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医学部を卒業した学生は、ほぼ全員が研修医として臨床研修を行います。この臨床研修の質を評価する団体がJCEP(卒後臨床研修評価機構)です。
JCEPによる評価を受審する病院は年々増えており、病院を選ぶ医学生にとっても研修病院側にとっても無視できないものとなってきています。この記事ではJCEPの概要と、受審するメリットなどを解説します。
執筆者:三田 大介
JCEP(卒後臨床研修評価機構)とは
JCEP(Japan Council for Evaluation of Postgraduate Clinical Training)とは、NPO法人卒後臨床研修評価機構のことです。その名のとおり医師の卒後臨床研修プログラムの評価などを行う団体で、関連する人材育成や研究開発事業にも取り組んでいます。
日本ではほかに同様の団体はなく、臨床研修について客観的な評価を行う唯一の組織となっています。
定款では、設立の目的について「国民に対する医療の質の改善と向上をめざすため、臨床研修病院における研修プログラムの評価や研修状況の評価を行い、臨床研修病院のプログラムの改善、よい医師の養成に寄与することを目的とする」と定められています。
定款|卒後臨床研修評価機構(JCEP)
JCEP設立の経緯・目的
日本では2004年に新医師臨床研修制度が必修化されました。それまでは卒業後に直接医局へ入局する医師もいれば、独自の研修制度を持つ病院で研修する医師もいましたが、この制度により全員が臨床研修を受けることとなりました。
必修化された臨床研修の質を評価しようと、2005年に結成されたのが有志らによる「新医師臨床研修評価に関する研究会」です。これを引き継ぐ形で、2007年に「NPO法人卒後臨床研修評価機構」が設立されました。
JCEPによる認定施設数
JCEPが開設された2007年以降、毎年20施設ほどがJCEPによる認定を受けており、2024年4月1日時点で計299施設がJCEPによる認定を受けています。2023年度に臨床研修マッチング制度に参加した病院は1,029施設(大学病院125、臨床研修病院904)*1ですから、このうち28.8%がJCEPによる認定を受けていることになります。
更新する施設数も右肩上がりで増えています。直近の訪問調査の結果がとくに優れていると承認された病院には「エクセレント賞」が発行されます(2024年4月1日時点で27施設)。
JCEPによる認定がどのようなものなのかは、このあとの段落で解説します。
海外の類似機関
アメリカでは、卒後教育を評価する機関としてACGME(Accreditation Council for Graduate Medical Education:卒後医学教育認可評議会)があります。JCEPと同様に非営利団体で、すべての病院が認定を受けているわけではありませんが、その歴史は古く、日本のJCEPはACGMEの活動を参考にしていると言えます。レジデントとフェローシップのプログラム、すなわち専門研修の認定・評価を行う点など、JCEPとは異なる役割もあります。
ヨーロッパでは、臨床研修の評価に特化しているわけではありませんが、UEMS(Union Européenne des Médecins Spécialistes)によって設立されたEACCME(European Accreditation Council for CME)が医師の生涯教育に関する評価やEU諸国間の調整を担っています。
JCEPの評価内容
評価・受審の流れ
JCEPによる評価は、以下の流れで行われます。
- 申し込み
- 契約
- 書面調査
- 訪問調査
- 報告書の提出
- 公表
出典:卒後臨床研修評価機構(JCEP)パンフレット
http://www.jce-pct.jp/jcep-npw/img/60.pdf
書面調査と訪問調査の際は、病院側が調査票を提出し、それをもとにJCEPが評価を行います。各調査票は公式サイトで公開されており、誰でも閲覧することができます。
訪問調査を受けた時点で受審証が、その後の調査で認定基準が認められると認定証が交付されます。後者がJCEPによる「認定」であり、JCEPの公式サイトなどに施設名が公表されます。
書面調査
