結婚が医師の仕事にどう影響する?実態と対策

医師がキャリアや働き方を考える上で参考となる情報をお届けします。
医療業界動向や診療科別の特徴、転職事例・インタビュー記事、専門家によるコラムなどを日々の情報収集にお役立てください。

転職ノウハウ

公開日:2024.12.17

結婚が医師の仕事にどう影響する?実態と対策

結婚が医師の仕事にどう影響する?実態と対策

結婚は、人生において大きな転機となる方が多いですが、医師にとっても例外ではありません。結婚により、今まで以上に忙しくなってしまい、仕事や心身への影響が出る医師もいます。今回は、結婚がきっかけで多忙になる要因や仕事に与える影響、ワークライフバランスを保つ方法についてわかりやすくまとめます。

Dr大塚プロフィール写真

執筆者:大塚 真紀

医学博士、腎臓専門医、透析専門医、総合内科専門医

詳しいプロフィールはこちら  

結婚がきっかけで多忙になる?医師のWLB

医師は勤務時間が延長することが多いだけでなく、早朝や深夜でも担当の患者さんが急変した時に病院に行かなければならない場合があります。つまり、結婚した際は、配偶者の十分な理解を得ないと、今までのように勤務することが難しいと考えられます。また、結婚後の勤務への影響を見てみると、どうしても男女差が出てしまう傾向があるようです。

2005年-2015年の国勢調査のデータから、25,321人(男性82.4%・女性17.6%)の既婚の医師を対象として、医師の結婚相手がフルタイム勤務率にどのように関連しているのかを分析した結果があります。実に、女性医師の69%は男性医師と結婚していて、男性医師と結婚した女性医師は、夫が非医師である場合に比べてフルタイム勤務率が低いことが明らかになっています(医師の場合:68.1%・非医師の場合:76.3%)。この結果は、医師であっても女性であれば、未だ"家庭において子育ての役割を期待される"ことが多く、女性の働き方に大きな影響が出るようになるのではないかと考えられます。

一方で、男性医師は結婚相手の職業によらず、ほとんど全員がフルタイム勤務をできていることがわかっています。調査結果からは、男性医師は結婚相手の職業が働き方にはほとんど影響せず、結婚前と同じように勤務できているように見えます。しかし、一般的な医師のフルタイム勤務は、残業やオンコール、当直を伴う柔軟性に乏しい働き方であり、結婚によって家事や育児に関わる時間が追加される場合には、男性医師も忙しくなります

結婚きっかけで多忙になる要因

医師は、そもそも長時間労働や夜間の呼び出し、休日出勤などのため、仕事と家庭の両立が難しい職業です。仕事で忙しい上に、結婚したことによって家事や育児に関するさまざまなタスクが増えると、より多忙になることは明らかです。また、いくつかのデータから、結婚が直接的な影響を与えるというより、結婚後の様々なライフイベントが、少しずつライフスタイルを変えていくことで多忙になるのではないかと考えることもできます。

具体的には、「男性医師は、未就学児の育児中、子育て前と同じ働き方を希望する割合が最も多く、実際に子育て前と同じ働き方をしているのは8割*1というデータがあります。結果的に、男性医師は、結婚前と変わらない仕事量に加えて、家事や育児のタスクが増えて、より多忙になると考えられます。また、結婚相手が女性医師で常勤を希望している場合には、離職や退職、働き方の調整が必要になります。

女性医師の場合は、育児中、時短勤務、勤務日数減、業務内容軽減を希望する割合が多く、現在常勤医師の1割、非常勤医師の4分の1が休職・離職を経験していることが明らかになっています。医師であっても、女性の方が育児への関りを期待される時間が長いため、必然的に業務内容や勤務日数の見直し、勤務形態の調整が求められがちであることがわかります。

結婚が医師の仕事に与える影響とは

結婚によって、家事や育児への関わりが増えると、結婚前と同様の仕事量をこなすことは難しくなるので、仕事に影響が出る状況が容易に起こります。例えば、既婚の女性医師のうち3割前後が20代後半から30代後半にかけて非常勤勤務となっています。結婚によって、20代後半や30代後半の女性医師は、育児や家事に関わることを家庭内で期待され、常勤医として働くことが難しいのではないかと推測されます。また、「育児中、休職・離職した女性医師は、他の勤務形態を取った女性医師と比較して、専門医資格の取得率が有意に低い*2ことも明らかになっています。つまり、女性医師の場合には、勤務時間や勤務形態への影響だけでなく、長期的に見たキャリアという点でも影響が出やすいことがわかります。

