訪問診療と往診の違いとは?診療報酬改定の動向も含めて医師向けに解説

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業界動向

公開日:2024.05.21

訪問診療と往診の違いとは?診療報酬改定の動向も含めて医師向けに解説

訪問診療と往診の違いとは?診療報酬改定の動向も含めて医師向けに解説

患者さんが医療機関を受診するのではなく、医師が患者さん宅を訪問し診療するのが在宅医療です。在宅医療には訪問診療往診がありますが、両者の違いは何でしょうか。

通常の医療機関に勤務していると、在宅医療に関わることが少なく、これらの違いを十分理解できていない場合もあるでしょう。この記事では訪問診療と往診の違いに加えて、近年の在宅医療をめぐる動向を紹介します。病院やクリニックで勤務されている先生もぜひご参考ください。

訪問診療と往診の違いとは?

訪問診療と往診の定義は下記のとおりです。

訪問診療 病状の悪化を事前に防ぐことを目的に、計画的かつ定期的に自宅などを訪問する診療
往診 急変対応などを目的に、患者さんや家族からの依頼に基づいて自宅などを訪問する診療

両者の大きな違いは「計画的かどうか」です。訪問診療はあらかじめ予定された定期的なものであるのに対し、往診は患者さんやそのご家族の求めに応じて行います。

訪問診療の頻度は2週間に1回、月に1回などです。

往診には、急な発熱や呼吸状態の悪化への対応などのほか、がん患者さんの看取りなども含まれます。

▼訪問診療と往診それぞれの定義に関する詳しい記事はこちら
医師が知っておくべき「訪問診療」と「往診」~在宅医療の激増に備える~

診療報酬上の違い

訪問診療は予定を立てて実施できますが、往診はその性質上、24時間365日いつ業務が生じるかわかりません。医師・医療従事者の負担が大きいことから、往診に関して高い加算が設定されています。

また、両者いずれも看取り死亡診断に対応した場合、所定の点数に加算することができます。

訪問診療・往診の需要拡大の背景

日本の年間死亡者数は、高齢化に伴い年々増加傾向となっています。1995年には90万人台だったのが、2003年からは100万人を超え、2007年には110万人台*1、2022年には150万人台*2となっています。今後もしばらく増加が見込まれており、ピークにあたる2040年には年間167万人が亡くなると想定されています*3

ここで注目したいのが、亡くなる場所についてです。太平洋戦争直後の日本では、自宅で亡くなる人が80%以上を占めており、病院は10%にも至りませんでした。しかし、その後病院で亡くなる人が増えていき、1976年には病院死が在宅死を上回りました。2000年には病院で亡くなる人の割合が81%に達し、他国(スウェーデン42%、オランダ35%、フランス58%など)と比べても顕著に高くなっています*4

一方で、厚生労働省が2017年に実施した『人生の最終段階における医療に関する意識調査』*5では、末期がんへの罹患を想定した場合に医療・療養を受けたい場所について、47.4%の人が「自宅」と回答しています。このうち69.2%の人は、最期を迎えたい場所にも「自宅」を選んでいました。2000年以降、自宅で亡くなる人の割合は13%前後で推移していますが(コロナ禍の2020年以降は15~17%に増加)*6、病状や家庭の状況によるとはいえ、在宅医療のニーズが高いことがわかります。

病床数の観点からも考えてみましょう。日本は人口1,000人当たりの病床数が13.0と、諸外国(アメリカ2.9、カナダ2.5など)と比べても高く*7、医療費を抑える目的で削減も検討されています。自宅で終末期を迎えることができる人に病床を利用すると、病床での対応が必要な患者さんへの医療が手薄になる可能性もあります。

このように、死亡者数の増加や病床数削減といった情勢の中、在宅医療を望む患者さんのニーズを満たす側面からも、必要な医療を確保する側面からも、看取りを含めた在宅医療は今後ますます必要性が高まると言えるでしょう。

訪問診療・往診をとりまく近年の動向

在宅療養支援診療所/病院の新規開設解禁

在宅医療と言うと、かかりつけ医の先生が通常診療の延長線上で行うケースが想像しやすいかもしれません。

しかし、在宅医療は看取りなども含むため、24時間体制が必要な場合もあります。近年は在宅医療に積極的に取り組む「在宅療養支援診療所」(在宅専門診療所)や「在宅療養支援病院」も増えています。

