尾藤誠司医師が語る「対患者コミュニケーション」の苦手をどう乗り越えるか|ウェビナー抜粋

医師がキャリアや働き方を考える上で参考となる情報をお届けします。
医療業界動向や診療科別の特徴、転職事例・インタビュー記事、専門家によるコラムなどを日々の情報収集にお役立てください。

スキルアップ

公開日:2024.02.19

尾藤誠司医師が語る「対患者コミュニケーション」の苦手をどう乗り越えるか|ウェビナー抜粋

尾藤誠司医師が語る「対患者コミュニケーション」の苦手をどう乗り越えるか|ウェビナー抜粋

本記事はドクタービジョンで2023年11月21日に実施したウェビナー
「対患者コミュニケーション」の苦手をどう乗り越えるか~共感や理解の障害は?実践で使える考え方や関わり方~
の一部を書き起こしし加筆したものです。

尾藤 誠司先生プロフィール写真

講演者:尾藤 誠司

東京医療センター内科医長

詳しいプロフィールはこちら  

患者さんがわかってくれない...どうする?

患者さん
「本当にインスリンが必要なんでしょうか?」

医師
「先ほども説明しましたが、あなたの糖尿病の状態は深刻です。最悪、死に至ることもあるんですよ。」

こういうとき、困りますね。患者さんからの「本当にインスリンが必要なのでしょうか?」という質問。

どういう状況かというと、診断して、治療に向かって最善の結語を求めていく、医療者の考えのレールを敷いたんだけれども、そこに患者さんが乗ってくれないというフラストレーションが、この状況にはあるわけですよね。

医師には、このようなシチュエーションはしばしばあるのかなと思います。この質問に対して「最悪、死に至ることもある」と伝えることは、すごく真摯な姿勢で患者さんを説得している状況です。

ただ、この対応でうまくいくこともあるんですけど、うまくいかないこともあるというのが、私がいろんな場面を見て思っていることです。

我々医療者は、"なかなか患者さんにわかっていただけない"、"患者さんの理解が十分でない"、"患者さんが誤解している"ととらえるんですけど、私はそうではないと思っています。

中には理解が難しい方もいらっしゃるんですけど、半分くらいの方は(医師の意図を)理解している。理解はしているんだけれども、その理解に基づいたリアクションを聞いたときに、医師が「患者さんにわかってもらえていない」と思いがちなのではないかと思います。

おそらく、診断して治療に至る、医師の思考のレールの枠組みが頭の中にしっかりあり過ぎるために、患者さんそれぞれの考え方、認識、そして物語というものがうまくレールに乗らず、無理やり乗せようとしてしまう

無理やり乗せようとすることで、うまくはまらず、フラストレーションが溜まっていくというのが、患者さんが同意してくれないときに起こる齟齬の一つの正体なのかなと思います。

認識の齟齬を解消するチャンスととらえる

私自身も"なかなかこの患者さんわかってくれないな"と思うことはしょっちゅうあるんですけど、 "いやいや待てよ"と。わかってくれないのではなくて、お互いが別の認識をしていて、違う希望があって、違うゴールを見ている。あるいは、同じゴールを見ているかもしれないけれど、何を大事にしているかが異なっているという状況が発生しているのでは、と思うようにしています。

医師も患者も、背景にあるもの・背負っているものが違っていれば、見えてくるものはおのずと違ってくる。だからこそ患者さんから「本当にインスリンが必要なんですか?」って言われたときはチャンスなわけですよね。この人には一体何が見えているんだろう?と。

どうやら自分とは異なる景色が見えていて、お互いが理解し合う一つの形として、自分が敷いたレールに応えてくれなかった。それをどういう風にとらえるかというチャンスなのかなと思っています。

見えているものをお互いに理解したとしても、進んでいく道は必ずしも一致しないし、むしろ一致しない方が正常と考えると面白いのかなと思います。

患者さんが話を聞いてくれるときほど問題が起きる

逆に、"この患者さんは私の言うことをよく聞いてくれる"と感じるときは、ちょっと問題が起きているのかなと思います。

たとえば、糖尿病の患者さんとのやり取り。

医師
「今回はHbA1c 7.6になりましたね。」

患者さん
「そうですか。嬉しいです。」

医師
「でもまだ目標の7.0には足りないので、さらに頑張りましょう。」

患者さん
「はい。わかりました。」

医師
「お薬は引き続き服用してください。また、1時間程度の散歩を取り入れてみると良いと思います。」

患者さん
「そうですね。やってみます。」

めちゃくちゃスムーズに思えますが、本当にスムーズでしょうか?

