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医学部を卒業し医師国家試験に合格した後は、まず「研修医」として働くことになります。この記事では研修医とは何か、研修制度の概要や勤務先の選び方、研修修了条件や給料など、研修医に関する基本的な内容をまとめて解説します。
執筆者:Dr.SoS
研修医とは
「研修医」とは通常、医師1~2年目の臨床研修医(初期研修医)のことを指します。
かつては医師3年目以降で専門研修を受けている医師を「後期研修医」と呼んでいましたが、現在は「専攻医」と呼ばれ、研修医とは区別されています。
医師に臨床研修が必要な理由
医学部を卒業し医師国家試験を合格すると医師免許が与えられ、「医師」と名乗ることができるようになります。
医師や弁護士、公認会計士など、日本では有資格者しか携わることのできない業務があり、そのような業務を独占的に行える資格を「業務独占資格」と呼びます。医師は代表的な業務独占資格ですが、医師免許を取得するだけでは、診療行為を行うことはできません。また、診療所の開設や管理にも制約があります。医師免許は、ただ取得するだけでは効力を発揮しないわけです。
先日まで医学生だった人がいきなり一人で診療行為を行うことも、実際のところ難しいでしょう。
このような理由から、多くの医学部卒業生(※)はまず「臨床研修」を受け、医師資格を活用できるよう、とくに診療行為を単独で安全に行えるようレベルアップを目指します。
臨床研修は、医師法で下記のように定められています。
第十六条の二 診療に従事しようとする医師は、二年以上、都道府県知事の指定する病院又は外国の病院で厚生労働大臣の指定するものにおいて、臨床研修を受けなければならない。
医師法(昭和二十三年法律第二百一号)より引用
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000201
このように、臨床研修は法律で規定されています。実地経験の少ない医師が単独で診療行為を行えば患者さんに危険が及ぶおそれがあることから、このようなセーフティ期間を設けているとも言えるでしょう。
※基礎研究に従事する場合など、研修を受けない人もいます。
臨床研修の修了条件
臨床研修には修了基準が定められており、2年間の研修期間(90日間まで休止可能)と到達目標の達成、臨床医としての適性を満たすことが必要です。後者2つを解説します。
①臨床研修の到達目標
臨床研修の到達目標として、以下のような内容が定められています。
医師は、病める人の尊厳を守り、医療の提供と公衆衛生の向上に寄与する職業の重大性を深く認識し、医師としての基本的価値観(プロフェッショナリズム)及び医師としての使命の遂行に必要な資質・能力を身に付けなくてはならない。医師としての基盤形成の段階にある研修医は、基本的価値観を自らのものとし、基本的診療業務ができるレベルの資質・能力を修得する。
厚生労働省「医師臨床研修ガイドライン―2023年度版―」p.4より引用
https://www.mhlw.go.jp/content/001175316.pdf
【臨床研修の到達目標の概要】
項目 | 概要 |
---|---|
A. 医師としての基本的価値観(プロフェッショナリズム) | 1.社会的使命と公衆衛生への寄与 2.利他的な態度 3.人間性の尊重 4.自らを高める姿勢 |
B. 資質・能力 | 1.医学・医療における倫理性 2.医学知識と問題対応能力 3.診療技能と患者ケア 4.コミュニケーション能力 5.チーム医療の実践 6.医療の質と安全管理 7.社会における医療の実践 8.科学的探究 9.生涯にわたって共に学ぶ姿勢 |
C. 基本的診療業務 | 1.一般外来診療 2.病棟診療 3.初期救急対応 4.地域医療 |
厚生労働省「医師臨床研修ガイドライン―2023年度版―」をもとに作成
https://www.mhlw.go.jp/content/001175316.pdf
「医師臨床研修指導ガイドライン」では、この到達目標を達成するための「方略」(実務研修の方略)も整理しており、外来または病棟で経験すべきものを下記のとおり示しています。
数 | 例 | |
---|---|---|
経験すべき症候 | 29 | ショック、体重減少・るい痩、発疹、黄疸、発熱、もの忘れ、頭痛、めまい など |
経験すべき疾患・病態 | 26 | 脳血管障害、認知症、急性冠症候群、心不全、大動脈瘤、高血圧、肺がん など |
その他(経験すべき診察法・検査・手技など) | ― | ①医療面接 ②身体診察 ③臨床推論 ④臨床手技:気道確保、人工呼吸、胸骨圧迫、圧迫止血法、包帯法、採血法、注射法、腰椎穿刺 など ⑤検査手技:血液型判定・交差適合試験、動脈血ガス分析(動脈採血を含む)、心電図の記録、超音波検査 など ⑥地域包括ケア・社会的視点 ⑦診療録 |
厚生労働省「医師臨床研修ガイドライン―2023年度版―」をもとに作成
https://www.mhlw.go.jp/content/001175316.pdf
この表ではすべての例を記載できていないため、より詳細をおさえたい場合はガイドライン原本を確認してください。
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②臨床医としての適性
臨床医としての適性は「安心、安全な医療の提供」「法令・規則の遵守」という基礎的な内容です。研修期間を通じて、これらを実践できる人材かどうかが見極められます。
研修医の年齢は?
