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重症患者の尿量を管理、尿閉患者の排尿ルートを確保...。尿道カテーテルの留置は医療現場で頻度が高い処置のひとつです。しかし、不必要な漫然とした尿道カテーテル留置は、尿路感染症を引き起こす原因となります。とくに免疫力が低い高齢者が尿路感染症を発症すると、敗血症に進行する可能性もあるため、適正な使用を心がけなければなりません。
そこで今回は、尿道カテーテルの長期間留置が与える影響と適切な使用方法について詳しく解説します。
執筆者:成田 亜希子
尿路感染症の多くは医原性?
尿路感染症は、頻度が高い感染症です。本来は無菌状態である膀胱に尿道口から細菌が入り込み、尿管、腎臓へ上行感染を起こします。尿路感染症の原因として尿管結石など様々なものがあげられますが、医療機関内で発生する尿路感染症の8割以上は尿道カテーテルの留置によるものとされています。
短期間の留置であっても挿入時に外陰部に付着した大腸菌などが膀胱内に入り込んで尿路感染症を引き起こすことがありますが、30日以上にわたるような長期留置では緑膿菌や黄色ブドウ球菌などによる複数菌感染が多くなります。さらに多剤耐性菌が生じやすいのが特徴であり、治療に難渋するケースも少なくありません。
症状には個人差がありますが、重症な場合には急激に腎盂腎炎を発症し、敗血症に進行するケースも多々あります。その一方で、長期間にわたって尿道カテーテルを留置している患者さまのなかには、尿検査で細菌尿を認めるものの無症状であるケースもあります。このように、尿道カテーテルの留置は、尿量管理や排尿ルート確保の観点からみれば非常に有用な処置ですが、様々な問題を引き起こす可能性があるため、慎重な判断が求められるのです。
尿道カテーテルはなぜ尿路感染症のリスクになる?
尿道カテーテルの留置によって細菌が膀胱内に侵入する経路は「カテーテルの外側」と「カテーテルの内側」の2つのルートに分けられます。では、尿道カテーテルの留置がなぜ尿路感染症を引き起こすのか、それぞれのルートごとに詳しく原因を見てみましょう。
カテーテルの外側から細菌が侵入
尿道カテーテルを挿入する際に尿道に存在する細菌が膀胱内に押し込まれたり、外陰部に潜んでいる細菌がカテーテルと尿道の隙間を通って入り込んだりすることによって侵入するルートです。尿道カテーテルを挿入すると、カテーテルの外表面と尿道の上皮にはバイオフィルムが形成されると考えられています。このバイオフィルム内部は尿の物理的な流れの影響を受けにくいうえに抗菌薬が効きにくくなるため、一度細菌が侵入するとカテーテルを交換しない限り根絶することは困難となります。
カテーテルの内側から細菌が侵入
カテーテルにつながった採尿バッグなどに付着した細菌が、カテーテルの内側を通って上行性に膀胱へ侵入するルートです。多くの医療機関では医原性の尿路感染症を予防するため閉鎖式の採尿バッグが使用されていますが、カテーテル留置後7~10日には約25~50%に細菌尿が認められ、30日以上の留置ではほぼ100%が細菌尿であったとの報告もあります。しかし、開放式採尿バッグはカテーテル留置後4日ほどでほぼ100%に細菌尿が認められることに比べれば、尿路感染症を発症するリスクは大きく低下します。また、カテーテルと採尿バッグとの接続部も細菌が侵入しやすい部位であるため適切な管理が必要となります。
尿道カテーテル留置による尿路感染症を予防するには?
尿道カテーテルを留置すると、清潔操作を徹底していても尿路感染症を引き起こす可能性があります。また、カテーテルを通して膀胱内に侵入した細菌は薬剤耐性を持ちやすく、場合によっては多剤耐性菌の院内感染が生じることもあります。とはいうものの、尿道カテーテル留置は医学的に必要な処置の場合は避けられないケースも。では、尿道カテーテルを留置する場合、尿路感染症を防ぐにはどのようなことに注意すればよいのか詳しく見てみましょう。
正しい挿入と管理方法を徹底する
尿道カテーテル留置による感染症を予防するには、第一に無菌操作を徹底することが大切です。挿入時に使用する手袋やピンセットなどは滅菌されたものを使用し、陰部を洗浄・消毒してから行うようにしましょう。また、挿入時に必要なゼリーはチューブタイプのものではなく、キットに付属されている使いきりタイプの清潔なものを使用します。
挿入後は閉鎖式の採尿バッグを使用し、カテーテルを交換するときは採尿バッグも同時に交換しましょう。基本的に長期間の留置であってもカテーテルを1ヶ月ごとに交換する必要があります。しかし、交換予定より前に尿の流出が減少した場合は、カテーテルが閉塞している可能性も。閉塞したカテーテルは細菌感染が起こりやすくなるので、速やかな交換が必要です。
必要なケース以外はむやみに尿道カテーテルを使用しない
尿道カテーテルを留置すれば、頻回なオムツ交換などの必要がなく、尿量管理も容易になります。そのため、本来は自身で排尿ができるにも関わらず、医療従事者の利便性を重視して寝たきり患者などに尿道カテーテルを留置するケースが少なくありません。
しかし、上述した通り、尿道カテーテルの留置は治療に難渋する尿路感染症を引き起こすリスクがあります。基本的に自尿がある場合は、尿道カテーテルの使用を見合わせるようにしましょう。次に該当するケースでは、尿路感染症対策を厳重に行いつつ尿道カテーテルを使用しましょう。
なお、間欠的な導尿は尿道カテーテル留置よりも尿路感染症の発症リスクは低いとされています。自尿が不規則な患者であっても、間欠的導尿によって対応できる場合は導尿を優先すべきであるというのが現在の一般的な考え方です。
尿道カテーテルの長期間留置は、こんな病気も引き起こす?
尿道カテーテルの長期間にわたる留置は、尿路感染症以外にも尿道の損傷や膀胱結石などを引き起こすことがあります。とくに尿道の損傷は男性に起こりやすく、尿道口から尿道が上行性に裂ける、医原性の「尿道下裂」を引き起こすケースも...。また、膀胱結石は尿路感染症のリスクが上がるだけでなく、カテーテルが詰まりやすくなって管理に難渋するようになることも少なくありません。
尿道カテーテルは必要なときにだけ使用する!医療従事者の便宜は二の次に
尿道カテーテルの留置は治療上、必要不可欠な場合ももちろんありますが、管理の容易さなどから医療従事者の利便性を求めて用いているケースも少なくありません。しかし、尿道カテーテルの留置は上述した通り、尿路感染症など様々なリスクをともなうもの。患者さまに害を与えてしまう可能性もあるので、適正な使用の徹底が望まれるところです。
尿道カテーテルの適正な使用を行うには、医師の知識だけではなく看護師、薬剤師など医療チーム全体で正しい知識を共有することが大切です。若手医師は、利便性を求めるスタッフから尿道カテーテルの使用を強く要望されることがあるかもしれません。
しかし、適正な使用の基準に即していない場合、安易に要望に応えることは望ましくありません。なぜ使用することが問題となるのか、使用を決める前にチームで話し合ってみましょう。
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▼参考記事はコチラ
尿路カテーテル関連感染防止対策
執筆者:成田 亜希子
一般内科医として幅広い分野の診療を行っている。保健所勤務経験もあり、感染症や母子保健などにも精通している。日本内科学会、日本感染症学会、日本公衆衛生学会、日本健康教育学会所属。
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