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新NISAがスタートし、日経平均がバブル期を超えるなど、投資を後押しする環境が整いつつあります。
デフレ下では現預金のままでも資産を守ることができましたが、インフレ局面ではその資産価値は目減りしていきます。資産形成の目的は、投資でお金を増やすことだけではなく、資産全体を見渡し、適切なタイミングで必要な資金の準備ができるようにすることです。
この記事では医師の先生方に向けて、資産形成の考え方と資産の運用先について解説します。
医師は資産形成をする必要がある?
令和4年の統計によると、医師の平均年収は1,429万円(男性1,515万円、女性1,138万円)でした。
世間一般の平均年収と比べれば高収入と言えますが、一般的に高所得者は、生活レベルも相応に高くなってしまうため、支出もそれなりにかさみます。たとえば、家、車、教育費、旅行などにかけるコストは、平均的な年収の家庭より増える傾向があります。
賃金の上昇率が物価上昇率に追いつかない局面では、所得の多寡にかかわらず、これまでとは違う形の資産形成が必要です。医師も例外ではなく、将来のキャリア・ライフプランとあわせて資産について考える必要があるでしょう。
医師の資産形成 3つのステップ
資産形成の方法は、個々のライフプランや保有資産、家庭の状況などによって異なります。資産形成は長期にわたり計画的に行うものであるため、現状の資産の把握と今後の人生設計がポイントとなります。
1.ライフプランを立てる
まずは、これからの生活で予定しているライフイベントを書き出し、その必要額を見積もりましょう。将来どれくらいの資金が必要かを整理しておくことが大切です。
住宅資金、教育費、老後資金は"人生の三大支出"と言われる通り、多くの資金が必要となるイベントです。教育費であれば、国公立と私大、文系と理系で学費に差がありますし、医学部へ進学するならさらに上乗せしなければならないでしょう。現時点で不明な点は最大額で見積もっておけば安心です。
開業医の場合、将来の老齢年金が手薄になる可能性もあるため、退職後の資金を多めに準備する必要があるかもしれません。
2.保有資産の全体像を把握する
次に、現預金、有価証券、不動産など、保有している資産を一覧にしておきましょう。住宅ローンなどの負債も計上し、現時点での資産の全体像を把握することが重要です。
全体像をつかめれば、現状の手持ち資産が将来に対して十分なものであるのか、または足りないのか認識できます。その上で適切な資産の運用先を検討しましょう。
30代後半で年収1,500万円の医師が無理なく返済できる住宅ローンの金額は?
3.資産の運用先を検討する
最後に、資産の運用先を検討します。
運用と聞くと、元本保証のない金融商品への投資を考えがちですが、使う目的によっては、定期預金などの元本保証商品も立派な運用先になります。
基本的にリスクとリターンは比例します。ただし、投資のリスクは損益のブレ幅と考えます。リスクが高い商品は損益のブレが大きい、つまり大きなリターンが得られる可能性も、損失が大きくなる可能性もあるととらえてください。
どこまでリスクを取れるかは、運用する期間と目的によっても異なるでしょう。教育費のような近い将来に確実に確保したい資金と、数十年後の老後資金とでは、違う運用方法が選択肢となります。
ライフイベントに対する資金の見通しがすでに立っている場合は、節税効果のある投資や相続税対策も兼ねた運用先なども検討の余地があります。
このように、資産形成の方法はさまざまありますが、投資による損失をなるべく軽減するためには、タイプの違う運用先を組み合わせるなど運用先を分散することも検討してください。
医師におすすめの運用先
資産形成では、短期的な値動きに左右されずに長期で運用を続けることが大切です。運用にかかる手間や時間なども考慮し、自分にとって負担のない選択をすることが長続きのコツになるでしょう。
ここでは、長期的な資産形成に向いている運用先をいくつか紹介します。
個人向け国債
預貯金より金利が高く、元本が保証されていることが、個人向け国債の魅力です。リスクを取らずに、確実に資産を増やしたい人に向いています。
個人向け国債には0.05%の金利保証があり、運用期間は3年・5年・10年から選択できます。購入から1年経過すれば、1万円から中途換金も可能です(手数料はかかります)。
元本保証がない金融商品の場合は換金したいタイミングで資産が目減りしている可能性がありますが、国債ならその心配はないでしょう。
個人向け国債|財務省
投資信託
投資信託は、運用をプロに任せることができる、手間いらずの投資と言えます。1つの商品を持つだけで、さまざまな資産や地域に分散投資できることが特徴です。
とくに投資信託の積立投資は、長期的な資産形成に向いています。たとえば40歳の人が60歳までの20年間で2,000万円の資金を準備したい場合、利率5%で運用できれば、毎月5万6,000円の積み立てで目標額に達します(利息に約20%課税の場合)。
利率は過去の実績からシミュレーションした数字であり、将来の運用成果を保証するものではないことに注意が必要ですが、全世界株式へ投資をしている投資信託の実績を見る限りでは、利率5%という数字は現実的と言えます。
そもそも投資信託とは?|投資信託協会
株式投資
