研修医が担う当直業務とは?救急外来診療の流れとポイント【現役医師解説】

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働き方

公開日:2024.09.11

研修医が担う当直業務とは?救急外来診療の流れとポイント【現役医師解説】

研修医が担う当直業務とは?救急外来診療の流れとポイント【現役医師解説】

臨床研修(初期研修)は、医師として初めて臨床現場で働く機会です。日中はさまざまな診療科をローテートし、夜間・休日は救急外来の日直や当直業務を担当することになるでしょう。

研修医が単独で診療にあたることはないとは言え、主体的に診察をしたり、治療方針について考えたりする機会も少なくありません。この記事では、とくに不安を覚えやすい救急外来における当直について、診療業務の流れや、大切にしたいポイントを解説します。

研修医の当直業務とは

医師の当直業務は、入院に対応する「病棟当直」と、外来に対応する「救急外来当直」とに大きく分けられます。

一般的な臨床研修指定病院で研修医が担うのは救急外来当直がほとんどでしょう。

なお、臨床研修では救急外来12週間以上(4週間までは麻酔科に振替可能)が必修ですが*、これは日中のローテート先を指しているため、当直とは異なります。

救急外来における研修医当直業務

救急外来当直では、ウォークイン(walk in)や救急車で受診する患者さんの診断・治療にあたります。

研修医は単独で診療行為にあたることはできませんので、上級医(指導医)と一緒に当直に入り、経験を積んでいきます

補足:研修医の診療行為とは

研修医が診療(診断)に参加する際は、いくつかのパターンがあります。

  • 診察の最初から、上級医(指導医)と一緒に対応する
  • まず研修医が診察し、院内にいる上級医に上申する
  • まず研修医が診察し、院外にいる待機医師に連絡する
  • 研修医が診察し、患者さんの帰宅可否を判断する

どのパターンで進めるかは、研修医の年次や患者さんの重症度、病院の方針などによります。たとえば1年目のうちは上級医と一緒に診察を行い、2年目は研修医が診察してから上申する(ただし高エネルギー外傷の症例は、上級医と一緒に診察する)、といった具合です。

実際にどのような業務の進め方になるのか、気になる場合は病院見学やオリエンテーションの際に、その病院で働いている研修医や指導医に確認してみるのがおすすめです。

救急外来当直の流れ

救急搬送される患者と救急外来当直にあたる研修医

それでは、救急外来当直でどのように業務を行うものなのか、具体的に見ていきましょう。

とくに救急車で搬送されてくる重症例の場合は、下記の流れで診療が進められます。

  1. トリアージ(プライマリー/セカンダリーサーベイ)
  2. アセスメント・検査
  3. アセスメント・プレゼンテーション

1.トリアージ(プライマリー/セカンダリーサーベイ)

救急外来を受診する患者さん、とくに救急車で搬送されてくる方の場合は、バイタルサインなどに重大な異常を認める場合が少なくありません。優先的な対応が必要なため、来院順にかかわらず早めのトリアージが必要です。

このとき役立つのが、「プライマリーサーベイ」「セカンダリーサーベイ」と呼ばれるアプローチ法です。

プライマリーサーベイ(PS:primary survey)では、下記の項目を確認します。「ABCDEアプローチ」とも呼ばれるものです。

A Airway(気道)
B Breathing(呼吸)
C Circulation(循環)
D Dysfunction of CNS(中枢神経)
E Exposure&Environmental Control(脱衣と体温管理)

セカンダリーサーベイ(SS:secondary survey)は、とくに外傷症例で活用されます。詳しい病歴の取得や全身の診察、神経学的評価を行います。外傷の場合はエコーを用いたFAST(迅速簡易超音波検査法)やX線検査などで、出血の有無や骨盤骨折・血気胸を確認します。

2.アセスメント・検査

PSとSSは緊急対応を要する病態を把握する上で役立ちます。バイタルサインの確認はウォークインで受診する患者さんの場合ももちろん重要ですが、どちらかと言うと、この「アセスメント・検査」に重点が置かれるケースが多いと言えます。

このステップでは、主訴や病歴・既往歴など診断に必要な情報を収集し、身体診察を行います。

たとえば、背部痛を主訴とする患者さんであれば、下記のような情報を収集することになるでしょう。

  • 病歴:いつから痛みが始まったのか(数週間前/今朝/夜間就寝中 など)
  • 既往歴:これまでに同様の痛みが起きたことはあるか、高血圧の既往はあるか など
  • 身体診察:具体的に痛い部分は左右どちらかもしくは両側・正中なのか、触ると痛みが増強するか など

集めた情報をもとに、必要な検査を行っていきます。救急外来で実施できる検査には限りがありますが、救患を受け入れる病院であれば、採血検査やX線検査は実施できることが多いでしょう。脳卒中診療を行う病院であればCT・MRI検査も可能かもしれません。

