感染症行動計画(新型インフルエンザ等対策政府行動計画)とは?概要や医師の役割を考察

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公開日:2024.10.07

感染症行動計画(新型インフルエンザ等対策政府行動計画)とは?概要や医師の役割を考察

感染症行動計画(新型インフルエンザ等対策政府行動計画)とは?概要や医師の役割を考察

医師の皆さん、"感染症行動計画"についてご存知でしょうか。正式名称は『新型インフルエンザ等対策政府行動計画』で、感染症の大規模流行時の行動指針となる計画です。

新型コロナウイルス感染症の世界的流行(パンデミック)をふまえ、策定から約10年となる2024年に、抜本的な改正が初めて実施されました。

コロナ禍で痛感した方も多いかもしれませんが、感染症の流行規模によっては感染症専門医、さらには臨床医だけでなく、あらゆる立場の医師がこの計画に関わることになります。この記事では感染症行動計画の概要や今回の改正ポイント、医師の関わり方などを解説します。

感染症行動計画とは

横断歩道を渡る人々_日本国民

感染症行動計画の正式名称は『新型インフルエンザ等対策政府行動計画』です。大規模な感染症が発生した場合に、国や地方自治体、医療機関などが連携し、迅速かつ適切な対応を行うための指針となる計画です。国はwebサイト上で以下のように紹介しています。

感染症危機が発生した際、感染拡大を可能な限り抑制し、国民の生命及び健康を保護するとともに、国民生活・経済に及ぼす影響が最小となるように、国、地方公共団体、事業者等が連携・協力し、発生段階に応じて行動できるようにするための指針として、あらかじめ定めたものです。

なお、新型インフルエンザ等が発生したと認められ、政府対策本部が設置されたときは、政府行動計画に基づき、基本的対処方針を定めて対応します。

内閣感染症危機管理統括庁webサイト「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」より引用
https://www.caicm.go.jp/action/plan/index.html(2024年10月7日閲覧)

近年グローバル化が進み、人や物の移動が活発化するにつれて、パンデミックのリスクも高まっています。感染症の流行は人々の健康だけでなく、経済活動や社会生活にも大きな影響を与えます。発生に備えてあらかじめ対策を立てておくことで、国民の生命・健康を保護し、国民生活や経済に及ぼす影響を最小限に抑えるための計画が必要というわけです。

この計画の沿革は、2009年に制定された『新型インフルエンザ対策行動計画』に遡ります。その後流行した新型インフルエンザ(A/H1N1)(現名称:インフルエンザ(H1N1)2009)をふまえ、病原性が高いほかの新感染症への危機意識も高まり、2013年に『新型インフルエンザ"等"対策政府行動計画』へと名称変更されました。

2019年末からは、中国・武漢での発見を機に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的に拡大しました。日本では2023年5月に感染症法上の5類感染症に位置付けられ、特措法に基づく対応は終了していますが、コロナ禍の知見や経験が今回の抜本的な改正に生かされています

感染症行動計画の概要

感染症行動計画は全部で225ページにわたるボリュームがありますが、ここではその概要を総論および各論に分けてお伝えします。

※計画書本文では総論・各論の明確な書き分けはありませんが、ここでは第2部(とくに2〜3章)を総論、第3部を各論と位置付けてご紹介します。

総論

総論にあたる内容として、下記のような項目が重視されています。

  • 平時の準備の充実
  • 幅広い感染症に対する対策の整理と柔軟で機動的な対策への切り替え
  • DX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進
  • 実効性確保のための取り組み
内閣感染症危機管理統括庁「新型インフルエンザ等対策政府行動計画(令和6年7月2日閣議決定)の概要」p.1より抜粋(一部編集)
https://www.caicm.go.jp/action/plan/files/influenza_plan_summary_1.pdf(2024年10月7日閲覧)

感染症が実際に起こってからではなく、平時から実効性のある訓練を定期的に実施し、感染症発生時の体制を迅速に立ち上げられるようにしておくことが大切とされています。

とくに新規感染症対策においては、感染者の確認→有効な検査方法の確立→ワクチンや治療薬の普及と、日々状況が変化します。流行が広がり医療資源が限られる時期にはロックダウンのような厳戒態勢が必要となりますし、流行がそこまで大きくない時期に過剰な行動制限をかけては社会経済への負の影響が強くなってしまいます。状況をふまえて柔軟かつ機動的に対策を取る必要があります。

DXに関しては、予防接種事務のデジタル化・標準化のほか、将来的な電子カルテと感染症発生届との連携、臨床情報の研究開発への活用なども目標に掲げられています。DXは感染症対策だけでなく、医療業界全体で推進が目指されており、たとえば電子処方箋の本格運用やオンライン資格確認の原則義務化、2024(令和6)年の診療報酬改定での「医療DX推進体制整備加算」新設など、その推進は加速しつつあります。感染症対策においても、予防接種の対象者の特定や接種記録の管理業務をデジタル化・標準化、発生届の提出など、実務での活用が目指されます。

