「アゾール系抗真菌薬」の特徴と使い分けガイド【医師向け】

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医療知識

公開日:2025.01.21

「アゾール系抗真菌薬」の特徴と使い分けガイド【医師向け】

「アゾール系抗真菌薬」の特徴と使い分けガイド【医師向け】

感染症科や皮膚科でなくとも、医師であれば処方機会のある抗真菌薬。抗菌薬ほどではないものの、スペクトラムの把握に悩む先生も少なくないのではないでしょうか。

この記事では、抗真菌薬の中でも種類の多い「アゾール系」について、特徴や注意点を解説します。

※本資料の掲載内容は筆者個人の見解も含みます。診療にあたっては最新のガイドラインや治療指針、各種薬剤の添付文書などをご確認ください。

副島裕太郎医師プロフィール写真

執筆者:副島 裕太郎

公立大学法人横浜市立大学附属病院 血液・リウマチ・感染症内科

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「アゾール系抗真菌薬」とは

アゾール系抗真菌薬は、真菌の細胞膜を構成するエルゴステロールの合成を阻害することで、真菌の増殖を抑える薬剤です。

エルゴステロールは、真菌の細胞膜の重要な構成成分です。その合成が阻害されると細胞膜が不安定になり、真菌は増殖できなくなります。このエルゴステロールの合成過程を阻害するのが「アゾール系抗真菌薬」です。

ちなみに、この合成にシトクロム450(CYP)という代謝酵素が関連するため、アゾール系では薬物相互作用が多く関わってきます。

アゾール系抗真菌薬の種類と特徴

それでは、具体的なアゾール系抗真菌薬をいくつかご紹介します。

※「通常使用量」は、感染症の種類や重症度によって異なります。
※筆者個人の見解も含むため、診療にあたっては最新のガイドラインや治療指針、各種薬剤の添付文書などをご確認ください。

フルコナゾール(FLCZ)

商品名

ジフルカン®

特徴

経口吸収率が90%以上と高く、静脈内投与とほぼ同等の血中濃度が得られます。よって特別の理由がなければ経口投与となる薬剤です。
組織移行性も良好で、髄液・硝子体・尿路にも移行しやすいため、これらの臓器の感染症にも有効です。唾液への移行も良いためカンジダ食道炎の治療にも重宝されています。
腎排泄の薬剤であるため、腎機能低下例では減量が必要です。

スペクトラム・適応となる病態

  • カンジダ:C. albicansC. parapsilosisC. tropicalisに対して最も活性が高いです。一方でC. kruseiC. glabrataへの有効性は低いです。
  • クリプトコックス:アムホテリシンB使用後の維持療法に使用することが多いです。
  • アスペルギルスなどの糸状菌には無効です。

通常使用量

100~400 mg/日

副作用

  • 肝機能障害
  • 消化器症状(嘔気・嘔吐、下痢など)
  • 脱毛(可逆性)
  • 皮疹、頭痛 など

イトラコナゾール(ITCZ)

商品名

イトリゾール®

特徴

フルコナゾールのスペクトラムに加えてアスペルギルスにも有効性があります。しかし脂肪に親和性が高く、尿や髄液、眼球内への移行は悪いです。
経口吸収率も低く、カプセル剤は食後に内服しないと吸収が落ちます。内用液は経口吸収率が改善されていますが、空腹時内服となっています。

スペクトラム・適応となる病態

  • カンジダ
  • クリプトコックス
  • アスペルギルス(現在はボリコナゾールが第一選択薬)
  • 二相性真菌(ヒストプラスマ、ブラストミセス、コクシジオイデス、スポロトリクムなど)

通常使用量

液剤:100~200 mg/日

副作用

  • 消化器症状(嘔気・嘔吐、下痢など)
  • 肝機能障害
  • 心不全:アントラサイクリン系の使用中は要注意です。
  • 末梢神経障害 など

ボリコナゾール(VRCZ)

商品名

ブイフェンド®

特徴

比較的新しいアゾール系薬であり、広範な抗真菌スペクトラムを有します。とくにアスペルギルス症に対して高い有効性を示し、第一選択薬として使用されます。
経口吸収率も高く、静脈内投与とほぼ同等の血中濃度が得られます。髄液移行性も良好です。
しかし薬物相互作用が多いため、併用薬に注意が必要です。肝機能低下時には減量が必要です。血中濃度測定が可能であり(保険収載)、トラフ値は感染症の種類にもよりますが、有効性に関しては1~2 μg以上、安全性に関しては4 μg未満(欧米人よりは低め)が推奨されています。

スペクトラム・適応となる病態

  • アスペルギルス
  • カンジダ
  • スケドスポリウム
  • フサリウム

通常使用量

  • 内服:400 mg 12時間ごと2回→以後200 mg 12時間ごと(体重≧40 kg)
  • 静注:6 mg/kg 12時間ごと2回→以後4 mg/kg 12時間ごと

副作用

  • 視覚障害:最初の数回の投与で霧視、羞明などがみられることがあります。原因は不明とされています。
  • 肝機能障害
  • 消化器症状(嘔気・嘔吐、下痢など) など

ポサコナゾール(PSCZ)

