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医師のための「往診」「訪問診療」ガイド
「往診」と「訪問診療」は、いずれも医師が患者さまの自宅などへ出向いて診療する「在宅医療」の一環です。大きな違いは「計画的か否か」ですが、ここではより具体的にそれぞれのメリットやデメリット、診療報酬について解説します。
往診とは
往診とは、突発的に生じる患者さまの急変に対応することを目的とし、患者さまからの依頼に基づいて医師が患者さまのもとへ出向いて診療することです。病状を瞬時に見極め、迅速かつ適切な対応が必要となります。
患者さまにとっての往診のメリットは、移動による体力的・心理的な負担が軽減できるという点です。とくにコロナウイルスなどの感染症が流行している場合は、病院に出向くことに不安を伴うため、医師が来てくれるということは安心です。
ただし、患者さまの自宅では十分な設備や医薬品が整っていないため、重篤な症状がある場合には対応してもらえないという点がデメリットとなります。
医師にとっての往診のメリットは、患者さまの病気の状態をより正確に把握できるという点です。患者さまやそのご家族としっかり話ができるため、より細かな問診ができます。
デメリットは、対応できる患者さまの数が減ってしまう点です。突発的な対応のためスケジュールが組みにくく、患者さまのご自宅等に伺うための移動時間が必要となるからです。
<往診の診療報酬について>
往診の診療報酬は720点です。患者さま、またはご家族等が保険医療機関に対して直接往診を求め、医師が患者さまのご自宅に出向いて診療した場合に算定できます。定期的ないし計画的である場合には算定されません。
加えて、緊急・夜間・休日・深夜に対する加算があります。また、初診料・再診料・外来診療料などはあわせて算定可能です。そのほか、さまざまな条件によって診療報酬が加算されます。
訪問診療とは
訪問診療とは病状の悪化を事前に防ぐことを目的とし、計画的かつ定期的に患者さまのご自宅等に訪問して行う診療を指します。患者さまやご家族の方から病歴や病状だけでなく経済的な事情などもお伺いしながら適切な診療計画を立てていくことが必要となります。
訪問診療の患者さま側のメリットは、慣れ親しんでいる自宅で治療を受けられ、最期まで過ごせるという点です。厚生労働省が行った「人生の最終段階における医療に関する意識調査」によれば、「家族との時間をつくりたい」「自分らしく過ごしたい」といった理由から、国民の約70%が最期を迎える場所として自宅を希望していることがわかっています。
デメリットとしては、往診と同様に重篤な症状がある場合は対応してもらえないという点や、中長期的に家族の協力が必要なため、周りの方への負担が増えてしまうという点が挙げられます。
医師にとっての訪問診療のメリットは、定期的に訪問するため患者さまの些細な変化にも気づきやすく、早い段階で適切な治療ができるという点です。チームとして看護師やケアマネージャーとも密に連携することで、患者さまが望む治療方針や日常的なケアが可能になります。
一方、デメリットとして緊急時の対応も求められるため、病院の24時間体制が整っていない場合は医師の負担が大きくなってしまう点です。また、計画的とはいえ移動などに時間がかかるため、診療できる患者さまの数はある程度限られてしまうでしょう。
<訪問診療の診療報酬について>
訪問診療の診療報酬は、在宅患者訪問診療料(I)1の場合、1日あたり888点です(ただし、同一建物住居者の場合は1日当たり213点)。 在宅ターミナルケア加算、看取り加算、死亡診断加算などは算定可能です。往診同様、ほかにも条件によって診療報酬が加算されます。
令和6年度診療報酬改定の概要【在宅(在宅医療、訪問看護)】|厚生労働省
人生の最終段階における医療に関する意識調査|厚生労働省
▼訪問診療・往診をめぐる令和6年度診療報酬改定に関する記事はこちら
訪問診療と往診の違いとは?診療報酬改定の動向も含めて医師向けに解説
2024年度診療報酬改定の注目ポイントは?わかりやすく解説
在宅医療の今後と、医師が備えるべきこと
在宅医療の今と未来
日本は少子高齢化社会であり、65歳以上の人口が今後急増することが想定されています。2010年に1人の高齢者を2.6人で支えていたところ、2060年には1.2人で支える社会構造になる想定です。
また、今後増えていく高齢者の多くが自宅での治療を望んでいます。政府が在宅医療を推進していることも相まって、急激な需要の増加が考えられるでしょう。厚生労働省によると、2025年には在宅医療を必要とする人は29万人となり、約12万人増加する見込みとなっています。
しかし現在の日本においては在宅医療に対する受け皿が不足しており、その主な要因としては以下の3つが挙げられます。
- 在宅医療に対応している医師の不足
- 訪問看護/訪問介護体制が整っていない
- 介護してくれる家族がいない
深刻な問題として挙げられるのは、在宅医療に対応している医師不足です。都市部では若い世代の医師が24時間の交代制で対応する在宅専門の診療所が増えてきていますが、全国的には発展途上といえます。
普及を阻害している大きな要因は、多くの診療所が少数の医師で対応している現状では24時間365日対応できる体制をつくるのが難しいという点です。全国の在宅療養支援診療所の医師を対象としたアンケート調査では、72.4%の診療所で在宅担当医師は1人体制であり、73.5%の診療所は医師1人が週7日担当していることがわかっています。
夜間は看護師が対応して医師の不足をカバーする体制も考えられますが、医師が診察しないと薬の処方や看護師への指示はできないため、医師の大幅な負担軽減には繋がりません。
これらの現状に対し、厚生労働省は以下の5つの対策を進めています。
- 24時間対応の在宅医療、訪問看護やリハビリテーションの充実強化
