災害大国である日本において、災害医療の体制構築は必須と言えます。DMATは災害発生時の急性期に活躍する医療チームです。活動に興味をお持ちの先生もいらっしゃることでしょう。
この記事では医師がDMATになるためにクリアすべき要件や、なりたいと思ったときに考えたいことを紹介します。

執筆者:三田 大介
DMATとは
DMAT(ディーマット)とは、disaster medical assistance teamの頭文字を取った「災害派遣医療チーム」のことです。厚生労働省は以下のように定義しています。
DMATとは、災害の発生直後の急性期(概ね48時間以内)から活動が開始できる機動性を持った、専門的な研修・訓練を受けた医療チームである。
厚生労働省 DMAT事務局「日本DMAT活動要領」(令和6年3月29日改正版)p.3~4より引用
http://www.dmat.jp/dmat/katsudouyoryo20240803.pdf(2024年12月23日閲覧)
1995年に発生した阪神・淡路大震災で、日本の災害医療の課題が浮き彫りとなりました。この課題を乗り越えるべく、1999年に発足したのがDMATです。
2022年4月時点で、DMAT隊員として研修を修了した人は15,862名、DMAT指定医療機関に登録している組織は2,040チームにのぼります*1。
DMATの活動内容
DMATは被災地域の都道府県の要請により派遣され、平時にあらかじめ策定された防災計画などに基づいて活動します。
被災地域での活動はイメージしやすいのではないでしょうか。病院支援、域内搬送、現場活動(トリアージ、緊急治療、がれきの下の医療など)があります。
重症の患者さんなど、被災地域での対応が困難な場合は被災地域外で治療を行うため、広域医療搬送を行います。
2022年には『日本DMAT活動要領』が改正され、新興感染症などのまん延時における対応もDMATの活動内容に追加されました。新型コロナウイルス感染症の流行初期、DMATが「ダイヤモンド・プリンセス号」や各都道府県調整本部に入り、災害医療の知見を活かして支援にあたったことが反映されました。
日本DMAT活動要領 新旧対照表(令和4年2月)|厚生労働省
近藤久禎ほか:ダイヤモンド・プリンセス号におけるDMAT活動.J J Disast Med 27(Suppl):3-6,2022
新型コロナウイルス感染症対応にかかるクルーズ船(ダイアモンド・プリンセス号)内での救護活動|日本赤十字社 大阪赤十字病院
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DMAT隊の構成・職種
DMATは、1隊あたり医師1名、看護師2名、業務調整員1名の4名編成が基本です。
医師は診療技能を活かし、被災者の診療を担います。
看護師は、主に診療の補助と患者のケアを担います。
業務調整員は、情報と資源の管理を担います。災害時は通信状況が不安定になる場合もあるため、通信を確保し、必要な資源などの情報を収集し、共有・記録などにあたります。
災害時は限りある資源(ヒト、モノ、金、移動手段、場所)を適切に分配しなければならず、資源の管理はDMATの重要な業務です。ほかにも、業務調整員はチームが能力を発揮できるよう生活環境の整備も行います。こうした業務は「ロジスティクス」とも呼ばれます。
医師と看護師には、それぞれの資格と勤務実績が必要ですが、業務調整員は資格が限定されておらず、事務職、薬剤師、理学療法士など、職種を問わず登録可能です。
DMATとJMATの違い
災害時には、DMAT以外にも多くの団体が災害医療にあたります。DMATと並んで知名度があるのはJMAT(Japan medical association team、日本医師会災害医療チーム)でしょう。
JMATは、主に「災害急性期以降」、避難所などで人々の医療・健康管理にあたります。日本医師会、都道府県医師会、群市区医師会が連携して運営する団体で、2010年に結成が提言され、2011年の東日本大震災以降、活動を展開しています。
DMATが主に「災害急性期」に活動するのに対し、JMATはDMATの派遣終了後、その活動を引き継いで活動します。しかし状況に応じてDMATと並行、あるいはDMATに先駆けて派遣される場合もあります。日本医師会の会員資格や事前登録がなくても参加できます。
ほかに、被災地の精神保健医療の提供にあたるDPAT(disaster psychiatric assistance team、災害派遣精神医療チーム)、感染症予防にあたるDICT(disaster infection control team、災害時感染制御支援チーム)、保健医療福祉分野の支援にあたるDHEAT(disaster health emergency assistance team、災害時健康危機管理支援チーム)など、近年多様な災害医療チームが編成されており、災害医療の現場でさまざまな医師が活躍しています。
日本医師会災害医療チーム(JMAT)のご紹介|日本医師会(厚生労働省 第6回救急・災害医療提供体制等に関するワーキンググループ(2022年7月)資料)
東日本大震災におけるJMAT活動を中心とした医師会の役割と今後の課題について|日本医師会総合政策研究機構
日本医師会 JMAT本部
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DMATになるには
ここからは、医師としてDMATで活動するためにはどうすれば良いか、見ていきましょう。
