臨床研修は中断しても大丈夫?休める期間や研修再開のポイントを解説

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公開日:2024.08.15

臨床研修は中断しても大丈夫?休める期間や研修再開のポイントを解説

臨床研修は中断しても大丈夫?休める期間や研修再開のポイントを解説

医学部を卒業すると、研修医として2年間働くことが一般的です。研修期間中に何らかの事情で休職したい、研修を中断したいと考える方もいらっしゃるでしょう。

この記事では、臨床研修の中断を考えている方に対して、どのくらい休むことができるのかや、中断後に研修を再開する際のポイントなどを解説します。

臨床研修の「中断」と「休止」の違い

臨床研修(初期研修、以下「研修」)を続けることが難しい場合、大きく分けて「中断」と「休止」という2つの選択肢があります。

原則として、90日までなら「休止」、90日を超える場合は「中断」となります。

休止であれば、必要な症例や必修診療科の修了状況などの条件を満たすことで、2年間で研修を修了することも可能です。

ただし注意点として、「90日」は平日のみのカウントです。1カ月間休んだ場合30日とカウントされるわけではなく、土日が8日あれば「22日」としてカウントされます(祝日があればより少なくなります)。「90日」は意外に長いと言えるのではないでしょうか。

休止には、産休や育休も含まれます。出産する場合、産前に最大6週間、産後に最大8週間、合わせて14週間の休暇を取得することができます(産後6週間は必須)。最大限取得しても14週間×平日5日=70日なので、育休を取得しなければ、理論上は「中断」の判定に至らず、2年間で研修を修了することができます。

臨床研修の「中断」とは

ここで理解しておきたいのが、「研修を数日休んでも、すぐに修了時期が後ろ倒しになるわけではない」ということです。

「中断」の考え方について、厚労省は下記のように通知しています。

臨床研修を長期にわたり休止する場合においては、(略)当初の研修期間の終了時に未修了とする取扱いと、臨床研修を中断する取扱いとが考えられること。また、臨床研修を中止する場合においては、(略)臨床研修を中断する取扱いが考えられること。

研修管理委員会から中断の勧告又は研修医から中断の申出を受け、管理者が臨床研修の中断を認める場合には、その時点で臨床研修を中断する取扱いとし、研修医の求めに応じて、臨床研修中断証を交付すること。

厚生労働省「臨床研修を長期にわたり休止又は中止する場合の取り扱いについて」(平成27年2月24日医政医発0224第1号)より引用
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000075407.html(2024年8月14日閲覧)

厚生労働省資料_臨床研修の中断・未修了について_p2臨床研修における中断についての図

厚生労働省「臨床研修の中断・未修了について」(2018年1月)p.2より
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10803000-Iseikyoku-Ijika/0000192252.pdf(2024年8月14日閲覧)

とくにメンタル面で研修中断を考えるほど追い込まれている状況であれば、まずは体と心を休めることが必要です。近所の心療内科や精神科を受診するか、近年は初診からオンライン診療に対応している医療機関もあるため利用してみましょう。専門医を受診し、病状に合わせた助言をもらうことが第一歩です。

臨床研修を中断する理由・割合

病院で泣く若い女性研修医の後ろ姿

ここからは、研修を中断する理由や、実際に中断する人がどのくらいいるのかを見ていきます。

臨床研修を中断する理由

研修を中断する理由には、下記のようなものがあります。

【臨床研修の中断理由】※調査年:2015年4月~2017年7月

  • 病気療養(37.4%)
  • 妊娠・出産・育児(9.9%)
  • 研修内容への不満(4.1%)
  • 家族等の介護(2.4%)
出典:厚生労働省「臨床研修の中断・未修了について」(2018年1月)p.6
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10803000-Iseikyoku-Ijika/0000192252.pdf(2024年8月14日閲覧)

研修医(病院勤務)の平均年齢は27.8歳*1と若めなため、病気療養では身体面よりもメンタルヘルスの課題が多くを占めています。具体的には、下記のような悩みが影響し得ると考えられます。

  1. 過酷な労働環境
  2. 研修内容や指導体制への不満
  3. 指導医や同期との人間関係

労働環境については、当直業務のほか、時間外まで続く手術休日時間外の呼び出し(オンコール)などがあるでしょう。働き方改革により、当直回数や当直明けの勤務、待機時間などは近年改善が進んでいるとはいえ、負担に感じやすい内容です。調整できる余地がないかなど、悩みがあれば研修センターやメンターと相談することも選択肢になります。

研修内容への不満については、自身が望むような内容の研修が受けられない、興味の持てない診療科ばかりをローテートしなくてはならない、十分な指導が受けられない、といった理由が考えられます。