この患者さん、実はもうめちゃくちゃ頑張ったかもしれないですよね。で、めちゃくちゃ頑張った挙句、じゃあ次は7.0となったときに、心が折れるかもしれないですよね。

心を折らずに、担当医に対して「あんたね、私が今回どれだけ頑張ったと思ってるの」って文句を言ってくれると、そういう考え方で、いろんな努力をして今に至るのね、と垣間見ることができるんですが、医師に文句を言うのはすごくハードルが高いのが現実なので、先ほどのやり取りのようになっちゃう。

すると、医療者はうまくいったって思うんだけれど、あとで医事課からクレームが来る、みたいなことがしばしば起こります。

"対立"から対話が生まれる

そういう意味で、私は日々の中で、自分が提供する推奨だとか、自分が敷いた考えのレールみたいなものに、患者さんがうまく乗ってくれない、嫌だって言ってくれたときは、とても良い状況が発生していると考えることが、すごく大事なことかなと。対立が生まれると、そこから対話が生まれるということなんだと思います。

逆に、患者さんが医師の言うことを受け入れてくれるばかりだと、そこには医療者側が自覚できない支配関係が続いてしまっている危険性があるかなと思います。

対立というものは、明示されるといろいろと工夫ができるんですが、明示されないとすれ違いになって、紛争になって、裁判みたいになってくる。

ただ、対立からすれ違いに行くとき、患者さんは対立というものをうまく表現できないし、医療者は対立に気付くことができない。そういうところ(傾向)があります。

さらに、すれ違いが浮き彫りになったにもかかわらず、たとえば「本当にインスリンが必要なんですか?」っていう質問から、医師は患者さんが医学的に正しくない選択をしないように説得する、いわば正しさの押し付けみたいなことになりがちなわけですよね。

これを患者さんが、"医学的には正しいんだろうけど、私には私の大事なことがあるんだよな"というように、合理的に受け止めて会話を進められれば良いんですけど、医師から「あなたの言ってることは間違っている」みたいに言われてしまうと、問題の解決よりも感情が先走ってしまって、"この医師の言っていることは我慢ならん!"みたいになっていくと思います。

つまり、「本当にインスリンが必要なんですか?」と患者さんが言ったところから、この人は私と違うところを見ているという気付きが得られる。その人が考えていることや恐れていること、あるいは認識していることなどを医師側が知るきっかけが生まれるということですね。

患者さんの見ているものが垣間見えたときに、それが自分にとって予想もしていなかったものだったということもあるわけです。

------

ここまでウェビナーの一部をご紹介いたしました。

本ウェビナーではこのほかにも、明日からの診療が少し楽になるような内容を盛り込んでいます。
無料登録でいつでもご覧いただけますので、続きが気になる方はぜひお申込みください。

講演者プロフィール

講演者:尾藤 誠司

東京医療センター内科医長

1990年岐阜大学卒業。
1992年長崎医療センターで初期臨床研修を修了。
1996年UCLA公衆衛生大学院卒業(科学修士)等を経て1997年よりNHO東京医療センター総合内科に入職。現在に至る。
総合内科医として診療に携わりつつ、臨床倫理コンサルテーションや医療コミュニケーションに関する研究事業、社会発信を行っている。
趣味のロックバンド"Haloperidolls"の代表曲は「固有名詞で愛されたいの」「向いたほうが前」「STOP!身体抑制」「No Drug, No Life」など。

ドクタービジョン編集部

医師がキャリアや働き方を考える上で参考となる情報をお届けします。医療業界動向や診療科別の特徴、転職事例・インタビュー記事、専門家によるコラムなどを日々の情報収集にお役立てください。

今の働き方に不安や迷いがあるなら医師キャリアサポートのドクタービジョンまで。無料でご相談いただけます