まざるとにかかわらず医学教育や研究に関与する必要があります。 とくに臨床業務を中心に行いたい医師にとって、大学病院での勤務は仕事に対するモチベーションが上がりづらく、長時間労働と相まってメンタルヘルスに悪影響を及ぼしてしまうことが懸念されます。
大学病院に勤める医師がワークライフバランスを取る方法とは
ここでは長時間労働に陥りやすい大学病院勤務医がワークライフバランスを改善するため、とれる方法について考えていきます。
勤務体制の交渉
大学病院勤務に負担を感じている場合は、時短勤務・関連病院への異動・外勤先の(通勤しやすい場所への)変更などができないかどうか相談してみるのはいかがでしょうか。 ライフイベントに伴う業務負荷の軽減も一つの手と言えます。たとえば、育休の取得については、男性も含めて社会的に後押しされているので相談しやすいでしょう。 大学病院はほかの病院と比較して医師数が多いため、状況次第では相談内容に応じてもらえる可能性があります。 もちろん根本的に労働時間を減らすためには、搬送業務や書類仕事などの雑務を減らすことが必要です。しかし大学病院は勤務する人の数が多いため意見を取りまとめるのに時間が必要ですし、個人の力ではなかなか難しいのが現実でしょう。
転科
緊急対応が必要な疾患が多い診療科ではどうしても医師の労働時間が長くなったり不規則な働き方になったりする傾向にあります。そこでワークライフバランスの改善を目指す場合は、別の診療科への転科も選択肢として挙げられるでしょう。 2022年に厚生労働省が実施した医師の勤務実態の調査では、診療科ごとの時間外・休日労働時間が年1,860時間超えの医師を調べたところ、その割合が低い診療科として、放射線科(0.9%)、眼科(1.1%)、病理診断科(1.2%)、耳鼻咽喉科(1.6%)、皮膚科(1.8%)などが挙げられています。 もし転科をする場合、全く関連のない診療科へ転科するのではなく、形成外科→美容外科のように関連性のある診療科へ転科することがより望ましいと言えるでしょう。
以上、2つの方法が、大学病院で働く医師がワークライフバランスの改善のためにできる方法として取り組みやすいものです。
まとめ
大学病院で働く医師は、職場の忙しさに慣れ当たり前のものとして受け入れてしまっていることも少なくありません。しかし、データから見ても分かるように、大学病院の医師がほかの医療機関よりも忙しく働いていると言えるでしょう。 医師として活躍し続けるためには、ときにワークライフバランスの改善を図り、心身の健康を顧みることも大切であると考えます。ぜひ、この記事を読んだあとに、今の働き方について考えてみてください。
執筆者:Dr.SoS
皮膚科医・産業医として臨床に携わりながら、皮膚科専門医試験の解答作成などに従事。医師国家試験予備校講師としても活動している。
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