女性医師の産休・育休情報まとめ!制度の内容、取得率、取得のポイント【体験談あり】

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働き方

公開日:2022.10.17

女性医師の産休・育休情報まとめ!制度の内容、取得率、取得のポイント【体験談あり】

女性医師の産休・育休情報まとめ!制度の内容、取得率、取得のポイント【体験談あり】

女性にとって出産や育児はキャリア形成に関わるライフイベントです。長いお休みを取る方もいるため、出産や育児はキャリアの中断と思われがちですが、制度をうまく活用して過ごし方を意識することでキャリア形成の継続が可能です。

ただし、制度を正しく理解しておかないと、思いがけない落とし穴があり制度が利用できないことも...。そこで今回は、これから産休・育休を取得しようと考えている女性医師に向けて、産休・育休制度の内容や制度利用の現状、取得のポイント、心構えなどについて現役のママであり医師として活躍される成田亜希子先生に詳しく解説していただきました。

成田亜希子先生プロフィール写真

執筆者:成田 亜希子

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産休(産前・産後休業制度)とは?

産休(産前・産後休業制度)とは?

いわゆる「産休」と呼ばれる産前・産後休業制度は、労働基準法で定められた制度の一つです。産前は出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合は14週間前)、産後は出産した日の翌日から8週間まで休業できる権利があります。ただし、実際の出産が予定日を過ぎた場合、超過した期間は産前休業に含められますが、予定日より前に出産した場合は、出産した翌日から産後休業に切り替わるため産前休暇は短くなることを覚えておきましょう。

また、産前休業は本人の希望により、取得せずに出産日まで勤務することが認められていますが、産後6週間以内の就労は禁じられているので注意が必要です。産後6週間を過ぎれば医師の判断と本人の希望により就労することができるので、産後できるだけ早く復帰したい場合は、産婦人科医とよく相談したうえで産後休業の切り上げを検討しましょう。

医師は休みを取りにくい職業と思われがちですが、もちろん女性医師も産休制度の利用が可能です。そして、産休中や出産後はさまざまな助成や給付金を受けられる制度もあります。出産、育児には経済的な負担が生じるので、利用できる制度は積極的に活用しましょう。

 

知っておきたいお金の制度<産休編>

では、産休中や出産後にはどのような制度を利用することができるのか詳しく見てみましょう。

出産手当金

出産手当金とは、法定の産前・産後休業を取得した期間、給与の支払いがない場合に健康保険組合等から支給される手当のことです。1日あたりの支給額は支給開始日以前12か月の平均標準報酬月額の2/3とされています。実際の支給額や申請方法などについては、事前に所属する医療機関に問い合わせておくと安心です。

ただし、出産手当金はいわゆる「フリーランス」の形態で稼働する医師が加入する国民健康保険では支給されません。産休中は無収入となりますので出産前に経済的な目途を立てておきましょう。

 

出産育児一時金

出産育児一時金とは、出産(妊娠4か月以上の流産・死産を含む)した場合に支給される助成金のことです。産科医療費補助制度に加入している医療機関で出産した場合は42万円、加入していない場合は40万8千円を受け取れます。多胎出産の場合は人数分の金額となり、高額な出産費用の一部を賄えます。

出産育児一時金は、出産予定の医療機関によって「直接支払制度」と「受取代理制度」が選択できます。直接支払制度は給付金が医療機関へ直接支払われるため、退院時に高額な医療費の支払いをする必要がありません。そのため、現在は直接支払制度を利用する医療機関がほとんどです。利用の際は、出産後に給付金の額を越えた医療費の差額を窓口で支払い、給付金の額を越えなかった場合は後日差額が返金されます。自身が通院する医療機関にどのような申請が必要か、事前に確認しておきましょう。

 

高額療養費(帝王切開の場合)

高額療養費とは、医療費の自己負担額の上限を超える費用が発生した場合、上限を超えた分の医療費が支給される制度のことです。自然分娩は健康保険が適応されませんが、帝王切開は適応となるため高額療養費の制度を利用できます。自己負担額の上限は年収によって異なり、退院時に利用するためには事前に「限度額適応認定証」を医療機関へ提出する必要があります。認定証がなくても事後に健康保険組合に申請書を提出すれば差額分が支給されますが、窓口での支払額を抑えたい場合は事前に申請しておきましょう。

産休取得時の注意点
  • 産前休業は本人の希望で出産日まで勤務可能だが、産後休業は産後6週間以内の就労は禁止されている
  • 産後休業を産後6週間以降に切り上げる場合は、医師の許可と本人の希望により可能になる
  • 健康保険組合等に加入している場合は、産前・産後休業中に出産手当金が給付される(国民健康保険は対象外)
  • 育休(育児休業制度)とは?

