DPATとは?DMATとの違いや活動内容、医師としての参加条件を紹介

医師がキャリアや働き方を考える上で参考となる情報をお届けします。
医療業界動向や診療科別の特徴、転職事例・インタビュー記事、専門家によるコラムなどを日々の情報収集にお役立てください。

業界動向

公開日:2024.04.09

DPATとは?DMATとの違いや活動内容、医師としての参加条件を紹介

DPATとは?DMATとの違いや活動内容、医師としての参加条件を紹介

医師の皆さん、災害派遣医療チームの一つである「DPAT」についてご存知でしょうか。

DMATは設立から日が経ち知名度も高くなりましたが、DPATについては十分に知らない医師の方も多いかと思います。この記事ではDPATの概要やDMATとの違い、DPATで働く条件などを解説します。

DPATとは

DPATはDisaster Psychiatric Assistance Teamの略であり、災害派遣精神医療チームを意味します。

自然災害や事件・事故などの集団災害が発生すると、被災地では人々が精神的な不調をきたしやすく、精神保健医療の需要が増します。しかし災害による影響から、一時的に被災地の精神保健医療機能が低下するケースが多くあります。

このギャップを埋めるため、精神科医療機関の被災状況の確認や避難所での診療にあたる存在が求められます。この活動を担うのがDPATです。

2011年の東日本大震災の際はDPATの取り組みはまだ確立していませんでしたが、そのときの経験をふまえて2013年に政府が設置の通達を出しました。

DPATは都道府県単位で組織され、被災地で活動を行います。部隊ごとに医師・看護師・業務調達員から構成され、災害発生後48時間以内に活動を始める先遣隊と、その後必要に応じて数週間~数カ月単位で活動する部隊に分けられています。

業務調達員は、連絡調整や運転など、医療活動の後方支援全般を請け負います。精神保健福祉士などが担当することもあります。

▼参考資料
DPATとは|DPAT事務局

「こころのケアチーム」との違い

DPATと類似した組織として「こころのケアチーム」があります。DPAT設立の前に存在し、東日本大震災の際も活動を展開しました。精神科医を中心に構成される医療チームであり、DPATの先駆けになった組織と言えます。

こころのケアチームは被災者のケアが中心ですが、DPATには被災地の病院機能を支援するという、より大局的な役割が求められている点が違いと言えます。これには東日本大震災の経験が生かされています。

DMATとの違い

Automated External Defibrillator (AED) Box on the Mat in Emergency CPR Training Course - First Aid Concept

DPATと名前が似ている組織に、DMAT(Disaster Medical Assistance Team)があります。1995年の阪神・淡路大震災を契機に作られた組織で、被災地に迅速に駆けつけて救急治療を提供する医療チームのことです。部隊は医師1名・看護師2名・業務調整員1名の、計4名構成が基本となっています。

DMATが主に身体的な支援や診療・救命活動にあたるのに対し、DPATはメンタル・精神的な支援を専門的に扱う点が、両者の最も大きな違いと言えるでしょう。

活動対象についても違いがあります。DMATは被災者を対象とする一方、DPATは被災者だけでなく、その支援者も対象とします。被災地では行政職員など支援を担当する人にも強いストレスがかかっており、精神の不調をきたしやすいためです。

DPATの活動内容・実績

続いて、DPATの活動内容と、これまでの実績を見ていきましょう。

DPATの活動内容

DPATの活動・業務内容は、大きく下記のように分けられます。

  • 被災地での精神科医療の提供
  • 被災地での精神保健活動への専門的支援
  • 被災した医療機関への専門的支援
  • 支援者への専門的支援
  • 精神保健医療に関する普及啓発
DPAT事務局「DPAT 活動マニュアル Ver.3.0」p.16~17より引用
https://www.dpat.jp/images/dpat_documents/3_220415.pdf

被災者に対しては、災害によるストレスで心身の不調をきたした住民の診察にあたったり、現地で薬を入手できない患者さんに投薬を行ったりします。

被災現場の医療機関に対しては、外来・入院診療や、入院患者さんの地域外への搬送を補助します。

被災地で活動している支援者に対しても、相談・助言を行います。これにより支援者が所属する組織への助言や支援にもつながります。

DPATの活動実績

能登半島地震 輪島朝市通りの被災現場の風景

DPATがこれまでに活動した主な現場は下記のとおりです。

  • 広島水害(2014年8月)
  • 御嶽山噴火(2014年9月)
  • 関東・東北豪雨による常総市水害(2015年9月)
  • 熊本地震(2016年4月)
  • 能登半島地震(2024年1月)

いずれも当時大きく報道されたことから、記憶に残っている方も多いでしょう。とくに熊本地震は被災者の数が多く、DPATへの相談件数も2,125名*1と、過去最大規模の支援が行われました。

2024(令和6)年能登半島地震

2024年元日、能登半島で大きな地震が起こりました。発生から1カ月となる同年1月31日までに、43都道府県(石川県を含む)から、のべ116隊のDPAT先遣隊が現地に入り活動しました。

このうち石川県のDPATは各部隊の指揮・調整、関係機関との連絡・調整、被災情報の収集などを、石川県以外の部隊は避難所での巡回による精神医療ニーズへの対応、緊急性が高いケースの診察やトリアージ、支援者のサポートなどを行いました。

今なお、避難所での生活を余儀なくされている被災者の方々がいます。今後に向けて中長期的な支援を見据えた体制の構築が検討されているところです。

DPATで医師として働くには

この記事を読んでいる方の中には、DPATで働くことに興味がある方もいらっしゃるでしょう。ここからはDPATで働くための条件を見ていきます。

医師としてDPATに属するためには、精神科を専門としている必要があります。精神保健指定医の資格もほぼ必須となっています(DPAT先遣隊の医師は精神保健指定医である必要があるほか、それ以外の部隊でも精神保健指定医が望ましいとされています)。

実際どのような医療機関がDPATに協力しているかを見てみると、精神病床を多く有する大学病院や精神科の単科病院が多くなっています。総合病院やクリニックでは精神科医が1~2名しかいないことが多く、DPAT派遣で抜けてしまうと通常業務に支障をきたすためでしょう。

このためDPATで勤務するには精神科を専攻し、大学病院や精神科病院で研鑽を積むことが近道と考えられます。

DPATでは、数日間の研修を受講する必要があります。研修では講義のほかに演習もあり、これらを修了するとDPAT隊員として登録することができるようになります。

まとめ

DPATの概要や活動実績について見てきました。歴史はまだ浅い取り組みですが、熊本地震や能登半島地震など、近年の大きな自然災害などで実績を上げています。

歴史とともに、医療における課題は変わってきています。たとえば労働災害において、かつてはじん肺やその合併症が多くを占めていましたが、ここ20年ほどで精神障害が多くを占めるようになりました。厚生労働省の調査でも、精神疾患を有する外来者数は2002年の224万人から、2017年には389万人*2と大きく増えており、全国の主要駅近くでは多くのメンタルクリニックの看板を見つけることができます。

こうした背景をふまえると、災害医療の現場においても、メンタル面の支援に対応するDPATの役割がより大きくなっていく可能性が高いと考えられます。DPATの活動を理解する上で、この記事がお役に立てば幸いです。

Dr.SoS

執筆者:Dr.SoS

皮膚科医・産業医として臨床に携わりながら、皮膚科専門医試験の解答作成などに従事。医師国家試験予備校講師としても活動している。

今の働き方に不安や迷いがあるなら医師キャリアサポートのドクタービジョンまで。無料でご相談いただけます