タスク・シフト/シェアとは?医師の働き方改革に向けた医療現場の変化【現役医師解説】

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公開日:2023.11.10

タスク・シフト/シェアとは?医師の働き方改革に向けた医療現場の変化【現役医師解説】

タスク・シフト/シェアとは?医師の働き方改革に向けた医療現場の変化【現役医師解説】

日本人の労働時間が世界的に見て長い傾向にあることが知られるようになって久しく、とくに医師の労働時間はより長い傾向にあります。「タスク・シフト」および「タスク・シェア」(以下、タスク・シフト/シェア)は医師の労働時間を減らすための取り組みであり、医療業界全体で議論が進められています。

この記事では主にタスク・シフトについて、各専門職がどのように取り組むことができるのか、論文紹介も交えながら解説します。

三田大介医師プロフィール写真

執筆者:三田 大介

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タスク・シフトとは

タスク・シフトとは、医師の業務のうち他の職種に委ねることができる業務を移管することです。他の分野での言葉を医療現場に適応したのではなく、医療現場、とくに医師に焦点を当てて世に出た言葉です。

医師の業務の中の「医行為」とは、「医師の医学的判断をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為」*1とされています。その中でも一部の医行為は絶対的医行為であり、医師以外が行ってはなりませんが、相対的医行為と呼ばれるものは、看護師などの他職種が診療の補助として行うことが認められています。この相対的医行為をより多くのケースで他職種に移管し、医師が診療業務などに専念、また労働時間を削減できるようにすることが、タスク・シフトの狙いです。

医師が行う業務は、医行為だけではありません。書類業務などもあり、それらについてもタスク・シフトが求められています。検査の内容を患者さんに説明する際に動画で代用することも、ある種のタスク・シフトと言えるでしょう。

タスク・シェアとは

他職種への業務移管ではなく、複数の職種で業務を分け合う場合は「タスク・シェア」と呼ばれます。他職種へのシェアとは限らず、医師から別の医師へシェアすることもあります。

たとえば、手術が必要な患者さんの病棟管理をホスピタリストが行う、夜間入院が必要な(しかし超緊急ではない)患者さんを当直医が朝まで管理する、主治医制からチーム制へ変更する、などが「タスク・シェア」にあたります。

タスク・シフトが導入された背景

日本の労働時間は世界的に見て長いことが知られており、その中でも医師の労働時間は非常に長いです。厚生労働省の2019年の報告では、病院勤務医のうち約18%が年960時間、約11%が年1,440時間、約10%がそれ以上の時間外労働をしています。

過労死ラインが月平均80時間と言われていることを考えると、医師の労働時間は長過ぎると言わざるを得ません。インフラとも言える医療が、医師の自己犠牲的な長時間労働により支えられているのです。

このことは非常に重く受け止められ、2021年には「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律」が可決されました。概要は以下の4点です。

①医師の働き方改革

2024年4月1日に始まる医師の時間外労働の規制に向けて、講じる措置をまとめています。具体的には、医療機関における医師労働時間短縮計画の作成、地域医療の確保や研修実施の観点からやむを得ず高い上限時間を適用する制度の創設、健康確保措置の実施などがあります。

②各医療関係職種の専門性の活用

医療関係職種(=医療従事者)の業務範囲を見直し、「タスク・シフト/シェアの推進」と「各職種の業務範囲の拡大」を行えるよう、診療放射線技師法や救急救命士法などの一部の法を改正するとしています(その後、2021年10月に改正)。

医師養成課程についても見直され、共用試験に合格した医学生が臨床実習として医業を行うことができる旨も明確化されました。これについては2023年4月の医師法改正で反映されています。

③地域の実情に応じた医療提供体制の確保

新興感染症拡大時における医療提供体制の検討や、地域医療構想の実現に向けた医療機関の取り組み支援について明文化しています。

④その他

持ち分の定めのない医療法人への移行計画認定制度が延長されました。

このように、法律においてもタスク・シフトの必要性が定められています

タスク・シフトを導入するメリット

タスク・シフトを導入・推進することの第一のメリットは、医師の労働時間短縮により、医師自身の健康を確保できることです。加えて各医療職にとっては、より高度に専門性を活かすことができます。これら双方の結果、「質・安全が確保された医療を持続可能な形で患者に提供」していくことを国は目指しています。