    育休(育児休業制度)とは?

    育休(育児休業制度)とは、子どもが1歳の誕生日を迎えるまでの期間、休業できる制度のことです。母親、父親どちらが取得してもよいことになっており、父母が双方で取得する場合は一定の要件を満たすことで1歳2か月まで延長できます(パパママ育休プラス)。また、保育所などの入所ができない場合や母親か父親が病気などで育児に参加することが難しい場合には、1歳6カ月(最長2歳)まで延長できます。

    ただし、育休は「現在の職場に1年以上勤務していること」「子どもが1歳6か月になる日以降も雇用契約が継続している見込みであること」「1週間の就労が2日以内でないこと」などが適応の条件となるため注意が必要です。

     

    知っておきたいお金の制度<育休編>

    産休中と同じく、育休中も条件により給付金を受け取れます。どのような制度があるのか詳しく見てみましょう。

    育児休業給付金

    雇用保険に加入している場合、育休中に給与が支給されない場合は育休開始前の給与の約2/3(育休開始後半年経過後は1/2)に相当する給付金の取得が可能です。ただし、育休中に賃金の支払いが発生するケースでは、場合によって減額または支給なしとなる可能性も。また、給付額には上限があり、改訂される場合があるため事前に申請方法なども含めて確認しましょう。

    なお、育休制度は雇用保険によって支給される給付金であるため、雇用保険に加入していないフリーランスなどの医師は利用することができません。出産後、一定期間休業を予定している場合、その間は無収入となりますので事前に経済的な目途を立てておくことをお勧めします。

    育休取得時の注意点
  • 子どもが1歳に達するまでの期間、育休取得が可能
  • 母親、父親ともに取得する場合は、1歳2カ月まで延長できる(パパママ育休プラス)
  • 「保育所の空きがない」「養育者が病気になった」など不測の事態が生じた場合は、1歳6か月まで延長できる(要申請)
  • 育児休業給付金は、雇用保険に加入している場合に一定の条件で給付される
  • 育休中に賃金の支払いが発生しているケースでは、育児休業給付金の減額や支給なしとなることもある
  • 女性医師の産休・育休の取得状況

    女性医師の産休・育休の取得状況

    産休・育休は、出産と育児を経ても働きたい女性誰しもが取得できるものであり、もちろんそれは女性医師も同様です。しかし、日本医師会による「女性医師の就労環境の現況に関する調査報告書」(平成21年)によれば、産休を「取得した」と回答したのは79.1%。一方で「取りづらくて休職・退職した」などの理由で取得しなかった医師も、産休を取得しなかったうちの45%を占める割合となり、少なくないことが分かりました。

    また、同上の調査平成29年版によれば、育休を取得したのは59%。平成21年度の調査では39.2%だったのを比較すると、取得率は上昇していることがわかります。とはいえ、他職種における女性の育休取得率が80%を超えることを考えれば、女性医師は有意に取得率が低いと言えるでしょう。

    このような調査からも分かるように、女性医師は自身のキャリア形成のために早めの職場復帰を果たすケースが多い一方、職場環境などから退職を余儀なくされたり、早めに復帰せざるを得なくなったりするケースもあることがうかがえます。

    医師の出産・育児は、専門医取得などを目指す時期と重なることも多く、自らがその後どのようなキャリアを築いていきたいのかをしっかり考え、復帰時期などを決めていくことが大切です。自身の希望を叶え、家庭との両立を図るためにも家族とよく話し合い、病児保育所やシッター、家事代行など利用できるサービスや制度をしっかり確認しておきましょう。

