「睡眠科」とは?標榜科目への追加検討の背景、対象疾患などを解説【医師向け】

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公開日:2024.08.28

「睡眠科」とは?標榜科目への追加検討の背景、対象疾患などを解説【医師向け】

「睡眠科」とは?標榜科目への追加検討の背景、対象疾患などを解説【医師向け】

「睡眠科」は名前のとおり睡眠に関連する疾患、たとえば睡眠時無呼吸症候群不眠症などを扱う診療科です。従来の臓器別診療科とは異なる切り口ですが、近年注目が高まっており、2024年には標榜科目に追加される方針も打ち出されています。

この記事では、睡眠科の概要について、近年注目されている背景も含めて解説します。

「睡眠科」とは

睡眠科はその名のとおり、睡眠障害全般を専門的に診る診療科のことを指します。

まずは、対象疾患や検査、専門医制度について見ていきましょう。

睡眠科で扱う疾患・検査

睡眠科で扱う主な疾患として、下記が挙げられます。

  • 睡眠時無呼吸症候群(SAS)
  • ナルコレプシー
  • むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群/下肢静止不能症候群)
  • 睡眠時随伴症[レム睡眠行動障害など]
  • 不眠症

これらは従来の臓器別診療科においては呼吸器内科・耳鼻咽喉科・精神科などで扱われる疾患です。たとえばSASの場合、原因の一つであるアデノイド(咽頭扁桃)の手術は主に耳鼻咽喉科で行われますし、CPAP(持続陽圧呼吸療法)は呼吸器内科で扱います。不眠症に対する睡眠薬の処方は精神科が担うことが多いでしょう。

このように、睡眠に関わる症状や諸問題には複数の診療科が関わってきました。これらを総合的かつ専門的に診断・治療することが「睡眠科」の役割と言えます。

睡眠状態を測る検査としては、睡眠ポリグラフ検査PSG:poly-somnography)が代表的です。入院(1泊)し、各種モニタリングの下、夜間に脳波・眼球運動・酸素飽和度(SpO2)などを測定します。

ほかに睡眠科に特徴的な検査として、日中の眠気を評価する睡眠潜時反復検査MSLT:multiple sleep latency test)や、腕時計型の加速度センサーを用いたアクチグラフィー、患者さんが記載する睡眠日誌などがあります。

日本睡眠学会による専門医制度

こうした睡眠関連疾患の診療を含め、睡眠医療の普及・向上を促すため、日本睡眠学会が専門医制度を設けています。医師が取得を目指す場合、まずは「日本睡眠学会総合専門医」が該当します。

取得条件には、下記のような項目があります(一部要約)。有効期間は5年間です。

  • 臨床医として医師免許取得後6年間以上の実地経験を有すること
  • 日本睡眠学会指導医の下で、睡眠医療に関する2年間以上の臨床経験、またはそれと同程度以上の睡眠医療に関する臨床経験を有すること
  • 日本睡眠学会の3年間以上の会員歴を有し、日本睡眠学会または関連する国際睡眠学会の定期学術集会に3回以上参加していること
  • 睡眠ポリグラフ検査などの睡眠医療に必要な検査を実施し、記録を判読する能力を有すること
  • 筆記試験、実地試験、および異なる種類の睡眠障害5症例についての症例報告書の審査を受けること
出典:日本睡眠学会「日本睡眠学会の学会認定に関する規約」〔令和5年8月改訂〕
https://jssr.jp/files/request/nintei_kiyaku%202023.pdf(2024年8月27日閲覧)

総合専門医(または学会専門医)の資格を1回以上更新し、指定の講習会を受講すると、指導医の資格を得ることができます。

専門医資格の取得にあたって、診療科の制限はとくにありませんが、認定規約を見る限り、指導医については精神科・神経科や耳鼻咽喉科、呼吸器内科などをバックグラウンドに持つ医師が多いようです。

睡眠医療に興味がある方は、専門医療機関に見学を申し込んでみるのも良いでしょう。しかし日本睡眠学会の専門医や専門医療機関は、まだまだ数が少ないのが現状です。

睡眠医療が注目されている背景

睡眠医療と関係する雑貨 目覚まし時計・水と薬剤・アイマスク

ここからは、睡眠医療が注目されている背景について見ていきます。

睡眠障害による社会的損失

睡眠医療が注目されている理由の一つに、睡眠障害に伴う社会的損失があります。

たとえば、SASはメタボリックシンドロームにしばしば合併し、高血圧症・脂質異常症・糖尿病などの生活習慣病を増悪させることが知られているほか、睡眠不足や睡眠障害が日中の仕事に悪影響を与え、ときに大きな事故や事件につながる場合もあります。

国内では2003年、山陽新幹線の居眠り運転を機に、SASの社会的な影響が注目されました。その後もバスやトラックなどの職業運転手の事故はしばしば問題となっています。1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故やスペースシャトル(チャレンジャー号)爆発事故も、作業者の睡眠不足が影響していると考えられています。