一方で、常勤勤務で既婚の男性医師の場合には勤務時間が長くなる傾向があります。実際に、結婚後に子どものいる医師達へのアンケート結果を見てみると、柔軟な勤務体制や院内保育室の拡充、病児保育の充実などを求める声があがっています。

    <46歳、男性、小児科、民間病院>
    病児保育の充実だけでかなり改善すると思います。

    <33歳、女性、整形外科、民間病院>
    主治医制である限り、育児と仕事の両立は難しいと思います。

    <31歳、男性、科目不明、民間病院>
    夜間保育園(24時間体制)が必要と思います。

出典:総括研究報告書「病院勤務医の勤務実態に関する研究」p.8より(一部改変)

結婚後、医師がワークライフバランスを保つ工夫とは?

結婚後のライフイベントによって、少しずつライフスタイルが変わることがわかりましたが、結婚後も医師がワークライフバランスを保つためにはどうすればよいのでしょうか。結婚後も医師がワークライフバランスを保つ具体的な方法をいくつか紹介します。

配偶者の理解を得る

医師は、労働環境にもよりますが、定時に帰れることの方が難しいのではないでしょうか。また、当直や夜間の呼び出しなどがある場合もあるため、一般的な職業の方と結婚すると驚かれるかもしれません。一方で、配偶者が医師である場合には、配偶者も同様に忙しいため、家事や育児の分担をしておかないと家庭が回らなくなります。まずは、医師の仕事内容や勤務形態を配偶者によく理解してもらうことがワークライフバランスを保つために重要です。

家族の協力を得る

夫婦ともに医師の場合、また配偶者も働いていて忙しい場合などは、夫婦だけで育児や家事をすることが難しいこともあり得ます。家族の了承があるのであれば、協力を得られると心強いでしょう。

女性医師のキャリア支援

現在常勤である女性医師の1割、非常勤医師の4分の1が育児中に休職・離職を経験しているというデータからもわかるように、女性は結婚後のライフイベントによってキャリアに影響が出やすい傾向があります。厚生労働省は、女性医師のキャリア支援のために相談窓口を設置したり、復職のための研修を実施する医療機関への補助を行ったりしています。ワークライフバランスを保つために、相談窓口に連絡してみると良いかもしれません。

家事や育児のアウトソーシング

近隣に家族がいない場合や家族に頼むのに抵抗がある場合などは、家事や育児をアウトソーシングして、家事育児の負担を軽減したり自分の時間を確保したりするのもワークライフバランスを保つための工夫です。最近では、幼児教育もしてくれるベビーシッターや家事代行サービスなどもあります。

勤務形態を検討する

結婚後の生活の変化に合わせて、勤務形態を検討するのも1つの方法です。今後のキャリアプランや希望する収入なども考慮し、働き方を選びましょう。例えば、子どもが小さい時には時間的拘束の少ない非常勤やスポット勤務を選択したり、自宅で働けるオンライン診療を行ってもよいかもしれません。

まとめ

以上の5つが、結婚後の医師がワークライフバランスを保つためにできることです。工夫できることも意外とあるのだと感じていただけましたら幸いです。一人、またはパートナーと頑張ることも大切ですが、二人が心身共に健康であり続けるためにも、家族や職場を頼ったり専用のサービスを活用したりすることも大切です。ぜひ、この記事を読んだあとに、ワークライフバランスの改善をどう図るべきか考えてみてください。

大塚 真紀

執筆者:大塚 真紀

東京大学大学院医学系研究科卒。医学博士、総合内科専門医、腎臓内科専門医、透析専門医。都内の大学病院勤務を経て、夫の仕事の都合で渡米し、アメリカでは研究員として勤務。現在は日本に帰国し、在宅で医療関連の記事の執筆や監修、医療系YouTube監修、企業戦略のための医療系情報収集、医療系コンテンツ制作、医療系生成AIのアドバイザー、オンライン診療、医学意見書作成、看護師や一般向けの書籍執筆など幅広く行う。<

コンサルタントが本音で語る 医師の転職ノウハウ