医療機関にとっては、医師の求人に役立つかもしれません。厚生労働省が2020年に実施した医師の勤務実態調査では、時間外労働が年1,860時間を超える医師がいる病院は、日本の医療機関全体では21%、大学病院に限ると46%あると報告されています。今後はいっそう、労務管理が徹底されている病院のほうが医師に選ばれやすくなると言えるでしょう。

タスク・シフトを導入するデメリット・課題

一方で、タスク・シフトされる他職種にとっては、「業務が増える」ことで負担が大きくなる可能性をはらむことが懸念点であり、タスク・シフトのデメリットとして挙げられます。すでにギリギリの状態でまわっている現場であれば、元の業務にも支障をきたしかねません。

法律を改正しても、それを現場で実施できるまでには、スタッフの教育や、院内ルールの整備などを行う必要があり、そのコストがかかることもデメリットです。こうしたデメリットを乗り越えるための人的配置の見直しなどが、課題と言えます。

タスク・シフト/シェアの具体例

Group of medical workers pointing at chest x-ray and discussing possibility of terminal disease

実際にタスク・シフト/シェアを行うにあたって、各職種でどのような取り組みをすればよいのでしょうか。これについては、厚生労働省による各都道府県知事宛の通知文書「現行制度の下で実施可能な範囲におけるタスク・シフト/シェアの推進について」*2が参考になります。

職種を問わず実施できるタスク・シフト/シェア

一部の職種は、その業務を「医師の指示の下」に進めるよう、法律で定められています。タスク・シフト/シェアする業務の中にも医師による事前の取り決めが必要だったり、医師の承認が必要だったりするものがあるため、注意が必要です。

逆に、特定の資格でなくともタスク・シフト/シェアを進められる業務もありますので、まずはそれらを紹介します。これらは部門や施設により職種が特定される業務ではないため、タスク・シェアに近い内容です。

【職種を問わず担える業務】
  • 診療録の代行入力
  • 各種書類の記載(最終的に医師の確認が必要)
  • 医師の診察前の問診票に従って病歴などを聴取する業務
  • 日常的に行われる検査に関する定型的な説明、同意書の受領
  • 入院時のオリエンテーション
  • 院内での患者の移送、誘導
  • 症例実績や各種臨床データの整理 など

看護師に対するタスク・シフト/シェア

看護師は従来から医師による診療の補助を行っていることから、タスク・シフト/シェアで最も大きな働きを期待されている職種です。日本看護協会も『看護の専門性の発揮に資するタスク・シフト/シェアに関するガイドライン及び活用ガイド』を発行するなど、医師のタスク・シフト/シェアに積極的に取り組んでいます。

【看護師が担える業務】
  • 特定行為の実施
  • 事前に取り決めたプロトコールに基づく薬剤の投与、採血・検査の実施
  • 救急外来における医師の事前の指示や事前に取り決めたプロトコールに基づく採血・検査の実施
  • 注射、採血、静脈路の確保 など

他の職種と違うところは特定行為でしょう。特定行為研修を修了した看護師は、医師が予め作成した手順書(包括的指示)があれば、より高度な医行為を実施できます。これには人工呼吸管理や輸液の調整、持続点滴中の薬剤の投与量の調整、中心静脈カテーテルの挿入などが含まれており、医師にとって看護師は非常に頼もしい存在です。

薬剤師に対するタスク・シフト/シェア

薬剤師へのタスク・シフト/シェアでは、薬剤の面から医師の負担軽減と医療の質向上を大いに期待できます。近年は高齢化と医療の発展を背景に、比較的新しい薬剤を多剤併用している患者さんが少なくありません。これらが複数の科や医療機関で処方されている場合も多く、患者さんに対する薬剤師の関与は非常に重要となっています。

【薬剤師が担える業務】
  • 周術期や病棟内における薬学的管理
  • 事前に取り決めたプロトコールに沿って行う、処方薬剤の投与量変更
  • 薬物療法に関する説明
  • 医師への処方提案などの処方支援
  • 自己注射の実技指導 など

臨床検査技師に対するタスク・シフト/シェア

臨床検査技師の業務は検体検査、生理機能検査、細菌検査など多岐にわたるため、施設・部門によりタスク・シフト/シェアできるものが異なります。

【臨床検査技師が担える業務の例】
  • 心臓・血管カテーテル検査・治療における直接侵襲を伴わない検査装置の操作
  • 持続陽圧呼吸療法導入時の陽圧の適正域の測定
  • 病棟・外来における採血業務
  • 細胞診や超音波検査などの検査所見の記載 など

