JRAT(日本災害リハビリテーション支援協会)とは?活動内容や登録条件を紹介

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業界動向

公開日:2024.09.04

JRAT(日本災害リハビリテーション支援協会)とは?活動内容や登録条件を紹介

JRAT(日本災害リハビリテーション支援協会)とは?活動内容や登録条件を紹介

日本では地震や豪雨などの自然災害が各地で発生し、被災地への医療支援が求められる機会が多くあります。災害派遣医療チーム(DMAT)など、救命救急の支援は多くの人が知るところだと思いますが、被災地で活動する団体はほかにもあります。

この記事では、JRAT(日本災害リハビリテーション支援協会)の活動について紹介します。

三田大介医師プロフィール写真

執筆者:三田 大介

リハビリテーション科医師

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JRATとは

JRATの正式名称は、一般社団法人日本災害リハビリテーション支援協会(Japan disaster rehabilitation assistance team)です。文字どおり災害時にリハビリテーションを支援する活動を行っています。

「災害リハビリテーション」とは

JRATは「災害リハビリテーション」という考え方を提唱し、被災者や要配慮者(介護や生活への配慮が必要な人)の生活の再建・復興を支援します。

災害リハビリテーションとは、災害時の「生活不活発病」や「災害関連死」を防ぐために、リハビリテーション医学・医療の視点から支援することです。日本は超高齢社会であり、介護だけでなく生活に配慮が必要な人が多い社会です。そんな日本では地震や水害、台風といった多くの自然災害が起こるので、有事の際は専門職が組織的に支援を行う必要があります。

「生活不活発病」とは、生活が不活発になったことで心身機能が低下することです。心身機能が低下すると、さらに生活の不活発を助長し、心身機能がより低下していく悪循環に陥ってしまいます。

「災害関連死」とは、被災者が疲労やストレスによる心不全、避難所におけるエコノミークラス症候群(深部静脈血栓症)など、災害による直接的な死ではなく、怪我やその後の生活で死亡することです。内閣府は2019年に以下のように定義しています。

災害関連死:当該災害による負傷の悪化又は避難生活等における身体的負担による疾病により死亡し、災害弔慰金の支給等に関する法律(昭和48年法律第82号)に基づき災害が原因で死亡したものと認められたもの(実際には災害弔慰金が支給されていないものも含めるが、当該災害が原因で所在が不明なものは除く。)

内閣府 令和元年度災害救助法等担当者全国会議資料「災害関連死について」p.5より引用
https://www.bousai.go.jp/taisaku/kyuujo/pdf/r01kaigi/siryo8.pdf(2024年9月4日閲覧)

これらを防ぐことが、災害リハビリテーションが担う重要な使命です。

JRATの活動内容

JRATによる活動は、災害発生直後からいくつかのフェーズに分かれていることが特徴です。

まず、災害発生直後(応急修復期)には、「避難所の住環境の評価」、「動きやすい居住環境のアドバイスや応急的環境整備*1などを行います。ほかの団体と連携して避難所支援物資を適切に選定し、ベッドの設置などを支援します。

復旧期には、リハビリテーション支援を通して生活不活発病の予防にあたります。避難所や施設での生活は、生活不活発病となりやすい環境です。

その後(復興期)は、地域に根付いたリハビリテーションの支援を継続します。

災害が発生していないときも、JRATは活動を展開しています。災害リハビリテーションに関する人材育成や普及・啓発に取り組んだり、地域住民とともに災害に立ち向かう仕組みづくりに参加したりしています。

JRATに参画する団体

JRATは、2011年4月に設立された「東日本大震災リハビリテーション支援関連10団体」の活動が発端でした。その後の2013年7月、今後起こるであろう大災害に備えるため「大規模災害リハビリテーション支援関連団体協議会」が結成され、今のJRATに至ります。

2024年8月現在、JRATに参画している団体は以下のとおりです(出典元の掲載順)。

  • 日本リハビリテーション医学会
  • 日本理学療法士協会
  • 日本作業療法士協会
  • 日本言語聴覚士協会
  • 日本リハビリテーション病院・施設協会
  • 回復期リハビリテーション病棟協会
  • 全国デイ・ケア協会
  • 日本訪問リハビリテーション協会
  • 全国地域リハビリテーション支援事業連絡協議会
  • 全国地域リハビリテーション研究会
  • 日本義肢装具士協会
  • 日本義肢装具学会
  • 日本リハビリテーション工学協会
出典:JRAT webサイト「団体概要」
https://www.jrat.jp/gaiyou.html(2024年9月4日閲覧)

