【2024年度開始】第8次医療計画とは?―基本方針と改訂ポイント、自治体の具体例

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公開日:2024.05.29

【2024年度開始】第8次医療計画とは?―基本方針と改訂ポイント、自治体の具体例

【2024年度開始】第8次医療計画とは?―基本方針と改訂ポイント、自治体の具体例

医師の皆さん、「医療計画」についてご存知でしょうか。たとえば、同じ規模・機能の病院が隣り合って存在していては、供給の無駄が大きくなってしまいます。限られた医療資源を効率良く活用するため、国の方針に基づき各都道府県が策定するのが「医療計画」です。現在は6年ごとに見直されており、2024年度からは第8次医療計画の運用が始まっています。

この記事では、そもそも医療計画とは何かから、第8次医療計画のポイントについて解説します。

医療計画とは

医療計画とは、「都道府県が、国の定める基本方針に即し、地域の実情に応じて、当該都道府県における医療提供体制の確保を図るために策定するもの*1です。1985年の第1次医療法改正で導入されました。

医療計画の目的は、限られた医療資源を適正に配置することで、国民が広く医療の恩恵を受けられるようにすることです。

この背景として、国民の医療需要が増加・多様化し、包括的かつ合理的な医療供給体制が求められるようになったことが挙げられます。

たとえば、健康に暮らしていた人が突然脳卒中で倒れてしまった際に必要な医療と、認知症が徐々に進行し自宅生活が困難となった際に必要となる医療は異なります。すべての医療を1つの医療機関で提供することは非効率的です。医療機関がその機能を分担し、連携を取りながら適切な医療を患者さんに提供する必要があります。医療の枠組みだけでなく、介護との連携も必要となるでしょう。

このとき、単位(地域圏)として「二次医療圏」という概念が使われます。特殊な医療を除く一般的な入院医療(一般+療養)を提供する圏域のことで、たとえば東京都は13圏、大阪府は8圏、愛知県は12圏に分けられています(2024年5月現在)*2。この医療圏単位で、病院や診療所の病床数が決められます。

医療計画は現在6年ごとに見直すこととなっており、2024年度からは第8次医療計画の運用が始まっています。

医療計画の基本方針

japan cityscape and Mt.Fuji

医療計画を策定するのは都道府県ですが、すべてを自由に決めているわけではありません。国の定める基本方針に即して作成することが原則です。

医療計画の基本方針として、下記の内容が定められています。

  • 5疾病・6事業および在宅医療
  • 地域医療構想
  • 外来医療
  • 医師・医療従事者の確保
参考:厚生労働省「第8次医療計画について」p.5・6
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001106486.pdf

5疾病とは、がん・脳卒中・心血管疾患・糖尿病・精神疾患を、6事業とは救急医療・災害医療・へき地医療・周産期医療・小児医療・新興感染症発生/まん延時の医療を指します。死因の上位疾患や、医療施設・医療従事者の確保が必要な事業を、地域ごとにピックアップするわけです。

在宅医療」も重視されています。今後2040年までは死亡者数が増加する一方で病床数は不足が予想されること、「最期は家で迎えたい」という患者さんのニーズから、対策が急がれる分野と言えるでしょう。

医療計画の内容は、時代に合わせて変えていく必要があります。以前は4疾病・5事業でしたが、2013年度の第6次医療計画からは疾病に「精神疾患」が加わり、第8次では事業に「新興感染症発生・まん延時における医療」が加わりました。後者は新型コロナウイルス感染症によるパンデミックをふまえて追加されたものであり、社会の医療需要に応じて改変していることがわかります。

なお、医療計画は医療法の第5条第2節によって定められており、医療法の改正とも連動します。「地域医療構想」は2014年、「外来医療」と「医師の確保」は2018年の医療法改正で追加された項目です。

第8次医療計画の概要・ポイント

ここからは、2024年度から開始された「第8次医療計画」の内容について見ていきます。

第8次医療計画のポイントとして、下記の項目が挙げられます。

  1. 新興感染症への対応
  2. 医師の働き方改革をふまえた医療従事者の確保
  3. 医療安全の確保

なお、今回は既存の「5疾病」に変更や追加はなかったものの、COPD(慢性閉塞性肺疾患)CKD(慢性腎臓病)については、日本の死因の上位疾患のため、現状を把握した上で対策を講じることが必要と追記されました。

それでは、1~3を1つずつ掘り下げていきます。

1.新興感染症への対応

2019年末から世界的に流行した新型コロナウイルス感染症については、記憶に新しいでしょう。第8次医療計画では、これをふまえて新興感染症対策が6事業の一つに盛り込まれました