先ほどの背部痛患者さんの場合は、たとえば尿路結石による疼痛を考え、X線やCT検査のオーダーが考えられます。

検査を実施するには"オーダー"が必要ですし、すぐに検査結果が出るわけでもありませんから、たいていはここで「待ち」の状態となります。

3.アセスメント・プレゼンテーション

検査結果が出てきたら、再度アセスメントが必要です。先ほど実施した問診や身体診察に加えて、採血データや画像をふまえた再アセスメントです。

このとき、想定していた診断と検査結果が矛盾していないか確認することになります。たとえば先ほどの背部痛患者さんに対して、尿路結石を考えてX線とCT検査を行った場合は、尿路結石の画像所見が見られるか確認します。

はっきりした所見が認められない場合は、診断を修正する必要があるかもしれません。仮に大動脈解離を考えるのであれば、造影CT検査が必要となる場合もあるでしょう。造影剤を使うには、あらかじめ採血データで腎機能障害の有無を評価する必要がありますが、このタイミングで再度採血検査をオーダーしていてはかなり時間を消費してしまいます。効率的な診療のためには、最初のアセスメントの時点でどこまでの疾患・病態を想定しておくかが大切です。

さて、最後に治療・対応方針を決める必要があります。大きくは下記3つの選択肢に分けられます。

  • 帰宅(後日、外来を受診)
  • 入院
  • 院外にいる待機医師と相談

いずれの場合も、一緒に当直をしている上級医(指導医)との相談は必要です。患者さんの状態や診断について、適切なプレゼンテーションが求められます。

研修医当直で大切なこと

研修医当直で大切なことのイメージ画像_時計・ノート・プロトコルなど

ここまで、救急外来当直における診療の流れを見てきました。ここからは、研修医当直で大切なことについて考えてみます。

  • 身だしなみと清潔
  • 患者さんとのコミュニケーション
  • 他の医師・他職種との連携・相談
  • こまめな休憩・規則正しい生活(体調管理)

身だしなみと清潔

病院にもよりますが、患者さん対応を最初に行う医師が研修医であることも多いです。第一印象が悪いと、その後の診療に支障が出てしまいます。身だしなみを整え、他者に不快感を与えないよう心がけましょう。

患者さんとのコミュニケーション

患者さんから診療に必要な情報を得るためには、適切なコミュニケーションが必要となります。患者さんの抱えている不安や、夜間や休日に救急外来を受診するに至った理由などを傾聴できることが望ましいでしょう。

話を聞くだけでなく、診察の結果を患者さんや家族に伝える際にも、適切なコミュニケーション能力が必要です。

他の医師・他職種との連携・相談

研修医は指導医の下で診療行為を行うため、診断や治療の方針について指導医とよく相談し、連携を図ることが求められます。

また、下記の業務は医師が実施するのではなく、他職種の医療従事者に進めてもらうことも多くあります。

  • バイタル測定
  • 採血
  • 画像検査

医師-医師間だけでなく、他職種の方ともしっかり連携・相談しながら業務にあたる必要があります。

こまめな休憩・規則正しい生活(体調管理)

病院にもよりますが、救急外来当直は夕方~翌朝にかけて勤務することが一般的です(例:17:30~翌朝8:30)。通常業務の後に当直に入ることも多く、当直時間中ずっと高いパフォーマンスを発揮することは難しいでしょう。

当直中に休めそうなスキマ時間があればしっかり休み、体力や集中力を養いましょう。 もちろん業務が忙しくて休めない場合もあります。当直に入る前から健康に留意し、規則正しい生活を送ることが望ましいでしょう。

まとめ

今回は研修医当直について解説しました。救急外来当直では、日中の時間帯に比べて医師の人数や施行できる検査が限られることから、難しい判断が求められる場合もあります。バイタルサインの異常に対する応急処置や、見逃してはいけない疾患を適切に鑑別することが重要なポイントになります。

より詳しく知りたい方は、救急医・木下喬弘先生の監修資料『新人医師のキホン2選 -当直・手術-』にまとまっていますので、ぜひ参考にしてみてください。当直だけでなく、手術にのぞむ前に読んでおきたいポイントも入っています。会員登録をすると無料でダウンロードできるので、気になる方はぜひ登録してみてください。

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目次

当直編

  • 当直とは?~「医師の働き方改革」と合わせて再確認~
  • 研修医は当直で何をする?
  • 監修者コメント「当直で最大限の学びを得るために」

手術編

  • "手術前"の流れ
  • "手術当日"は何をする?
  • "手術後"の研修医の役割
  • 監修者コメント「手術を通して研修医が学ぶべきこと」

Dr.SoS

執筆者:Dr.SoS

皮膚科医・産業医として臨床に携わりながら、皮膚科専門医試験の解答作成などに従事。医師国家試験予備校講師としても活動している。

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