内閣府が掲げる「AIホスピタル」プロジェクトとは?

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業界動向

公開日:2021.08.11

内閣府が掲げる「AIホスピタル」プロジェクトとは?

内閣府が掲げる「AIホスピタル」プロジェクトとは?

現在、世界ではAIの開発や活用がどんどん進み、生活でもAIを活用したさまざまなサービスが登場しています。しかし、日本の医療分野においては、世界と比較してAIの開発・実装に遅れをとっているのが現状です。AIに関する国際的競争が激しくなるなかで、内閣府は2018年、医療分野におけるAIの活用・発展を決定し、国家プロジェクトとして推進しています。そのプロジェクトの目玉となっているのが「AIホスピタル」です。

今回は、AIホスピタルのメリットやAIホスピタル実現に向けた現時点での最新動向などをお伝えします。

AIホスピタルとは

AIホスピタルとは

AIホスピタルは、AIを活用して医療の効率化や医療従事者の負担軽減などを目指したさまざまな技術・サービスの開発を行う一連のプロジェクトです。本プロジェクトは内閣府が2014年度に立ち上げた「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」で採択されました。SIPは日本の科学技術イノベーションの実現を目的に創設された国家プロジェクトで、従来は縦割り行政ともいわれた日本の省庁の枠組みを超え、基礎研究から技術の実用化や事業化までを視野に入れた取り組みの推進を目指しています。

医療の高度化・複雑化に伴い医師や看護師などの医療従事者の負担は増しています。昨今では新型コロナウイルス感染症の拡大でさらに加速しているのです。負担が増大するなかで技術的ミスや検査結果の解釈ミスなどが起これば、患者さまの健康被害などのリスクも考えられます。AIホスピタルでは、医療従事者の仕事の一部にAIを活用することで医療の質の確保や医療従事者の負担軽減だけでなく、医療分野における国際的競争力の向上などを目指すことが可能です。

AIホスピタルプロジェクトの背景

2021年現在、日本は世界で最も高齢化が進んでいる国です。日本のみならず、世界で見ても今後半世紀で高齢化が急速に進むと予想されており、超高齢社会に向けての医療の質の確保は喫緊の課題だといえます。超高齢社会となれば医療費の増加も避けられません。また、近年の医療技術の進歩はすさまじく、日々アップデートされる医療の最新情報や技術のすべてをキャッチアップすることは、多忙な医師などの医療従事者にとって難しくなりつつあります。

AIホスピタルプロジェクトはAI、IoT、ビッグデータの技術を活用した「AIホスピタルシステム」の開発・構築に取り組みます。これにより、高度化・先進化した医療サービスの提供と医療の効率化、医療従事者の負担軽減を実現し、超高齢社会に向けた医療の質の確保、医療費増加の抑制、そして医療分野における国際的競争力の向上を図ることが可能です。

AIホスピタル実用化によるメリット

AIホスピタル実用化によるメリット

AIホスピタルは、病院と国の双方にメリットがある点が特徴です。具体的には、病院で働く医師などの医療従事者や、医療を受ける患者さまにもさまざまなメリットがあると考えられています。ここでは、AIホスピタルの実用化によって医療現場や国の医療政策がどのように変わるのかみていきましょう。

病院のメリット

医療従事者の負担軽減

AIホスピタルの実用化により、医師をはじめとした医療従事者の負担軽減が挙げられます。とくに地域医療においては、医師の不足や地域や診療科における医師の偏在が課題です。医師の絶対数が足りない状況で超高齢社会を迎えた場合、従来どおりの医師の働き方では十分な医療提供体制を整えることは困難だといえるでしょう。

そこで、診療記録やインフォームドコンセントなどの書類の作成、患者さまに合わせた適切な治療選択の支援などをAIがサポートすることで、医療従事者の負担軽減が期待できます。

本質的な業務へのリソース投下

従来は書類作成などに費やしていた時間を患者さまへの診療時間に回すなど、医療従事者はより本来の業務に自身のリソースを充てることができるようになります。患者さまと密なコミュニケーションを取れることによる信頼関係の構築や、最適な治療の提案などもしやすくなるでしょう。

人的ミスの回避

本来、医療にミスはあってはならないものですが、人が関わる以上、ミスをゼロにすることは難しいものです。しかし、AIホスピタルではAIのサポートによってミスを未然に防ぐことが期待されます。たとえば、AIによるモニタリングを実施することで、投薬ミスを回避できることも考えられます。

高度な医療の質提供

これまで、病院で集めた医療情報は、各病院で保有されてきました。AIホスピタルでは日々の臨床で得られた各病院の医療情報をビッグデータベースとして構築することで、患者さまにより適切な治療法を提示できるようになります。

「AIホスピタルが実用化されれば医師の仕事がなくなるのではないか」と思われる方もいるかもしれませんが、AIホスピタルが実用化されても医師の業務がAIに取って代わられるわけではありません。AIを活用することで画像情報、病理診断情報といった膨大な診療情報の効率的な収集や、AIによるデータ解析が可能になります。超高齢社会で医師の負担が増大することが見込まれるなか、AIが得意とする情報収集・データ解析を医師の代わりに行うことで、データに基づいた医療の提供や、より患者さまに寄り添い選択肢を増やす医療の実施が可能です。

