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令和5(2023)年4月から、原則としてすべての保険医療機関や薬局でオンライン資格確認が義務化されています。ただ、現在は猶予期間でもあり、この制度についてまだ十分な理解が進んでいない面もあると思います。とくに病院経営者や開業医以外の医師には、まだ馴染みが薄いのではないでしょうか。
この記事ではオンライン資格確認の概要、導入が進められている背景、今後の展望などを解説します。
執筆者:竹内 想
オンライン資格確認とは
オンライン資格確認とは、マイナンバーカードのICチップまたは健康保険証の記号番号等により、オンラインで保険資格情報(保険の種類や有効期限など)の確認ができる仕組みのことです。
2019年5月に公布された 「医療保険制度の適正かつ効率的な運営を図るための健康保険法等の一部を改正する法律」において、マイナンバーカードを健康保険証として利用できるようになり、2021年3月から「オンライン資格確認」の導入が始まりました。オンライン資格確認自体は既存の保険証でも可能ですが、マイナンバーカードを保険証として利用する、いわゆる"マイナ保険証"の普及も目指されています。
医療保険のオンライン資格確認の概要について|厚生労働省
医療保険制度の適正かつ効率的な運営を図るための健康保険法等の一部を改正する法律の成立について|厚生労働省
オンライン資格確認・マイナンバーカードの保険証利用について|厚生労働省
資格確認の必要性
日本は国民皆保険制度を導入しています。受診や薬の費用の一部が医療保険で支払われるため、国民一人ひとりの支払いは抑えられています(現物給付)。医療費の自己負担額は一般に3割で、残りの7割は公的医療保険から支払われます。
したがって医療機関や薬局は、患者さんがどの保険に加入しているかを確認し、費用の7割をその保険団体に請求する必要があります(レセプト業務)。資格情報と異なる保険に請求してしまうとレセプトが返戻(へんれい)されてしまい、医業報酬の7割が手元に入らなくなってしまいますから、医療機関にとっては大きな問題です。国民皆保険制度は適切な資格確認のもとに成り立つと言えます。
医療保険のしくみ|全日本病院協会
従来の資格確認方法と問題点
これまで医療機関や薬局で患者さんの資格確認を行うには、保険証の提示(本人確認を含む)が必要でした。そのため保険証の紛失や不正行為(偽造した保険証や他人の保険証を使うなりすまし・使いまわし)が問題になっていました。
また、資格確認に必要な情報を手入力するため、作業コストや精度の面でも課題がありました。
さらに、このような手間をかけてもその場で資格情報を確認することはできませんでした。
オンライン資格確認のメリット
オンライン資格確認では、マイナンバーカードのICチップに記録されている個人情報とカードに掲載されている顔写真で、本人確認を行います。これを保険証の記号番号等と照合することで、最新の資格情報を確認します。
従来の資格確認方法と比較すると、以下のメリットがあると言えます。
- 本人確認に顔認証を活用することで、なりすましを防止できる
- 保険証の記号番号等とマイナンバーカードの情報を照合することで、資格確認の精度が向上する
- オンラインで資格情報を確認できるため、窓口における事務作業を効率化できる
- 薬剤情報や特定健診情報をまとめて閲覧できる
なりすましの防止、確認精度の向上、事務作業の効率化については、先述したとおりです。
それ以外の特徴として、4つ目に挙げた「情報をまとめて閲覧できる」点がメリットとして挙げられます。医師は、レセプトから抽出した過去3年分の診療/薬剤情報を閲覧できるほか、5年分の特定健診情報を閲覧できます。これにより、データに基づいた、より質の高い医療の提供が期待されます。
つまりオンライン資格確認は、単なる資格確認にとどまらず、医療DXの基盤となる仕組みであると言えるでしょう。
オンライン資格確認を開始する手続き
このようなメリットをもたらすオンライン資格確認ですが、導入に向けた準備には下記の4ステップが必要です。
- 顔認証付きカードリーダーの申し込み
- システム事業者への発注
- 導入・運用準備
- 補助金申請
オンライン資格確認の導入の第一歩となるのが、顔認証付きカードリーダーの入手です。カードリーダーには複数の種類があるため、サイズや機能を比較検討して選びましょう。
ステップ2の「システム事業者への発注」は、運用を開始する1カ月前までに行う必要があります。発注後すぐに導入できるわけではないため、早めに準備を進める必要があります。
その後、システム事業者による設定を経て、ステップ3まで完了すれば、運用を始めることができます。
オンライン資格確認の課題
オンライン資格確認はまだ新しいシステムであることから、課題も存在します。
