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自然災害の多い日本。大規模災害が起きたときには被災地の医療機関がダメージを負い、通常通りに機能しない状況が起こることがあります。そのような緊急時に被災地支援のために派遣される組織が「JMAT(日本医師会災害医療チーム)」です。
今回は、JMATの概要や活動内容、DMATとの違いなど詳細を解説します。
JMATとは?DMATとの違いも
JMAT(Japan Medical Association Team)とは、日本医師会が組織する災害医療チームです。各都道府県の医師会がそれぞれチームを編成しており、災害時に被災地の医師会から要請を受けて派遣されます。避難所を中心に医療活動を行い、被災者の命と健康を守り、地域医療の復興を支援します。
DMATとの違い
災害時に活動する医療チームには、厚生労働省または各都道府県によって組織されたDMAT(災害派遣医療チーム)もあります。DMATは、初期医療体制の遅れによって多くの命が犠牲となってしまった阪神淡路大震災をきっかけに設立されました。
JMATはDMATの後を引き継ぐ形で、原則として災害発生から48時間以内の超急性期に被災地へ派遣され、避難所や救護所で医療活動を行います。
チームは主に専門的なトレーニングを受けた医師1名、看護師2名、事務職員1名で構成され、必要に応じて薬剤師や理学療法士、栄養士などが加わります。1つのJMATの派遣期間は3〜7日が目安です。JMATの派遣期間は現地の医療体制が回復するまでで、災害の規模によっては数ヶ月から数年と長期間にわたって派遣要請が出る場合もあります。
JMATの活動内容
災害時は超急性期にDMATが速やかに被災地に向かい対応し、その後JMATが医療体制復興のために尽力します。ここからはJMATの活動内容について具体的に説明していきます。
また、以下で説明する以外にも、被災地の様々な機関と連携しながら状況に合わせた支援が必要です。
医療支援・健康管理
被災地の救護所や医療機関、避難所、社会福祉施設、介護施設など、各所で診療にあたります。仮設住宅や在宅医療、車中泊、テント泊などをしている被災者の元へも巡回し、健康状態に異常がないかの確認。さらに、人工透析や持病などを治療中の患者さまが、被災後であっても継続して治療を受けられるようにサポートします。
災害は被災者のメンタルヘルスに大きな影響を及ぼすため、重点的なメンタルケアも必要です。また、巡回診療をするなかで医療支援が行き届いていない地域がないかを把握して対応にあたります。
公衆衛生支援
避難所などでは不衛生な環境にならないよう公衆衛生支援も行います。人が多く集まる場所では感染症対策が欠かせません。また、避難生活で長期間安静にしていると廃用症候群のリスクもあるため、体を動かすなどの予防策も共有します。
避難所では水や食べ物が限られるため、避難者の栄養状態の把握・改善も並行して行わなければなりません。不足している物資があれば、関係各所へ送付要請も出します。
被災地医師会や行政への支援
被災地医師会において災害対策本部を設置、または運営の手助けをします。被災地の医療ニーズを正確に把握するために情報収集も必要です。高齢者や難病のある患者さまなど医療や介護が必要な人の数や、感染症などの病気の発生状況を把握し、追加派遣の要請は必要か、撤収時期はいつが適切かなどについて検討します。
被災地の医師会だけではなく、保健所や保健センター、民生委員などの関係者と連携して行政支援も行います。警察医会と連携しながら検視・検案に関わる場合も少なくありません。
情報の発信・共有
現地の情報を収集したうえで、国や各都道府県の医師会および関係者に共有するのもJMATの役割です。被災地の医療従事者と密に連携しながら、被災地までの地形や気象情報、交通ルート、避難者数、トイレや汚染物質などの公衆衛生の状況、医薬品などの不足物資、二次災害のリスクなどを把握し、情報を発信します。
コーディネート機能
経験豊富なチームや参加者は、DMATなどからコーディネート機能を引き継ぎ、コーディネート機能が不十分な地域では指揮する役割も担うことがあります。
JMATが活躍したおもな災害など
実際にJMATが派遣されて活躍したおもな災害について紹介します。
東日本大震災
2011年3月に発生した東日本大震災では、岩手、宮城、福島、茨城の4県に延べ1,384チームが派遣され、DMAT撤退後の診療支援を行いました。JMATは、保険診療が機能した段階で活動を終了する予定でした。しかし、原発事故による避難生活の長期化や津波による医療機関の消失などで通常の診療が困難な地域もあったことから、継続的な医療支援が必要と判断しています。そのため、災害医療としてのJMATは2011年7月15日で終了し、翌日16日以降はJMATⅡに移行しました。
JMATⅡは被災地の診療支援や公衆衛生支援、健康診断、予防接種支援、心のケア、訪問診療、巡回診療などを実施。とくに仮設住宅における孤独死防止や心のケアを重視し、2016年3月21日のJMATⅡ派遣終了まで被災者の心身の健康をサポートし続けました。
令和元年台風19号
長野県、宮城県、福島県、埼玉県、茨城県など広域に甚大な被害をもたらした令和元年台風19号。宮城県、福島県、栃木県の3県では、被害が明らかになった2019年10月14日からJMATが医療支援ニーズの把握のため避難所などを調査。行政とも協力しながら情報収集を重ね、被災地域で医療・健康支援活動を行いました。
新型コロナウイルス対応
2019年12月に中国の武漢で感染者が発生した新型コロナウイルス。2020年から現在に至るまで世界的に大流行しており、日本でも災害時同様に医療体制の崩壊が生じています。そのなかで、新型コロナウイルス感染症に対応するため「COVID-19 JMAT」の派遣が特例的に行われました。「COVID-19 JMAT」は新型コロナウイルス感染症のクラスター発生地や軽症者を受け入れているホテル、福祉施設、ワクチン接種会場などに派遣され、対応にあたっています。
災害大国の日本に欠かせないJMATの活躍に今後も注目
JMATは災害の状況を見ながら柔軟な判断で派遣され、被災地の医療機関と協力しながら医療体制の復興をサポートします。2010年の日本医師会の創設提言と翌年の東日本大震災への初派遣以来、台風やゲリラ豪雨による水害・土砂災害、地震などの災害時に活躍し、多くの命を救ってきました。コロナ禍においてもJMATは各所で必要とされており、今後さらに幅を広げて活動することが予想されます。
一方でJMATには、医師会と行政間の連携不十分、費用負担の問題、目まぐるしい状況変化による情報の劣化・相違、参加者のPTSD対策など、数多くの課題があげられています。今後は徐々に課題の解決が見込まれ、JMATのさらなる活躍が期待されるでしょう。
ドクタービジョン編集部
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