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私たち医師は、日々診療に忙しく、定年について考えることは多くないかもしれません。聖路加国際病院の院長や国際内科学会長などを務められた日野原重明先生は、100歳を超えても診療を続けました。
しかし、誰もが生涯現役でいられるわけではありません。いつかやってくる定年に向けて、今からできること、しておいた方が良いことはあるでしょうか。この記事では、医師の定年年齢や定年後の働き方、定年に向けて準備しておきたいことについて紹介します。
執筆者:Dr.Ma
医師の定年は何歳?
医師という職業、つまり医師免許には定年はありません。医師免許があれば、生涯診療を行うことができます。
ただし、保険診療を行うには保険医療機関に勤めている必要があり、医療機関によっては定年が定められている場合があります。定年年齢は医療機関の規定によって異なります。ここでは公務員医師と公的病院、私立病院、開業医の定年について、順に見ていきましょう。
公務員医師・公的病院勤務医の場合
公務員医師とは、医系技官や防衛医官、矯正医官など省庁に採用される医師や、県立・私立病院など自治体が管理する医療機関に勤務する医師のことを言います。
公務員医師の定年は、公務員の規定に従います。公務員の定年は令和4年度まで60歳でしたが、医師・歯科医師は「特例定年」の対象であり、定年は「65歳」と定められていました。しかし、令和5年4月1日に施行された「国家公務員法等の一部を改正する法律」「地方公務員法の一部を改正する法律」により、公務員の定年は段階的に65歳に引き上げられることになりました。これに伴い、矯正施設などで医療業務に従事する医師・歯科医師の定年は「70歳」となり(新特例定年)、こちらも段階的に引き上げられます。これ以外の医師・歯科医師の定年は「65歳」のままです。
公的病院の定義は少し曖昧なところもありますが、自治体が管理する医療機関のほか、国立病院機構(NHO)や地域医療機能推進機構(JCHO)、国家公務員共済組合連合会(KKR)などが含まれます。こうした医療機関に勤務する医師の身分は公務員ではなく、それぞれ独自に定年制度が定められています。
たとえば国立病院機構の場合、定年は65歳ですが、医師確保が困難な病院などでは最高70歳まで勤務できる制度(シニアフロンティア制度)が設けられています。
定年後を考える 定年がもたらすもの|人事院
地方公務員法の一部を改正する法律について(地方公務員の定年引上げ関係)|総務省
けっこういいぞ!NHO 医師の処遇(2023年度版)|国立病院機構
私立病院勤務医の場合
私立病院の場合、各病院が定める規定によって定年年齢は60歳、65歳、70歳などさまざまです。定年制度を定めていない医療機関もあります。
現在勤務している私立病院に長く勤務する予定があるなら、一度病院の規定を確認しておくと良いでしょう。
開業医の場合
開業医の場合、医師免許に定年がないため、自分で決めない限り定年はありません。診療を希望する患者さんがいれば、生涯診療を続けることができます。
体力の低下などで診療を続けることが難しくなっても、経営者として働き続けることができます。
医師の定年後の働き方
人生100年時代の現代では、定年を迎えても体力・気力とも充実し、定年後も働きたいと考える人が多くなっています。医師も例外ではなく、定年以降も働く方が少なくありません。医師免許や医学の専門知識は定年後も必要とされる場面が多いため、さまざまな働き方が考えられます。代表的な選択肢を見ていきましょう。
定年前の勤務を続ける
定年を迎えても、勤務を続けることができる場合があります。勤務先に再雇用制度や勤務延長制度などが設けられているケースです。令和3年に「高年齢者雇用安定法」が一部改正され、70歳までの就業機会確保が推進されるようになったことから、こうした制度は今後も普及していくと思われます。
ただし、当直勤務や手術など、体力を必要とする業務は職場との相談が望ましいでしょう。体調に合わせた勤務を考慮してもらう必要があります。
勤務医・嘱託医・産業医として非常勤で勤務する
非常勤であれば、週1回などの頻度で勤務することができるため、自分の体力や意欲によって働き方を調節できます。外来診療をしたり、ほかの医師をサポートしたりする働き方が考えられます。
老人ホームなどの高齢者向け施設で、嘱託医を務めるという働き方もあります。病院勤務と比べて重症患者さんを診療する機会は少ないため、落ち着いて働くことができます。
産業医という選択肢もあります。企業などで医学的な指導・助言をする仕事で、月1回の巡視など、勤務の頻度は高くなく、体への負担が少ないと言えます。ただし専属産業医の場合は、企業の定年規定に従う必要があることに注意が必要です。
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再就職する
定年まで勤務していた急性期病院などから、ほかの医療機関などへ再就職する方法もあります。老人保健施設や療養病院では、病状が安定している患者さんが多いため、ゆとりを持って働くことができます。
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開業する