    産休・育休を取るときの流れとポイント【体験談】

    産休・育休を取るときの流れとポイント【体験談】

    最後に、女性医師が産休・育休を取るときの流れとポイントについて、自身の経験も踏まえてご紹介します。これから産休・育休を取得される方はぜひ参考にして下さい。

    妊娠期間

    医療機関は、放射線を扱う業務や過度な身体的労働が必要になる場面も多いため、妊娠していることがわかったらできるだけ早めに職場に報告することが大切です。妊娠中の勤務内容は医療機関によって異なりますが、当直や長時間の手術、主治医担当などが免除になるケースも少なくありません。とくに妊娠初期はつわりで苦しむことが多く、見た目は「妊婦」ではないため理解を得にくいこともあるでしょう。しかし、自身と赤ちゃんのためにも無理のない勤務環境を整える必要があります。

    また、産休に向けて、事前に患者さんの引継ぎはしっかり準備しておきましょう。筆者は産休の2か月前に切迫早産で入院となり、そのまま産休に突入しました。妊娠のトラブルはいつ起こるか分かりませんので、日頃から誰が見ても分かるカルテを書くことを心がけ、簡単なサマリーを用意しておくとよいでしょう。

    ポイント

    妊娠報告の時期は上述したようにできるだけ早い段階でした方がよいと考えます。筆者は放射線を扱う業務があったため妊娠5週目で正常妊娠の診断を受けてから報告しました。妊娠初期は体調を崩しやすくなることも多いため、報告時期が遅れての「突然の休業」は避けた方がよいでしょう。

    産休期間

    いざ産前休業に入ったら、出産までに給付金申請などの手続きを整理しましょう。また、早めの仕事復帰を考えている場合は、保育所探しや家族の支援体制など復帰後の生活に向けた準備を始めておく必要があります。

    産後は新生児との生活で育児以外のことをこなす余裕がないケースが多いので、産前に準備をしておくことが大切です。

    ポイント

    産休や育休の取りやすさは医療機関によって大きく異なります。とくに育休は「取得できる雰囲気ではない...」というケースもあるでしょう。産休や育休の取得期間については、自身の希望をしっかり職場に伝えることが大切です。

    しかし、こうした制度の利用を「当然の権利」と思わずに、周囲に理解してもらいやすい姿勢を心がけることも大切です。例えば、休業前は体調に無理がない範囲で"積極的に仕事をこなす"、"しっかり勉強もする"など、休業期間に入るまで業務を全うしましょう。

    育休期間

    育休期間は慣れない育児に邁進する毎日。これまでさまざまなことを努力と気合で乗り越えてきた女性医師も、思い通りにならない育児に精神的・肉体的ダメージを受けることもあるでしょう。しかし、育休期間はあっという間に過ぎていきます。復帰に向けて子どもの預け先の確保、急な発熱やオンコールへの対応などを検討する必要があります

    また、ブランクがある場合は勉強や情報収集も必要です。復帰の2,3か月前には職場と復帰後の働き方について相談する場を設け、職場でのルール変更などがあれば必要な資料を収集し目を通しておきましょう。

    ポイント

    育休期間は育児に追われてあっという間に過ぎてしまいます。子どもと過ごせる大切な時間ですが、復帰後を見据えて勉強や情報収集を怠らないことも大切です。後に続く女性医師のためにも、産休・育休と経ても医師としての能力をキープできるようスキマ時間を活用して勉強を継続するよう心がけましょう。

    制度を上手に活用!復帰への準備も忘れずに

    出産・育児は女性にとって大きなライフイベントの一つであり、出産・育児を経てもキャリアを積んでいく女性医師は増えています。

    出産や育児にまつわる制度は多くあり、産休・育休制度や出産手当金などの助成金もその一つです。これらの制度はもちろん女性医師も利用できるので、出産する予定の医師は事前にどのような制度を利用できるのか調べておきましょう。

    また、産休や育休中は無理のない出産や育児を叶えるためのお休み期間ですが、医師としてのキャリアを継続するためにも無理のない範囲で勉強を続けることをお勧めします。復帰を予定している場合は、周囲への配慮も忘れないようにして下さい。

    成田 亜希子

    執筆者:成田 亜希子

    2011年医師免許取得。一般内科医として幅広い疾患の診療を行ってきた。自身は二児の母。育児中は医療行政に関わり、国立保健医療科学院や結核研究所で感染症対策などを含めた公衆衛生分野の研鑽に励んだ。

    現在は、医師である夫の研究留学に帯同しアメリカ在住。日本のクリニックと連携してオンライン診療部門の立ち上げと改革に邁進している。

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