人間関係は難しい問題で、「すべての悩みは対人関係の悩みである」というアルフレッド・アドラーの言葉もあります。研修医の場合、上級医や指導医、同期・研修医間で問題が生じやすいでしょう。とくに指導医は研修を修了するために評価を受ける立場であり、研修医が弱い立場に置かれやすいと言えます。厚生労働省の『医師臨床研修指導ガイドライン』ではこうした点への配慮が求められているため、気になる点があれば研修センターなどに相談することも選択肢になるでしょう。

医療業界は長時間労働が常態化していた時代が長く、そのころの価値観が残ったままの指導医によって「過酷な労働環境」につながるおそれもあります。チームや医療機関全体で、医師の働き方改革を進めていくことが重要でしょう。とはいえ医師の働き方改革の本質的な目的は労働時間の削減ではなく、「国民に提供する医療の質の担保・向上」です。研修医は従前よりも短い労働時間の中で効率的に臨床研修を行い自身のスキルアップを目指すことが必要となります。

臨床研修を中断する医師の割合

では、実際に研修を中断する医師はどのくらいいるのでしょうか。

各種調査から、研修医の約1.2%が研修の中断を経験している*2,3と考えられます。

ただ、中断は先述のとおり「90日以上休んでいる」状態なので、90日に満たない「休止」の例(その後研修に復帰)を含めると、もう少し高い割合になるでしょう。

参考までに医師でない職種の場合、大卒者の2年以内離職率は近年、20~25%程度で推移しています*4。多くは職場・仕事が合わないと感じて離職していると考えられますから、研修医が「職場が合わない・研修を中断したい」と思うことも決して特別なことではないのかもしれません。

臨床研修を中断した後、どうするか?

研修を中断した後は、どうすれば良いのでしょうか。

研修の修了が難しくなるかと言うと、そんなことはありません。2018年に報告された厚労省の調査*2では、中断者の8割近くが研修を再開しています。

厚生労働省資料_臨床研修の中断・未修了について_p8中断者の再開状況

厚生労働省「臨床研修の中断・未修了について」(2018年1月)p.8より
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10803000-Iseikyoku-Ijika/0000192252.pdf(2024年8月14日閲覧)

研修を中断しても、研修を再開・修了することは十分に現実的です。

臨床研修の再開には「臨床研修中断証」が必要

研修を再開する場合、同じ施設で研修を再開するか、もしくは別の施設で再開するかの2通りが考えられます。別の施設で研修を再開する場合は、元の研修施設から「臨床研修中断証」を発行してもらう必要があります。

別の施設での研修再開を希望するということは、元の研修施設の環境や人間関係が合わなかったケースも多いかと思います。元の施設とコンタクトを取ることにストレスを感じるかもしれませんが、臨床研修中断証がないと元の病院での経験が証明できないため、ゼロから研修をやり直すことになってしまいます。かつて選んだ研修病院との最後の関わりと思ってがんばりましょう。

臨床研修再開先の探し方

研修を中断した後に、どの病院で再開すれば良いか悩む方もいらっしゃるでしょう。

病院によっては、公式サイトで研修中断者の募集・受け入れを発信している場合があります。まずは、希望する地域にこうした病院があるか、「研修 再開」などのキーワードで検索してみるのがおすすめです。学生時代の友人など、ツテを頼って研修再開が可能な病院を探してみるのも良いでしょう。

地方厚生局には、研修医の相談に応じる窓口が用意されています。こちらに相談することも助けになるでしょう。

まとめ

臨床研修中断後に再開しキャリアアップする若い男性のイメージイラスト

医学部を卒業し医師国家試験に合格すれば、晴れて「医師」ということになりますが、2年間の臨床研修を修了しなければ単独で診療行為ができないため、事実上臨床現場で活動することはできません。診療所の開設や、病院・診療所の管理者になることもできないため、キャリアにおいて大きな制約があります。

しかし多くの研修医にとって、臨床研修は"初めての社会人"でもあり、不規則な労働時間などで精神的・身体的に負担がかかりやすい立場です。研修の休止や中断について考えることもあるでしょう。条件を満たせば、90日間までは研修を休止することができます。90日を超える場合でも、中断の手続きを適切に踏むことで、研修の再開は可能です。

ストレスがかかる環境下で無理に勤務を続けた結果、研修医や専攻医などの若手医師が過労死・自死する悲しい事件はたびたび起こっています。研修中断という選択肢があることを理解しておけば、不幸な事態を防ぐことができるかもしれません。この記事が読者の皆さまのお役に立てば幸いです。

Dr.SoS

執筆者:Dr.SoS

皮膚科医・産業医として臨床に携わりながら、皮膚科専門医試験の解答作成などに従事。医師国家試験予備校講師としても活動している。

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