つづいて、研修医の年齢についても見ていきましょう。
医学部は6年制のため、高校を卒業してすぐに医学部へ進学しストレートに卒業できた場合、研修医になる年齢は24歳です。
しかし、大学受験で浪人したり、在学中に留年したりする場合もありますし、社会人経験を経てから医学部に入学(編入)して医師になるケースもあります。こうしたさまざまな背景を反映してか、研修医の平均年齢は27.8歳*1となっています。
一般の4年制大学を卒業してすぐに就職すると、社会人1年目は22歳。27~28歳というと、仕事にもだいぶ慣れてきた年齢です。しかし医師の世界では、20代後半はまだまだキャリアが始まったばかりというわけです。
研修医の業務内容
通常、医師は一つの診療科(内科、外科、産婦人科など)を自分の専門科目として、診療行為にあたります。
しかし研修医の場合は、複数の診療科をおよそ1~2カ月ずつ研修していきます。この仕組みをスーパーローテート方式と呼びます。
どの診療科をまわる(=ローテートする)かは、研修の必修科目とされている診療科(内科・外科・小児科・産婦人科・精神科・救急・地域医療)に加えて、選択科目として自由に選べる診療科によって決まります。先述の通り研修医の間に経験しなければいけない症候や疾患は複数の診療科にまたがっているため、「内科に1年間居続ける」とか、内科の中でも「消化器内科だけ3カ月間経験する」ということはなく、さまざまな科目・分野を幅広くローテートするのが一般的です。
日中は、ローテート中の診療科で臨床経験を積みますが、研修医は原則として単独で診療行為にあたることはできません。このため指導医(3年目以降の医師)と一緒に入院患者さんを担当し、検査や治療方針を指導医と相談しながら決めることが、研修医の主な業務内容です(末梢静脈穿刺など、侵襲性の低い診療行為は研修医単独で行える場合があります)。外科系の診療科では担当患者さんの手術に立ち会うことも多くあります。
入院業務と比べ、外来の初診を担当する機会は多くありませんが、指導医の診察前に予診を取ったり、再診の患者さんの外来を見学する機会もあるでしょう。
各科のローテート期間の最後には、担当症例のレポート作成やプレゼンが課せられたり、論文抄読会に参加したりと、学術的な機会が設けられている場合もあります。
こうした日中の業務以外に、夜間や土休日の救急外来にも対応する場合が多くあります。日中と比べて病院にいる医師が少なくなるため、研修医が診察や治療方針について考える機会も増える傾向があります。
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研修医と医学生の違い:診療行為の範囲
研修医も学習者であることから、医学生の違いは一見わかりづらいです。しかし研修医は医師免許を持っていますから、資格上は立派な医師の一員です。
一方で、医学生は学生ですから、医師ではありません。しかし医学生も病棟での実習を経験します。"Student Doctor"と呼ばれ、一定条件下における医行為が許されています。
とはいえ、研修医の診療行為は仕事であり報酬も発生しますが、学生は学費・授業料を納めて実習に参加している立場です。研修医と比較すると「お客様」「見学」という趣が強いでしょう。
研修医の勤務先は「マッチング」で決まる
一般的な就職活動と違い、研修医の勤務先は医師臨床研修マッチング協会が統括する「マッチング制度」で決まります。
このシステムでは、医学生と研修病院が相互に志望内容を登録します。医学生は志望する病院に順番を付けて登録し、病院側は採用したい医学生を順番に登録します。両者の希望が一致すると "マッチング"となり、研修先(研修プログラム)が内定します。
マッチングは医学部6年次に行われます。夏ごろに面接試験や筆記試験があり、順位の登録が行われます。結果は10月下旬ごろに公表されます。
2023年度は10,000名ほどがマッチングに参加し、90.5%がマッチしました。64.3%が第一希望でマッチした一方、アンマッチ(就職先が見つからなかった人)は9.5%でした*2。通常の就活と比べれば、就職先が見つからない可能性は低いでしょう。
最初のマッチングで就職先が決まらなくても、2次・3次募集に参加することが可能です。ただし注意点として、マッチングで内定した勤務先を別の勤務先に変更することや、内定を辞退することはできません。
なお、研修医の教育を行うには指導医が必要ですから、研修プログラムを有している病院は基本的に大きな病院、つまり大学病院や公的病院が中心です。現在の研修制度が始まったのは2004年ですが、それ以前は医学部時代に所属していた大学病院で研修を受けることが一般的でした。現在もこの流れを引き継ぎ、自大学で研修する人が多くを占める病院もありますが、全体としては "市中病院"と呼ばれる「大学病院以外の病院」に就職する医学生の割合が増えています。
これにはさまざまな理由が考えられますが、大学病院の方が研修医の推計年収や住宅手当が低いといった待遇面の違いが挙げられます。大学病院の医局員数が減ることで、大学病院が担っている地域の医療機関への医師派遣機能が低下することが問題視されていますが、マッチング制度はこうした傾向を顕在化・加速させるきっかけの一つと言われています。
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研修医の給料は?