導入コストがかかる
オンライン資格確認を導入するには、端末やシステムのコストがかかります。
現在、オンライン資格確認を推進しようと、導入に対する補助金が用意されているため、利用を検討してみましょう。医療機関の種類や顔認証付きカードリーダーの台数に応じて補助金が得られるようになっています。申請には領収書や事業完了報告書などの複数の書類が必要なため、注意しましょう。
診療報酬においても、オンライン資格確認の導入で得られる加算があります。
【オンライン資格確認の導入に伴う診療報酬加算】(令和4年度現在) |
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参考:オンライン資格確認・医療情報化支援基金関係 医療機関等向けポータルサイト
https://www.iryohokenjyoho-portalsite.jp/news/post-106.html
導入にコストがかかる分、診療報酬を手厚くすることで、普及を促進する狙いがあると考えられます。
補助金申請|オンライン資格確認・医療情報化支援基金関係 医療機関等向けポータルサイト
診療報酬の加算を算定できます!|オンライン資格確認・医療情報化支援基金関係 医療機関等向けポータルサイト
マイナンバーカードの普及率が低い
オンライン資格確認の要となるのがマイナンバーカードです。普及率はオンライン資格確認が開始された2021年4月1日時点では30%に満たなかったものの、 2023年9月末時点では70%を超えています。しかし"国民皆保険"を考えると100%になる必要がありますから、まだまだ普及し切っていないと言えるでしょう。
とくにマイナ保険証においては、利用率が4.16%にとどまっています(2023年8月の厚生労働省調査より)。自分のマイナ保険証に他人の情報が紐付くといったトラブルが報道されたことで、個人情報の取り扱いなどへの不安から、マイナンバーカード自体を返納する人もいました。
マイナンバーカードの普及を進めるため、政府はポイントがもらえるキャンペーンを二度実施したほか、コンビニで住民票や印鑑登録証明書などを取得できたり(対応していない自治体もあります)、確定申告をオンライン(e-Tax)上で行えたりと、マイナンバーカードによる利便性向上をはかってきました(e-Taxは2020年からの税制改正により、青色申告特別控除の満額である65万円分の控除を受けるための条件にもなっています)。
公的な手続きをオンラインで行えることは、新型コロナウイルス感染症の流行下で確立した、対面を避ける"ニューノーマルな生活様式"という時流にも合っており、今後も運転免許証との一体化など、用途の拡大が予定されています。
政府は2024年秋に現行の保険証を完全に廃止する予定を打ち出していますが(後述)、そのためにはマイナンバーカードのさらなる普及が求められています。
オンライン資格確認の現状と今後
オンライン資格確認の運用が始まってから2023年8月末までの間に、オンライン資格確認等システムを活用した資格確認は、約16.4億件行われたそうです。しかし、大部分は既存の保険証を利用したもの(約15.8億件)で、マイナンバーカードの利用は約5,100万件にとどまっています。
オンライン資格確認の整備は、国が掲げている「医療DX」推進施策の一環でもあります。
現時点では、やむを得ない事情がある保険医療機関・薬局に対する期限付きの経過措置も設けられているほか、義務に反する罰則規定があるわけでもありませんが、2024年秋には現行の保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」に完全に切り替えることが、現在の国の方針とされています。
しかし、先述したマイナ保険証をめぐるトラブルによる世間からの批判や、一部の団体による反対意見もあり、今後方向性が変わる可能性もあります。
オンライン資格確認等について(p.45 オンライン資格確認の利用状況①)|厚生労働省
オンライン資格確認原則義務化の経過措置について ~経過措置の届出は令和5年3月末まで~|厚生労働省
【厚労省要請10月5日】オンライン請求「義務化」で閉院が加速!|全日本保険医団体連合会
まとめ
今回はオンライン資格確認の概要やメリット、現状の課題や今後について見てきました。医療DXの要とされるマイナ保険証やオンライン資格確認をさらに普及させるためには、現状の課題の解決やさらなる改革が必要となっており、今後の流れにも要注目と言えるでしょう。
執筆者:竹内 想
大学卒業後、市中病院での初期研修や大学院を経て現在は主に皮膚科医として勤務中。
自身の経験を活かして医学生〜初期研修医に向けての記事作成や、皮膚科関連のWEB記事監修/執筆を行っている。
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