商品名

ノクサフィル®

特徴

広範な抗真菌スペクトラムを有し、アスペルギルス、カンジダ、接合菌など、さまざまな真菌に対して有効性を示します。

スペクトラム・適応となる病態

  • 深在性真菌症の予防(造血幹細胞移植患者や好中球減少が予測される血液悪性腫瘍患者で)
  • ムーコルなどの接合菌
  • フサリウム
  • 黒色真菌
  • コクシジオイデス

通常使用量

300 mg 1日2回でローディング → 300 mg 1日1回

副作用

  • 消化器症状(嘔気・嘔吐、下痢、便秘など)
  • 肝機能障害 など

イサブコナゾール(ISCZ)

商品名

クレセンバ®

特徴

2023年に国内で販売が開始された、新しいアゾール系抗真菌薬です。前駆体であるイサブコナゾニウム(BAL8557)は、水溶性が高く、静脈内投与に適しています。
投与後、体内で活性代謝物であるイサブコナゾール(BAL4815)に変換されます。

スペクトラム・適応となる病態

  • アスペルギルス
  • ムーコル
  • カンジダ
  • クリプトコックス

通常使用量

200 mg 8時間ごとを6回 → その後は200 mg 1日1回

副作用

  • 消化器症状(嘔気・嘔吐、下痢など)
  • 肝機能障害 など

アゾール系以外の主な抗真菌薬

アゾール系以外の系統の抗真菌薬についても、一部を紹介します。

キャンディン系:ミカファンギン(MCFG)

商品名

ファンガード®

特徴

真菌の細胞壁を構成するβ-Dグルカン合成阻害の機序で作用します。
カンジダには殺菌的に作用し、深在性カンジダ感染症(とくにnon-albicansの場合)の第一選択です。
腎機能で投与調節が不要なこと、他剤との相互作用がアゾール系と比べて少ないのも特徴です。クリプトコックスには無効です。
アスペルギルスにも有効ですが静菌的に作用するため、予防的投与で用いることが多いです。
CYP450で代謝されないため薬物相互作用も少なく、目立った副作用もないため使いやすい薬剤です。

スペクトラム・適応となる病態
  • カンジダ(アゾール系が無効なnon-albicansにも有効であることが多い)
  • アスペルギルス(通常は殺菌的に作用するボリコナゾールを使用)
通常使用量
  • 治療:100~150 mg・24時間ごと
  • 予防:50 mg・24時間ごと
副作用
  • 薬剤熱
  • 消化器症状 など
  • ※ほかの抗真菌薬に比べて少ない

ポリエンマクロライド系:リポソーマルアムホテリシンB(L-AMB)

商品名

アムビゾーム®

特徴

抗真菌薬としてはもっとも古く、広域かつ強力です。真菌の細胞膜を破壊し殺菌的に作用します。
スペクトラムは広く、酵母菌・糸状菌・二相性菌のほか、接合菌(ムーコルなど)にも有効な薬剤です。
古典的なアムホテリシンBは腎機能障害や薬剤性の発熱などの副作用が強かったため、副作用が少ない脂質(リポソーマル)製剤が開発されました。
ちなみにこの脂質製剤は尿路への移行性は悪く、尿路感染症の治療には推奨されません。

スペクトラム・適応となる病態
  • 酵母菌(カンジダ、クリプトコックスなど)
  • 糸状菌(アスペルギルスなど)
  • 二相性菌
  • ムーコルなどの接合菌
通常使用量

3~5 mg/kg・24時間ごと

副作用
  • 腎障害
  • 電解質異常(低カリウム血症、低マグネシウム血症)
  • 発熱 など

フルシトシン(5-FC)

商品名

アンコチル®

特徴

真菌内で5-フルオロウラシル(抗がん剤として有名)となり、DNA合成を阻害して作用する薬剤です。単剤では急速に耐性となるため、他剤と併用する薬剤です。
髄液(血清の75%程度)を含め、全身の臓器移行性は良好です。

スペクトラム・適応となる病態
  • クリプトコックス
  • カンジダ(重症例では考慮)
  • (アスペルギルス:ある程度活性はあるが、使用機会は少ない)
通常使用量
  • カンジダ:12.5 mg/kg・6時間ごと
  • クリプトコックス:25 mg/kg・6時間ごと
副作用
  • 骨髄抑制:併用薬のアムホテリシンBで腎機能低下が起こると出やすいため注意が必要です。
  • 消化器症状(下痢、腹痛など) など

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今回はアゾール系を中心に、主な抗真菌薬の特徴を紹介しました。通常使用量や適応菌種、代表的な商品名、使い分けのポイントなどをコンパクトにまとめた早見表も用意していますので、この機会にぜひご活用ください。PDF形式なので出力して持ち運ぶのはもちろん、タブレットやスマートフォンでも閲覧しやすくなっています。

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副島 裕太郎

執筆者:副島 裕太郎

公立大学法人横浜市立大学附属病院 血液・リウマチ・感染症内科

2011年 佐賀大学医学部医学科卒業。2021年 横浜市立大学大学院医学研究科修了。
日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医、日本リウマチ学会 リウマチ専門医・指導医、日本化学療法学会 抗菌化学療法認定医。感染症およびリウマチ・膠原病疾患の診療・研究に従事している。

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