在宅医療の提供体制を整備するため、国は2016(平成28)年度の診療報酬改定を機に、在宅療養支援施設の新規開設を認めました(「在宅医療専門の保険医療機関に対する評価」を新設)。

こうした診療所は外来対応をほとんど行わない分、通常のクリニックと比べて開業スペースや資金が少なく済みます。在宅医療を専門とする医師が複数名在籍しているため応需体制が常時取りやすく、患者さんにもメリットがあるでしょう。

診療報酬においても、往診料に係る加算は在宅療養支援施設の方が高くなる仕組みが設けられています。2024(令和6)年度の改定では、在宅医療におけるICTを用いた連携の推進や、地域における24時間の在宅医療提供体制の推進を目指す上で、在宅療養支援施設が担う役割がますます重視されています(下図)。各保険医療機関との連携が求められるほか、「往診時医療情報連携加算」の新設(在宅療養支援施設と連携している医療機関の訪問診療患者に対し、在宅療養支援施設が往診を行った場合の加算)も予定されています。

厚生労働省令和6年度診療報酬改定の概要資料p7_在宅医療におけるICTを用いた連携の推進

厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【在宅(在宅医療、訪問看護)】」p.7より
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001226864.pdf

コロナ禍における往診サービスの拡大と今後の展望

Asian women looking body temperature at oral thermometer for diagnosing flu from Coronavirus (Covid-19) infection self care stay at home.

2020年以降は新型コロナウイルス感染症の流行から、感染リスクを抑えようと"受診控え"が生じました。これを機に拡大したのが、往診サービスです。スマートフォンアプリなどを介して往診を依頼するサービスで、とくに小児医療では医療費助成制度が適用されることから、少ない自己負担で利用できます。

新型コロナウイルス感染症そのものに対しても、往診サービスは重宝されました。医療機関を受診しなくても診断や治療を受けられたり、自宅療養にも対応してもらえたりと、多くの患者さんがその恩恵を受けました。2020年11月には前月比144%と大きく利用者数を伸ばしたサービスもあり*8、そのニーズの高さが伺えます。自治体と提携し、地域の医療提供体制の整備に協力した事例もありました。

その後、2023年5月に5類感染症への移行、2024年4月に治療や入院に対する公費負担の終了を経て、新型コロナウイルス感染症は季節性インフルエンザなどと同様の扱いになりつつあります。

このような中で2024年度の診療報酬改定では、「患者さんの状態に応じた適切な往診の実施を推進する観点*9から、往診に関する評価が見直されました。もともと定期的な訪問診療をしていない患者さんに対しては、往診料が大幅に引き下げされることになったのです。緊急往診加算(325点)や夜間・休日往診加算(405点)、深夜往診加算(485点)を得るためには、日ごろから訪問診療を受けているか・地域の関係施設と連携しているかといった条件が課されます。

この改定は、往診サービスにとってかなりの逆風です。改定の詳細が発表された翌々日(2024年2月16日)にサービス終了を発表する企業もありました。現時点でサービスを継続している企業も、利幅が薄くなれば医師への報酬を下げざるを得ない可能性があります。

2024年度から医師の働き方改革が始まったことで、往診サービスへ協力する医師の労働力は減っていくと予想されます。診療報酬改定による"賃金引き下げ力"と、働き手不足による"賃金上昇力"の両者がどのような結果を生むのか、今後の動向が注目されます。

まとめ

訪問医療

今回は訪問診療と往診の違いを中心に解説しました。あらかじめ予定を立てて実施するのが訪問診療、急変時など突発的に実施するのが往診です。往診に関しては、コロナ禍でオンラインを主軸とするサービスも急速に普及しました。

在宅診療は今後も需要の拡大が想定されますが、まだまだ発展途上の分野と言えるでしょう。高齢者が増え「多死社会」を迎える中、今後の社会構造に見合った医療体制の整備が急がれます。同時に、医師の働き方改革も進めていかなければなりません。次のパンデミックに備えた医療提供体制を構築しておくことも重要でしょう。

この記事が訪問診療や往診について考えるための一助となれば幸いです。

Dr.SoS

執筆者:Dr.SoS

皮膚科医・産業医として臨床に携わりながら、皮膚科専門医試験の解答作成などに従事。医師国家試験予備校講師としても活動している。

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