最後に、研修医の給料についても見ていきましょう。
少し古いデータですが、厚生労働省が2011年にまとめた詳細な調査によると、当時の研修医の平均年収は1年次が約435万円、2年次が約481万円*3でした。
このとき、都道府県別の年収分布も報告されています。医師以外の職種では、一般的に都心部のほうが地方より平均年収や最低賃金が高い傾向にあります。しかし、医療は地方でも需要があり(むしろ地方のほうがニーズが高い)、研修医の平均年収は都心部で低く地方部で高い傾向があります。
歴史的には、研修医は給料が安く立場も不安定で、労働条件が極めて悪い時代がありました。これが1960年代の大学紛争(東大紛争)のきっかけとなったことはよく知られています。しかし現在は研修医制度が確立され、研修医の給料も保証されました。立場も「指導医の指導のもとで診療にあたる」と明確に定められるなど、地位や待遇は向上していると言えます。
2024年度からは「医師の働き方改革」も導入されるため、研修医を含む医師全体の待遇改善はもちろん、これによって質の高い医療体制を構築・維持できるかどうかが注目されます。
まとめ
今回は「研修医」について見てきました。研修医は医師になったばかりで"研修"中の身ではありますが、医師免許を取得した、立派な医師の一員です。ただし単独で行えることは限られているため、2年間の研修で経験を積み学習を重ねることで、名実ともに医師として幅広い活動が行えるようになります。その後の医師生活・キャリアの基盤となる重要な期間と言えるでしょう。
医師臨床研修制度のホームページ|厚生労働省
医師法(昭和二十三年法律第二百一号)|e-Gov 法令検索
医師臨床研修に関するQ&A(研修医編)|厚生労働省
医師法第16条の2第1項に規定する臨床研修に関する省令の施行について(平成15年 6月12日医政発第0612004号通知、平成28年7月1日一部改正)|厚生労働省
臨床研修を修了した者であることの確認等について(平成26年5月28日医政医発0528第2号通知)|厚生労働省
医療法(昭和二十三年法律第二百五号)|e-Gov 法令検索
医師臨床研修指導ガイドライン―2023年度版―|厚生労働省
令和2(2020)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況|厚生労働省(*1)
研修医が単独で行うことのできる診療行為の基準|慈恵大学
シームレスな医師養成に向けた共用試験の公的化といわゆるStudent Doctorの法的位置づけについて(医道審議会医師分科会報告書)|厚生労働省
いわゆるStudent Doctorを公的に位置づけた場合の診療参加型臨床実習|厚生労働省
医師臨床研修マッチングについて|医師臨床研修マッチング協議会
令和5年度の医師臨床研修マッチング結果をお知らせします|厚生労働省(*2)
臨床病院における研修医の処遇|厚生労働省 第3回医師臨床研修制度の評価に関するワーキンググループ(平成23年11月)(*3)
令和5年度地域別最低賃金改定状況|厚生労働省
医師はどう育てられてきたか(前編)|日本医師会 ドクタラーゼ
研修医の期間と研修先を選ぶ際のポイントとは?
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執筆者:Dr.SoS
皮膚科医・産業医として臨床に携わりながら、皮膚科専門医試験の解答作成などに従事。医師国家試験予備校講師としても活動している。
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