JRATになるには?―スタッフ編成と登録条件

JRATの活動を通してストレッチをするシニアの男女とトレーナーの女性のイメージ

JRATのスタッフになるには、先述のJRAT参画団体の会員であり、研修参加などの手続きを経ることが必要です。

JRATのスタッフは、活動時期により以下の4種類に分けられています。

R-スタッフ

R-スタッフ(JRAT Rapid response team staff)は、発災直後から活動を行います。被災地で、地域JRAT本部の立ち上げなどの初動対応を行い、被災地でJRATが円滑に活動できるようにすることが役割です。

R-スタッフとして登録するには、養成研修を受ける必要があります。申込時には職場の施設長と地域JRAT代表の推薦が必要です。養成研修は5時間のe-ラーニングと3時間のオンライン演習で構成されています。

D-スタッフ

D-スタッフ(JRAT Disaster assistance staff)は、地域JRAT本部長の指示に従い、避難所における支援活動を行います。

登録には、地域JRAT代表の推薦と、90分のe-ラーニング、規定の演習(地域保健・福祉における災害対応標準化トレーニングコース、サイコロジカルファーストエイド)が必要です。

L-スタッフ

L-スタッフ(JRAT Logistics staff)は、地域JRAT本部長の指示に従い、本部での活動やその支援を行います。

D-スタッフと同様、登録には地域JRAT代表の推薦、e-ラーニング、規定の演習(大規模災害リハビリテーション支援チーム本部運営ゲームなど)が必要です。

E-スタッフ

E-スタッフ(JRAT Emergency assistance staff)は、地域JRATの緊急募集に応じて、避難所におけるリハビリテーション支援を行います。

E-スタッフは、登録にあたって事前の研修要件はありません。

JRATの活動実績

令和6年能登半島地震

2024年元日に発生した能登半島地震で、JRATが活動を行いました。

発災直後の1月3日には石川JRATによる現地対策本部が、1月4日には東京に中央対策本部が設置されました。1月5日には現地にR-スタッフのチームが派遣され、1月14日には全国の地域JRATが活動を始めています。

現地では、地震や積雪による交通網の寸断、断水、電気の復旧の遅れとそれによる被災者の移送などに対応しながら、支援活動が展開されました。1月19日には、厚生労働省からJRATの増員要請が出されており、リハビリテーション支援が強く求められていたことがわかります。活動を終える4月30日までに、約5,500人以上が支援活動に参加しました。

2024年9月4日時点で、能登半島地震の災害関連死は112人と報道されています。東日本大震災の約3,800人*2、熊本地震の220人*3と比べると現時点では少なく、JRATの貢献もあると考えられますが、いまだ申請・認定に至っていないケースがあるなど、災害関連死の件数はさらに増える可能性があります。今後も災害関連死を減らす取り組みが求められます。

熊本地震

2016年に発生した熊本地震でも、JRATは活動しています。4月14日夜に発生した前震の翌日には熊本JRATに情報を集約し派遣チームを募るという、驚くべき速さで活動が開始されました。

しかし、4月16日未明に起きた本震により、支援の中心となるはずだった熊本市や周辺のリハビリテーション病院に大きな被害が出てしまいました。職員も被災したことで、県内だけでの支援活動は難しいと判断され、東京のJRAT本部に派遣を要請。その日の夕方には宮崎・鹿児島から支援チームが現地入りし、対策本部を立ち上げて活動を始めることができました。

JRATによる支援は7月16日まで行われ、医師354名を含む約1,700名以上の医療スタッフが避難所での活動に参加しました。

豪雨災害

JRATは地震だけでなく、豪雨などの自然災害でも活動をしています。

2018年の台風7号は、西日本の広い範囲に記録的な大雨をもたらしました(平成30年7月豪雨)。愛媛、広島、岡山それぞれのJRATが、避難所の巡回などを行いました。

2020年の熊本での豪雨、2021年の熱海市土石流災害でも、地域JRATの活動報告があります。このころは新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっていた時期です。感染拡大防止という課題にも立ち向かいながら、地域JRATによる支援活動が行われました。

まとめ

自然災害の多い日本では、発災時に医療・福祉的な支援を行う団体が複数あります。JRATは生活不活発病や災害関連死を防ぐ目的で、被災者の「活動」をサポートします。災害の規模を問わずJRATは各地で活動しているため、身近な地域JRATの活動にも注目してみてはいかがでしょうか。

被災地に派遣される医療従事者だけでなく、その際に人手が不足する派遣元の医療機関で地域医療を支える人も、間接的に災害医療を支援していると言えるでしょう。有事の際に自分に何ができるかを考え、チームや医療機関、地域で一丸となって取り組めると良いですね。

三田 大介

執筆者:三田 大介

理学療法士から再受験し、現在はリハビリテーション科医師として病院勤務。より多くの人に正しい医療知識を届けたいとライター活動を開始。医師、理学療法士の両方の視点を活かしながら、企業などのオウンドメディアを中心に医療・健康に関する記事を執筆。


▶X(旧Twitter)|@sanda_igaku

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