DICT(災害時感染制御支援チーム)とは?活動内容や医師としての参加条件を紹介

医師がキャリアや働き方を考える上で参考となる情報をお届けします。
医療業界動向や診療科別の特徴、転職事例・インタビュー記事、専門家によるコラムなどを日々の情報収集にお役立てください。

業界動向

公開日:2024.07.12

DICT(災害時感染制御支援チーム)とは?活動内容や医師としての参加条件を紹介

DICT(災害時感染制御支援チーム)とは?活動内容や医師としての参加条件を紹介

医師の皆さん、災害派遣医療チームの一つである「DICT」についてご存知でしょうか。大規模災害発生時、医療体制のひっ迫や避難所における衛生環境の悪化により、集団感染のリスクが急激に高まります。こうした状況下で被災地の感染制御を支援するのが「災害時感染制御支援チーム」(DICT)です。

この記事ではDICTの概要や活動内容、DICTで医師として働く条件などを解説します。

DICTとは

DICTはdisaster infection control team(災害時感染制御支援チーム)の略称で、災害時における感染制御を目的に活動する災害派遣医療チームです。病院には感染対策部門としてICT(infection control team)が設置されていることが多いですが、その災害医療版と言えるでしょう。

自然災害が生じると、被災地では十分な医療体制を構築できず、医療の提供が難しくなります。被災者は避難所などで集団生活を行う必要が生じるほか、清潔な飲料水を確保することが難しくなることや、ストレスによる免疫力低下などの理由から、感染症が発生しやすくなると考えられます。

実際、東日本大震災や熊本地震では、避難所などでインフルエンザや感染性胃腸炎の流行が報告されました。こうした事例・経験をふまえ編成されたのが、被災地で感染制御活動を支援するDICTというわけです。

厚生労働省も避難所における感染症対策を啓蒙しており、DICTへの期待は高いと言えるでしょう。

DICTは日本環境感染学会(JSIPC)が主体となって編成されます。感染制御に関する専門知識と経験を持つ医師・看護師・薬剤師・微生物検査技師などで構成され、後述する「DICT unit」においては4名編成が原則です。災害時に活躍するDMATやDPATと同様、災害の急性期(48時間以内)から活動にあたります

DICTの活動内容

続いて、DICTの役割や活動内容について見ていきましょう。

先述のとおりDICTは災害時の感染制御領域支援に特化した医療チームであり、感染症予防を含め、避難所における感染制御支援やその相談への対応が主な任務です。

災害医療チームとして昨今有名なのはDMAT(disaster medical assistance team、災害派遣医療チーム)ですが、DICTはDMATとは違って医療提供は行いません。

DICTには大きく4種のチームがあり、それぞれ活動内容が異なります。

  1. 迅速評価チーム(PreDICT)
  2. 連絡調整チーム(HQT)
  3. 被災現地チーム(DICT unit)
  4. 物資支援チーム(LST)
出典:日本環境感染学会「⼤規模自然災害の被災地における感染制御⽀援マニュアル2021」p.S22・23
http://www.kankyokansen.org/other/DICT_manual_gakkaishi.pdf

1.迅速評価チーム(PreDICT)

PreDICTは発災直後、可能な限り早期に現地に赴き、DICT unitを派遣すべきかどうか判断するための情報収集を目的とするチームです。被災自治体を訪れ、避難所の視察を通じて域外からの支援が必要かどうかを検討する先遣隊の役割を果たします。

2.連絡調整チーム(HQT)

HQTは災害対策本部に駐在し、DICT活動を調整することが任務です。DICT unitの活動を統括するために研修を受けた医師または看護師で構成されます。情報をJSIPCやDICT unitと共有し、効果的な活動につながるよう調整する役割を果たします。

3.被災現地チーム(DICT unit)

DICT unitは被災地で活動する実働部隊です。地元医療機関のICTのメンバーなどから成る「受援DICT」と、被災地域外から派遣される「支援DICT」とに分けられます。ノロウイルスやインフルエンザによる感染症流行の拡大防止、避難所の感染リスクアセスメントなどを目標に活動を展開します。

4.物資支援チーム(LST)

LSTは後方支援を担当します。DICT unitのアセスメントで必要と判断された物資(たとえば手指衛生のためのアルコールやマスクなど)を提供するのが任務です。

DICTの活動実績

DICTが出場した令和6年能登半島地震で焦土と化した町並み

DICTは、2011年の東日本大震災における活動をきっかけに発足したチームです。その後、さまざまな災害で活動を行ってきました。2016年4月の熊本地震や、同年8月の台風10号災害などです。

熊本地震の際は、まだ収束していなかった季節性インフルエンザの再流行に備え、避難所に備蓄する薬剤の提供を厚生労働省に働きかけました。

台風10号災害では、岩手県の感染制御支援チームと連携して活動を展開し、企業からの物資支援にもつながりました。

2024年元日に発生した能登半島地震においても、DICTは災害発生2日後から活動しています。避難所での支援や関係者との連絡調整のため早期から職員や専門家を派遣して体制構築にあたり、その後は情報支援システムなどを活用した遠隔支援も実施されました。

DICTで医師として働くには

doctor is wearing blue rubber gloves prevent direct contact with patient because virus may be traced to patient body and medical rubber gloves also help prevent virus from being transmitted to patient

実際にDICTで医師として働くにはどうすれば良いのか、気になっている方もいらっしゃるでしょう。DICTのメンバーとして登録し、被災地で活動するためには、下記の条件を満たす必要があります。

  • 日本環境感染学会(JSIPC)の会員であること
  • 自施設のICTメンバーとして感染制御実務の経験があること
  • DICTメンバー養成研修会に参加すること

JSIPC会員となるには年会費が必要ですが、推薦人などの参加要件はありません。ただしICTメンバーとして勤務するわけですから、当然感染症について造詣が深いことが求められます。専門医資格は必須ではありませんが、感染症専門医の取得を目指すことは選択肢の一つになるでしょう。

感染症専門医は現在、日本専門医機構の定めるサブスペシャルティ領域に位置付けられています。したがって内科などの基本領域研修修了後に、さらに2年以上の研修を受ける必要があります(令和4年3月末現在)。

今後、内科以外の基本領域も対象とすることが目指されていますが、現時点では内科や小児科のバックグラウンドを持つ医師が多くを占めています。感染症を専門にしたいならば、日本感染症学会から発表される最新情報にも注目しつつ、まずは内科ないし小児科に進むことが王道と言えるでしょう。

DICTメンバーとして活動するためには、養成研修会にも参加する必要があります。2日間にわたる講義と机上演習で、日本の災害医療体制や災害時対応の原則、災害発生時のシミュレーション対応などを学びます。

養成研修会に参加しDICTアクティブメンバーとして登録されることで、災害発生時に派遣される資格が与えられます。

まとめ

今回はDICTの概要や活動内容、医師の参加条件について紹介しました。災害医療というとDMATやDPATは比較的想起しやすいものの、DICTは知らなかったという方もまだ多いかと思います。衛生環境の悪化しやすい災害時に適切な感染対策を行うことは、呼吸器感染症や消化管感染症のまん延を防ぐために重要です。感染症は広がっていくものですから、早期かつ迅速な取り組みが重要と言えるでしょう。

この記事がDICTの概要を理解する一助となれば幸いです。

Dr.SoS

執筆者:Dr.SoS

皮膚科医・産業医として臨床に携わりながら、皮膚科専門医試験の解答作成などに従事。医師国家試験予備校講師としても活動している。

今の働き方に不安や迷いがあるなら医師キャリアサポートのドクタービジョンまで。無料でご相談いただけます