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地震や台風、集中豪雨など自然災害の多い日本。災害によって多くの傷病者が出ると、医療への需要が一時的に高まり、平常時とは異なる医療体制の構築が必要となります。
今回は、災害医療の概要について解説するとともに、現在ひっ迫しているコロナ診療との向き合い方についても説明します。
災害医療とは
災害医療とは、災害が起きたときに需要が供給を上回る状態で提供される医療のことを指します。災害には大地震や豪雨による川の氾濫、土砂崩れなどの自然災害のほかに、大規模な事件や事故、テロなどの人為災害も含まれます。
災害はいつどこで起こるか予測はできず、医療スタッフが十分に揃わない深夜や休日にも当然発生します。多くの傷病者が出る災害時には、限られた時間と医療スタッフ、医療資源の中で適切な治療を迅速に提供できる体制が必要です。平常時に滞りなく提供できていた地域の医療サービスが災害時に機能不全とならないためにも、一時的に外部からの協力を得て、災害医療に取り組むことが求められます。
災害派遣医療チームであるDMATとJMAT
災害発生時に活躍するのが、災害派遣医療チームの「DMAT(Disaster Medical Assistance Team:ディーマット)」です。DMATは厚生労働省によって発足され、「災害急性期に活動できる機動性を持ったトレーニングを受けた医療チーム」と定義づけられています。災害医療に関する専門的な研修や訓練を受けた医師1名、看護師2名、業務調整員1名でおもに構成され、災害発生直後(目安として48時間以内)に現場に出動し、救助や治療活動を開始します。
また、日本医師会の災害医療チームである「JMAT(Japan Medical Association Team:ジェイマット)」も災害医療に大きく貢献しています。DMATとは少し役割が異なり、おもに災害急性期以降に、被災地の医師会からの要請を受けて派遣されます。避難所や仮設の診療所などで、被災者への医療サービスの提供や健康管理を行います。
災害拠点病院の役割
災害派遣医療チームとともに大きな役割を担うのは災害拠点病院です。災害拠点病院とは、災害発生時に24時間いつでも緊急対応ができ、被災地からの重症傷病者の受け入れ・搬送が可能な体制を持つ病院を指します。高度な診療機能があることや、救命救急センターまたは第二次救急医療機関であること、DMATの派遣体制が整っていること、ヘリポートがあることなど、各都道府県が指定するにあたって細かい要件が定められています。
災害拠点病院は定期的に災害時を想定した訓練を行なっており、各防災機関や地域との連携を強固に保ち、もしものときに備えています。
救急医療との違い
災害医療と救急医療は、どちらも緊急である点と携わる医師に救急医が多い点は似ています。救急医は、日頃から重症度に応じた対応や初期治療をしており、緊急度の高い場面でも適切な意思決定や優先順位づけを素早く行うことに慣れていることから災害時は特に重要な存在となります。
災害医療と救急医療の大きな違いは、対応しなければならない患者さまの数です。平常時の救急外来では、医療の需給バランスが崩れるほどの傷病者が運び込まれることは基本的にありません。しかし、災害時は何百人、何千人という傷病者が発生します。限られた時間と不十分な医療資源の中で一人でも多くの命を救わなければならないため、それぞれの患者さまにできる処置は限られてしまいます。
一方で救急医療では、豊富な医療資源の中で搬送されてきた患者さま一人ひとりに十分な治療が行えるという違いがあります。
災害医療の重点項目
災害医療には「トリアージ・治療・搬送」の3つの重点項目があります。トリアージとは、傷病者の重症度を確認して治療の優先順を決める作業のことです。重症者が長時間にわたって放置されることがないように、迅速に振り分けが行われます。
災害の現場では、根本的な治療を行うわけではありません。まずは原則として緊急の状態を安定させる「安定化療法」が行われます。気道確保や胸腔ドレナージ、骨折した部位の固定などの応急処置で、患者さまを搬送に耐えられる状態にすることが目的です。
その後、根本的な治療を行うために、災害拠点病院・災害拠点連携病院などに搬送される流れです。傷病者の状態に合わせて、自動車やヘリコプターなどで搬送されます。
災害時医療ニーズの時間的変遷
震災をはじめとする災害時の医療ニーズは、時間が経つにつれて変わってきます。災害が起きてから6時間までを発災直後とし、それ以降は下記のように区分されています。
超急性期には、災害拠点病院に重症者を集めて安定化療法を行い、被災地外の災害拠点病院に搬送が行われます。急性期には引き続き搬送を行うとともに、救命救急から地域の医療体制のサポートに移行していきます。その後、地域医療が復旧すると、緊急で設けられた医療救護所の閉鎖やDMATの活動が終了となります。
コロナ禍と災害医療の共通点
新型コロナウイルス感染症の流行中は平常時とは異なる医療体制が必要であり、災害医療に通ずるものがあります。外部からの協力を得ながら、医療資源が限られる中で優先順位を決めて連携する医療機関に搬送しなければなりません。実際にコロナ禍となってから、医療の現場ではどのような対応がとられたのでしょうか。
ダイヤモンド・プリンセス号での事例
2020年2月に横浜港に到着したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」において、新型コロナウイルス感染症のクラスターが発生しました。そこで活躍したのは、迅速に派遣されたDMATです。PCR陽性者を船外や医療機関に搬出し、感染源の減少に貢献。ハイリスクの乗客には早期の診療と定期処方薬の供給を行い、関連死は0人に抑えました。そのうえ、患者さまを層別化して軽症や無症状者を県外の医療機関に搬送したことで、神奈川県内の医療体制を維持できたことも高く評価されています。
指揮命令系統が明確であるDMATの活躍例は、各地域や医療機関における緊急時の組織作りにも役立つと考えられます。
大阪でのDMATの活躍
2021年5月の第4波でコロナ診療と一般診療のバランスが大きく崩れた大阪府には、和歌山県から速やかにDMATが派遣されました。大阪府では患者さまの搬送先が決まらないケースが多数発生したことから、一時的に処置を行う待機ステーションが設置されました。DMATは、この待機ステーションでコロナウイルスに感染した患者さまの容体確認や医療機関との調整を行い、非常時を支えました。
災害時と同様に、外部からの支援をスムーズに受けるには、各都道府県の行政や医療機関との強固な連携が重要となるでしょう。
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災害医療と通じるコロナ禍との向き合い方
コロナ禍では、限られた医療資源のなかで一人でも多くの命を救うという災害医療と同じ考え方が必要です。基礎疾患を持つ人や高齢者に十分な医療を提供できないことによる症状悪化、環境の変化による精神疾患の増加が懸念される点も災害医療と状況が似ています。
医療従事者のメンタルヘルスに影響が及ぶことも同様で、コロナ診療は医療従事者とその家族に非常に大きな影響を与えています。コロナ診療では、患者さまをケアすると同時に自身の心身の健康を保つことも重要です。米国トラウマティック・ストレス研究センターは「COVID-19関連のメンタルヘルス・マニュアル」を作成し、医療従事者向けにもストレスマネジメントの方法をまとめているので参考にしてください。
長期化しているコロナ禍ですが、ワクチンの大規模接種も始まり、また平常へと回復していくことは確かです。コロナ診療で培った非常時のノウハウは、今後また起きるであろう災害時に役立つでしょう。
ドクタービジョン編集部
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