好事例として、すでに静脈路確保(藤田医科大学病院)、造影超音波検査の関連業務(済生会松阪総合病院)、肛門内圧検査(四日市羽津医療センター)などが報告されています*3。それぞれ医師、看護師、さらには患者さんの負担が減ったとのことです。

リハビリテーション専門職に対するタスク・シフト/シェア

理学療法士、作業療法士、言語聴覚士は、リハビリテーションに関する各種書類の記載、説明、書類交付を行うことができます。

加えて、作業療法士は作業療法を実施するにあたっての運動、感覚、高次脳機能、ADLなどの評価が、言語聴覚士は侵襲性を伴わない嚥下検査、食物形態の選択、高次脳機能障害・失語症・言語発達障害などの評価に必要な臨床心理・神経心理学検査の実施を行うことができるため、その推進が目指されています。

タスク・シフトに関する日本での調査

国からのお達しで医師の働き方改革が多少なりとも進行している中、現場で働く医師は何を考え、どのような変化を感じているのでしょうか。日本の調査報告を紹介します。

2022年に発表された小児科における調査*4では、約15%の医師が「タスク・シフトがまったく進んでいない」と感じていることが報告されました。一方で約60%の医師がタスク・シフトにより「医療の質が向上した」と回答しています。タスク・シフトにより労働時間を1日あたり1~2時間程度削減できたと感じている医師が最も多いこともわかりました。

同じく2022年に発表された産婦人科における調査*5では、タスク・シフトについて「順調に進んでいる」と回答した医師が3.4%、「やや進んでいる」が42.4%、「あまり進んでいない」が15.8%、「ほとんど進んでいない」が34.6%でした。また、約9%の医師が、タスク・シフトによる医療の質の低下を懸念していることが示されました。

タスク・シフトのエビデンス

標準治療や制度にエビデンスが求められるように、タスク・シフト/シェアについても論文が報告されつつあります。

たとえば、欧州のプライマリ・ケアにおいて、医師から看護師へのタスク・シフトについてまとめたシステマティックレビュー*6があります。慢性疾患を対象にしたもので、Nurse Practitioner(ナース・プラクティショナー/診療看護師:医師の指示を受けずに一定レベルの診断や治療などを行うことができる職種)によるケアを行ったところ、医師主導のケアとの間に有意な差はありませんでした。とくに糖尿病における心血管リスクの低下についてはより良い結果が出ており、ケアの質向上も期待できます。

低・中所得国におけるタスク・シフトのシステマティックレビュー*7では、タスク・シフトが医療のコスト削減と提供効率の向上につながることが提唱されました。国の背景や医療制度も違うため、一概に日本に当てはめることはできません。しかし、今後生産人口が減少していくという点は日本も同じであり、タスク・シフト/シェアが医療費の有効活用にもつながるかもしれない、という期待が持てる報告と言えます。

タスク・シフトで医師が意識したいこと

病院内に立つ白衣の男性医師

タスク・シフトが現場で働く医師に大きな恩恵があることは、ご理解いただけたかと思います。国が推進していることではありますが、実際の医療現場が変化するまでには時間がかかりますし、そもそも医師や病院管理職以外のスタッフが、医師の働き方改革について知っているとは限りません。

「国が言っているのになぜやらないのか」などと言うことは、チーム医療の理想から外れることであり、自分自身だけでなく、患者さんへの不利益にもなるでしょう。タスク・シフト/シェアは他職種に新たな労働を生むものですので、お互い気持ちよく働けるよう、意識的なコミュニケーションが必要です。

そもそも医師以外の他職種はそれぞれ専門家であり、各業務のプロフェッショナルです。医師は他職種に対する敬意を忘れないようにしたいものです。

まとめ

この記事ではタスク・シフトを中心に、タスク・シェアも含めて解説しました。実際の医療現場が国の狙い通りになるとは限りませんし、先行事例や文献をそのまま現場に当てはめることもできません。具体的に推進していくには、施設ごとに最も適した方法があるはずです。取り入れるべきところは取り入れて、国民全体がより多くのメリットを得られるような取り組みにつながるよう、私たち医師一人ひとりが行えることを、しっかり取り組んでいきたいですね。

三田 大介

執筆者:三田 大介

理学療法士から再受験し、現在はリハビリテーション科医師として病院勤務。より多くの人に正しい医療知識を届けたいとライター活動を開始。医師、理学療法士の両方の視点を活かしながら、企業などのオウンドメディアを中心に医療・健康に関する記事を執筆。


▶X(旧Twitter)|@sanda_igaku

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