また、睡眠障害は身体的疾患だけでなく、うつ病などの精神的疾患と関連することも知られており、早朝覚醒や入眠困難はうつ病のスクリーニング(簡易抑うつ症状尺度:QIDS)にも組み込まれています。

このように、睡眠障害による身体的・精神的な影響から、日本の社会的損失は年間1,380億ドル、GDPのおよそ3%を占めるという報告もあります*1

国の健康増進対策―「健康日本21」における目標

日本は、ほかのOECD加盟国と比べて、睡眠不足の傾向にあることが示されています*2,3

国が推進する『国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針』、通称「健康日本21」においても、「睡眠による休養を十分とれていない者の割合の減少」が目標として掲げられています。しかし、2013年から2022年にかけて、この数値は18.4%から21.7%へと悪化してしまいました。

現行の第三次目標では、新たに「睡眠時間が十分に確保できている者の増加」という項目が追加されました。1日の睡眠時間が6~9時間(60歳以上は6~8時間)の人を「60%」まで増加させるのが目標です。

この達成に向けて、2023年には『健康づくりのための睡眠ガイド』や『Good Sleepガイド』といったコンテンツも提供されています。

睡眠に対する国民の関心の高まり

こうした行政レベルでの取り組みもあり、健康経営・働き方改革など、労働者と健康の結びつきが強まっています。

また、コロナ禍では免疫力の観点から睡眠の重要性が注目されました。睡眠への関心は健常者でも高まっています。

睡眠医療に関する書籍やサービスも増えてきました。2017年には発行部数が30万部を超える書籍が出版され、流行語大賞には「睡眠負債」が選ばれています。

昨今はスマートフォンや、スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスの普及に伴い、睡眠時間・状態を計測できるアプリケーションが多数登場して話題を呼んでいます。ゲーミフィケーションの要素を持ち込んだものも人気を集めるなど、睡眠がエンターテインメントの側面を擁するようにもなりつつあると言えるでしょう。

睡眠科の標榜科目への追加検討

病院の受付と待合のソファ

「睡眠科」が日本で初めて誕生したのは2008年、愛知医科大学とされており、15年程度の歴史です。専門医療機関の数もまだ少ないため、これまでは患者さんが受診を考えても、どの医療機関や診療科を受診すれば良いかわからず困ってしまう状況がありました。

こうした背景からか、2024年になって、標榜科目に「睡眠科」を追加する方針が打ち出されました。実現すれば「睡眠内科」や「睡眠精神科」など、組み合わせによる標榜も可能となる見込みです。睡眠障害を抱える患者さんの早期受診につながると期待されます。

「標榜科目」(診療科名の標榜)とは

ここで「標榜科目」とは何か、簡単に触れておきたいと思います。

標榜科目は、患者さんが適切に医療機関を選択できるよう、医療機関が表示・広告することのできる診療科名のことです。「内科」「外科」といった単独名称のほか、下記4項目(a~d)と組み合わせることもできます。

a)部位、器官、臓器、組織又はこれらの果たす機能 頭頸部、呼吸器、消化器、肛門、血管、脳神経、血液、乳腺、内分泌、肝臓 など
b)疾病、病態の名称 感染症、性感染症、腫瘍、がん、糖尿病、アレルギー疾患
c)患者の特性 男性、女性、小児、周産期、高齢者 など
d)医学的処置 整形(内科との組合せは不可)、形成(内科との組合せは不可)、美容、心療(外科との組合せは不可)、不妊治療、ペインクリニック、漢方、人工透析 など
日本医師会webサイト「診療科名の標榜方法の見直し」をもとに作成
https://www.med.or.jp/doctor/sien/s_sien/000316.html(2024年8月27日閲覧)

ただし、"整形内科"や"心療外科"のような不合理な組み合わせ(「診療内容が明瞭でないものや、医学的知見・社会通念に照らし、不適切な組み合わせ」*4)は認められていません。

現在のルールは2008年に改正されたものです。規定の診療科名だけでなく、上記のように自由度の高い形へ変更されました。一方で「神経科」「胃腸科」「皮膚泌尿器科」のように、標榜できなくなった診療科名もあります。

標榜科目の見直しが2024年に実施されれば実に16年ぶりのことであり、「睡眠科」の追加は大いに注目されるでしょう。

まとめ

今回は「睡眠科」について紹介しました。睡眠医療はまだ歴史の浅い分野であり、SASが提唱されたのも1976年*5と、まだ50年も経っていません。しかし睡眠障害が社会に与える影響は大きく、注目が高まっている分野です。睡眠科が標榜科目に追加されれば、睡眠医療を専門にする医師の増加や、日本専門医機構の定めるサブスペシャルティ領域への追加など、今後のさらなる発展・展開も期待されるでしょう。

Dr.SoS

執筆者:Dr.SoS

皮膚科医・産業医として臨床に携わりながら、皮膚科専門医試験の解答作成などに従事。医師国家試験予備校講師としても活動している。

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