SDM(共同意思決定)とは?患者と医師が協力する医療の在り方

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医療知識

公開日:2023.09.27

SDM(共同意思決定)とは?患者と医師が協力する医療の在り方

SDM(共同意思決定)とは?患者と医師が協力する医療の在り方

SDMはShared Decision Makingの略で、「共同意思決定」「協働的意思決定」などと訳されます。患者さんと医師が協力して医療に関する意思を決定することです。

医師の皆さんは、病状などについて患者さんやご家族に説明し、理解してもらうよう日々努力していると思います。時には治療に関する意思決定の在り方に迷いを感じることもあるのではないでしょうか。そのような時は、SDMが解決のヒントになるかもしれません。

この記事では、近年注目が高まるSDMについて紹介します。

SDM(共同意思決定)による医療とは

SDMは「医療者と患者が協働して、患者個人の関心・嗜好・目標・価値観に沿った、患者にとって最善の医療上の決定を下すに至るコミュニケーションのプロセス」と定義されています*。医学情報だけに頼るのではなく、また患者さんの価値観にすべてを任せるのでもなく、医療者と患者さんが「協働」して意思決定をすることを指します。

EBMにも含まれている「患者視点」

現代の医療はEBM(Evidence Based Medicine)を重視して進められています。EBMと言えば、研究や試験に基づいたエビデンス(科学的根拠)を収集し、治療成績が高い医療を行うというイメージがあると思います。

本来、EBMは単に研究結果やデータだけから意思決定するものではなく、「最善の根拠」と「医療者の経験」、そして「患者さんの価値観」を合わせてより良い医療を実現しようとするものです。EBMの考え方が普及した近年、この「患者さんの価値観」について検討が不十分であると指摘されることがあります。

いくら成績が良い治療でも、患者さんの希望や意思を置き去りにした医療は、EBMに基づくとは言えないのです。

注目が高まるSDM

EBMに基づき、患者さんの希望や意思を反映する上で必要となるのが、SDMの手法です。

SDMという用語は以前からありましたが、2009年以降に研究論文の数が増加するなど、近年注目が高まっていると言えます。最新の医師国家試験出題基準(令和6年版)にも患者さんが持つ権利として追記されたり、学会主催セミナーのテーマになったりと、医師に必須の知識となりつつあります。

SDMの具体的な進め方と注意点

それでは、SDMの具体的な進め方、SDMを実践するための工夫、実践する上での注意点について見ていきましょう。

スリー・トーク・モデル

SDMを円滑に進めるための手法として「スリー・トーク・モデル」(three talk model、3段階会話モデル)が提唱されています。チーム・トーク、オプション・トーク、ディシジョン・トークという3つのトークから構成されます。

①チーム・トーク

チーム・トークとは、患者さんにとって最適な決定を下すためにチームを形成することを目的とした話し合いです。

医療の意思決定では、患者さんの価値観や意思が重要であることを確認し、患者さん本人が遠慮なく発言できるよう信頼関係を構築します。もし患者さん自身に話し合いをする心構えができていない場合や迷いがある時は、話し合いを先延ばしにする判断も必要になります。

②オプション・トーク

オプション・トークでは、さまざまな選択肢があることを説明します。ただ説明するだけでなく、患者さんが説明をどのくらい理解できているかを評価します。

理解度を確認するのに有用なのが、「ティーチバック」という方法です。ティーチバックとは、医療者が説明した内容を、患者さん本人の言葉で説明してもらうことです。医療者が「わかりましたか」「質問はありますか」などと尋ねた時、患者さんは十分理解できていなくても「はい」「ありません」と答えがちです。ティーチバックを行う、たとえば治療の選択肢について「私の説明が適切であったか確認したいので、もう一度あなたの言葉で説明していただけますか?」のように尋ねることで、そのような行き違いを防ぐことができます。

③ディシジョン・トーク

ディシジョン・トークとは、患者さんの希望や意向を明確にして、意思決定を下すための話し合いです。患者さんがこれまで聞いた情報を十分理解した上で、自分の価値観や意向に沿った意思決定を下すことが目標になります。

