公的年金だけで大丈夫?医師の年金の増やし方をFPが解説

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公開日:2024.05.20

公的年金だけで大丈夫?医師の年金の増やし方をFPが解説

公的年金だけで大丈夫?医師の年金の増やし方をFPが解説

医師は、社会人として現役でいられる期間が長い職業です。収入も高いため、若いうちから老後の生活費について考える機会を持つ方は少ないのではないでしょうか。

老後の生活費の柱となるのは公的年金です。医師の場合、働き方によって加入する年金制度が違うため、将来受け取る年金額にも差が生じます。

老後の生活費は現役時代の7割程度が目安とされており、医師であれば老後もそれなりの資金が必要になるでしょう。この記事では年金の基本や増やし方について、医師の方々向けに解説します。

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執筆者:山﨑 裕佳子

1級ファイナンシャル・プランニング技能士/CFP®認定者

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医師の年金支給額はいくら?

まずは、年金制度の加入対象と将来の年金額について簡潔に説明します。

日本の公的年金制度は、原則20歳から60歳までの国民全員が加入対象となる国民年金と、会社員や公務員などが加入する厚生年金からなっています。開業医と勤務医では、加入先が異なります。

開業医は「国民年金」

開業医は自営業者や個人事業主と同じ国民年金の加入者です。

国民年金の保険料は、所得の多寡にかかわらず一律です。加入年数が10年(120カ月)以上あれば、加入期間に応じた年金額を受け取れます。

満額の老齢基礎年金を受け取るには、保険料を40年間(480カ月)納める必要があります。

年金額は毎年、改定ルールに従い見直されます。2024(令和6)年度の満額支給金額は81万6,000円(6万8,000円/月)です。

勤務医は「厚生年金」

勤務医は、会社員や公務員と同じ厚生年金の加入者です。

厚生年金の加入者は、同時に国民年金にも加入していることになるため、将来は老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方が受け取れます。

厚生年金の保険料は標準報酬月額に準ずるため、基本的に所得が高い人ほど保険料は高くなりますが、年金格差が大きくなり過ぎないよう保険料の上限額が設けられています

仮に、2003年以降の平均標準報酬額*が100万円で、40年間厚生年金に加入した場合の老齢厚生年金額は、概算で約263万円になります。これに老齢基礎年金を加算した金額が、将来支給される年金額です。

* 各月の標準報酬月額と標準賞与額の総額を加入期間で除したもの。

開業医が年金を増やすためにできること

開業医の年金は老齢基礎年金のみのため、満額支給でも年金収入だけに頼る生活は難しいでしょう。そのため、いくつかの制度を組み合わせた"私的年金づくり"を検討しましょう。

国民年金基金へ加入する

国民年金基金は、厚生年金加入者との年金格差を埋めるために創設された制度です。開業医など、国民年金の加入者が任意で加入することができます。

掛金の上限額は6万8,000円/月、払込期間は原則60歳までです。

たとえば、30歳男性がA型(終身年金/15年保証期間付)に2口加入した場合の月額掛金は、20,900円です。60歳まで30年間払い込むと、48万円の年金を終身で受け取れます。加入する口数次第で年金額は変動しますので、掛金と年金額のバランスで加入口数を検討してください。

掛金は全額が所得控除の対象となるため、加入期間中は所得税や住民税の負担を軽減できます。

付加保険料を納付する

付加保険料(付加年金)は、国民年金保険料に400円を上乗せして納付できる仕組みです。納付した月数に200円を乗じた金額が将来の年金額に上乗せされて支給されます。

付加年金額 = 200円 × 付加保険料を納めた月数

たとえば、40年間(480カ月)付加保険料を納付した場合、支払い総額は19万2,000円(400円×480カ月)になりますが、受け取れる年金額が9万6,000円(200円×480カ月)増えます。増えた年金は一生涯、老齢基礎年金に上乗せして支給されるため、2年以上年金を受け取れば付加保険料の元は取れることになります。

ただし、国民年金基金と付加年金は併用できません。どちらが良いか、前もって検討しましょう。

勤務医が年金を増やすためにできること

厚生年金に加入している勤務医は、勤務先が企業年金制度を設けている場合があります。

企業年金とは、企業が独自に従業員に年金を支給する制度で、現在の主流は確定給付年金(企業型DB)企業型確定拠出年金(企業型DC)です。両者とも掛金は企業が拠出します。

確定給付年金は企業の責任下で資産を運用するため、原則として加入者本人の努力で年金を増やすことはできません。一方、企業型確定拠出年金の運用先は加入者自身が決めるため、自分の意思で運用することができます。

企業型確定拠出年金(企業型DC)