平時からの取り組みとして感染拡大時に対応可能な医療機関・病床や専門人材・感染防護具などを確保しておくこと、感染拡大時の取り組みとして受け入れ候補となる医療機関の確保や医療機関の間で連携・役割分担をはかることなどが挙げられており、各都道府県の医療計画にこれらの記載を求めています。

2.医師・医療従事者の確保

医療スタッフ 病院

2024年4月から「医師の働き方改革」が施行され、医師の時間外労働時間が規制されています。厚生労働省の調査*3では、時間外労働が年960時間を超えている医師の割合は2022年時点で21.2%と、高い数値です。近年改善されつつあるとはいえ、年960時間(月80時間)は一般に「過労死ライン」とされる労働量です。

労働者である医師の健康を考えれば好ましくない事態ですが、こうした長時間労働によって医療提供体制が維持されてきたこともまた事実です。

時間外労働の規制で医師一人当たりの労働時間が減少することから、医師以外の医療従事者を確保する重要性がこれまで以上に増しています。医師の地域偏在、つまり「都心部には医師が多いが地方には少ない」という傾向も、地域の医療生提供体制を確保する上で重要な課題です。

とくに6事業と関連の深い産科・小児科については医師・医療従事者を確保する必要性が高く、診療行為の定義(診療科との対応)も明確にしやすいことから、個別の計画策定が求められています。

3.医療安全の確保

医療安全への関心が高まったのは、1999年の横浜市立大学事件(肺手術と心臓手術の患者取り違え)や都立広尾病院事件(消毒液と生理食塩水の取り違え)とされています。航空業界や運輸業界と比べて歴史は浅いものの、近年その重要性について理解が進んでいます。

国も、2009年には産科医療補償制度を、2014年には医療事故調査制度を導入するなど、対応にあたってきました。現在は日本専門医機構の定める専門医取得の際にも医療安全の講習受講が必須となっています。

第8次医療計画では、医療事故調査制度を運用する病院管理者や医療安全支援センターの職員を対象に、医療安全に関する研修を推進することが示されました。

第8次医療計画の具体例

ここまで、第8次医療計画の概要を見てきました。ここからは、都道府県が実際に策定する計画がどのようなものなのか、具体的に見てみましょう。

第8次医療計画は2024年4月からすでに運用が始まっており、各自治体のwebサイトなどで資料が公開されています。自治体によって構成は異なりますが、いずれも作成指針に沿って作られているため、内容はどの都道府県でも大きな違いはありません。

ここでは、例として愛知県の医療計画を見てみます。下記のような構成となっています。

  • 第1部 総論
  • 第2部 医療圏及び基準病床数等
  • 第3部 医療提供体制の整備
  • 第4部 外来医療計画の推進
出典:愛知県地域保健医療計画(2024年3月公示)
https://www.pref.aichi.jp/soshiki/iryo-keikaku/2024-3iryokeikaku.html

第1部

主に愛知県の地理的状況人口動態について触れています。

第2部

12に分かれた二次医療圏ごとの基準病床数受療状況について記載しています。

先述のとおり二次医療圏でひととおりの医療が完結することが想定されていますが、医療過疎地域である東三河北部医療圏(新城市・設楽町など)では自圏での完結が難しく、豊橋市を有する東三河南部医療圏に入院するケースが多いことがわかります。

第3部

5疾病・6事業の対策や、医療従事者確保・医療安全対策などについて記載しています。

たとえば医師数(医師偏在指数)について、愛知県は医師数が少ないわけでも多いわけでもありませんが、医療圏ごとに見ると尾張東部医療圏(長久手市・日進市など)と名古屋・尾張中部医療圏(名古屋市など)は医師多数地域に分類されることがわかります。一方、東三河北部医療圏は医師少数区域に分類されています。

ほかにも、医療計画にはさまざまなデータが記載されています。ご自身の都道府県や医療圏について、気になる方は実物をぜひご覧になってみてください。厚生労働省のwebページからも、各都道府県のページにアクセスできます。

ただし、医療計画の分量は膨大なので、全体を読むよりは、目次から気になる項目を調べて深堀りする読み方がおすすめです。

まとめ

公園で車椅子に乗って散歩する高齢者夫婦(シニア・男女)

医療計画は、限られた医療資源を適正に配置し、効率的に活用するための計画です。第8次医療計画では、新興感染症対策や今後の人口動態をふまえた病床確保・在宅医療の推進、医師の働き方改革をふまえた医療従事者の確保などが重要なポイントと考えられます。

各都道府県の策定した内容はインターネット上で公開されており、実物を見ることでご自身の地域課題をよりリアルに感じることができるでしょう。

この記事が医療計画を理解するうえで一助となれば幸いです。

Dr.SoS

執筆者:Dr.SoS

皮膚科医・産業医として臨床に携わりながら、皮膚科専門医試験の解答作成などに従事。医師国家試験予備校講師としても活動している。

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