医療者は患者さんに「何が最も大切ですか?」と尋ね、深く考えるよう促します。一度決定を下したとしても、後から変更できること、不安や疑問があればいつでも相談できることも伝えておきます。

SDMを実践するための工夫

SDMの実践には話し合いを重ねる必要があるため、多くの時間を確保しなくてはなりません。忙しい日常診療の中でこうした時間を取るのは簡単ではなく、SDMを実践するのが難しいことがあります。そのため、患者さんの理解を助ける資料を作成しておくなど、事前の準備がSDMを実践する助けになります

また、前提として医療者と患者さんが共にSDMの概念を理解し実践しようとする意思、SDMに参加しようとする意思が重要になります。それを後押しするツールを提供している機関がいくつかあります。

たとえば、腎臓病SDM推進協会では、医療従事者用のSDM学習・教育サポートツールや、SDMを実践するためのサポートツールを準備しています。また、国立精神神経医療研究センター精神保健研究所の研究グループが開発したコンピューターシステム(SHARE)では、患者さんの希望をまとめておくノートや、医療者と患者さんの意思を共有するシート、各種資料を保存するツールなどが利用できます。これらは医療者と患者さんがSDMを実践する助けとなるでしょう。

SDMの実践が難しい症例への工夫

SDMの実践が難しい症例として挙げられるのが、認知症の患者さんや子どもの患者さんです。

認知症の方は記憶や注意の低下により、説明の理解や意思伝達がうまくいかないことがあります。それにより不安や抑うつを抱えていることも少なくありません。しかし、長い人生で培った価値観や信念は患者さんの中で生き続けており、ないがしろにして良いわけがありません。認知機能が低下するという病状の特徴を理解した上で、本人や家族に配慮しながらSDMを進めていく必要があります。

子どもの患者さんの場合は自分の意思が確立していないことも多く、SDMの実践が難しいケースがあり、実際にはご両親や保護者とコミュニケーションを取りながら進めていくしかないこともあります。しかし、子どもだからといって説明が必要ないわけではありません。子ども自身が納得し、同意して治療に臨むことができるようにするため、医療者の努力が必要です。

子どもに対してわかりやすく説明し、本人が納得すること、そして同意を得ることを「インフォームド・アセント」と言います。インフォームド・アセントもSDM同様、最新の医師国家試験出題基準(令和6年版)に掲載された知識であり、医師が知っておかなくてはならない「患者さんが持つ権利の一つ」になっています。

SDMとは異なる意思決定

医療における意思決定は、SDM以外にも複数の方法があります。代表的なものが「パターナリズム」と「インフォームド・アプローチ」です。SDMとはどのように異なるのでしょうか。

パターナリズム

パターナリズムとは、医療者の過去の経験や知識に基づき、意思決定をする方法です。患者さんの希望が入る余地はなく、医療者が最善と判断した治療方針を取ることになります。

急変時など、この「パターナリズム」が必要になることも少なくありません。

インフォームド・アプローチ

インフォームド・アプローチとは、医療者が患者さんに必要な情報と選択肢を伝えて、患者さんが「自己責任で」意思決定を行うことです。インフォームド・アプローチによって得られる患者さんの同意が「インフォームド・コンセント」です。

まとめ

笑顔で患者の不安を和らげる医師

SDMの概要と具体的な進め方、注意点について紹介しました。SDMは患者さんだけでなく、医療者も安心して治療を進めるために必要な意思決定方法です。しかし急変時など、現場では医師の判断で緊急処置を行うような「パターナリズム」が必要になることも少なくありません。どの方法が正しい・正しくないということではなく、その場に適した意思決定方法を広い視野を持って採用できるよう努力していくことが大切です。SDMが明日の診療の助けになることを願っています。

Dr.Ma

執筆者:Dr.Ma

2006年に医師免許、2016年に医学博士を取得。大学院時代も含めて一貫して臨床に従事した。現在も整形外科専門医として急性期病院で年間150件の手術を執刀する。知識が専門領域に偏ることを実感し、医学知識と医療情勢の学び直し、リスキリングを目的に医療記事執筆を開始した。これまでに執筆した医療記事は300を超える。

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