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日本では人口減少や高齢化により、医療ニーズが質・量ともに変化してきています。変化に対応しながら効率的に医療を提供するため、地域医療構想に基づき医療体制の見直しが進められています。
機能分化を推進する上では他施設との連携が重要視され、病診連携・病病連携・地域連携という言葉も頻繁に聞かれるようになりました。この記事では地域連携などを交えながら、病診連携・病病連携について解説します。
執筆者:三田 大介
病診連携とは
病診連携とは、「診療所と病院が連携することにより包括的で一貫性ある医療サービスを患者に提供すること」*1です。
具体的には以下のようなことを指します。
紹介・逆紹介
紹介は、かかりつけ医がより専門的な検査・治療が必要と判断した際に、高次医療機関に紹介し、結果をかかりつけ医にフィードバックすることです。逆紹介は、退院時にかかりつけ機能を診療所に移すことを言います。
紹介率・逆紹介率は特定機能病院や地域医療支援病院の承認にも用いられる指標でもあり、国が病診連携を通して機能分化を進めようとしていることがわかります。
開放型病床
かかりつけの患者さんが入院となった際に、診療所の医師も一緒に診療できる病床のことです。診療所の医師が入院中も患者さんに関わることで、一貫した医療を提供できます。
多くの病院で登録制を採っており、症例検討会や院内講習会を開放している病院もあります。
医療機器の開放
CTやMRI、RI、マンモグラフィーなどの医療機器を、その病院に勤務していない医師が利用できる制度です。検査後のかかりつけ医による診療が円滑になります。
病病連携とは
病診連携の「病」は病院、「診」は診療所のことです。「病院」と「病院」が連携する場合は「病病連携」と呼ばれます。
高次医療機関での治療が終わった際に回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟のある病院に転院したり、より専門的な検査や手術・治療を行うために高次医療機関に紹介したりするケースが当たります。
後述する通り、医療費抑制や人材調整のために病院機能を分化・集約することは必須であり、病院同士の連携も重要になっています。
病診連携のメリット
病診連携は、患者さん・診療所・病院それぞれにメリットがあると考えられます。
まず、患者さんのメリットはさまざまな負担の軽減です。高次医療機関への紹介時に特別療養費が徴収されずに済みますし、逆紹介される際には通院の負担を考慮してかかりつけ医を選ぶことができます。情報共有によって同じ検査を行わずに済む、診療時間が短縮されるなど、円滑な受診にもつながります。
診療所には、診療の幅が広がるというメリットがあります。病床や医療機器の開放を利用すれば、診療所ではできない診療も行うことができます。密な連携で病院側からの信頼を得られれば、より多くの逆紹介を受けることもできるでしょう。
病院のメリットは効率化にあります。適切に逆紹介を行うことで、病院にとっても働く医師たちにとっても、高次医療機関でしか行えないことに専念できます。地域連携室がある病院は、ない病院と比べて医業収支比率が10ポイント以上高いという報告*2もあり、経営上のメリットもあると言えます。
病診連携と診療報酬
診療報酬上の扱いはどうなっているのでしょうか。
2024年2月現在、病診連携では以下の診療報酬を請求することが可能です。
- 診療情報提供料(1・2)
- 連携強化診療情報提供料(届出必要)
- 電子的診療情報評価料
- がん治療連携指導料
- 退院時共同指導料(1)(入院医療機関では2を算定)
- 療養・就労両立支援指導料
- 開放型病院共同指導料(Ⅰ・Ⅱ)
病診連携が重要となる背景
かかりつけ医のもとでのニーズ
日本医師会総合政策研究機構が2022年に行った調査*3で、「かかりつけ医がいる」と回答した人は55.7%でした。さらに、18.3%の人が「いないが、いると良いと思う」と回答しました。
また、「かかりつけ医がいる」と回答した人の82.1%は、診療所をかかりつけにしています。
この調査では、「その医師をかかりつけ医としている理由」を複数回答で尋ねており。29.1%の人が「必要な時に専門医、専門医療機関を紹介できる」を選択しています。これは病診連携そのものであり、病診連携に対する国民の期待が高いことがわかります。
地域医療構想
現代の日本は類を見ない少子高齢化社会であり、今後も人口減少・高齢化が進んでいきます。社会構造の変化とともに医療ニーズは変化していきますし、労働力人口も減少する中では質の高い医療を効率的に提供できる体制を構築する必要があります。
2025年の医療ニーズと病床の必要量について、地域(区域)ごと・医療機能ごとに推計し策定されたものが「地域医療構想」です。各区域に設置される「地域医療構想調整会議」で病床の機能分化・連携に向けた協議を実施し、地域医療構想の実現を目指します。
医療機能は高度急性期・急性期・回復期・慢性期の4つに分けられます。患者さんの病態が「急性期→回復期→慢性期」と変化する場合でも、すべてを一つの医療機関で完結することは不可能です。機能分化を進めるには、地域医療の連携強化もセットで必要なのです。
地域包括ケアシステム
2025年は、「団塊の世代」が全員後期高齢者になる年です。これを見据えて構築されているのが「地域包括ケアシステム」です。
地域包括ケアシステムは、「重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される」*4ことを目指しています。そのためには包括的・継続的な医療と介護の連携が必要であり、厚生労働省も体制構築を推進しています。