書面調査は「臨床研修調査票」に沿って行われます。項目ごとに1年(連続する12カ月)、直近の一時点、研修修了者の3段階のデータが用いられます。
調査の対象項目は以下のとおりです。
項目 | 記載内容 |
---|---|
1.基本情報 | 責任者、病床数 |
2.臨床研修指定区分・体制 | 連携、理念・基本方針、役割・機能の明示、研修管理委員会、指導体制、研修医の診療行為を確認する体制、研修医の参加する委員会、プログラム連携施設、研修プログラム、オリエンテーション |
3.医師数および患者数 | 分野別医師数、患者数、ICD疾患別患者数 |
4.職員の状況 | 職種別職員数、専門医師数 |
5.労働時間の状況 | 病院の主体性、研修医勤務状況 |
6.研修医の状況と環境整備状況 | 募集・採用、規程類、辞令、研修記録、臨床研修修了証、修了後フォロー、健康管理、給与・手当て、図書、研修機器、研修設備、外部研修活動、Web環境 |
7.医療安全管理の状況 | 委員会、研修医の医療事故発生時対応体制、患者相談窓口、医療関連感染 |
8.各部門の活動状況 | 救急医療体制、外来部門、研修期間と主な指導体制、精神科診療機能、臨床検査部門、病理診断部門(CPC)、手術部門、チーム医療、診療録管理部門、医療ソリューション | 9.研修の評価 | 研修医の評価、指導体制の評価、研修修了状況、修了者の到達目標の達成状況、医療記録の作成数 |
10.研修施設のQI | ― |
11.研修プログラムの研修分野別マトリックス表 | ― |
卒後臨床研修評価機構(JCEP)「NPO法人卒後臨床研修評価機構(JCEP)の活動状況」p.12をもとに筆者作成
https://www.mhlw.go.jp/content/10803000/001110848.pdf
調査票の内容をよく見ると、とても細かく記載する必要があることがわかります。たとえば「2-3 臨床研修の理念・基本方針」には以下のような小項目があります。適宜更新できているか、周知ができているかなども評価されます。
- 理念
- 基本方針
- 理念・基本方針の見直し
- 直近の見直し年月日
- 周知の方法(院内広報誌への記載、職員手帳への記載など)
- 臨床研修病院群間での共有
- 臨床研修における役割・機能の範囲の明文化
- 役割・機能の周知
- 臨床研修病院であることの明示
- 臨床研修における役割・機能について、地域から意見を受ける仕組みの明文化
出典:卒後臨床研修評価機構(JCEP)「臨床研修調査票 October 2023」p.2~3
http://www.jce-pct.jp/jcep-npw/img/81.pdf
訪問調査
訪問調査は「JCEP評価調査票」をもとに、サーベイヤーが実際に病院を訪問して行われます。サーベイヤーチームは3~5名で、主に臨床研修病院の医師、医師以外の医療従事者、事務・実務担当者などで構成されます。
調査項目は大・中・小項目の3つに分けられています。大項目は評価の枠組みを表しており、直接評価対象となるのは中項目です。小項目の判定内容をもとに、各項目が適切行われているか・直ちに改善が必要か等を3段階で評価します。
訪問調査の大項目 |
---|
1.臨床研修病院としての役割と理念・基本方針 2.臨床研修病院としての研修体制の確立 3.臨床研修病院としての教育研修環境の整備 4.研修医の採用・修了と組織的な位置付け 5.研修プログラムの確立とその実践 6.研修医の評価 7.研修医の指導体制の確立 8.修了後の進路 |
出典:卒後臨床研修評価機構(JCEP)「JCEP評価調査票 October 2023」p.1
http://www.jce-pct.jp/jcep-npw/img/76.pdf
訪問調査の中・小項目の例 |
---|
大項目1.臨床研修病院としての役割と理念・基本方針 |
中項目1.1 臨床研修の理念・基本方針が確立されている 小項目1.1.1 理念と基本方針がそれぞれ明文化されている 小項目1.1.2 理念と基本方針が院内および臨床研修病院群間で周知されている |
中項目1.2 臨床研修病院としての役割が明確になっている 小項目1.2.1 臨床研修における役割・機能が院内に周知されている 小項目1.2.2 臨床研修における役割が地域に周知されている 小項目1.2.3 臨床研修病院のあり方について地域からの声に耳を傾けている |