実効性確保に向けては、2023年9月に内閣感染症危機管理統括庁が設置されました。政府の感染症対応を統括する組織です。

2025年4月には、"日本版CDC(米疾病対策センター)"とも呼ばれる国立健康危機管理研究機構(JIHS、ジース)も設立予定です。病原体研究を担う国立感染症研究所と、治療を担う国立国際医療研究センターの統合組織で、リスク評価の司令塔としての役割が期待されています。

各論

感染症行動計画の各論は13分野、さらに全体を3期(準備期・初動期・対応期)に分けて記載されています。

感染症行動計画の各論13分野

  1. 実施体制
  2. 情報収集・分析
  3. サーベイランス
  4. 情報提供・共有、リスクコミュニケーション
  5. 水際対策
  6. まん延防止
  7. ワクチン
  8. 医療
  9. 治療薬・治療法
  10. 検査
  11. 保健
  12. 物資
  13. 国民生活及び国民経済の安定の確保
内閣感染症危機管理統括庁「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」(令和6年7月2日)p.12~14(目次)より引用
https://www.caicm.go.jp/action/plan/files/gov_action_plan.pdf(2024年10月7日閲覧)

改正前は6分野でしたが、項目が細分化されたほか、新たに「リスクコミュニケーション」「水際対策」「ワクチン」「治療薬・治療法」「検査」「保健」「物資」が追加されました。

COVID-19対応を振り返ると、PCR検査などによる診断や治療薬・治療法の進歩、ワクチンの開発などを経て、感染症対策が徐々に確立していきました。物資においても、たとえば流行初期はマスクや手袋が不足し、高値で転売されるような事態も起きました。

こうした経験をふまえて、2024年版の感染症行動計画では、従前よりも具体的な内容が記載されていると言えます。

感染症行動計画に対する医師の役割

感染症対策に臨むためマスクとゴーグルをして胸に手を当てている男性医師と女性医師

ここからは、感染症行動計画における医師の役割を考えていきましょう。

医師が感染症対策に関わるのは、下記の3つの場面が代表的でしょう。それぞれのシチュエーションごとに役割を見ていきます。

  • 医療機関での診療・予防
  • リスクコミュニケーションへの参加
  • 研究開発への参加

医療機関での診療・予防

まず想起するのは、医療機関で感染症診療に直接携わる場面です。

感染症の患者対応は、流行初期であれば感染症指定医療機関などの限られた病院で実施されますが、流行が進めば発熱外来など、クリニック規模でも適切な対応が求められます

その後のフェーズでは、ワクチン接種業務を担う必要も生じてきます。接種時の問診は医師が実施するため、COVID-19ではフリーランス医師なども含め、多くの医師が協力したことは記憶に新しいかと思います。

リスクコミュニケーションへの参加

感染症危機におけるリスクコミュニケーションも、医師に求められる役割の一つと言えるでしょう。

感染症対策を効果的に進めるには、国や自治体の主導ももちろんですが、なにより国民一人ひとりの行動が大切です。国民に対して、感染症に関する基本知識や対策方法、現在の流行状況などを、科学的知見に基づいてわかりやすく、正確に伝える必要があります。

これは感染症の専門知識を持つ専門家、とくに医師が果たすべき職務の一つと言えるでしょう。

研究開発への参加

新規感染症の場合、予防・検査・治療方法が確立していないため、早急な研究開発が求められます。

細菌やウイルスを用いた研究室での実験はもちろんですが、実際の感染者を対象とする臨床試験も必要です。研究開発というと基礎研究に携わる研究医の仕事に思えますが、実臨床における治療効果を考えるフェーズでは、臨床医も研究開発に携わるマインドを持つことが望ましいでしょう。

まとめ

今回は感染症行動計画について見てきました。グローバル化の影響もあり、感染症の世界的流行リスクが高まっていると言われてきましたが、2019年末からのCOVID-19の拡大で多くの方がそれを実感したことでしょう。今後も新たなパンデミックが生じる可能性を考えておかなくてはなりません。

感染症行動計画は、人的被害はもちろん、国民生活や経済活動に及ぼす影響を抑えることを目指して策定されています。平時からその概要を理解しておくことは、どの診療科の医師であっても有意義と考えます。この記事が感染症行動計画について理解を深める一助となれば幸いです。

Dr.SoS

執筆者:Dr.SoS

皮膚科医・産業医として臨床に携わりながら、皮膚科専門医試験の解答作成などに従事。医師国家試験予備校講師としても活動している。

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