DMAT隊員として登録されるためには、以下2つの条件を満たす必要があります。
- 「DMAT指定医療機関」に所属している
- 「DMAT隊員養成研修」を修了している
「DMAT指定医療機関」への所属
「DMAT指定医療機関」とは、「DMAT派遣のために都道府県と医療法及び感染症法に基づく協定を締結し、厚生労働省又は都道府県に指定された医療機関」*2です。2022年時点で、全国828の医療機関がDMAT指定医療機関に指定されています*1。
DMAT指定医療機関に所属している医師であれば、DMAT隊員に応募することができます。
ほかに、「災害拠点病院」という指定もあります。災害拠点病院は、災害時における医療提供体制の中心的な役割を担う病院です。DMAT指定医療機関が人材の派遣という"ソフト面"で協力するのに対し、災害拠点病院は診療の場、被災者の受け入れという"ハード面"で災害医療に貢献します。
DMAT指定医療機関は「災害拠点病院であることが望ましい」*2とされており、実際は双方の指定を受けている医療機関がほとんどです。
2024年4月時点で、都道府県ごとに1カ所以上設置される「基幹災害拠点病院」には63、二次医療圏に1カ所以上設置される「地域災害拠点病院」には713、あわせて776病院が災害拠点病院に指定されています*3。
「DMAT隊員養成研修」の受講
DMATの一員として活動するためには、「日本DMAT隊員養成研修」を受講する必要があります。年に7回ほど開催されており、原則4日間かけて実施されます。
内容は災害医療やDMATに関する基本的なものから、広域災害・救急医療情報システム(EMIS)の操作、現場救護所や災害拠点病院などでの診療、航空機飛行中の診療など、状況ごとの研修も実施されます。実習を履修するだけでなく、知識・技術の確認・評価も行われます。
研修を受講するには、都道府県の推薦が必要です。原則としてチーム単位(医師1名、看護師2名、業務調整委員1名)で受講します。「救命救急センターまたは災害拠点病院等に勤務する」*4ことが条件で、診療科や専門分野に関する具体的な定めはありません。
なお、受講アクセス向上と若手の育成を目的に、若手医療従事者を対象とした「厚生労働省直轄枠」も設けられています。以下の要件を満たせば医師個人が直接応募できます。
「日本DMAT隊員養成研修」厚生労働省直轄枠の受講要件 |
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(必須要件)
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(望ましい要件)※医師の場合
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厚生労働省webサイト「令和6年度災害派遣医療チーム(DMAT)研修 厚生労働省枠新規募集について」より引用
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/infulenza/kenkyu_00004.html(2024年12月23日閲覧)
DMATになりたいと思ったら
DMATの活動に興味を持った際は、まずは情報を集めることから始めるのが良いでしょう。
自分が住む都道府県のDMAT指定医療機関・災害拠点病院はどこか、研修はいつ行われているか、についてはインターネット上で確認できます。各医療機関のDMATの活動報告も紹介されていますし、DMATとして活動した医師の声を直接聞く機会があれば、参加してみるのが良いでしょう。実際の活動のイメージを持ちやすくなるでしょうし、もしかするとイメージと現実とのギャップがあるかもしれません。
DMAT指定医療機関にすでに勤務している人は、DMAT隊員養成研修を受講することで登録に至ります。研修を受けるには、先述のとおり都道府県を通じての推薦が必要ですので、責任者に相談すると良いでしょう。
対象となる病院に勤務していない人は、まずは職場を変えることから始めなければなりません。その間、あるいは研修医や専攻医などの若い先生は、先にACLS・ICLS、JATECなどの基礎学習コースを履修しておくと良いでしょう。
晴れてDMATとして活動することになった後、活動を続けていくためにはほかの専門医資格と同様、資格の更新が必要です。更新は5年ごとに実施されます。更新のためには「DMAT技能維持研修」に2回以上参加していなければなりません。
災害はいつ起こるかわからないため、研修を通して定期的に技能や知識を確認し、最新の災害医療を提供できるよう備えておくことが重要なのは当然です。また、災害医療は人命に大きく影響するにもかかわらず経験できる回数が少ないことから、全国の医療機関や被災自治体が一丸となって、実際の災害から得られた知見を共有し、次の災害に活かしていくことが重要です。
そのためにも定期的な研修の果たす役割は大きいと言えます。DMATとして活動していくには、通常医療同様、医師として学び続ける覚悟が必要でしょう。
まとめ
災害はいつ発生するか予測できず、平時から有事に備えてさまざまな対策がなされています。災害医療の備えの中で、DMATは中心とも言える存在です。隊員になるには、対象医療機関に勤め、指定の研修を受講するなど、決してハードルは低いとは言えません。しかし登録者が増えることは災害医療を充実させるだけでなく、災害医療の視点が広がることでもあります。医師として、災害支援のためにDMAT研修を受けることや、有事の際に協力し合える関係性を地域や医療従事者同士で構築しておくことが望まれます。
厚生労働省 DMAT事務局