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医療情報に関連する「FHIR®」*という単語を聞いたことはあるでしょうか? Web通信を介して患者の医療情報を迅速かつ効果的に共有するための国際標準規格(フォーマット)のことで、医療情報データのやり取りを効率化し、医療の質向上につなげるリソースモデルとして期待されています。
この記事ではFHIRの概要や導入のメリット、今後の展望などを解説します。
*「HL7」「FHIR」はHL7(Health Level Seven)Internationalの登録商標ですが(HL7®、FHIR®)、以下では®表記を割愛いたします。
執筆者:竹内 想
FHIRとは
FHIRはFast Healthcare Interoperability Resourcesの略語で、正式名称は「HL7 FHIR」です。国際的な医療標準化団体であるHL7協会(Health Level Seven International)によって策定された規格で、医療情報の共有と相互運用のための「次世代標準フレームワーク」として注目されています。
最新のWeb技術を活用して開発されたオープンな規格で、電子的な医療記録や、関連する健康情報を共有する枠組みが搭載されています。入院・外来医療の双方、および急性期・回復期医療のいずれにも対応でき、世界各地の地域医療にも適用できるよう設計されています。
医療情報の標準化とは
FHIRについて掘り下げていく前に、「医療情報の標準化」とは何かを解説します。
医療情報をほかの医療機関(病院やクリニック)と共有する際、採用している情報の規格が同じであれば、共有が容易です。これが「医療情報の標準化」が目指される理由です。
たとえば、音楽や映像データの場合、CDやDVD、Blu-rayといった記録ディスクやデータの規格が標準化されています。そのためレコーダーやディスクの生産メーカーにかかわらず、すべてのCDやDVDを利用できますね。医療情報の標準化も、これと同じことを目指しているのです。
日本における電子カルテの現状と課題
標準化の対象となる医療情報の代表例は「電子カルテ」です。その現状と課題を見ていきましょう。
電子カルテは以前と比べてかなり普及が進んでいます。平成20(2008)年は一般病院での普及率14.2%、一般診療所で14.7%だったのが、令和2(2020)年には一般病院で57.2%、一般診療所で49.9%と、3~4倍の水準に上昇しています。
ただ、大規模病院(400床以上)では91.2%と、ほとんどの病院で電子カルテが導入済みであるのに対し、200床未満の病院は48.8%と、病床規模によって普及率に差がみられます。病院間で医療情報を共有するケースとして、かかりつけの診療所から総合病院への紹介は多く想定されるため、診療所の電子カルテ普及率が低いことは課題と考えられます。
また、一口に電子カルテと言っても、ベンダーごとに情報の出入力方式が異なっており、医療機関の間で採用しているベンダーが同じでないと情報共有が難しいという問題が生じます。連携先の病院に書類を印刷して手渡す、または郵送するしかない場合も多いのが現状です。
まとめると、診療所やクリニックで電子カルテの普及が進んでいない点、電子カルテが導入されていても規格の問題から情報のやり取りがスムーズに行えていない点が、日本が抱えている課題と言えます。
医療分野の情報化の推進について|厚生労働省
医療DXについて(その1)|厚生労働省 第543回中央社会保険医療協議会総会(令和5年4月)
▼電子カルテに関連する詳しい記事はこちら
EHR(電子健康記録)の現状と今後の展望は?EMRとの違いやPHRとの連携も含めて解説
FHIRの特徴
FHIRには、医療現場での利用促進を想定したさまざまな特徴があります。例として、以下の3つの特徴を紹介します。
①実装が容易である
すでに普及しているWeb技術を利用していることや、XMLやJSONといった一般的な形式のデータを採用していることで、実装やアプリケーション間連携が容易という特徴があります。仕様が無料で公開されていることも、実装のハードルを大幅に下げていると考えられます。
②拡張性がある
標準仕様を80%にとどめ、残りの20%は現場の多様性に準じて拡張できるようになっています。これによって地域や医療機関の個別のニーズに応えることが可能です。
③既存のデータから必要情報を抽出できる
FHIRが導入される前から、医療情報は膨大に存在しています。FHIRでは、既存の蓄積データの中から必要なものを抽出し、利用することが可能です。重要性の高いデータのみを抽出し、FHIRに移行することもできます。
FHIRにはこのようなメリットがあることから、すでに諸外国では積極的に活用が進められています。
FHIRで実現する未来
日本の現状をふまえた上で、FHIRの導入でどのようなことが可能になるのか、考えてみましょう。
医療機関連携による医療の質の向上
FHIRによって、まずは電子カルテ(医療情報)の規格が標準化されます。電子カルテの標準化が実現すれば、「どのような疾患で現在内服治療を行っているのか」「以前アレルギーを起こした薬剤はあるか」といった情報や過去の採血検査結果のようなデータを、医療機関同士で共有・交換することが容易になります。
これによって、たとえばアレルギーのある薬剤を誤って処方してしまうミスを防ぐことが期待できますし、重複する採血検査を省いたり投薬内容の聞き取りの手間を省いたりと、さまざまな課題の改善につなげることができます。医療安全の確保を含む、医療の質の向上が期待できるというわけです。
さらに大きな視点で見ると、医療機関同士で情報共有が可能になることは、複数の医療機関で大規模な患者データ(ビックデータ)を扱うことが可能になることを意味します。ビッグデータで医学研究や医薬品開発が加速すれば、より質の高い医療へつながる効果も期待できます。
個人健康記録(PHR)の拡充と活用
FHIRの導入が進むと、一人ひとりの健康情報(PHR:パーソナル・ヘルス・レコード、個人健康記録)の拡充も進むと期待されます。
たとえば、これまで受けた健康診断の結果を時系列で表示できるようになるでしょう。これにより自身の健康状態の理解が深まり、疾患の予防や治療に積極的に取り組める人が増えるかもしれません。
またPHRは、電子カルテで扱われる公的な医療・健康情報だけでなく、スマートフォンやスマートウォッチなどのウェアラブルデバイスで測定する歩数・脈拍・睡眠時間や、食事内容などの"ライフログ"も、包括的に取り扱うことができます。「健康診断で血圧が高かったが、その結果一日の歩数を増やすよう取り組み、翌年の健康診断では血圧が基準値に戻った」のような、PHRが健康増進に役立つ事例が見られるようになるかもしれません。
PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)とは?基本と活用法を解説
まとめ
今回はFHIRの概要やメリットについて見てきました。FHIRの導入が進めば、電子カルテの標準化が前進し、医療機関の間で情報のやり取りが効率化されたり、ビッグデータで研究開発が進んだりと、医療の質向上が期待されます。それだけではなく、国民一人ひとりが自分の医療・健康情報に簡単にアクセスできるようになり、疾患の予防や治療に積極的に参加できる未来も近付くでしょう。
この記事がFHIRについての理解を深める一助となれば幸いです。
執筆者:竹内 想
大学卒業後、市中病院での初期研修や大学院を経て現在は主に皮膚科医として勤務中。
自身の経験を活かして医学生〜初期研修医に向けての記事作成や、皮膚科関連のWEB記事監修/執筆を行っている。
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