病診連携の実例
地域連携室を通して患者さんを紹介/逆紹介したり、研修会に参加したりということは、多くの医師の方が経験されていると思います。ここでは、より病診連携を発展させている例を紹介します。
医療情報連携ネットワーク
「医療情報連携ネットワーク」は、「患者の同意のもと、医療機関等の間で、診療上必要な医療情報(患者の基本情報、処方データ、検査データ、画像データなど)を電子的に共有・閲覧できることを可能とする仕組み」*5です。全国でさまざまなネットワークが構築されており、ここでは「ピカピカリンク」(佐賀県診療情報地域連携システム)を紹介します。
ピカピカリンクは佐賀県の医療情報ネットワークで、2010年度から稼働しています。佐賀県全域の医療機関が参加していることが特徴です。参加にあたっては診療情報を開示する「開示施設」(2024年1月末時点で15施設)と、その情報を閲覧する「閲覧施設」(同417施設)の区分があり、開示施設が医療圏ごとに1つ以上あることで、県全域をカバーできています。
2020年1月時点で40万人以上の患者さんが登録されており、佐賀県の人口が約80万人であることを考えると、規模の大きさがわかります(もちろん県外の方や、すでに亡くなった方もいるかもしれません)。
EMS(Emergency Medical Service:救急患者連携登録)機能もあり、緊急時の情報取得や災害への備えとしても利用できるようです。運営の一部を外部委託するなどの工夫も、規模の拡大や事業継続の一助になっているのでしょう。
疾患ごとの取り組み
病診連携では、疾患ごとの取り組みも推進されています。
脳卒中では、多くの地域・医療機関で地域連携クリティカルパスが導入され、「急性期病院→回復期リハビリテーション病院→かかりつけ医療機関」の一連の診療が円滑に行えるよう工夫されています。
COVID-19では、病診連携を身近に感じた方も多かったのではないでしょうか。5類移行前は、軽症例は自宅またはホテル療養、中等症例や重症例・併存疾患がある症例は指定医療機関への入院が原則でした。限られた病床を有効に使うため、症状が軽快すれば高次医療機関からの転院やホテル療養への切り替えを積極的に進める必要がありました。
病診連携は、慢性疾患の管理にもメリットをもたらします。慢性腎臓病(CKD)は有病率が高い一方、どこにどのような患者さんを紹介すれば良いかわからないこともあると思います。その課題を解決しようと、岡山市では2007年にCKD病診連携ネットワークが設立されました。定期的なセミナー開催、CKD病診連携パスの作成、専門医のリスト化などを通して、よりスムーズなCKD診療が実現しているとのことです。
地域連携クリティカルパスとは|厚生労働省
内田治仁ほか:CKD診療体制・連携について.日腎会誌 61(2):81‒85,2019
令和元年度 慢性腎臓病(CKD)診療連携構築モデル事業報告書|岡山県保健福祉部健康推進課
病診連携の今後の展望
地域医療構想などの医療計画の実現と地域包括ケアシステムの構築のために、病診連携の重要性は今後も増していくことでしょう。連携には膨大な情報のやりとりが生じるため、ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)の活用が必須です。しかし、どのようなシステムを構築するのか、その費用はどこから賄うのか、個人情報の扱いに問題はないのかといった課題も残ります。
最近はオンライン資格確認システムとして「マイナンバーカード」を健康保険証として利用し、過去の投薬などの情報を得ることができるようになりました。国はオンライン資格確認システムを今後ますます発展させ、レセプト・特定健診情報、予防接種、電子処方箋情報、電子カルテなどの医療情報について、必要時に必要な情報を共有・交換できるプラットフォーム(全国医療情報プラットフォーム)の実現を目指しています。
情報共有の手法が変われば、自ずと病診連携の形も変わるでしょう。ニーズを見極めながら、自身・自施設には何ができるのかを、情勢にあわせて考えていく必要があります。
医療DXについて(その1)|厚生労働省
▼オンライン資格確認・電子処方箋などに関連する記事はこちら
オンライン資格確認とは?導入義務化の背景や開始に必要な手続きを解説
HPKIカード(医師資格証)とは?概要や普及率、今後の展望を解説
EHR(電子健康記録)の現状と今後の展望は?EMRとの違いやPHRとの連携も含めて解説
FHIR®とは?医療情報の標準化に貢献する理由や導入のメリットを解説
まとめ
人口減少・高齢化という日本の課題を乗り越えるため、病診連携・病病連携は今後ますます推進されるでしょう。国からの通知や診療報酬改定の動向にアンテナを張りつつ、変化の波に乗り遅れないようにする必要があります。
しかし、どれだけ技術革新が進んでも、連携は人と人とのつながりがあってこそです。機能分化とともに、互いが互いにできないことをお願いし合うわけなので、快く引き受け、快く引き受けてもらえるような関係性を作れると良いですね。
執筆者:三田 大介
理学療法士から再受験し、現在はリハビリテーション科医師として病院勤務。より多くの人に正しい医療知識を届けたいとライター活動を開始。医師、理学療法士の両方の視点を活かしながら、企業などのオウンドメディアを中心に医療・健康に関する記事を執筆。
▶X(旧Twitter)|@sanda_igaku
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