国のメリット

医療費抑制

このままいけば超高齢社会における医療費の増加は避けられません。そのため、日本では医療費の抑制が急務となっています。AIホスピタルでは、前述のとおり、今まで病院単位で保有していた医療情報を一元化できるため、患者さまにとって効果が見込みが薄い治療法や治療薬を避けることが可能です。患者さまにとって効率的な医療が提供されることにより、医療費抑制につながります。

労働人口の確保

AIホスピタルではビッグデータやAIのサポートにより、より効率的に患者さまに合った治療法を見つけることができ、療養期間短縮が実現可能です。早期回復が可能となることで、患者さまが仕事に復帰するまでの期間が短くなり、労働時間の確保につながります。

国際的競争力の向上

AIホスピタルは病院や医療従事者、患者さまへのメリットだけでなく、AIホスピタルプロジェクト発展の過程で得られる新技術によって、医療分野における日本の国際的競争力の向上が期待できます。本プロジェクトは医療従事者だけでなく多くの研究者も関わりますから、官民問わずさまざまな研究機関での研究が進み、日本の医療技術が発展していくでしょう。

AIホスピタルの柱となる「医療AIプラットフォーム」

AIホスピタルの柱となる「医療AIプラットフォーム」

AIホスピタルの実現には「医療AIプラットフォーム」が重要な柱となります。ここでは、医療AIプラットフォームの概要や本プラットフォームが取り巻く環境についてみていきましょう。

医療AIプラットフォームとは?

医療AIプラットフォームは、AIホスピタルを実現するために、医療・製薬など医療に関わる業界共通の基盤になるプラットフォームを指します。医療に携わるすべての業界が同じプラットフォームを用いることで、高品質の医療AIサービスを多くの医療機関や民間の検診センター、保険会社などへ廉価・公平に届けることが可能です。

医療AIプラットフォームという共通基盤ができれば、今まで各病院が持っていた医療情報を一つの場所に集めてAIが分析したり、画像診断や治療方針をAIが提案したりできるようになります。また、研究開発においても各病院から集められた医療情報を活用した新たな技術開発が容易に行えます。

医療AIプラットフォームは2022年の社会実装を目指し、6つの企業・団体が開発などに参加しています。

医療AIプラットフォームに関わる企業・団体

医療AIプラットフォーム技術研究組合(HAIP)

医療AIプラットフォームの開発・構築には5社からなる医療AIプラットフォーム技術研究組合(HAIP)が携わっています。各企業の研究チームの役割は次のとおりです。

●日本ユニシス株式会社

医療AIプラットフォームのサービス事業基盤設計・構築を担当。2020年秋から始まったモデル事業の実行支援、プラットフォーム上で提供されるサービスの企画・開発の実施。

●株式会社日立製作所

日本ユニシスと同様にサービス事業基盤設計・構築を担当。ほか、プラットフォーム上で提供されるサービスの企画・開発と提供、外部サービスベンダーの調査やスクリーニングを実施。

●日本アイ・ビー・エム株式会社

自社が持つ医療支援AI揮発における技術やグローバル知見を提供し、サービス基盤の拡充支援を担当。また、プラットフォーム上に公開予定の医療従事者向け業務支援AIアプリ開発も担当する。

●ソフトバンク株式会社

5Gをはじめとする通信ネットワークの提供や、ユーザー認証機能の提供・検証を担当。

●三井物産株式会社

自社で展開するアジア病院事業を含む海外ネットワークを活用し、データ・デジタル技術の社会実装やAIホスピタルの国際化に向けた検証支援を担当。

日本医師会

医療機関サイドでは、日本医師会が医療AIプラットフォームに携わっています。プラットフォーム化することで医療に関わる各業界はさまざまな恩恵を受けることが可能となりますが、一方で適正さを欠いた事業者がAIホスピタルシステムに参加すると、日本の医療の質の低下や患者さまへの健康被害などを招きかねません。そこで、日本医師会はおもに本プラットフォーム事業のガバナンス機関として会内に「日本医師会AIホスピタル推進センター」を設立しました。

「日本医師会AIホスピタル推進センター」は、将来的に事業者の審査・認定や利用者である医師などの登録を担う予定です。

AIホスピタルにおける最新の動向

2018年度のSIP第2期での「AI(人工知能)ホスピタルによる高度診断・治療システム」研究の採択から始まったAIホスピタル事業。採択から3年が経った2021年現在、事業はどのように進んでいるのでしょうか。

医療AIプラットフォームの試行運用が開始

2021年7月より、医療AIプラットフォームの試行運用が始まりました。今回の試行運用では画像診断に関する医療AIサービスがプラットフォームに搭載されています。AIが画像データの取得と医療AIサービスによる分析を行い、分析結果を医師へ報告するなど、AIを活用した画像診断補助のプラットフォーム運用に向けた技術的検証が進行中です。

そのほか、プラットフォーム利用者である医師の登録業務の試行運用、技術的検証と並行してプラットフォーム費用の設定や決済方法などの検討も行われています。

急速に進むAIホスピタルの実用化。最新動向を要チェック

AIホスピタルは、現場の医師をはじめとした医療従事者の負担軽減が期待される事業です。必要な場面でAIを有効活用することで、より正確な診断をしたり、治療の選択をしたりすることが可能となります。医師が患者さま一人ひとりに向き合える時間も増え、医師の本来の業務に注力できるようになるでしょう。

AIホスピタル実現に向けての研究や開発は日進月歩です。将来、医師の仕事における「よきパートナー」となりうるAIホスピタル。ぜひ、今後も最新の動向を確認していきましょう。

ドクタービジョン編集部

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