出典:卒後臨床研修評価機構(JCEP)「JCEP評価調査票 October 2023」p.3~4
http://www.jce-pct.jp/jcep-npw/img/76.pdf
JCEPの評価を受けるメリット
病院のメリット
JCEPが2023年に実施したアンケート*2では、病院がJCEPの評価を受審するメリットがあったと答えた施設は、142施設中124施設(87%)でした。
メリットがあったと回答した場合の内容を細かく見てみると、研修医・研修希望者・病院見学者などが増加したり、研修医の労務環境や指導体制が改善したりしていることがわかります。
興味深いことに、「指導医・上級医等の労務環境(待遇面を含む)が改善した」(13%)、「医療安全への意識が向上した」(35%)など、既存の体制への恩恵があった施設も多いようです。
研修医のメリット
JCEPの調査項目内容は多岐にわたっています。つまりJCEPからの認定あるいは良い評価を受けた病院は、臨床研修の質が高いと言えます。
先述したようにさまざまな観点で調査されるため、認定を受けるためには多くの職種が関わります。病院全体で医師の臨床研修を支えるという気概があるとも言えるのではないでしょうか。
多職種から臨床研修への理解が得られることは、院内での連携や人脈づくりにつながるなど、研修の行いやすさや働きやすさに直結します。こうした環境で研鑽を積めることは大きなメリットでしょう。
JCEPの評価を受けるデメリット
JCEPによる評価にはデメリットもあります。端的に言えば人的負担と金銭的負担です。
東京都の立川相互病院では2008年からJCEPの認定を受けており、2019年の更新時にはエクセレント賞も受賞しています。その認定に向けた準備には、書面調査に1カ月半、訪問調査に5カ月設けたとのことです。訪問調査は丸一日かけて行われるので、長期的に時間と人が割かれることになります。準備が時間外労働となればその分の手当が必要ですし、時間内に行うとなればその分の業務を別の人が負わなければなりません。
さらに、JCEPによる評価には費用がかかります。初回調査は機関会員で税込22万円、非会員では55万円です。
医療従事者の働き方改革も進む中、かかわるスタッフの負担や経費を十分考慮して取り組む必要があります。
社会医療法人社団健生会立川相互病院 臨床研修第三者評価受審の取り組みについて|立川相互病院
臨床研修評価料|卒後臨床研修評価機構(JCEP)
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JCEPの今後の活動と展望
JCEPによる認定制度の現状や課題については、2023年の厚生労働省分科会でも話し合われています。現在は臨床研修指定病院が必ずしもJCEPによる認定受ける必要はありませんが、いずれは努力義務化や義務化される可能性もゼロではありません。評価項目や方法も毎年変わるため、今後の動向や最新情報に注目していく必要があるでしょう。
JCEPによる認定制度をより普及させていくためには、先述した病院側へのデメリットのほか、業界全体でのサーベイヤー養成といった課題をクリアする必要があります。訪問調査を担うサーベイヤーは、毎年更新される調査項目に対応しながら、一定の質を保って評価にあたる必要があります。自身も臨床研修病院に務めるスタッフでありながら、サーベイヤーとしての活動にも携わるため、働き方改革などと折り合いをつけていく必要があるでしょう。
まとめ
この記事ではJCEPの概要を解説しました。受審する側の負担は少なくはありませんが、臨床研修の質を高めることは、研修医のためだけではありません。研修プログラムを振り返ることで病院自体やほかのスタッフにもメリットがあり、長い目で見ると医療全体の質を高めることにもつながるでしょう。臨床研修や医学教育に関わる人は注目を続けたいですね。
執筆者:三田 大介
理学療法士から再受験し、現在はリハビリテーション科医師として病院勤務。より多くの人に正しい医療知識を届けたいとライター活動を開始。医師、理学療法士の両方の視点を活かしながら、企業などのオウンドメディアを中心に医療・健康に関する記事を執筆。
▶X(旧Twitter)|@sanda_igaku
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