株式投資は企業の株式を購入する投資です。利益を得る方法は2つあります。
1つ目は、株価が安いときに買い、値が上がったら売ることでその差益(売買差益)を得る方法です。2つ目は、権利確定日に株式を保有していることで配当金や株主優待などを得る方法です。
売買差益を狙う場合は、大きな利益を得られる可能性がある一方、タイミングによっては損失が大きくなることもあります。一方で配当金を目的とする場合は、高配当・安定企業の株式を保有し続けることで、定期的な利益獲得が期待できます。
ただし株式投資は利益確定や損失回避のための舵取りを自分でしなければならないため、手間と知識が必要でしょう。
保険商品
まとまった資金がある場合は、保険商品を選択肢に加えることもできます。運用先の候補になるのは、貯蓄性の高い終身保険や養老保険などです。
保険料を一時払いする終身保険や養老保険は、加入後一定期間を経過すれば、契約年数に応じて解約返戻金が増える仕組みです。満期のある商品では、利率に応じた満期金が受け取れます。保険加入中に万一死亡したり高度障害になったりした場合には、保険金がおります。
保険への加入は、節税にもつながることがあります。保険料を払い込んだ年は一定額が所得から控除されるため、所得税や住民税を減額できるためです。
また、保険金には相続税の基礎控除額とは別枠で法定相続人1人当たり500万円の非課税控除枠が設けられているため、保有資産が大きいことで相続税の心配がある場合に有効な運用先となります。
相続税の課税対象になる死亡保険金|国税庁
確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)
企業型確定拠出年金(企業型DC)と個人型確定拠出年金(iDeCo)は、公的年金制度とは別に、私的に年金を形成する制度です。
企業型DCの掛金は会社負担、iDeCoは自己負担となりますが、どちらも定期的に一定額を拠出し、自分で決めた投資先で運用します。運用成果は、60歳以降に年金、もしくは一時金として受け取ることができます。
運用先には、元本保証商品や保険などの低リスク商品も一部ありますが、メインは投資信託です。運用次第で年金額が変動するという特徴があります。
企業型DC・iDeCoには、税制の優遇措置があります。運用中に生じる利益は非課税で、受取時には退職所得控除もしくは公的年金等控除が適用されるため、通常の所得税より税負担が軽くなります。また、iDeCoでは加入中の掛金が全額、所得から控除できるため、所得税や住民税の負担が軽くなります。
企業型DCもiDeCoも、長く加入するほど運用の複利効果が高まり効率的な資産形成が望めます。要件を満たしていれば、両制度に加入することも可能です。
老後資金に特化した制度で、原則、途中で辞められないなど制約もありますが、節税効果は所得の高い人ほど享受できます。
確定拠出年金制度の概要|厚生労働省
確定拠出年金のしくみ|企業年金連合会
iDeCoの概要|厚生労働省
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医師年金・iDeCo・資格取得の費用、このなかで節税の効果がないのはどれ?
不動産投資
不動産投資は、収益目的なのか、節税目的なのかによって投資手法が異なります。代表的な以下2つの活用方法を紹介します。
収益物件への投資
安定的な家賃収入を得られる不動産投資は、医師の副業として人気があります。ただ、不動産購入時に金融機関から融資を受ける場合は、注意も必要です。
医師は収入が高く社会的信用度も高いため、融資は受けやすいですが、融資を受ければ返済義務が生じます。空室が出るなどして収益物件の利回りが下がれば、返済負担が重くなることがあります。融資を受ける際は、借入金利と収益の利回りについて慎重なシミュレーションが必要です。
相続税対策としての投資
資産が多い医師の場合、不動産投資は相続税対策としても期待できます。
相続税を計算する際には、被相続人の財産を相続税評価額に換算します。現預金はその額面がそのまま相続税評価額になりますが、不動産に換えると評価額が現預金の7~8割程度に下がります。
たとえば相続財産が1億円の場合、現金のままだと額面通りの1億円が課税対象ですが、土地に換えると課税対象は8,000万円になるという具合です。相続不動産が賃貸物件であれば、相続税評価額をさらに下げることができます。
不動産投資の仕組みは複雑です。不動産投資を検討する場合は、税理士など専門家の助言を受けることを検討しましょう。
まとめ
デフレ下で資産を現預金のまま保有し特段問題を感じていなかった人も、物価上昇が続く今、資産形成の必要性を感じ始めています。年収が高い傾向にある医師の方々も、今後は自分の生活レベルに合わせた資産形成が必要になるでしょう。
資産形成は長期にわたり計画的に行っていくものです。方法はさまざまありますが、目的を見失わず、自分に合った方法で資産形成をしていきましょう。
執筆者:山﨑 裕佳子
FP事務所MIRAI 代表
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、証券外務員二種保有。「家計の見直しでMIRAIを変える」をモットーに、各種相談、マネー記事執筆、書籍監修など幅広く活動中。
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