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2024年4月1日より医師の働き方改革が始まりました。従来、医師は多忙な職業であり、ワークライフバランスを保つことが難しいと考えられてきました。 この記事では医師の具体的な労働時間や、忙しさの要因、またワークライフバランス改善のために取れる対策について見ていきます。
執筆者:Dr.SoS
医師の労働時間の実態
まずは医師の労働時間の実態に迫ってみましょう。少し古いデータにはなりますが、2012年時点で勤務医の平均労働時間は週当たり53.2時間で、全体の40%以上は週60時間以上働いていました。一方労働基準法で定められている標準的な労働時間は1日8時間、1週間で40時間となっています。つまり、時間外・休日労働時間の上限である年間960時間以上も働いている医師の割合が40%であることを示しています。
この数値は働き方改革などの影響もあり近年はやや改善し、960時間以上残業する医師の割合は2019年は37.8%、2022年は21.2%と減少傾向にあります。一方で1,920時間以上時間外・休日労働時間がある医師も2022年時点で3.6%存在しています。
診療科によっても労働時間は異なり、年1,860時間を超える医師の割合が高い診療科として、脳神経外科(9.9%)、外科(7.1%)、形成外科(6.8%)、産婦人科(5.9%)、救急科(5.1%)があります。一方放射線科(0.9%)、眼科(1.1%)、病理診断科(1.2%)、耳鼻咽喉科(1.6%)、皮膚科(1.8%)などはそうした医師の割合が低い診療科となっています。
このように働き方改革により見かけ上の労働時間は減少しましたが、メリットばかりではありません。急速に進む時間外労働減少の裏には、「今まで労働時間に含まれていたカンファレンス参加や学会発表準備が自己研鑽扱いになった」「月に付けられる残業時間の上限が定められ、それ以上残業してもカウントされなくなった」などの事情が潜んでいることもあります。
忙しさの要因は?
医師が忙しい職業であることは労働時間から見ても明らかです。これをお読みの先生の中にも、日々お忙しく働かれている方もいらっしゃるのではないでしょうか。では、なぜ医師は多忙なのでしょうか?その原因は下記のようにいくつか考えられます。
医師にしか行えない仕事がある
医師は代表的な業務独占資格であり、医師にしか行えない仕事が多くあります。たとえば下記のような業務は医師が行うこととされています。
- 医業
- 診断書の交付
- 処方箋の交付
- 診療録の記載
近年はメディカルクラークの導入などもあり書類仕事の負担は減少してきていますが、やはりまだまだ医師にしかできない仕事が多いのは事実です。
担当医制/主治医制
「主治医制」とは、一人の患者さんを一人の医師が担当して首尾一貫した医療を提供するシステムです。しかし、主治医がいないと治療ができないため、何かあった際は時間帯を問わずに呼び出しがあります。この場合、休みでも落ち着かない時間を過ごした経験のある医師も多いのではないでしょうか。
近年は、「複数(二人)主治医制」や「チーム制」など、複数の医師でチームを組んで患者さんを担当するシステムが広がっています。一人に対して複数の主治医が治療方針に意見を出し合えるなど、提供する医療の質の向上が見込めます。何より、複数の医師で時間帯を分担するので、当番以外の医師は自由な時間を過ごすことができるのが医師にとっての大きなメリットです。
突発的に発生する仕事がある
急性心筋梗塞や脳梗塞など、突発的に発生し緊急の対応が求められる疾患があります。こうした疾患に対応するために当直/日当直業務や待機(オンコール)業務が課されていることが多くあり、これも医師の忙しさの要因の一つとなっています。
働き方改革の影響
働き方改革が始まった影響もあり、「カンファレンスは時間内に行う」など変更の行われた病院も少なくないのではないでしょうか。しかし業務内容の合計が減っていないのに労働時間だけを削った場合、労働強度が高くなりますから余計忙しさを感じやすくなると考えられます。
長時間労働が医師に与える影響は?
長時間労働に陥りがちな医師ですが、長時間労働を続けることでどのような影響があるのでしょうか?
まず長時間労働によって、脳・心臓疾患による死亡者が増加します。また長時間労働はメンタルヘルスにも影響を与え、精神疾患の発症による休職や最悪の場合には自殺につながることもあるでしょう。とくに時間外労働の時間が45時間を超えると関連性が強くなり、発症前1ヶ月間の100時間以上の時間外労働または2〜6ヶ月間平均で80時間以上の時間外労働で関連性が強いことがわかっています。単純な労働時間数以外に拘束時間が長い勤務や不規則な勤務も影響しやすいとされ、医師の当直・オンコール業務はこちらに該当するでしょう。
具体的には月80時間以上の時間外労働は「過労死ライン」とされ労災認定されるケースが多いです。医療業界ではとくに研修医や専攻医が過労死する事例が繰り返し発生しています。このように長時間労働は身体的にも精神的にも悪影響を与えるため、ワークライフバランスを改善する対策が必要と考えられます。
ワークライフバランス改善のためにできること
ワークライフバランス改善のため、取れる対策についてここからは考えてみましょう。
主治医制の廃止とチーム制への移行
主治医制では担当患者さんに24時間365日対応することが求められるため、仕事から開放される時間がとれないことによる精神的負担が大きくなりやすいです。複数医師で一人の患者さんを担当するチーム制への移行は、ワークライフバランスの改善に有効と考えられます。医師個人での移行はなかなか難しいかもしれませんが、議題として提案してみることは良いのではないでしょうか。
転科/診療科の選択
上述した通り、診療科によって時間外労働時間にはかなり差があるため、時間外労働時間の少ない診療科への転科を検討することもワークライフバランス改善のためには良い選択肢の一つとなるのではないでしょうか。あなたが研修医の場合、臨床研修修了後に診療科を選択する際、考慮基準に労働時間を含めることも検討してみてもよいかもしれません。
転職
上記の主治医制/チーム制のように、職場環境によっても労働時間は異なります。また、入院病床を有さないクリニックや病院でも非常勤医師であれば診療時間外の対応は一般的に求められません。 現在の職場において労働環境を変えることは簡単ではありませんし、時間もかかります。このため現在の職場で労働時間が長くワークライフバランスを保つことが難しい場合は、より労働条件の良い職場への転職を検討することも選択肢でしょう。実際に周りで転職を経験した医師がいるのであれば話を聞いてみてはいかがでしょうか。他にも、転職サービスに問い合わせをして、転職により生活が改善した実例などを聞いてみることもおすすめです。
まとめ
以上、3つの方法が、多忙な職場で働く医師がワークライフバランス改善のためにできることです。他にも、業務効率化を図ること、上司に働き方を相談することも考えられるでしょう。忙しいことが当たり前であると、ついその環境で頑張ろうと踏ん張ってしまうもの。しかし、心身共に健康であり続けて、医師として活躍し続けるためには、ときにワークライフバランスの改善を図ることも大切であると考えます。ぜひ、この記事を読んだあとに、今の働き方について考えてみてください。
執筆者:Dr.SoS
皮膚科医・産業医として臨床に携わりながら、皮膚科専門医試験の解答作成などに従事。医師国家試験予備校講師としても活動している。
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