企業型確定拠出年金は、自分の運用次第で将来受け取る年金額を増やせる可能性のある制度です。

運用先として選べる商品は、定期預金や保険商品などの元本保証型商品と、元本保証のない投資信託です。

投資信託で運用する場合は、元本保証がないことに注意してください。加入期間を長く確保できるのであれば、時間がリスクを吸収してくれる可能性が高くなりますが、運用期間が短い場合は元本保証商品と投資信託を組み合わせるなどの工夫が必要です。

企業によっては「マッチング拠出」を採用している場合があります。マッチング拠出とは、企業型DCとは別枠で、自分で掛金を上乗せできる制度です。マッチング拠出の掛金は所得控除の対象となるほか、年金受取時は退職所得控除または公的年金等控除の対象となります(税制優遇措置)。ただし、掛金は事業主掛金と同額までと決まっています。

医師におすすめの私的年金

Miniature people: family standing in front of colorful pills and stethoscope on blue background with copy space. Health care, medical service, and insurance concept

老後資金を準備するには、公的年金のほかに私的年金づくりの仕組みがあります。そのうち医師ならではの制度を紹介します。

医師年金

医師年金は、日本医師会が運営する積立型の私的年金制度です。日本医師会の会員で、申し込み時点で64歳3カ月未満であれば加入できます。

保険料は基本保険料と加算保険料から構成されます。積立額に上限がないため、加入期間が短くても、保険料を多く払えば必要な年金額を確保できます。

受給開始年齢は65~75歳の範囲で任意に選べます。受取の方法は、基本保険料は終身年金、加算保険料は終身または確定年金(5年・10年・15年)から選択できます。

払込保険料は所得控除の対象外のため、加入期間中に所得税や住民税を減額する効果はありません。受取時は雑所得になり、所得税がかかります。

保険医年金

保険医年金は、全国保険医団体連合会が運営する私的年金制度です。満74歳までの保険医協会・保険医会員が加入できます。

保険料は任意で、月払いの場合は1口(1万円)~30口(30万円)、一時払いの場合は1口(50万円)~40口(2,000万円)から選択できます。

受取にあたって加入年数や年齢制限がないため、自由度の高いプラン設計が特長です。加入時に受取時期を決める必要はなく、加入から5年経過すれば確定年金(10年・15年・20年)として受け取ることができます。

加入中の払込保険料の一部は一般生命保険料控除(最大5万円)の対象となり、年末調整や確定申告をすることで所得税や住民税の負担を軽減できます。受取時は、一括の場合は一時所得、年金として受け取ると雑所得にあたり、それぞれ所得税の課税対象となります。

医師が年金を増やすそのほかの方法

国民年金イメージ年金手帳電卓ショッピングカートボールペン

そのほかにも、加入制度に関係なく、年金を増やすための仕組みがあります。

公的年金の繰り下げ受給

65歳になると年金の受給資格を得ますが、受給開始時期を繰り下げる(受取を遅らせる)ことで、年金額を増額することができます

繰り下げは66歳~75歳の範囲で、月単位で選択することができます。1カ月繰り下げるごとに年金が0.7%増額します。増額率は一生涯変わらず、最大の75歳まで繰り下げると、84%(0.7%×120カ月)増額します。

たとえば、65歳時の年金額が344万円なら、受給を75歳まで繰り下げると年金額は633万円になります。

なお、老齢基礎年金(国民年金)と老齢厚生年金(厚生年金)は、別々に繰り下げ申請することも可能です。

iDeCo(個人型確定拠出年金)

iDeCoは、20歳から65歳までの公的年金加入者が加入できる私的年金制度です。原則解約できず、60歳まで引き出せないため自由度は高くありませんが、老後資金を確実に準備したい場合に活用したい制度です。

基本的に誰でも加入できますが、前述したマッチング拠出をしている人は加入できません。

任意の掛金(加入中の年金保険により上限あり)を拠出し、企業型DC同様に元本保証商品や投資信託で運用します。年金額は運用成績により変動し、原則60歳以降に一時金や年金として受け取ります

掛金は、開業医など国民年金加入者は最大6万8,000円/月(国民年金基金または国民年金付加保険料と合算)、勤務医など厚生年金加入者はほかの年金制度への加入要件によって異なりますが、最大2万3,000円/月です。

掛金は所得控除の対象で、年金受取時も退職所得控除または公的年金等控除が適用されます。

まとめ

年金制度の先細りが予想される中、医師も老後資金の準備をするために一定の自助努力が求められます。開業医と勤務医は年金制度が違うため、異なった対策が必要でしょう。とくに開業医は公的年金が手薄となりますので注意してください。

この記事で紹介したように、公的年金以外にも、医師が年金を増やすことのできる制度があります。複数の制度を組み合わせるなどして、自分なりの年金づくりの方法を見つけてください。

山﨑 裕佳子

執筆者:山﨑 裕佳子

FP事務所MIRAI 代表

1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、証券外務員二種保有。「家計の見直しでMIRAIを変える」をモットーに、各種相談、マネー記事執筆、書籍監修など幅広く活動中。

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