医師としてある程度修行を積んだタイミングで、早めに開業するケースも多くあるイメージですが、定年近くで開業を選択するケースもあります。いつまで働くか自分で決められるメリットがある一方、健康に不安がある場合は難しいこと、年齢が上がってからの開業では多額の借入は難しいと考えられることなど、デメリット(懸念点)もあります。
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医師が定年に向けて準備しておきたいこと
この記事を読まれている方の中には、定年はまだまだ先で、現実のこととして感じられないという方もいるかもしれません。しかし、いつか必ず定年はやってきます。定年後の安定かつ充実した生活を実現するために今からできることはあるのでしょうか。
経済状況を把握しておく
令和元(2019)年、金融庁から"老後30年間生活するには、2,000万円の資金が必要"という報告があり、大きな話題になりました。医師は年収が高いため、危機感を持って受け止めた方はそれほど多くないかもしれません。しかし、定年後は収入が減るため、定年を迎える時点の自分の経済状況を把握しておく必要があります。
2,000万円という金額は、高齢夫婦の平均支出と平均収入の差から算出された金額です。現在の生活レベルを維持しようと思えば、もっと多額の資金が必要になるかもしれません。現在の資産や月ごとの収入・支出額などを今のうちから把握しておくことが大切です。
定年後の「軸」を考えておく
定年後は労働時間が減る分、自由に使える時間が増えます。同時に、自分に残された時間がどの程度なのか、意識せざるを得なくなるでしょう。大切な時間を何に使っていくのか決めるため、定年後の自分の「軸」を決める必要があるのではないでしょうか。
ここで言う「軸」とは、「残りの人生で何に重きを置くか」です。たとえば、老後の生活を送るには、お金が必要です。現在の生活レベルを維持し、趣味を楽しむなど充実した時間を過ごすために「収入」を一つの軸とするのも良いでしょう。
現在携わっている診療や研究に生きがいを感じ、ライフワークとしていきたいと考える方もいると思います。その場合は収入の良い仕事よりも、収入が多少低くても自分のやりたい業務や専門分野に携わる方が幸せかもしれません。
医師の多くは、生活の大部分を仕事に費やしていると思います。濃密な時間を実感するとともに、時には息切れを感じることもあるかもしれません。定年までがんばったらあとはゆっくり、と決めるのも良いでしょう。
現役医師として忙しい日々を過ごす中、何が定年後の「軸」であり、何が本当の生きがいなのか、自分の価値観を見直す時間を取ってみてはいかがでしょうか。
資格やスキルを身に付けておく
定年後に現在と異なる分野の業務に就く可能性がある場合、今のうちから必要な資格やスキルを検討しておきましょう。
たとえば、定年後に産業医として働きたいと考えていても、産業医にすぐになれるわけではありません。日本医師会や都道府県医師会が実施する研修で50単位以上を取得するなど、いくつかの要件をクリアする必要があります。
老人保健施設や療養病院に勤務する場合、医師数は極めて少ない(一人のこともある)と考えられるため、専門外の領域、とくに全身管理や救急対応については知識を十分身に付けておく必要があります。
そのほか、オンライン診療を行うための研修を受けておくなど、将来を見据えて今のうちからできる準備は多数あると言えます。早いうちから副業として始めてみる、という手もあるかもしれません。
人脈を広げておく
医師を必要とする現場は多数あるとは言え、自分に合った仕事に出会うことは簡単ではありません。今のうちから人脈を広げ、さまざまな仕事に出会うチャンスを広げておくと良いでしょう。
人脈を広げるには色々な方法がありますが、学会や研究会で出会った他施設の医師や、他職種の方とのつながりをつくっておくことは重要でしょう。他職種とのつながりは、医師以外も集まる総合学会への参加がきっかけになるかもしれません。ほかにも、転職サイトなどでいろいろな職場を探し、勤務を経験しておくのも良いと思います。
新たな人脈だけでなく、現在勤めている医療機関のスタッフとの関係を強めておく、学生時代の知り合いと連絡を取っておくなど、今ある人脈を再確認しておくことも重要でしょう。
まとめ
医師の定年について、定年後の働き方の選択肢や、今のうちから準備したいことについて紹介しました。医師はその気になれば70歳を超えても働くことができるため、"働き続ける老後"をイメージしている方が多いのではないでしょうか。 しかし、定年後の時間を充実させるには、仕事のみでは不十分なのかもしれません。定年を一つの区切りとして、夢や趣味、家族との関わり方などを見直してみてはいかがでしょうか。
この記事で紹介した選択肢が、少しでも参考になれば幸いです。
執筆者:Dr.Ma
2006年に医師免許、2016年に医学博士を取得。大学院時代も含めて一貫して臨床に従事した。現在も整形外科専門医として急性期病院で年間150件の手術を執刀する。知識が専門領域に偏ることを実感し、医学知識と医療情勢の学び直し、リスキリングを目的に医療記事執筆を開始した。これまでに執筆した医療記事は300を超える。
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