- 特養などの介護拠点の緊急整備や24時間対応の在宅サービス確保の強化
- できる限り要介護状態とならないための予防の取組や自立支援型の介護の推進
- 見守り、配食、買い物など、多様な生活支援サービスの推進
- 高齢者専用賃貸住宅の整備や持ち家のバリアフリー化の推進
厚生労働省は「施設中心の医療・介護から、可能な限り、住み慣れた生活の場において必要な医療・介護サービスが受けられ、安心して自分らしい生活を実現できる社会」を目指しているのです。
在宅医療に必要な医師の備えとは
在宅医療に関わる医師に必要な備えとして、身につけるべきスキルと資質についてご紹介します。
スキルの面で必要なのは「コミュニケーションスキル」と「オールラウンドに対応できる知識」です。患者さまやご家族と向き合う時間が多く、治療以外にも看取りなどの重要な仕事があるため、より丁寧なコミュニケーションが欠かせません。日頃から患者さまやご家族の気持ちに寄り添うと同時に、適切な提案をして信頼関係が築けるコミュニケーションスキルが求められます。
また、在宅医療では内科・整形外科・皮膚科・歯科などのオールラウンドに対応できる知識が必要です。体調の変化や症状がどのように現れるかはわかりません。日頃担当している医師が兆候を見逃してしまっては、患者さまの病状にも大きく影響します。すべての科目において専門医ほどの知識を持って対応することは困難ですが、初期診療ができるだけの知識は身につけておく必要があります。
在宅医療に臨む医師の資質としては、「患者さまとご家族の意思を尊重できる」「在宅診療の知見と技術を常にブラッシュアップし続けられる」ことが求められます。
在宅医療は、患者さまの尊厳とそのご家族の希望が最大限尊重されるものです。医師として「~すべき」と考えられるシーンもあるかもしれませんが、あくまで医師ができることは提案です。サポート役である意識を大切にしましょう。
在宅医療ニーズの増加に対して、在宅療法の選択肢も増えています。現場では使用できる設備や機材も限られているため、知見と技術を常にブラッシュアップし続けて、状況にあわせて柔軟な思考ができる対応力も必要とされています。
訪問診療に携わる医師の年収と待遇
訪問診療は24時間体制になることで医師の負担が増えると言われていますが、次のような体制が整っている環境であれば、働きやすい職場だといえるでしょう。
- 24時間体制に必要な看護職員等の人材が確保できている
- 地域の訪問看護ステーションとの連携がスムーズにできている
- 複数の医師で分担できている
在宅医療専門医の年収は平均1,515万~1,989万円※となります。2023年3月時点の求人情報を見ると、年収3,000万円の高年収求人もあります。今後在宅医療の需要が高まり続け、病院勤務ではできない経験も積めるということを鑑みると、転職や開業の選択肢として検討する余地は充分にあるといえます。
※2022年3月時点のドクタービジョン掲載求人をもとに平均値を算出
訪問診療で役立つ資格
<在宅医療専門医>
在宅医療専門医は、在宅医療に関する高度な知識・技能を有することを示す資格です。医療従事者や患者さま、ご家族と密に連携し、在宅医療の質の向上への貢献が期待されています。
在宅医療専門医の資格を取得するためには、書類審査による一次審査と選択式試験・ポートフォリオ面接で構成される二次審査に合格することが必要です。受験資格としては「5年以上の医師経験」「1年以上の在宅研修プログラムの修了」が求められ、試験は毎年5月~7月の間に行われます。
<老年科専門医>
老年科専門医は、多病で生活に不安を抱える高齢者の治療に長けた医師であることを示す資格です。複数の疾患に対して優先順位をつけて治療するために、最小量で最大の効果を得る投薬や現実的な医療・看護・介護プランを提案できる力が求められます。
老年科専門医の資格を取得するためには、書類審査に合格することが必要です。認定試験の応募要項や日程は、前年度の1月頃に一般社団法人日本老年医学会のホームページに発表されます。
受験資格は以下の通りです。
- 日本内科学会認定内科医資格を有している
- 日本内科学会認定内科医資格取得後、日本老年医学会の認定施設において施行細則に定める研修カリキュラムに従って老年科専門研修を3年以上行い、修了している
また、日本老年医学会の会員であることが前提となっており、学会員でない方は試験に合格した時点で入会が必要です。有効期限は5年で、資格を維持するためには5年毎に必要な研修を受け、認定の更新が必要となります。
<家庭医療専門医>
家庭医療専門医は、地域住民の健康を支える総合診療医であることを示す資格です。地域全体で日常的に発生する健康問題に対し、年齢や疾患を問わずに診療できる能力が求められ、患者さまのご家族との関係構築だけでなく地域の医療・介護・福祉施設とも連携し、包括的に対応できるスキルも必要です。
新・家庭医療専門医は国際水準の総合診療医、家庭医の養成を目的としてプログラムが更新されたものです。資格を取得するためには臨床実技試験および筆記試験とポートフォリオ口頭試問に合格する必要があります。試験は毎年7月頃に行われ、受験資格は以下の通りです。
【新・家庭医療専門医の受験資格】
- 日本プライマリ・ケア連合学会認定家庭医療後期研修プログラムを修了している、または受験する年の3月末までに修了見込であること
- 当該年度までの会費を完納していること
家庭医療のスキルは診療所だけではなく病院でも求められます。現行の家庭医療専門医も約半数は病院勤務で家庭医療を実践しており、働く場にかかわらず取得が推奨されている資格です。
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ドクタービジョン編集部
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